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東海道は名古屋へ向かう
せっかく岡崎に泊まったんだから、岡崎城くらいは見物しておこう。宿を出ると乙川の川辺へまわり、天守をちらっと覗いてきた。名古屋城だの大阪城だのと比べると壮麗とまではいえないが、どことなくお家っぽくてかわいい城だ。
岡崎から国道1号を西に向かう。フューエルメーターは昨夜から休みなくラストワンをピコピコ点滅させている。周囲に旧東海道の痕跡がちらちら感じられるが、それ以上にガス欠の予感がちらちらよぎる。
どのバイクでも、フューエルメーターがピコピコモードに入ったあとは、それ以上のインフォメーションは出なくなる。ピコピコはガス欠最終警告だからそれも当然だが、いっぽうピコピコ直後に止まるバイクもあれば、おそろしく長く走るバイクもあって、実際いつガス欠するのかは見当もつかない。なのでピコピコ中は疑心暗鬼になり、スロットルレスポンスがちょっとでも鈍ると「止まる? もう止まる??」などと、ビビりまくりながら走るはめになる。
当たり前すぎて書くのもバカらしいが、フューエルメーターがピコピコしはじめたら、ただちに給油しよう。親が危篤で駆けつける最中だとか、出刃包丁を握りしめた殺人鬼に追われてるとか、東海道をガス欠するまで走らないと小遣い銭がもらえないとかという、人生ウルトラ緊急事態でなければ、必ず次にみつけたガソスタに入ってほしい。
東海道沿いには、今も多くの一里塚が残っている。旅程の目安となるよう1里(約4km)ごとに作られたマイルストーンだが、涼しい木陰が作られていたりして、旅人の休憩所としても活用されてきた。
豊明市内には阿野一里塚がある。かつて東海道を歩いたとき一息いれたことがあったから、懐かしさにひかれて立ち寄ってみた。
七里の渡しとカメラマン
いまの名古屋市街には、旧東海道は通っていない。江戸時代の東海道は、宮宿から桑名宿までは陸路がなく、渡し船で海路を行っていたからだ。これを「七里の渡し」とか「宮の渡し」と呼ぶ。宮宿(現・名古屋市熱田区)には、今も船着き場跡が残り、公園として整備されている。
七里の渡し跡にたたずみ海を見つめる。こんな所でしみじみと越し方行く末に思いを馳せていると、誰しも人生の空虚さに、つい念仏を唱えながらふらふらと海の深みへ進み入ってしまいたくなるものだ。ちょうどそのとき、自転車でやってきた男性に声をかけられた。
「あんた、バイクで来たの? ここの写真あげるよ!」
そういって、自分で撮った付近の風景写真のプリントを数枚プレゼントしてくれた。彼は毎日近隣を歩き回っては写真を撮り、観光客にあげるのを楽しみにしているんだそうだ。
長旅の果てに
名古屋市街を抜けて伊勢湾をぐるりとまわると、国道1号は木曽川、長良川、揖斐川を立て続けに渡る。
長良川を渡る伊勢大橋の青看板には滋賀県「大津」の文字が輝く。たいていの関西人なら「大津はほとんど京都や!」と直感し、東海道全線走破に希望を感じる嬉しい表示だ。
だがタカハシのような京都人がうっかりそれを口にすると、悪意はさらさらないにも関わらず、まるで滋賀県様および大津市様を京都の属国のように扱い、侮蔑した重罪に問われがちなのが残念だ。いやホンマ、そんなこと全然あらしまへんえ。大津いうても、もともと何のコトやよう知りまへんし……。大津って、もしかしてなんか美味しいもんどすか? みたいな、超ねじくれきったイヤミを言い散らす京都人など、この惑星に一人として棲息しているハズがないのである!(←いてるがな)
木曽川を渡れば、その先はもう三重県だ。四日市市を走り抜け、東海道と伊勢街道の追分(おいわけ/分岐点のこと)から、亀山バイパスに乗って西をめざした。
鈴鹿市を抜けてバイパスがゆるやかな上り坂にさしかかったとき、スロットルレスポンスに異変がおきた。エンジン回転が不規則にバラつき、急激に出力が落ちたと思った次の瞬間、XSR125はストンとあっけなくガス欠停止した。
国道1号/25号亀山バイパスの羽若町交差点がこのチャレンジの最終地点になった。日本橋からの距離は484.5km。ガソリン10ℓを使い果たし、約48.5km/ℓの好燃費をマークした。カタログ記載のWMTCモード燃費が49.4km/ℓだから、実測値との差はわずか約1.8%。つまりこのバイクの燃費を知りたいなら、カタログスペックさえ丸飲みしとけばそれで済むということだ。
ところでタカハシは、公道ではいわゆる「燃費走行」とかはやらない。よくある燃費企画のライター諸兄諸姉がどう思ってるのかは知らないが、せっかくバイク乗ってるのに燃料ケチって走ってちゃ面白くないからだ。このガス欠チャレンジでも、スロットルを開けたければ遠慮なくガバ開けするし、回したいだけエンジンを回し、がっつり加速力のあるギアで好きなように走っている。そして、そういう当たり前の走り方をしてこの燃費だからこそ、リアルに評価されるべき高性能だと断言もできるのだ。
亀山名物は丸くて甘いアレ
ガス欠地点では、好きな名物を経費で食っていい。それがこのガス欠チャレンジ唯一の人間らしいルールだ。とはいえ無学なタカハシは、亀山と聞いても、せいぜいローソクとか、何年か前まで作ってた液晶テレビくらいしか思い浮かばないし、あいにくどっちもあまりおいしそうな名物じゃない。
たまたま立ち寄ったコンビニで、女子高生バイトらしき店員さんを見かけたので「この店に売ってるような駄菓子じゃなく、亀山のもっとおいしいおやつが買える店ってありますか」という、すさまじく失礼な質問をぶつけてみたところ、光の速さで亀山駅前の瑞宝軒を教えてくれた。
瑞宝軒は、江戸時代に「角屋」の屋号で旧東海道沿いに開業した老舗。鉄道開通とともに駅前にうつり、屋号を「瑞宝軒」にあらためた。
話題のバウム「龍乃掌」は、ひと口ふくめば、ふわっと豊かにタマゴが香りたつ。しっかり甘いのに口あたりが軽く、とろけるようにさらりと喉を通る。ツルツルいけすぎるのが怖くなるほどの逸品だ。
うまい菓子をペロリとたいらげ、この旅を終えた。日本橋からの走行距離484.5km、本日の走行距離は96.6km。
東京への帰路は、渋滞まみれの東海道を避け、中山道でガッツリ走りを楽しんだ。峠で味わったXS125の恐るべき実力についてもぜひ書きまくりたいところだが、それはまた別の機会に。