水冷エンジンに進化したシグナス グリファス|さて、日常での使い勝手は?

ヤマハの新しい原付二種スクーターであるシグナス グリファス。発売当日にアップした試乗速報に続き、車両の詳細についてお届けしよう。大人気の125ccクラスにNMAXをはじめトリシティ125、アクシスZ、そして旧モデルのシグナスXを合わせて5機種ものスクーターをラインナップするヤマハ。果たしてシグナス グリファスの立ち位置とは?

REPORT●大屋雄一(OYA Yuichi)
PHOTO●山田俊輔(YAMADA Shunsuke)
取材協力●ヤマハ発動機販売

ヤマハ・シグナス グリファス……357,500円

カラーリングは写真のブルーイッシュグレーソリッド4(グレー)のほかに、ディープパープリッシュブルーメタリックC(ブルー)、ブラックメタリックX(ブラック)、ホワイトメタリック1(ホワイト)を用意。さらに2022年2月24日にはWGP 60th Anniversaryとしてシルキーホワイト(ホワイト)を1,000台限定で368,500円にて販売する。なお、試乗速報はこちら
2021年6月28日に発売された最新型NMAX ABSは368,500円。シグナス グリファスと同様に可変バルブ機構VVA採用の水冷ブルーコアエンジンを搭載するほか、トラコン、アイドリングストップ、前後ABS、スマートキー、スマホ専用アプリ対応機能などを盛り込む。
LMW(リーニングマルチホイール)の第1弾として2014年9月に発売されたフロント2輪のトリシティ125。2018年モデルで水冷のブルーコアエンジンや新設計フレーム、LEDヘッドライトなどを採用。なお、2021年モデルの車両価格は423,500円(ABS仕様は462,000円)。
2017年4月に発売された実用性重視の原付二種スクーター。前後10インチホイールの軽量コンパクトなボディに、8.2psを発生する空冷2バルブのブルーコアエンジンを搭載。ジェットヘルが2個入るシート下トランクや低燃費、247,500円という価格の安さが魅力だ。
流通在庫の関係か、シグナス グリファス発売後もラインナップに残るシグナスX。現行モデルは5世代目にあたり、発売されたのは2018年11月のこと。空冷SOHC4バルブ単気筒は最高出力9.8psを発揮し、車両重量は119kgを公称。車両価格は335,500円となっている。

エンジンはNMAXらに準じるVVA採用の水冷ブルーコアだが……

2003年のデビュー以来、長らく原付二種スクーターのスポーティなジャンルを牽引してきたヤマハのシグナスXが、ついに水冷エンジンを搭載して車名を「シグナス グリファス」に改めた。付け加えると、シグナスという車名は1982年に誕生しており、その長い歴史においても空冷以外のパワーユニットが採用されるのは今回が初となる。
さて、その水冷エンジン。可変バルブVVAを採用する「ブルーコア」という名称からNMAXやトリシティ125に搭載されているものをそのまま流用したように思われがちが、NMAXはアイドリングストップやトラクションコントロールなどを採用した新世代のブルーコアエンジンであり、またトリシティ125とは最高出力、最大トルクとも微妙に異なることから、基本設計のみを共有したエンジンと言えそうだ。ちなみに生産国はシグナス グリファスが台湾、NMAXがインドネシア、トリシティ125がタイ王国となっている。
この水冷ブルーコアエンジンを搭載するにあたり、重心位置とボディ剛性を最適化したアンダーボーン型フレームが新設計されている。ホイールベースはシグナスX比で35mmロングとなり、NMAXと同じ1,340mmへ。タイヤは12インチのまま前後とも1サイズずつワイドになり、フロントは120、リヤは130となっている。
ブレーキはシグナスXと同様に前後ともディスクだが、リヤは30mm大径化されてφ230mmになったのは大きなトピックだろう。なお、台湾仕様はABS仕様と前後連動仕様の両方が選べるが、日本仕様は後者のみとなる。

ブルーコア(BLUE CORE)とは走りの楽しさと燃費・環境性能を高次元で両立するエンジン設計思想のこと。シグナス グリファスに搭載されている水冷SOHC4バルブ単気筒は、可変バルブVVAをはじめ、始動モーターとジェネレーターを一体化したSMG(スマートモータージェネレーター)を採用する。
リヤサスペンションはスクーターとしては一般的なユニットスイング式で、変速装置はVベルト式無段変速。燃費はWMTCモードでシグナスXの37.3km/ℓから44.5km/ℓへと19.3%もアップしており、燃料タンク容量は0.4ℓ減っているが、実質的な航続距離はむしろ延びているのだ。
左右非対称メインパイプやテンションバーなどを採用した新設計のアンダーボーン型フレーム。高剛性としなやかさを併せ持つほか、キャスター角をシグナスXの27°00′から26°30′に立てるなどディメンションも刷新している。リヤショックは4段階のプリロード調整が可能で、標準位置は最小(ソフト)から2段目となる。
前後のアルミキャストホイールは新作で、これに新開発のDURO(デューロ)製ワイドタイヤを組み合わせる。フロントフォークのインナーチューブ径はφ33.0mmだ。ブレーキは前後ともディスクで、フロントφ245mm、リヤφ230mm(シグナスXはφ200mm)。左レバーで前後が連動するUBS(ユニファイドブレーキシステム)を採用。

ユーティリティは大きく変わらず、外観はよりスポーティに

可倒式ステップや握りやすい分割式グラブバーなどパッセンジャーの居住性を確保しながら、さらにスポーティーな外観へと進化したシグナスの最新モデル。全長、全高、ホイールベースはNMAXと同値であり、さらにシート高はNMAXより20mmも高いことから、少なくともコンパクトという言葉は当てはまらなくなった。なお、車重はシグナスXの119kgから125kgへと6kg増えており、これも取り回しの際に大柄に感じさせる要因となっている。
シート下トランクの容量は約29ℓから約28ℓと数値上は減っているが、その差が分かる人はほとんどいないはず。ヘルメットは逆さまに入れる方式となり、帽体のサイズによってはインカムを装着したままでも収納可能だ。フロントポケットは従来とほぼ同じ形状であり、フタはなし。落としたり盗まれる心配のあるものの収納には不向きだが、ペットボトルなど入れておき、信号待ちのタイミングで飲むという使い方においては、フタがない分だけ非常に便利だ。

シート高はシグナスXの775mmに対して10mmアップの785mmを公称。ヤマハの原付二種スクーターの中では最も高く、足着き性重視の小柄なライダーにとってはやや厳しい。
シート下トランクの容量は約28ℓで、シグナスXの約29ℓから微減している。とはいえNMAXの約23ℓよりは大きく、ヘルメット1個が余裕で入る。なお、収納力重視ならアクシスZの37.5ℓ(ヘルメットが2個収納可能)という選択肢も。
フロントの右側に500mlのペットボトルが収納できるポケットやキーシャッター、コンビニフックといったレイアウトはシグナスXから変更なし。なお、12VのDCジャックは時代のニーズに合わせてUSBソケットへと進化した。

給油口のレイアウトもシグナスXから変わらず。生産国の台湾仕様はイグニッションキーの操作でキャップを解錠できるのに対し、日本仕様はキーを直接差し込んで開けるタイプとなる。燃料タンク容量はシグナスXの6.5ℓから6.1ℓへと微減。
フルデジタルの液晶マルチファンクションメーターパネルはシグナスXのものからデザインを一新し、左上にVVAのアイコンを追加。メーター面が水平に近い角度だからか、特に縦方向に増減するバーグラフ式のタコメーターは非常に見づらい。
好印象だったのがこの樽型グリップ。外側に向かって徐々に細くなっており、軽い握力でもしっかりと操縦できる。なお、スイッチのレイアウトはごく一般的なもので扱いやすい。

LEDヘッドライトは250ccのXMAXを彷彿させる逆スラントの2灯式に。ロービームで右側が、ハイビームで両側が点灯する。なお、シグナスXでは初代からハンドルマウントだったフロントウインカーがボディ側に移動したのも大きな変更点だ。
テールランプはLEDの面発光で、ブレーキを握ると中央のLEDストップランプが点灯する。前後のウインカーとナンバー灯はフィラメント球だ。

グリファスは原付二種スクーター界のスーパースポーツだ!

NMAXとの差額は11,000円。シグナス グリファスはトラクションコントロールやアイドリングストップ、前後ABS、スマートキー、スマホ専用アプリ対応機能などを持たないのでどうしても割高に感じてしまうが、NMAXはPCXの牙城を崩すための戦略的な価格設定とも言えるので、相対的にNMAXがお買い得なのは仕方のないところ。これら安全&便利装備はカスタマイズの際に足枷となるケースも考えられるので、積極的にイジりたい人にとってはシグナス グリファスのシンプルさはかえって魅力的に映るだろう。

シグナス グリファス 主要諸元

認定型式/原動機打刻型式 8BJ-SEJ4J/E33UE
全長/全幅/全高 1,935mm/690mm/1,160mm
シート高 785mm
軸間距離 1,340mm
最低地上高 125mm
車両重量 125kg
燃料消費率 国土交通省届出値 
定地燃費値 48.6km/L(60km/h)2名乗車時
WMTCモード値 44.5km/L(クラス1)1名乗車時
原動機種類 水冷・4ストローク・SOHC・4バルブ
気筒数配列 単気筒
総排気量 124cm3
内径×行程 52.0mm×58.7mm
圧縮比 11.2:1
最高出力 9.0kW(12ps)/8,000rpm
最大トルク 11N・m(1.1kgf・m)/6,000rpm
始動方式 セルフ式
潤滑方式 ウェットサンプ
エンジンオイル容量 1.00L
燃料タンク容量 6.1L(無鉛レギュラーガソリン指定)
吸気・燃料装置/燃料供給方式 フューエルインジェクション
点火方式 TCI(トランジスタ式)
バッテリー容量/型式 12V、6.5Ah(10HR)/GT7B-4
1次減速比/2次減速比 1.000/10.208 (56/16×35/12)
クラッチ形式 乾式、遠心、シュー
変速装置/変速方式 Vベルト式無段変速/オートマチック
変速比 2.384~0.749:無段変速
フレーム形式 アンダーボーン
キャスター/トレール 26°30′/90mm
タイヤサイズ(前/後) 120/70-12 51L(チューブレス)/130/70-12 56L(チューブレス)
制動装置形式(前/後) 油圧式シングルディスクブレーキ/油圧式シングルディスクブレーキ
懸架方式(前/後) テレスコピック/ユニットスイング
ヘッドランプバルブ種類/ヘッドランプ LED/LED
乗車定員 2名

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著者プロフィール

大屋雄一 近影

大屋雄一

短大卒業と同時に二輪雑誌業界へ飛び込んで早30年以上。1996年にフリーランス宣言をしたモーターサイクル…