ハイパーモタード950よりも42kgも軽量なドゥカティ・ハイパーモタード698モノ。エンジンはパニガーレ譲りの単気筒デスモ

イタリアのバイクメーカー「ドゥカティ」の新型「ハイパーモタード698モノ」の最大のトピックは単気筒エンジンの搭載である。エンジンの特徴とその狙いを考察する。
「ハイパーモタード698モノ」に載る新開発エンジン「スーパークワドロモノ」。

2024年中の日本発売を予定しているドゥカティのニューモデル「ハイパーモタード698モノ」には、新開発の単気筒エンジンが搭載されている。

ドゥカティ最大のアイデンティティは、L字型に見えるようレイアウトしたV型2気筒エンジン(Vツイン)といえる。そのため、新開発の単気筒エンジンを新型車種に搭載するというのは、近年のドゥカティでは最大とも言えるトピックととらえて良い。このエンジンと、それを積む「ハイパーモタード698モノ」の狙いとは。

オンロードに特化したハイパフォーマンスモタード

「ハイパーモタード698モノ」は、2023年11月2日にイタリア本国で発表されたドゥカティ最新のモタードだ。

モタードとは、オフロード車をオンロード向けに換装したと考えて良い形態で、オフ車の車体にオンロードの足回りを装着しているのが外面的な大きな特徴。もともとが軽い車体のため、一般的なオンロードスポーツ車では困難なジャンプやウィリーといったアクションを取りやすいというのが走行面での特徴だ。

ドゥカティは、そのモタード特有の走行性能を昇華させたオンロード向けのスーパーモタード「ハイパーモタード」をシリーズとして展開している。従来の「ハイパーモタード」はVツインエンジンを搭載してきたが、今回の「698モノ」は一転して単気筒である。新開発エンジンを、モンスターやスクランブラーといったアイコン的な車種に搭載するのではなく、ハイパーモタードに搭載したという点にキモがある。

1万rpm超えの稀に見る高回転型

「ハイパーモタード698モノ」が採用したエンジンは「スーパークワドロモノ」という。

ドゥカティは、1950〜1970年代まで単気筒車を生産してきた過去があるが、それらは125cc以下の小さいエンジンであった。古のドゥカティの単気筒エンジン最後のモデルは「レゴラリータ」というオフロード車。それから約50年を経ての単気筒モデル復活とはなるが、今回は125ccではなく659ccという排気量。続編ではなく新編ととらえられるエンジンだ。

「スーパークワドロモノ」は新開発ではあるが、ベースのエンジンが存在する。それが「1299パニガーレ」が搭載するVツイン「スーパークワドロ」である。「1299パニガーレ」は生粋のレーサー。その構造を引き継ぐ「スーパークワドロモノ」にもレーシングモデルの特徴が見て取れる。

その特徴とは「回転数」。レッドゾーンが1万250回転からに設定されている高回転型エンジンとなっている。この回転数が実現できた理由は、「スーパークワドロ」に倣うビッグボア・ショートストローク構造をしているためだ。「スーパークワドロモノ」は、ボア116×ストローク62.4mmに設定されてる。ボア径はそのまま引き継ぎ、ストローク長を1.6mmだけ延長したのみの仕様をとった。そのため、単気筒でも稀に見る回転数を実現できている。

ちなみに市販車としてはドゥカティだけが採用しているバルブ駆動方式「デスモドロミック」は「スーパークワドロモノ」にも健在だ。バルブの開閉をスプリングを使用せずロッカーアームとカムのみで駆動するもので、エンジンの高回転化に寄与している。

ショートストロークから受ける恩恵は、アクセルに対する反応の良さである。開ければ瞬時にエンジンが反応してくれるので、アクセルの開閉を頻繁に行うスポーツ走行にはもってこい。アクション的な走りを行うモタードとも相性が良く、単気筒であってもドゥカティらしい派手な走りが実現できるはずだ。

ハイパーモタードの世界を改めて構築する単気筒

「スーパークワドロモノ」のエンジンスペックは、最高出力57kW(77.5ps)/9,750rpm・最大トルク63Nm(6.4kgm)/8,000rpmとなっている。600ccクラスとしてはまずまずのパワーだが、このエンジンを採用したメリットはエンジンのスペックではない。重量である。

「ハイパーモタード698モノ」の車重は151kg(燃料を除く)となっている。従来型Vツインの「ハイパーモタード950」(基準モデル)よりも42kgも軽量なのだ(「ハイパーモタード950」は193kg)。大型バイクとしても軽量であり、それがもたらす運動性能が段違いのはずだ。

ドゥカティがハイパーモタードをラインアップする理由は、モンスターやパニガーレなどにはできないアクション的な走りができる点にあろう。そして、さらなる軽量化を実現した「ハイパーモタード698モノ」は、他のドゥカティにはないハイパーモタードならではの世界をより鮮明に構築するミッションが与えられているのではないか。要は差別化と価値の進化である。このあたりに「ハイパーモタード」が単気筒エンジンを採用したキモがありそうだ。

主要諸元

全幅(mm):807mm(ハンドルバー)
ホイールベース(mm):1,443
車両重量(kg):151(装備)
最低地上高(mm):143
シート高(mm):904
キャスター(度):26.1°
トレール(mm):108

エンジン形式:水冷単気筒
バルブ駆動方式:DOHC
排気量(cc):659
ボア/ストローク(mm):116 / 62.4
圧縮比:13.1:1
最高出力(kW):57(77.5ps)/9,750rpm
最大トルク(Nm):63/8,000rpm
バッテリー:リチウムイオン

トランスミッション:6速(クイックシフト対応)

フューエルタンク容量(L):12
燃費(km/L):20.4
タイヤ(前/後):120/70ZR17/160/60ZR17
ホイール(前/後):キャスト / キャスト
ブレーキ(前/後):ブレンボ製シングル・フロントディスク330mm径/ブレンボ製シングルディスク245mm径
乗車定員(名):2

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