自制心が必要なほど、激しい&楽しい。進化したスーパースポーツBMW S1000RR|試乗記

BMWモトラッドから登場しているスーパースポーツの最上級モデルはM1000RRですが、2009年の初登場以来、レースでの実績を含めて着実に進化してきたのがS1000RRです。2023年モデルではウイングレットの装備するとともに、電子制御システムをさらに進化させています。性能を発揮させるにはサーキットや高速ワインディングといったステージが必要になりますが、実は速度域の低い日本の道路でも走りの良さは実感できそうです。
取材協力●BMWモトラッドジャパン

BMW・S 1000 RR……2,454,000円〜(消費税込み)

レーシングポテンシャルを高めた結果、ストリート性能の向上も実現

ツアラー性能においては一歩抜きんでた存在、それがBMWモトラッドのバイクに対しての認識でした。ボクサーエンジンを搭載するRシリーズで何度となくロングツーリングをしてきましたが、疲労度が少ない快適な走行が楽しめたのを記憶しています。ところが2009年、なんと新開発の並列4気筒エンジンを搭載したS1000RRを登場させたことに少なからず衝撃を受けました。レースシーン、ストリート市場のどちらにおいても、いわゆるスーパースポーツバイクは日本車とイタリア車が圧倒していました。そこへ新型モデルであるS1000RRで殴り込みをかけてきたのですからBMWモトラッドの意気込みは相当なものだったはずです。  スーパーバイク世界選手権へ参戦するためのホモロゲーションバイクとして開発されたS1000RRは、性能的にも既存の日本車やイタリア車を上回るほどで、2010年には市販モデルが国内でも販売を開始しました。当初からABS、トラクションコントロール、オートシフター、ライディングモードといった先進の電子制御システムが導入されていて、サーキットだけじゃなくストリートでの走行性にも配慮していました。それから13年、S1000RRはBMWモトラッドを代表するスーパースポーツとしてつねに最新の技術を投入し、進化してきました。そのスタンスは最新型でも変わりありません。

外観上で新しさを感じるのは、速度に応じてダウンフォースを発生させ、フロントタイヤがしっかりと路面を捉える働きに寄与するウイングレットがフロントカウルに追加装備されたことです。ウイングレットは高速域でとくに効果を発揮しますが、とあるレーシングライダーに聞いたところ、低速コーナーの旋回性向上も実現しているとのことでした。つまりこれは、ワインディング走行においても効果的だということです。さらに、ブレーキ・スライド・アシストとスライド・コントロールを備えた新しい舵角センサーを装備や、電装系の改善によるレースポテンシャルのアップ、210psへ最高出力をアップ、そしてフレーム剛性の見直しなどなど、ほぼすべての部分を刷新しているといっても過言ではありません。日本国内での販売価格は2,454,000円から。ホンダCBR1000RR-RやヤマハYZF-R1、カワサキNinja ZX-10Rなどの日本製ライバルモデルとほぼ同価格です。

さすがにスーパースポーツ、シート高が832㎜もあるので足つき性は良くありません。ステップ位置も後方にあるのでヒザの曲がりも強いです。この辺りは完全にレーシングユースを想定した設定です。しかしハンドルポジションは低すぎず、結果的に上体の前傾度は想像していたよりきつくありません。このポジションで長距離走行はさすがにつらい気はしますが、都市部の道路を走っていて窮屈に感じることはありませんでした。

足つき性(ライダー身長178cm)

ライダー身長:178cm 体重:78kg ステップ位置は高く、後方にあるため、ヒザの曲がりがきつくなり長時間走行にはつらい。しかし上体の前傾度は穏やかなのでポジション的にはそれほどつらくはない。高速クルージングにはちょうどいい乗車姿勢だ
シート高は832㎜あるので足つき性は良くない。しかしサスペンションの沈み込みもあって、数値から想像するより高さを感じない。また足を下ろしたときにステップが干渉しないのもありがたい

今回試乗したのはアクラポビッチ製スポーツサイレンサーが装着されたモデル。なのでエキゾーストノートは迫力がありました。ライディングモードはダイナミックの状態で走りだしました。市街地中心ということでスピードもせいぜい60km/h程度しか出さなかったので低回転での走りでしたが、エンジンは不満を漏らすことなく力強くレスポンスしてくれました。また意地悪く高めのギヤを使ったりしてみたのですが、60km/h以下のスピードで4速まで問題なく使うことができました。300km/hを実現してくれるエンジンなので、本来ならばアクセル全開にできるサーキットを走ってあげるほうが楽しめるのは事実です。しかし、日常域でも扱いやすくでき上っているところに高性能ぶりを垣間見ることができます。  細かな点を探ってみると、クラッチレバーの操作性が良く、タッチも軽いので、ストップ&ゴーを繰り返す市街地でも手が疲労することはありませんでした。まあシフト・アシスタント・プロが標準装備なので、発進、停止時以外はクラッチレバー操作の必要はなく、ギヤチェンジができるんですけどね。ちなみに、シフトペダルのタッチや入りも良かったです。いずれにしても電脳化が進んだエンジンは、市街地をメインとした一般道での走りにもしっかりと応えてくれる懐の深さを見せてくれました。

途中でダイナミックからロードへとモードを切り替えたのですが、エンジンのパワフルさは相変わらずで、腰の高いレーシーなポジションということもあり、ついついアグレッシブな走り方になってしまいそうになります。S1000RRを市街地や一般道で走らせるときには、自制心がもっとも重要なのかもしれません。そんなことを考えながら交差点を曲がっていたのですが、極低速で直角に曲がる場面でも、変に倒れ込むようなこともなく自然に向きを変えられました。旋回性を高めるためにキャスターの立ったディメンションの場合、フロントタイヤが切れ込むようにバンクする傾向があって怖い思いをするのですが、このバイクにはそれがありません。自然な舵角がついて素直に向きを変えてくれます。吸収性の良い前後サスペンションがタイヤをしっかりと路面に押し付けてくれ、安定したコーナリングができるようになっているのだと思いました。  ブレーキ性能もかなり高いのですが、コントロール性が良いので恐怖を感じることなく必要な制動ができます。なのでコーナーへのアプローチで、ブレーキングによってフロント荷重を増やし、スーッと車体をバンクさせコーナリングする。そんな一連の操作が非常にスムーズに素早くできるのです。  最新の電子デバイスが安全安心の走りを支えてくれる一方、よりスポーティでスピーディな走りも実現してくれます。さらにレーシーなモデルとしてM1000RRがリリースされていますが、S1000RRのレースポテンシャルはまた一歩高められたのではないかと感じました。

ディテール解説

シリンダーヘッドやエアクリーナーボックスなどをM1000RRのノウハウを生かして再設計した並列4気筒エンジンは、最高出力210ps/13750rpmと従来型より高回転高出力化を達成。高度なライディングモードを備え、幅広いパワーバンドを実現している
フロントカウルに新たに装備されたウイングレットによってダウンフォースを高め、一段と安定した走行性を実現した
スッキリとしたテール周り。テール/ストップランプはウインカーランプと共用するタイプ
フロントブレーキはΦ320㎜ローターにニッシン製対向式4ピストンキャリパーを組み合わせたダブルディスク。ブルーのキャリパーはMパッケージ専用
リアブレーキはΦ220㎜ローターに片押し式1ピストンキャリパーを装備するディスク
シートはもちろんセパレートタイプで、フロントは自由度が大きく体重移動がしやすい
リアシートはほとんど飾り。タンデムはつらい。シート下のわずかなスペースに日本仕様はETC2.0車載器を収納する
フロントサスペンションは共同開発のマルゾッキ製Φ45㎜倒立フォークを装備。ホイールトラベルは120㎜だ
リアショックはやはり共同開発のザックス製。ホイールトラベルは118㎜。前後ともにセミアクティブサスとしている
アッパーブラケット下部にマウントされたセパレートハンドルはやや開き気味にセットされている。燃料タンク容量は16.5ℓ
ハンドルのバーエンドにはレバーガードが装着してあった
メーターは6.5インチTFTカラーディスプレイを採用。これは基本的に従来型と変わらないが、シフトアップタイミングライトが追加された。ライディングモードやトラクションコントロールやリアショックのダンパー調整などは画面を確認しながらスイッチで操作する
BMW共通のスイッチ周り。操作に慣れるには多少時間が必要だ
グリップヒーターも標準装備されている
Mパッケージでは位置調整機構付きのステップが装備される。オートシフターも装備する
アクラポビッチ製スポーツサイレンサーが装備。Mパッケージにはカーボンホイールが採用される

主要諸元

●エンジン
タイプ油冷/水冷4 気筒4 ストローク並列エンジン、1 気筒あたり4 バルブ
ボア x ストローク80 mm x 49.7 mm
排気量999 cc
最高出力154 kW (210 PS) / 13,750 rpm
最大トルク113 Nm / 11,000 rpm
圧縮比13.3:1
点火 / 噴射制御電子制御インジェクション、可変インテークマニホールド長
エミッション制御制御式3元触媒コンバーター
排ガス基準EURO 5

●性能・燃費
最高速度200 km/h 以上 (300 km/h)
燃料消費率 / WMTCモード値 (クラス3)、 1名乗車時15.62km/L
WMTCに準拠したCO2排出量149 g/km
燃料種類無鉛プレミアムガソリン(ハイオク)(最大5%エタノール、E5) 98 ROZ/RON・93 AKI

●電装関係
オルタネータ450 W
バッテリー12 V / 5 Ah、リチウムイオン、メンテナンスフリー

●パワートランスミッション
クラッチ湿式多板クラッチ(アンチホッピング)、自己強化式
ミッション常時噛み合い式6 速トランスミッションをエンジンブロックに内蔵
チェーンドライブチェーン式
トラクションコントロールBMW Motorrad DTC, スライドコントロール

●車体・サスペンション
フレームアルミニウムラミネートブリッジフレーム、エンジン一体
フロントサスペンション倒立式テレスコピックフォーク(45 mm 径)、スプリングプリロード、リバウンドおよびコンプレッションステージを調整可能。(Dynamic Damping Control(DDC) OE 装備:倒立式テレスコピックフォーク(45 mm 径)、DDC 電子制御、調整式スプリングプリロード、ショックアブソーバーを電子制御式で個別化可能)
リアサスペンションアルミニウム製ダブルスイングアーム、コイルスプリング付きセンタースプリングストラット、調整式リバウンド/コンプレッションダンピングおよびスプリングプリロード。(Dynamic Damping Control(DDC) OE 装備:コイルスプリング付きセンタースプリングストラット、調整式リバウンド/コンプレッションダンピングおよび油圧調整式スプリングプリロード付き)
サスペンションストローク(フロント/リア)120 mm / 118 mm
軸距(空車時)1,455 mm
キャスター距離(トレール)101.4 mm
ステアリングヘッド角度66.2°
ホイールアルミニウムキャストホイール
(M鍛造ホイール OE 装備:アルミニウム鍛造ホイール)
(Mカーボンホイール OE 装備:カーボンホイール)
リム(フロント)3.50" x 17"
リム(リア)6.00" x 17"
タイヤ(フロント)120/70 ZR 17
タイヤ(リア)190/55 ZR 17(M鍛造ホイール、Mカーボンホイール OE 装着:200/55 ZR 17)
ブレーキ(フロント)ダブルディスクブレーキ、直径320 mm、4 ピストンブレーキキャリパー
ブレーキ(リア)ディスクブレーキ、直径220 mm、1 ピストンフローティングキャリパー
ABSBMW Motorrad Race ABS (パーシャリーインテグラル)、ブレーキスライドアシストABS Pro(コーナリングABS)、ライディングモードPro装着車はABS Pro Race のコーナリングABSも装備

●寸法・重量
シート高、空車時832 mm
インナーレッグ曲線、空車時1,845 mm
燃料タンク容量16.5 L
リザーブ容量約4 L
全長2,075 mm
全高1,205 mm
全幅740 mm(ブレーキレバーガード装備:765 mm)
乾燥重量175 kg (Mパッケージ:173.3 kg)、バッテリーを除く
車両重量(ドイツ工業規格DIN)197 kg(Mパッケージ:193.5 kg) 1)
車両重量(日本国内国土交通省届出値)202 kg 2)
許容総重量407 kg
最大積載荷重(標準装備の場合)210 kg

1) 空車時、走行可能状態、燃料満載時の90%、オプション非装備
2) 燃料100%時

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著者プロフィール

栗栖国安 近影

栗栖国安

TV局や新聞社のプレスライダー、メーカー広告のモデルライダー経験を持つバイクジャーナリスト。およそ40…