今話題、トライアンフの400cc、スピード400&スクランブラー400Xにさっそく試乗!

昨年6月に発表されたトライアンフのニューモデル、スピード400とスクランブラー400Xがついに日本上陸! モダンクラシックの流れを汲むスタイリングに、新開発の水冷シングルエンジンを搭載。普通二輪免許で乗れるブリティッシュブランドのニューカマー、果たしてその乗り味やいかに。

REPORT●大屋雄一(OYA Yuichi)

トライアンフ・スピード400……699,000円(2024年1月26日発売)

昨年10月に発売されたハーレーダビッドソン・X350よりも800円安い価格設定のスピード400。ホイール径は前後とも17インチで、フロントサスはφ43mm倒立式ビッグピストンフロントフォーク。リヤはリンクレスのモノサスで、リザーバータンク付きのショックユニットを組み合わせる。車重はX350より25kgも軽い170kgを公称。シート高は790mmだ。

トライアンフ・スクランブラー400X……789,000円(2024年1月26日発売)

スピード400に対して9万円高に設定されるスクランブラー400X。スピード400と基本設計を共有しつつ、ホイールトラベル量をフロント140/リヤ130mmから150/150mmに伸長するほか、フロントホイールの19インチ化および前後タイヤ幅の変更、専用ディメンションの採用、ライディングポジションの変更などによって、スクランブラーらしい走りを構築。車重は179kg、シート高は835mmだ。

新開発の水冷シングルは空冷風の外観ながら40psを発生

往年の「トロフィー」という名車を称えるべく「TRシリーズ」と名付けられた、新設計の398.15cc水冷DOHC4バルブ単気筒。ボア×ストローク値は、奇しくもKTMの390デュークと同じφ89.0×64.0mmで、かなりのショートストローク設計だ。動弁系にはフィンガーフォロワーのロッカーアームを用いるほか、フリクションロスを低減するDLCコーティング、レバーの操作力を軽減するトルクアシストクラッチなど、最新技術を惜しみなく投入。その一方で、シリンダーヘッドに切削加工の冷却フィンを設けたり、ラジエーターをできるだけ目立たないように配置するなど、クラシカルな外観は2気筒のボンネビルシリーズに通じるものがある。なお、最高出力は40ps(29.4kW)で、390デュークの44.9ps(33kW)にはおよばないものの、400ccの水冷シングルとしてはパワフルな部類に入る。ちなみにハーレーのX350は水冷並列2気筒エンジンで、排気量353ccから36.5psを発生する。

開け方次第で柔らかな鼓動感も怒濤の加速力も楽しめる

トライアンフ・スピード400

1990年にヒンクレーで復活して以降のトライアンフは、個人的に大好きな二輪メーカーの一つだ。近年はMoto2クラスの独占エンジンサプライヤーとして知名度を上げたが、そうしたトップクラスの最新技術を有する一方で、自分たちのレガシー(遺産)をも大切にしており、特にモダンクラシックシリーズが人気だというのもうなづける。

今年1月26日に販売開始となったスピード400とスクランブラー400Xの2機種は、そのモダンクラシックシリーズに属する。イギリスのヒンクレー本社で設計、インドのバジャージ・オートが生産を担当することで、新興国に適した低価格を実現している。ちなみにインドでの車両価格はスピード400で23万3000ルピー(日本円にしておよそ41万円)であり、これはロイヤルエンフィールドのスクラム411の現地価格に限りなく近い。

実車を目の前にして、スタイリングの良さと質感の高さに驚く。コストダウンを重視したモデルの多くは、スイッチボックスなど樹脂パーツにその痕跡が目立つが、このスピード400とスクランブラー400Xに関して手抜きは一切なし。加えて、ライド・バイ・ワイヤーを採用してスロットルケーブルを排除するほか、ハーネスの露出を可能な限り抑えることで、スマートな外観を構築している。そう、安っぽさが微塵も感じられないのだ。

まずは両モデル共通のエンジンから。新設計の水冷シングルは、単気筒らしい燃焼一発ごとの蹴り出し感よりも、スムーズな回転上昇と下降が印象的だ。低~中回転域での巡航中は柔らかな鼓動感があり、スロットルの操作に対する反応も、ダルすぎず過敏すぎないというていねいな調律ぶりだ。そして、驚いたのはスロットルをワイドオープンしたときの加速力で、最初は思わず右手を戻してしまったほど。スピード400の車重は170kg、スクランブラー400Xでも179kgという軽さも手伝ってか、400ccとは思えないほどの力強さが演出されている。その一方で、高回転域まで回しても不快な振動は伴わず、ヘルメットの中で思わずニヤリとしてしまった。

なお、6段ミッションのシフト操作についてはやや硬めであり、2気筒シリーズの吸い込まれるような極上フィールには程遠かったが、これは慣らし運転が進めば改善される可能性も。ちなみに、スロットルとクラッチレバーの操作力は非常に軽かったことをお伝えしておこう。

この2台、ハンドリングは全くの別物。その作り分けに感心

トライアンフ・スクランブラー400X

既存のモダンクラシックシリーズに対し、やや前下がり基調のシルエットが特徴的なこの2台。シート高はスピード400が790mmで、身長175cmの筆者で両かかとが接地する程度の足着き性だ。一方、スクランブラー400Xは45mmも高い835mmで、両かかとが地面から大きく離れてしまう。とはいえ車重が軽いので、停車時の恐怖感は少なめだ。

スピード400のハンドリングは、典型的なスポーティネイキッドという印象だ。まだ新車ということで前後サスの動きに渋さはあったものの、車体の軽さとシングルエンジンによるスリムさにより、ロール方向の動きの軽快さは十分に感じられた。これなら街中でキビキビと走り回れるだけでなく、ワインディングロードでも高い旋回力を見せてくれるだろう。

ブレーキについては、フロントはシングルディスクながら入力初期から高い制動力を発揮し、リヤはコントローラブルな方向性でまとめられている。ABSの作動までは試すことができなかったが、路面温度が低い環境でも介入しなかったのは、それだけ前後とも制御しやすかったからだろう。

これに対してスクランブラー400Xは、フロント19インチ化やホイールトラベル量の伸長、それらに伴うライダーを含めた重心位置の上昇などにより、アドベンチャーらしいバンク角主体のハンドリングへと変貌を遂げている。こちらもサスペンションの渋さが残っていたので、車体のピッチングはそこまで増えたという印象はなかったが、直進時や旋回時の安定性は明らかに高く、これならダートに踏み入れてみたいと思うほどだ。

フロントブレーキは、ディスク径がスピード400のφ300mmからφ320mmに大径化されているものの(リヤφ230mmは共通)、初期タッチは明らかに柔らかく、入力に比例して制動力が立ち上がるセッティングだ。これはオフロード走行を想定したものであり、ABSをオフにできるのもスクランブラー400Xのみとなっている。

基本骨格を共有しながら、ここまでハンドリングを作り分けてくるとは。足着き性に大きな差があることから、日本で人気が出るのはスピード400の方だと予想するが、ロングツーリングがメインならスクランブラー400Xの安定性も捨てがたい。付け加えると、タンデム時の安心感でもわずかだがスクランブラー400Xに軍配が上がる。

試乗時間が短かったため、パフォーマンスの一部に触れたに過ぎないが、この2台についてはもっと乗っていたい、できれば1泊2日ぐらいのツーリングに使ってみたいというのが正直な感想だ。国内の251~400ccクラス(小型二輪かつ普通二輪免許で乗れるクラス)は、ホンダのGB350/Sが快進撃を続けているが、同じネオクラであるブリティッシュブランドの2台がどこまで迫れるのか、非常に楽しみである。

ディテール解説

トライアンフのモダンクラシックシリーズの流れを汲む美しい造型の燃料タンク。スクランブラー400Xにはタンクパッドが付く。基本骨格は共通だが、スクランブラー400Xはメインフレームのネックを延長したり、ボルトオン式のシートレールを専用設計とするなど、細かく作り分けられている。なお、スイングアームはどちらも鋳造アルミ製だ。
エキゾーストパイプの取り回しは両車共通で、サイレンサーの形状で差別化。こちらはスピード400だ。
スクランブラー400Xは排気口が上下に二つ並んだサイレンサーを採用する。
指針式のスピードメーターと液晶ディスプレイを組み合わせた新型デュアルフォーマットメーター。バーグラフ式のタコメーターは数字が小さいので読みづらいものの、一応の目安にはなる。トラクションコントロールのオン/オフや、ボッシュ製デュアルABSの切り替え(スクランブラー400Xのみ)もこのメーター上で操作する。また、純正アクセサリーのグリップヒーターを装着すると、設定状態を表示させることが可能だ。USB-C充電ソケットあり。ライディングモードの切り替えなどは非採用。
灯火類はオールLED。丸目1灯のヘッドライトは印象的なDRLを採用する。写真はスピード400で、スクランブラー400Xはヘッドライトガードを標準装備。
テールランプは両車共通。中央にはさりげなくトライアンフのロゴが刻まれる。ウインカーとナンバー灯は長いリヤフェンダーの先端にレイアウト。
スクランブラー400Xは、ワイドかつ高めのブリッジ付きハンドルバーを採用し、バーパッドやハンドガードまで標準装備となる。なお、スピード400のミラーはバーエンドタイプだ。

スピード400 主要諸元

【エンジン、トランスミッション】
タイプ 水冷単気筒DOHC4バルブ
排気量 398.15cc
ボア 89.0mm
ストローク 64.0mm
圧縮比 12:1
最高出力 40ps(29.4kW)/8,000rpm
最大トルク 37.5Nm/6,500rpm
システム ボッシュ製電子燃料噴射、電子制御スロットル
エグゾーストシステム ステンレス製ツインスキンヘッダーシステム、ステンレススチールサイレンサー
駆動方式 Xリングチェーン
クラッチ 湿式多板、スリップアシストクラッチ
トランスミッション 6速

【シャシー】
フレーム ハイブリッドスパイン/ペリメーター、チューブラースチール、ボルトオン式リアサブフレーム
スイングアーム 両側支持、鋳造アルミニウム合金
フロントホイール 鋳造アルミニウム合金10スポーク 17×3インチ
リアホイール 鋳造アルミニウム合金10スポーク 17×4インチ
フロントタイヤ 110/70R17
リアタイヤ 150/60R17
フロントサスペンション 43mm径倒立式ビッグピストンフォーク。ホイールトラベル140mm
リアサスペンション ガスモノショックRSU、エクスターナルリザーバー、プリロード調整。 ホイールトラベル130mm
フロントブレーキ 300mm固定ディスク、4ピストン ラジアルキャリパー、ABS
リアブレーキ 230mm固定ディスク、フローティングキャリパー、ABS
インストルメントディスプレイとファンクション アナログスピードメーター、一体型マルチファンクションLCDスクリーン

【寸法、重量】
ハンドルを含む横幅 814mm
全高(ミラーを含まない) 1,084mm
シート高 790mm
ホイールベース 1,377mm
キャスターアングル 24.6 º
トレール 102mm
燃料タンク容量 13L
車体重量 170kg

スクランブラー400X 主要諸元

【エンジン、トランスミッション】
タイプ 水冷単気筒DOHC4バルブ
排気量 398.15cc
ボア 89.0mm
ストローク 64.0mm
圧縮比 12:1
最高出力 40ps(29.4kW)/8,000rpm
最大トルク 37.5Nm/6,500rpm
システム ボッシュ製電子燃料噴射、電子制御スロットル
エグゾーストシステム ステンレス製ツインスキンヘッダーシステム、ステンレススチールサイレンサー
駆動方式 Xリングチェーン
クラッチ 湿式多板、スリップアシストクラッチ
トランスミッション 6速

【シャシー】
フレーム ハイブリッドスパイン/ペリメーター、チューブラースチール、ボルトオン式リアサブフレーム
スイングアーム 両側支持、鋳造アルミニウム合金
フロントホイール 鋳造アルミニウム合金10スポーク 19×2.5インチ
リアホイール 鋳造アルミニウム合金10スポーク 17×3.5インチ
フロントタイヤ 100/90-19
リアタイヤ 140/80-17
フロントサスペンション 43mm径倒立式ビッグピストンフォーク。ホイールトラベル150mm
リアサスペンション ガスモノショックRSU、エクスターナルリザーバー、プリロード調整。 ホイールトラベル150mm
フロントブレーキ 320mm固定ディスク、4ピストン ラジアルキャリパー、ABS
リアブレーキ 230mm固定ディスク、フローティングキャリパー、ABS
インストルメントディスプレイとファンクション アナログスピードメーター、一体型マルチファンクションLCDスクリーン

【寸法、重量】
ハンドルを含む横幅 901mm
全高(ミラーを含まない) 1,169mm
シート高 835mm
ホイールベース 1,418mm
キャスターアングル 23.2 º
トレール 108mm
燃料タンク容量 13L
車体重量 179kg

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著者プロフィール

大屋雄一 近影

大屋雄一

短大卒業と同時に二輪雑誌業界へ飛び込んで早30年以上。1996年にフリーランス宣言をしたモーターサイクル…