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M1000XR、M1000R、M1000RRの3機種を展開する
2021年、BMWは2輪において初となる「M」ブランドのM1000RRを投入。その後、2023年にロードスターのM1000R、2024年にクロスオーバーのM1000XRをリリースし、Mの名を冠した4気筒ファミリーを完成させた。BMWモトラッドのプレミアムなブランドとしては、かつて「HP(ハイパフォーマンスの意)」シリーズが存在し、HP2エンデューロ、HP2メガモト、HP2スポーツ、HP4、HP4レースがラインナップされていた。その流れとは別に、あえてMブランドを投入した背景には、4輪とのリレーションを想起させるマーケティング上の戦略があるように思う。
Mシリーズ3モデルの主要諸元をご覧いただこう。まず、ロードスターのM1000RとクロスオーバーのM1000XRについては、ベースとなったS1000RとS1000XRとは異なり、S1000RRと共通のシフトカム付き水冷並列4気筒エンジンを搭載している。これにより、M1000Rは165psから210psへ。M1000XRは170psから201psへと、それぞれ大幅に最高出力を引き上げているのだ。
M1000RRのエンジンは、S1000RRの999ccシフトカム付き水冷直4がベースだ。アルミ鍛造ピストンのピストンリングを3本から2本にしたり、コンロッドをチタン製として340g(4本合計)もの軽量化を達成した上で、軸間距離を99mmから101mmに延ばしてシリンダーの側圧を軽減。排気側カムのストロークを0.4mmアップしたり、ロッカーアームの幅を8mmから6.5mmに狭めるなど、完全にM1000RR専用エンジンとなっている。最高出力は現行のS1000RR比でプラス2psの212psだが、発生回転数は13,750rpmから14,500rpmへと引き上げられ、さらにレブリミットは15,100rpm(!)という超高回転型エンジンとなった。その代償として、3万km毎のサービスメンテナンスが必要であり、まさにハイスペックなロードゴーイングレーサーだ。
2023年型のM1000RRは、フロントカウルを中心にボディワークが変更されている。正面にあるエアインテークの形状が変わり、ウィングレットを大型化。さらに新型のハイウィンドシールドを採用するなどして、S1000RRとは異なるスタイリングへと進化。これらは全てエアロダイナミクスの改善を目的としたもので、最高速は306km/hから314km/hへと引き上げられている。
上は、M1000RRの新旧でどれだけダウンフォースが増えたかをまとめた表だ。300km/hでは6.3kgも増加しており、巨大なウィングレットの効果が一目瞭然だ。
M1000RとS1000Rの外観上における大きな違いは、サイドのウィングレットの有無だろう。ナンバープレート付近に発生する空気抵抗も軽減するとのことで、ロードスター(ネイキッド)の世界にもエアロダイナミクスの時代が到来したことを実感する。
M1000RR:とんでもない回転上昇、足周りの動き良し
BMW Mシリーズ3機種のプレス試乗会は、モビリティリゾートもてぎのロードコースで開催された。当日はドシャ降りと表現できるほどの悪天候であり、コースの途中には川まで出現。ちなみに3機種に標準装着されているタイヤは、M1000RRがミシュランのパワーカップ2、M1000RとM1000XRはブリヂストンのRS11という、どちらもドライグリップを重視した銘柄だ。溝がほとんどないトレッドパターンに恐れを抱きつつ、30分弱の走行枠を無事に走り終えることだけを目標にコースインする。
まずはM1000RRから。用意されたのはMコンペティションパッケージで、価格は標準仕様プラス63万9000円の448万8500円。カーボンホイールやカーボン外装などを採用した上位仕様だ。
コースインしてすぐ、具体的には2コーナーを立ち上がってからのストレートで、低回転域から非常にトルクフルなことに気付く。スーパースポーツにとってピットレーンですら使わないであろう領域、およそ2,000~3,000rpmからでも加速が力強く、5,000~6,000rpmでポンポンとシフトアップすると、すぐに速度は3ケタの領域に突入する。
そして、何より感激したのはウルトラスムーズな回転上昇だ。フリクションロスが皆無、とまでは言わないものの、発生する微振動がM1000RやM1000XRよりもさらに少なく、これが最新のレーシングエンジンなのかと感心しきり。そして、9,000rpmを境に吸気側のカムが低速側と高速側に切り替わるのだが、その変化が分からないほどにシームレスで、強烈に勢いを増す加速感に恐怖すら覚えた。
ハンドリングについては、せいぜいバンク角25°までしか試せなかったが、それでもこの悪コンディションの中を走ってすら楽しいと思えたのは、素性が優秀であることの証明にほかならない。足周りについては電子制御サスのDDCを採用しておらず、バネレートも高めの印象だが、サスの動き始めがスムーズなので追従性が高い。加えてカーボンホイールによる軽さもあり、現行スーパースポーツの中で最も扱いやすいのでは? などと思ってしまうほどだ。
レーシングエンジンを公道で楽しめる数少ないモデルであり、BMWの「M」に対する本気度が伝わってくるM1000RR。スーパースポーツが心底好きなライダーにとって、正真正銘のドリームマシンであることは間違いない。
M1000R:軽いのに軽くない、これがウィングレット効果か
続いてはM1000Rだ。M1000RRと字面が似ているからか、BMWジャパンのスタッフは「シングルR」と呼んでいた。試乗車はMコンペティションパッケージで、価格は339万3000円。標準仕様との差額は67万6000円だ。
幸いにも、この数日後に一般公道でベースモデルのS1000Rに試乗することができた。M1000Rとの相違点を簡単に説明すると、エンジンはシフトカムの有無で、最高出力は210psに対して165psと大きく異なる。一般的には、高回転高出力になるほど低中回転域のトルクが減じられ、街中では扱いにくくなるとされるが、むしろM1000Rの方が発進加速を含め力強いように感じられた。これはドリブンスプロケットを45Tから47Tにしたり、4~6速のショートレシオ化などが影響していそうだ。加えて、M1000Rの方が全域において発生する微振動が少なく、その上質なフィーリングに大きな魅力を感じた。
ハンドリングについては、倒し込みや切り返しはスーパースポーツのM1000RRよりも明らかに軽快で、ロードスターらしい身のこなしが光っている。その一方で、100km/hを超えるような高速域では他のネイキッドとは一線を画す安定感があり、これがおそらくウィングレットの効果なのだろう。ダウンヒルストレートで170km/hを出してすらフロントの接地感が薄れず、冷静にブレーキングポイントを見極めることができる。かつてBMWのワンメイクレースで、ここでフロントからスリップダウンしたことがある筆者にとって(その日も大雨で、バイクはネイキッドのR1100Rだった)、そのトラウマを克服できたような気すらした。
セミアクティブサスのDDCは、これを持たないS1000Rとの違いは決定的だ。M1000Rは戦闘的なスタイリングとは裏腹に乗り心地が良く、ロングツーリングで試したいと思えるほど作動性がいい。電子制御サスに関して20年もの歴史を持つBMWだけに、そのまとめ方には一日の長がある。
最後にブレーキについて。Mシリーズはフロントに「Mブレーキ」と呼ばれるブルーアルマイトのニッシン製キャリパーを採用している。入力初期から非常にコントローラブルで、雨の中でも安心してブレーキングに集中できた。ABSプロなど周辺の電子制御系が発達しているとはいえ、何か起きるまでの操作はライダーに委ねられているわけで、その部分に妥協がない姿勢は大いに評価できよう。
筆者が体験した4輪のMシリーズは「M5」だけで、しかも30年近くも前の話だが、普通のセダンがスポーツカー並みの走りに化けるというあのインパクトは忘れられない。そういう意味においては2輪のMシリーズも同じベクトルにあり、提示された価格は適正と言っていいだろう。どのジャンルにおいても最高のものを求める人に、自信を持ってお勧めできるシリーズだ。
BMW・M1000RR 主要諸元
エンジン
最高出力 156kW(212ps)/14,500rpm
エミッション制御 クローズドループ制御式三元触媒コンバーター
タイプ 油冷/水冷4気筒4ストローク並列エンジン
ボア×ストローク 80mm×49.7mm
排気量 999cc
最大トルク 113Nm/11,000rpm
圧縮比 13.5:1
点火/噴射制御 電子制御インジェクション、可変インテークパイプ長
排ガス基準 EURO 5
走行性能/燃費
最高速度 314km/h
WMTCに準拠した1Lあたり燃料消費率(1名乗車時) 15.38km/L
WMTCに準拠したCO2排出量 151g/km
燃料種類 無鉛プレミアムガソリン(ハイオク)(最大5%エタノール、E5) 98ROZ/RON 93 AKI
電装関係
オルタネーター 450W
バッテリー M軽量バッテリー、12V/5Ah、リチウムイオン
パワートランスミッション
クラッチ 湿式多板クラッチ、アンチホッピング
ミッション 常時噛み合い式6速トランスミッション、ストレートカットギア装備
駆動方式 チェーンドライブ
トラクションコントロール BMW Motorrad DTC
サスペンション/ブレーキ
フレーム アルミニウム鋳造ブリッジタイプフレーム、エンジンをフレームの一部として利用
フロントサスペンション 倒立式テレスコピックフォーク(45mm径)、スプリングプリロード、リバウンドおよびコンプレッションステージを調整可能
リアサスペンション アルミニウム製ダブルスイングアーム コイルスプリング付きセンタースプリングストラット、調整式リバウンド/コンプレッションダンピングおよびスプリングプリロード
サスペンションストローク、フロント/リア 120mm/118mm
軸距 1,455mm
キャスター 101.4mm
ステアリングヘッド角度 66.2°
ホイール カーボンホイール (M 鍛造ホイールOE 装備:アルミニウム鍛造ホイール)
リム(フロント) 3.50″×17″
リム(リア) 6.00″×17″
タイヤ(フロント) 120/70ZR17
タイヤ(リア) 200/55ZR17
ブレーキ(フロント) ダブルディスクブレーキ、直径320mm、4ピストンブレーキキャリパー
ブレーキ(リア) シングルディスクブレーキ、直径220mm、2ピストン固定キャリパー
ABS BMW Motorrad Race ABS(パーシャリーインテグラル) ABS Pro(Rain、Road、Dynamicからモード選択可能。Race及びRace ProモードではABS機能が解除)
寸法/重量
シート高、空車時 832mm
インナーレッグ曲線、空車時 1,845mm
燃料タンク容量 16.5L
リザーブ容量 約4L
全長 2,085mm
全高 1,230mm
全幅 740mm(ミラーを除く)(レバーガード付き:765mm)
車両重量(ドイツ工業規格DIN 空車時、走行可能状態、燃料満載時の90%、オプション非装備) 193kg(Mコンペティションパッケージ: 191.8 kg)
許容総重量 407kg
最大積載荷重(標準装備の場合) 214kg
車両重量(日本国内国土交通省届出値、燃料100%時) 198kg
BMW・M1000R 主要諸元
エンジン
タイプ 油冷/水冷4気筒4ストローク並列エンジン
ボア×ストローク 80mm×49.7mm
排気量 999cc
最高出力 154kW(210ps)/13,750rpm
最大トルク 113Nm/11,000rpm
圧縮比 13.3:1
点火/噴射制御 電子制御インジェクション、可変インテークマニホールド長
エミッション制御 クローズドループ制御式三元触媒コンバーター
排ガス基準 EURO 5
走行性能/燃費
最高速度 200km/h以上(280km/h)
WMTCに準拠した1Lあたり燃料消費率(1名乗車時) 15.62km/L
WMTCに準拠したCO2排出量 149g/km
燃料種類 無鉛プレミアムガソリン(ハイオク)(最大5%エタノール、E5) 98ROZ/RON 93 AKI
電装関係
オルタネーター 450W
バッテリー M軽量バッテリー、12V/5Ah、リチウムイオン、メンテナンスフリー
パワートランスミッション
クラッチ 湿式多板クラッチ(アンチホッピング)、自己倍力機能付き
ミッション 常時噛み合い式6速トランスミッションをエンジンブロックに内蔵
駆動方式 チェーンドライブ
トラクションコントロール BMW Motorrad DTC
サスペンション/ブレーキ
フレーム アルミニウム鋳造ブリッジタイプフレーム、エンジンをフレームの一部として使用
フロントサスペンション 倒立式テレスコピックフォーク(45 mm 径)、電子制御式ダイナミックダンピングコントロール(DDC)、調整式スプリングプリロード、ダンピング範囲を電子式に個別設定可能
リアサスペンション アルミニウム製ダブルスイングアーム、コイルスプリング付きセンタースプリングストラット、手動調整式スプリングプリロード、電動調整式リバウンド/コンプレッションダンピング
サスペンションストローク、フロント/リア 120mm/117mm
軸距 1,455mm
キャスター 97.6mm
ステアリングヘッド角度 65.8°
ホイール アルミニウム鍛造ホイール(MカーボンホイールOE装備:カーボンホイール)
リム(フロント) 3.50″×17″
リム(リア) 6.00″×17″
タイヤ(フロント) 120/70ZR17
タイヤ(リア) 200/55ZR17
ブレーキ(フロント) ダブルディスクブレーキ、直径320mm、4ピストンブレーキキャリパー
ブレーキ(リア) シングルディスクブレーキ、直径220mm、1ピストンフローティングキャリパー
ABS BMW Motorrad ABS Pro
寸法/重量
シート高、空車時 830mm
インナーレッグ曲線、空車時 1,835mm
燃料タンク容量 16.5L
リザーブ容量 約4L
全長 2,085mm
全高 1,110mm
全幅 750mm
車両重量(ドイツ工業規格DIN 空車時、走行可能状態、燃料満載時の90%、オプション非装備) 199kg
車両重量(日本国内国土交通省届出値、燃料100%時) 200kg
許容総重量 407kg
最大積載荷重(標準装備の場合) 210kg