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ベース車両:BMW R100RS(1987年式) 製作:TB DESIGN AND WORKS
写真はBMWのビンテージモデル「R100RS(1987年式)」をベースにしたカスタム。砂型に熱した液状の金属を流し込んで製作する“鋳造(ちゅうぞう)”のテイストに仕上げた、立体的な3Dの外装類を随所に装備している。
会場内に展示されたカスタムバイクの中でも、ひときわ注目を浴びていたこの車両は、映像・舞台・イベント・内装などの空間デザイナーである「TB DESIGN AND WORKS」の代表・別所氏が、自らの愛車をプライベートで、しかも自分の手でカスタマイズ。ショップが仕上げたカスタムとは一味違う、“自らが納得しうる、一切の妥協を省いた”、完璧ともいえるスタイルが特徴だ。
R100RSのトレードマークともいえるフルカウルはレス化され、ネイキッドスタイルにアレンジ。フロントフォークはノーマルの正立型から、レーシーな倒立型に進化。リアショックは最先端のモノショック型から、傾斜を付けたスタンダードなツインショック型にカスタマイズ。
フロントブレーキはノーマルのWディスク式から右側シングル式としながらも、ブレンボ製4POTキャリパーで強化済み。リアはノーマルと同じドラム式としている。
前後ホイール径はノーマルと同寸の前後18インチとし、外周部に「合わせ型ホイール風」のリベット加工を施し、レトロなイメージを演出した4本スポークのアルミキャスト型を採用。前後タイヤはダンロップK300とし、F110/90-18・R130/80-18の各サイズを選択。
作成方法は粘土による彫塑と、木材や石材を素材にした彫刻を彷彿! 鋳物風パーツの完成度は、まさにアート(芸術)の領域
表面に滑らかな凹凸を設けた立体的なガソリンタンクカバーやフロントフェンダー、フロントマスク、ハンドル周り、シートカウルなどの外装パーツは、砂型へ液状に熱した金属素材を流し込む、鋳造(ちゅうぞう)の鋳物(いもの)風フォルムにアレンジ。ポイントは通常の鋳造では表現しきれない、芸術的ともいえる細かな造形美を実現しているところ。
メイン素材は柔らかくて切削などの加工がしやすいアルミがメイン。立体ロゴやエンブレムなど、箇所によってはステンレスや真鍮なども使用する場合あり。
製作には切断・削り・溶接・叩き(板金)・サンドブラスト(磨き)等の作業を巧みに駆使。各パーツの原型を作成しつつ、独自の工程や手法により、ビルダーが描いたイメージを各パーツに投影(各部により製作方法や加工方法は異なる)。
メインパーツの表面には、サンドブラスト(金属箱の中にパーツを入れ、超高速で細かな砂を吹き付け、素材の表面を研磨する特殊機械)により、砂型による鋳物のような「ざらつき感」を演出。マシニングセンターやNCフライス盤などの切削用機械加工ではできない、手作業による温もりと質感が感じられる外観に仕上がっている。
市販のビレットパーツ流用時も、まずは自らの手でデザイン加工。サンダーで角や面を削り、溶接して付け足し、叩いてアールを付け、再び削るという徹底ぶり。完璧なフォルムに仕上がるまで、これらの作業を繰り返し、ビルダーの息吹をパーツに注ぎ込んでいく。
以上を実際に製作するのは、素人の我々が想像する以上に“大きな壁”があり、時間と労力と経験、またアイデアと技術力が必要となる。例えばカバーを作成時。溶接の熱により、随時カバー全体に歪みが生じてしまう。ではどう対処するのか?
ピッタリと合致させるため、ビルダーは板金による叩き作業や溶接により、根気よく丹念に合わせゆく。これらは素人には決して真似のできない、知識と経験、そして永年の勘が成し得る匠のワザ。既存のカスタムにはない、その完成度の高さには、ただただ脱帽だ。