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マットモーターサイクルズ・マスティフ250……671,000円
ノートンやモトモリーニ、イタルモトなどを輸入販売しているピーシーアイが、2018年10月に取り扱い開始を発表したのが、イギリスのマットモーターサイクルズだ。2013年に初のコンセプトモデルを製作し、2016年に最初の200台を生産したばかりの新生ブランドで、母体および本店はイギリスのバーミンガムにある。
ラインナップは125ccと250ccの二本立てで、どちらもエンジンは5段ミッション採用の空冷シングル。それぞれにモングレル(雑種犬)という名のベースモデルがあり、装着パーツを変えることでラインナップを増やしている。ブレーキは125ccが前後連動タイプ、250ccはABSを標準装備。さらに250ccは125ccよりもスイングアームが50mm長いなどの違いはあるが、基本的なフォルムは全車共通となっている。
今回試乗したのは2019年11月に国内導入されたマスティフ250だ。ラインナップで唯一、17Lの大容量タンク(他は全て12L)を採用しているのがポイントで、それ以外にもCNC加工のヘッドライトステーやフロントフォークのトップキャップ、モンツァタイプのタンクキャップなど、キング・オブ・マットを名乗るにふさわしい高品質なパーツが随所に見られる。なお、車両価格は67万1000円。ヤマハ・SR400が58万3000円なので、それよりも8万8000円も高いということに。これについてのジャッジは後に触れるとしよう。
実車と対面し、まず率直に感じたのはセンスの良さだ。主要なパーツをマットブラックで統一しているからこそ、シートとグリップラバーのブラウンが差し色として映えている。また、フォークのトップキャップやリヤショックのエンドボルトなど、大きめのネジを削り出しパーツとしているので安っぽさがない。長年、ビンテージバイクのカスタマイズを手掛けてきたメーカーだけに、どうすれば見栄えが良くなるかを熟知したパーツ構成となっている。
それにしてもエンジンはどことなく見覚えのあるような……。そう、この空冷シングルはスズキのST250 Eのような造形だ。とはいえ、右側クランクケースカバーにはマットモーターサイクルズのロゴが入るほか、タペットキャップやオイルフィラーキャップには削り出しパーツを使用するなど、ここでも質感を高める演出がなされている。ちなみにST250は2017年9月にディスコンとなったが、アメリカではTU250Xという名前で販売が継続されているのだ。
この空冷シングル、実際に走らせての印象は非常に良い。かつてのST250は、2008年に燃料供給がキャブレターからフューエルインジェクションに変更されたのだが、実用域でのトルクがやや薄まってしまったという記憶がある。これはST250に限らず、排ガス規制強化のためにやむを得ずFI化されたモデル、特に小排気量車ほどその傾向が強かった。
マスティフ250もFIを採用しており、さらに当時よりも厳しいユーロ4をクリアしているのだが、低回転域からしっかりと実用トルクが出ている。またシングルらしい歯切れのいい鼓動感や、高回転域にかけての伸び上がりなど全域で好印象だ。具体的には、2速でスロットルを全開にすると90km/h弱まで引っ張れるほか、トップ5速は50km/h付近から使えるなど、かなりフレキシブルな特性が与えられている。スロットルレスポンスがいいと感じさせる要因の一つは、リヤスプロケットの取り付け部におそらくハブダンパーが使われていないこと。とはいえ無駄にギクシャクするほどではなく、多くのライダーはすぐに慣れるだろう。
ハンドリングは、太めのタイヤから想像したとおりのゆったりとしたバンキングと接地感の高さが特徴的だ。ファットタイヤと言えば、ヤマハのTW200やスズキのバンバン200などを思い浮かべる人も多いだろうが、この2台ほど倒し込みや切り返しは重くはない。また、ティムソン製のタイヤはブロックパターンでありながら舗装路でもしっかりとグリップしてくれ、深く寝かし込んでも滑り出しそうな気配がない。このグリップのいいタイヤに負けないほどの剛性があり、特に不満を感じなかった。唯一気になったのはリヤショックで、おそらくバネレートが高いために荒れた路面で跳ねやすい。フレームの剛性やフロントフォークの作動性には不満がないので、リヤショックを交換するだけでさらにバランスのいいハンドリングになるだろう。
ブレーキは、マットモーターサイクルズは全車が前後にディスクを採用し、このマスティフ250も例外ではない。絶対制動力は必要にして十分といったレベルで、個人的にはもう少し軽い入力や短いストロークで利いてほしいところだが、これも慣れの範疇だろう。ABSの作動性は全く問題がなく、そのシステムをこれだけシンプルな車体に目立たないよう組み込んだことに感心させられる。
昨今、ネオクラシックがブームではあるが、マスティフ250に搭載されている系統の空冷エンジンの基本設計は1982年に登場したDR250Sまで遡ることができるので、まさにホンモノのクラシックだ。それをFI化して信頼性と実用性を高め、シンプルでセンスのいい車体に懸架している。リヤショックやブレーキなど、ライダーが操縦で補わなければならない部分はあるものの、気が付けば心地良いエンジンフィールと大らかなハンドリングを楽しんでいたのは事実。67万1000円という価格は、センス良くカスタムされたバイクを新車で買えると考えれば妥当であり、そこに入荷台数が非常に少ないという希少性が加わるので、むしろ安いと思う人がいても不思議ではない。今後、要注目のブランドだ。
マスティフ250 ディテール解説
マスティフ250 主要諸元
全幅:800mm 全高:1070mm シート高:780mm 乗車定員:2人 排気量:249cc 乾燥重量:130kg エンジン:フューエルインジェクション、4ストローク、シングルシリンダー 最大出力:21hp 最大トルク:20Nm トランスミッション:5速マニュアル フューエルタンク:17L ブレーキ:ABSブレーキシステム ホイール(前後):2.50-18 タイヤ(前後):18インチ チューブタイプ 規格:ユーロ4 備考:2年保証 価格(10%消費税込):¥671,000