往年のヤマハSRXが頭に浮かぶ、シングルロードスポーツ。全面刷新で生まれ変わった、ハスクバーナ・ヴィットピレン401

メーカーが単気筒であることを強調する気配はないし、筆者も過去の試乗でエンジン形式を特に意識した記憶はない。とはいえ、2024年型で大幅刷新を受けたヴィットピレン401は、ヤマハSRXを筆頭とする、往年のシングルロードスポーツに通じる資質を備えていたのだ。

REPORT●中村友彦(NAKAMURA Tomohiko)
PHOTO●山田俊輔(YAMADA Shunsuke)

ハスクバーナ・ヴィットピレン401……799,000円

価格は従来型+1万円。仕様変更の内容を考えると、よくぞその程度で収めてくれた……と感じる人が多いと思う。

ピレンシリーズの変遷と現状

種類が多すぎて、何だかもうよくわからない。ハスクバーナが2018年から発売を開始したピレンシリーズに対して、そう感じている人は少なくないように思う。かく言う僕もその1人で、これまでに何台かを試乗しているけれど、全貌は把握していない。そこで当原稿を書くにあたって、ピレンシリーズの変遷と現状を改めて調べてみたので、以下に箇条書きでその結果を報告したい。

■種類:ピレンシリーズは2018年のデビュー当初から、生粋のオンロードスポーツである“ヴィット”と、スクランブラーテイストを感じる“スヴァルト”の2機種種を展開している。各車の特徴は、ヴィット:セパレートハンドル/キャストホイール、スヴァルト:バーハンドル/スポークホイール……というわかりやすい時期があったものの、近年のヴィットは低めのバーハンドルを採用しているし、ヴィットでもスポークホイール車、スヴァルトでもキャストホイール車は存在する。とはいえ、ヴィットが運動性重視性、スヴァルトが日常域重視という住み分けは、当初から変わっていないようだ。

■ベース車と排気量:いずれのモデルも、基本設計は同じグループのKTMからの転用で、401/250/125は390/250/125デューク、すでに販売が終了した701は690デューク、2024年から発売が始まる801は790デュークがベース。なお既存のモデルのエンジンが単気筒だったのに対して、801は2気筒を搭載している。

■登場順:シリーズの先陣を切ったのは2018年に登場した401と701で、2020年には250、2021年には125が加わった。ただし、250のヴィットは日本市場には導入されていない。また、当初の125はスヴァルトのみだったものの、2024年からはヴィットもラインアップ。

■今現在の日本導入車:2024年7月上旬の時点で、ハスクバーナモーターサイクルズジャパンのウェブサイトに掲載されているピレンシリーズは、スヴァルトが801/401/250の3機種で、ヴィットは401の1機種のみ。最近の日本の原付二種市場の盛り上がりを考えると、125の未導入を以外に感じる人が多いかもしれない。

兄弟車と歩調を合わせて全面刷新

さて、ここからはようやく本題で、兄弟車のKTM 390デュークと歩調を合わせて、2024年型で全面刷新を受けたヴィットピレン401の紹介である。まずはシャシーの概要を述べると、スチール製トレリス+アルミ製オープンラティスという構造を維持するものの、メインフレーム+スイングアームは剛性バランスを見直した新作で、従来はメインフレームと同様の構成だったシートレールはアルミ鋳造製に刷新。また、前後ホイールをワイヤースポーク→アルミキャストに変更したこと、リアショックやエアボックスを移設した効果でシート高が835→820mmに下がったこと、マフラーの超ショートを図ったことなども、2024年型ならではの特徴である。

一方のエンジンに関しては、ストロークを4mm伸ばし(89×60mm→89×64mm)、排気量を373.2→398.7ccに拡大しているが、欧州のA2ライセンスを前提だからか、最高出力と最大トルクの上昇は控えめで、従来型の44ps/9000rpm・37Nm7000rpmに対して、2024年型は45ps/8500rpm・39Nm/7000rpm。その一方でスポーツ指向のライダーには多種多様な電子デバイス、2種のライディングモード(ストリート/レイン)、後輪の滑りを抑制するトラクションコントロール、バンク角に応じて利き方が変化するコーナリングABSの新規採用は、歓迎するべき要素だろう。なおクイックシフターに関しては、従来型の機構を継承しているようだ。

貴重なシングルロードスポーツ

ずいぶん洗練されたなあ……。それが、2024年型ヴィットピレン410に対する僕の第一印象だった。逆に言うなら従来型は、ライディングポジションに違和感があったり、エンジンの低速トルクが物足りなかったり、前後サスペンションの動きが少々ぶっきらぼうだったりと、乗車中に気になる点がいろいろとあったのだけれど、全面刷新を受けた新型はすべての感触や挙動がナチュラル。この特性なら街乗りやツーリングに普通に使えるし、免許取り立ての初心者でも気軽に乗れるだろう。

もっとも、だからと言って新型ヴィットピレン401が、気軽で自然でフレンドリーなだけのバイクかと言うと、まったくそんなことはない。バイク歴が38年で技量は万年そこそこなオッサンライダーの視点で見ても、このモデルはグッと来る資質を備えていたのである。

中でも僕が感心したのは、峠道での軽快な走り。と言っても、従来型だって峠道はなかなか楽しかったのだが、新型は前後輪から伝わる接地感が濃密に、右手の操作に対するエンジンの反応が従順になっているうえに、コーナリングABSやトラクションコントロールが程よい塩梅で乗り手をサポートしてくれるから、シングルエンジン車ならではのヒラヒラ感が思いっ切り堪能できる。

そしてそうやって走っている最中、僕の脳裏にふと浮かんだのは、若き日に愛用したヤマハSRX-4だった。従来型では意識しなかったものの、よくよく考えるとヴィットピレン401は、昨今では貴重な(スクランブラーやスーパーモタード的な資質やレトロテイストを感じない)400ccシングルロードスポーツなのである。

1985年から発売が始まったSRX-4/6は、シングルロードスポーツの魅力を世界中の多くのライダーに伝えたモデル。角パイプ素材のダブルクレードルフレームに、XT系のOHC単気筒を搭載。

もちろんかつてのSRX-4と比較すれば、このバイクはとてつもなく速い。何と言ってもSRX-4の最高出力・装備重量が33ps・167kg(初期型の数値。ちなみに兄貴分のSRX-6は42ps・170kg)だったのに対して、新型ヴィットピレン401は45ps・164.25kg(燃料ナシの公称重量にガソリン重量を加えた数字)なのだから。とはいえ、400cc単気筒ならではの軽快感や力強さを味わった僕は、ヤマハSRX-4の現代版?と言いたくなるキャラクターに、ちょっとした感動を覚えてしまった。

ちなみに、現在の日本で市販されている他の400cc単気筒車を考えると、兄弟車のスヴァルトピレン401は峠道での運動性という面でやや劣るし、KTMの390デュークはスーパーモタードテイストが濃厚。トライアンフ・スピード400はシングルならではの魅力を車重の重さ(171kg)がちょっと阻害している感があるし、ネオクラシック路線のベネリ・インペリアーレ400は狙いが異なる。そのあたりを考えてみると、400ccシングルロードスポーツの魅力が存分に堪能できるヴィットピレン401は、やっぱり貴重な存在なのだ。

ライディングポジション(身長182cm・体重74kg)

デザイン重視の車体に合わせる意識が必要だった従来型とは異なり、新型のライポジは至ってナチュラル。ただし、既存の日本製400ccネイキッドの基準で考えると、ハンドルグリップ位置は低め。
シート高は従来型-15mmの820mmになったものの、足つき性は良好とは言い難い。もっとも170cm以下のライダーを拒絶する感があった従来型と比較すると、かなりフレンドリーになった模様。

ディティール解説

デザインは微妙に変わっているものの、大径にして丸形のLEDヘッドライトは従来型の意匠を踏襲。外周にはデイタイムランニングライトが備わる。タンクカバーは過去に前例がない独創的な形状。
テールランプも従来型に通じるデザイン。とはいえ、従来型ではスイングアームマウント式だったリアフェンダーが、オーソドックな位置に移設されたため、テールまわりの印象は大きく変化した。
ハンドルポストはラバーマウント式で、ハンドルバーはテーパータイプ。WPのφ43mm倒立フォークはカートリッジ式で、上部には従来型には存在しなかった伸圧ダンパーアジャスターが備わる。
従来型では丸形モノクロ液晶だったメーターは、角型5.5インチTFTカラーディスプレイに変更。画面の下段には、現在選択しているエンジン/ABSのモードやトラクションコントロールの状況を表示。
左右スイッチボックスは従来型とは別物。左側に新設された4つのボタンは、各種モードの切り替えやTFTカラーディスプレイの表示内容の変更などに使用する。ハザードボタンも新規採用だ。
一体型のスターター&キルスイッチのみの右側は、2つのボタンが独立していた従来型より幅が細くなった印象。この写真では見えないけれど、細身のグリップラバーにはハスクバーナのロゴが入る。
 
オフロード車を思わせるダブルシートも従来型のデザインを踏襲しているが、メイン部は座面幅を拡大。キャラクターを考えると当然のような気はするけれど、荷物の積載を意識した装備は一切ナシ。
シート下は電装系とエアボックス(上部のステッカーにはタイヤの空気圧に加えて、3種のサスセッティングが記されている)でギュウギュウだが、ETCユニットが収まりそうなスペースは存在。
水冷単気筒エンジンはKTM 390デュークと共通。ただし、390デュークのクランクケースカバーがブラックであるのに対して、ヴィット/スヴァルトピレン401は高級感を意識したブロンズを選択。
装着位置を車体中央→右に変更したWPの直押し式リアショックは、プリロードと伸び側減衰力の調整が可能。クイックシフターのセンサーは、シフトロッドではなく、エンジン側に設置されている。
 
3.00×17/4.50×17のアルミキャストホイールは、KTMとは趣が異なるハスクバーナ独自のデザイン。フロントブレーキはφ320mmディスク+バイブレ製ラジアルマウント式4ピストンキャリパー。
リアブレーキはφ240mmディスク+バイブレ製片押し式1ピストンキャリパーで、2チャンネル式のABSは2種のモード、StreetとSupermotoを準備。試乗車のタイヤはミシュラン・パワー6。

主要諸元

車名:ヴィットピレン401
軸間距離:1368mm
最低地上高:180mm
シート高:820mm
キャスター:24°
エンジン形式:水冷4ストローク単気筒
弁形式:DOHC4バルブ
総排気量:398.6cc
内径×行程:64.0mm×89.0mm
圧縮比:12.6
最高出力:33kW(45ps)/8500rpm
最大トルク:39N・m(3.98kgf・m)/7000rpm
始動方式:セルフスターター
点火方式:フルトランジスタ
潤滑方式:ウェットサンプ
燃料供給方式:フューエルインジェクション
トランスミッション形式:常時噛合式6段リターン
クラッチ形式:湿式多板コイルスプリング
フレーム形式:ダイヤモンド
懸架方式前:テレスコピック倒立式φ43mm
懸架方式後:リンクレス・モノショック
タイヤサイズ前:110/70ZR17
タイヤサイズ後:150/60ZR17
ブレーキ形式前:油圧式シングルディスク
ブレーキ形式後:油圧式シングルディスク
車両重量:154.5kg(燃料ナシ)
使用燃料:ハイオクガソリン
燃料タンク容量:13L
乗車定員:2名

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著者プロフィール

中村友彦 近影

中村友彦

1996~2003年にバイカーズステーション誌に在籍し、以後はフリーランスとして活動中。1900年代初頭の旧車…