水素で発電する燃料電池給電型の小型モビリティ。東京工科大が未来に向けて研究開発中|ジャパンモビリティショー2024

2024年10月15日(火)~10月18日(金)に千葉県の幕張メッセで開催された「JAPAN MOBILITY SHOW BIZWEEK 2024」。電動車(EV)や水素を燃料とし、“脱炭素”を目指したモビリティ。またAIなどの最新技術を駆使したアイテムやツールの出展がメインとなるこのイベントでは、創意工夫を凝らしたユニークなモデルや製品がお目見え。ここでは東京工科大学(東京都八王子市)の工学部・機械工学科が研究開発中の、水素発電により電動モーターの動力を補助する「燃料電池給電型」の小型モビリティをご紹介しよう。
PHOTO/REPORT●北 秀昭(KITA Hideaki)
東京工科大学 https://www.teu.ac.jp/
ebesah(エベサー) https://ebesah.stores.jp/

東京モーターショーは2023年より、モビリティ業界を起点とした共創プラットフォームの実現を目指し、従来の「東京モーターショー」から「JAPAN MOBILITY SHOW」に刷新。この催しは、ビジネス向けイベントとショーケースイベントを毎年交互に開催。刷新から2回目となる「JAPAN MOBILITY SHOW BIZWEEK 2024」は、ビジネス向けイベントとして実施された。

今回の「JAPAN MOBILITY SHOW BIZWEEK 2024」は、メイン開催となった技術・産業の総合展示会「CEATEC(シーテック)2024(※注1)」との併催(両イベントとも入場無料)。展示ホール2~8を使った「CEATEC 2024」に比べ、「JAPAN MOBILITY SHOW BIZWEEK 2024」は展示ホール1のみの小規模開催だったが、ブースでは各社がアイディアと工夫を凝らして開発した、注目のモデルや製品がお披露目された。

※注1:「CEATEC(シーテック)」は2024年で25周年を迎える技術・産業の総合展示会。「Toward Society 5.0」をコンセプトに、経済発展と社会課題の解決を両立する「Society 5.0」の実現を目指したソリューションなどが集結。2024年はAIを中心とした出展が多く、25周年特別企画「AI for All」も話題を呼んだ。
JAPAN MOBILITY SHOW BIZWEEK 2024

「燃料電池給電型」の小型モビリティ

開発:東京工科大学・工学部・機械工学科・陸海空移動ロボティクス(福島)研究室

研究・開発はHundredths株式会社、東京都立産業技術センター、株式会社菊池製作所の協力の下に進められている。

写真は東京工科大学 工学部 機械工学科 陸海空移動ロボティクス(福島)研究室が研究・開発中の燃料電池給電型・小型モビリティ。ベース車両は特定小型原動機付自転車の電動カート「ebesah ・ChatKart(チャットカート)」というモデル(写真は四輪タイプだが二輪タイプもあり)。

この燃料電池給電型・小型モビリティは、通常のバッテリー+電動モーターに加え、水素で発電し、モーターを動かす燃料電池を採用。水素で発電した電気エネルギーが、航続距離全体の20%程度を補う“補助電力”として利用しているのがポイントだ。

水素って危険じゃないの?
水素と聞いて“水素爆弾”“水素爆発”をイメージし、「危険では?」と思う人もいるはず。しかし水素はガソリンに比べてエネルギーが低く、常温・常圧の場合はガソリンよりも燃焼力や爆発力が低いのが特徴。2011年3月の東日本大震災時に起こった福島原発事故の「水素爆発」は、漏れ出した大量の水素が建物内で圧縮されて着火し、燃焼・爆発。結論から言えば、仮に自動車やバイクに設置されたごく少量の水素が漏れても、基本的に燃焼・爆発することはない。
通常のバッテリーに加え、水素で発電する燃料電池を採用。各部の名称や構成は下記の写真を参照。
水素が注入された青いボンベ(水素吸蔵合金キャニスター)の大きさは、容量500mlのペットボトルよりも一回り小さいコンパクトサイズ。このボンベに水素を凝縮。
各部の名称と構成。
水素の流出用を表示・確認するためのメーターと、水素の調整量を表示・確認するためのメーターを設置(合計2個)。
水素エネルギーを電動モーターの動力に変換するシステムは市販品を使用。今後は独自の装置を研究・開発する予定。

燃料電池車(FCV)は市販車のトヨタ・ミライに採用

燃料電池車(FCV)を採用した市販モデルのトヨタ・ミライ。
水素と酸素を化学反応させ、水にする段階で電気エネルギーを発生させる燃料電池車(FCV)のしくみ(イメージ)。

水素で発電し、モーターを動かす燃料電池車(FCV)は、国内では市販車のトヨタ・ミライに採用。燃料電池車(FCV)は、水素と酸素を化学反応させ、水にする段階で電気エネルギーを発生させるシステム。リチウムイオンバッテリーに電気を蓄えておく電動自動車(EV)のようなタイプではなく、車内に発電装置を設けているのが特徴だ。

子供の頃、理科の実験でやった「水の電気分解」を覚えていますか? 電解質を溶かした水に電流を流すと、水は酸素と水素に分解する。燃料電池車(FCV)は、これとは逆のしくみを利用している。

燃料電池(FCV)は電動(EV)と同様、有害物質の排出はなく、出るのは水のみ。また、長時間充電が必要な電動(EV)とは異なり、短時間で燃料である水素の充填が可能なこと。加えて車両に搭載した燃料電池内で発電するため、リチウムイオンバッテリーは不要。

充填による走行距離も、燃料電池(FCV)は電気自動車(EV)より長いのがポイント。 ただしガソリンスタンドの代わりとなる「水素ステーション」の設置には、数億円という巨大なコストがかかるため、2024年現在、大きな普及に至っていない。

トヨタ・ミライのストリップ。黄色い部分が大型の水素タンク。

「燃料電池給電型」の小型モビリティ、開発の背景と目的

水素吸蔵合金を充填した容器は、低圧力(1Mpa以下)で大容量の水素を安全委貯蔵運用でき、非危険物に該当。このような特徴から、市販の可搬型・水素吸蔵合金容器から水素を供給し、燃料電池スタックを用いて、各種電動モビリティに給電するシステムが提案されている。

東京工科大学の研究室では、持続可能な社会実現に向けた水素エネルギーの使用方法を実体験で探るため、今回は電動カート「ebesah ・ChatKart(チャットカート)」に水素燃料電池システムを組み込み、動作確認を実施した。

「燃料電池給電型」の小型モビリティは、水素燃料電池システムを、トヨタ・ミライのような“メイン動力”としてではなく、あくまでもバッテリーを補助する“サブ動力”としていること(航続距離全体の20%程度)。

今回の研究開発による成果は下記の通り。

1:走行状態で全体システムの動作環境
2:各部の電力測定
3:燃料電池スタックの出力短絡制御の有無による、全体の正常動作確認
4:燃料電池スタックの排熱を、水素吸蔵金キャニスターの過熱と結露の防止に使用

今後の課題としては、

1:燃料電池スタックの出力短絡制御の有効性の検証
2:燃料電池スタックコントローラーとパワー変換器回路の設計開発
3:詳細なエネルギー評価

を予定している。

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