公道走行に最適なパワー特性が持ち味のミドルスーパースポーツ

ホンダCBR400R試乗|レーサーレプリカのような窮屈さはなく、市街地もツーリングも難なくこなせます!

レーシーさを前面に押し出したアグレッシブなフォルムながら、街中からワインディングまで一般道での扱いやすさとスポーティさに定評があるCBR400Rが、足回りを強化して走行性能をアップさせました。年がいもなく高揚して峠道へと向かいました。

PHOTO●山田俊輔(YAMADA Shunsuke)

ホンダCBR400R……841,500円(消費税込み)

足回りの高性能化で安定性とスポーツ性をアップ

 ミドルスーパースポーツモデルCBR400Rがまたまた進化しました。フルカウル装備のアグレッシブなボディスタイリングは従来型から継承されていて、レーシーさを主張したレッドカラーのほかはマット系のブラックとブルーの3色が用意されています。今回はマットブルーのカラーリングのモデルに試乗したのですが、スポーティさの中にも落ち着きがあって、ボクのようなおじさんライダーにもあまり抵抗なく乗ることができました。

  最新型での変更点は足回りの強化によって走りの質を高めていることです。具体的には、路面追従性に優れ、高い操縦安定性と上質な乗り心地を提供するショーワ製SFF-BP(セパレート・ファンクション・フロントフォーク・ビッグピストン)の採用と、高い制動力を発揮させるため、ラジアルマウントキャリパーを装備したフロントダブルディスクブレーキの採用、さらにスイングアーム剛性の最適化とフロントホイールの軽量化が図られ、一段と軽快なハンドリングの実現を目指しているとのことです。

 スーパースポーツに乗るときには少なからず緊張が伴います。好戦的なフォルムに威圧されてしまうのかもしれません。しかしシートに跨って車体を起こすと、その軽さにホッとします。車重は192㎏に抑えられているし、シート高だって785㎜と低いので、250㏄クラスのバイクを扱っている感覚です。トップブリッジ下部にマウントされたセパレートハンドルに手を添えると、わずかに上体が前傾するポジションになります。まあ外観から想像する通りですね。とはいうものの、かつてのレーサーレプリカのような窮屈さはなくて、これなら市街地走行から郊外へのツーリングまで問題なく適応してくれます。ステップ位置だって後ろすぎないので、上体とバランスがとれた自然な乗車姿勢を提供してくれます。

足つきチェック(身長178cm/体重77kg)

セパレートハンドルがトップブリッジ下に装備されているためハンドル位置は低め。そのため上体はやや前傾するアグレッシブなポジションとなる。とはいえ、窮屈さは微塵もなく、ツーリングにも十分に適応してくれる。
さらにシート高は785㎜と低く、シートとフューエルタンクの接続部がスリムな形状なので足つき性は良好だ。さらに、乗車時に前後サスペンションが沈み込むので、数値以上に足が着けやすく感じる。マスの集中化および低重心化が促進されていることもあり、車体の引き起こし、押し歩きなどの取り回しにも重さを感じることが少ない。車重も192㎏に抑えられているしホイールベースが短いことも取り回しの良さに貢献している

 始動すると、マフラーから軽やかなサウンドが放たれます。音量は十分に抑えられていて、ボディスタイルのイメージからはかけ離れた印象さえある、悪い言い方をすれば、なんとも頼りないというか、迫力に欠ける排気音です。でもサーキット走行やレース使用をメインにしたわけじゃなく、あくまでも一般公道での使用を目的にしたロードスポーツバイクなので、こうしたサウンドが正解なのかもしれません。

  いよいよ県境の峠へと向かって走り出します。ギヤを1速に入れるためにクラッチレバーを握ると、そのあまりの操作の軽さに驚いてしまいます。「クラッチの強度はこれで大丈夫なの?」と心配になるほどです。これはスリッパーアシストクラッチが採用されているためなのですが、レバー操作が軽いから疲労軽減に役立ってくれますし、また、過度なシフトダウンによるリアタイヤのスリップも抑制してくれるので、まさに良いことずくめなんです。もちろん強度にも問題ないです。

  クラッチ操作の軽さに気をよくして走り出すと、軽快なスロットルレスポンスでスムーズに吹け上がるエンジンが、狙い通りの加速を実現してくれます。全回転域でフラットな特性を示すエンジンに強烈なパワーは感じにくいのですが、トルク不足はないので、それこそ意のままにコントロールできるエンジン特性です。250だと吹け上がりが緩慢だったりトルクが細く感じる部分があるのですが、さすがにこの400㏄エンジンにはそうした非力さを感じません。そして現実に、高速道路やワインディングを含めて公道レベルでの使用には十分すぎるポテンシャルを持っていると思いました。

  CBR400Rの心臓部は、水冷DOHC4バルブ直列2気筒エンジンです。低中回転域のトルクの向上と力強い加速、そして心地よいスムーズな吹け上がりを実現するため、バルブタイミングおよびリフト量、インジェクターの最適化を図っています。さらに吸排気効率を高めることで吹け上がりの鋭さと力強いトルク特性の実現にも結び付けています。最高出力は9000回転で発生し、最大トルクの発生回転に至っては7500回転となっていて、スポーツバイクでは常識的な高回転型ではありません。スペックで性能をアピールしていないのです。実際に走ってみれば理解できますが、極低回転域から粘り強いトルクで車体を押し出し、そしてアクセルを開ければ抵抗なく吹け上がって狙い通りに加速していく。そんなパワーフィーリングなのです。つねにライダーに主導権があるエンジン特性は、走らせているという喜びを実感できて楽しいものです。しかもパワー的にも公道走行に不足はないのですから、日本の道路環境を考えれば十分な性能を有しているといえます。先ほどサーキット走行は考慮していないといいましたけど、これならサーキットのスポーツ走行だって十分に楽しめると思いました。

 ハンドリングは軽快です。192㎏の軽量な車体も貢献していますが、バンク操作や切り返し操作が素早くできるので、峠を目指すワインディングは実に楽しいステージでした。急なヘアピンカーブが連続する区間も、素直でクイックに向きを変える特性が生きて、軽快かつ狙い通りに走ることができます。今回フロントフォークをSFF-BPに変更しましたが、動きが良く路面追従性が高いので従来以上に軽快でスポーティな走りが可能になりました。リアサスの良好な作動性と合わせて、つねにタイヤの接地感が伝わってくるので安心感があり、実際にグリップを失うことなく確実にコーナーをトレースし、そして気持ちよく立ち上がってくれます。あくまでも公道レベルなのでムリはしないけれど、フレーム剛性も含めてワインディング性に不足はありません。

  ブレーキに関しては、従来のシングルディスクでも制動力に不足は感じなかったのですが、ダブルディスク+ラジアルマウントキャリパーの新採用で、より安定性の高いブレーキングができるようになりました。カチッとしたレバータッチで効きも鋭い。なのでワインディングの下りも必要な減速がスピーディにできました。

  走行性能をさらに高めた新型CBR400Rはたしかにスポーツ性を向上させていました。しかしエンジンパフォーマンスも含めて走りの質はあくまでもフレンドリーで扱いやすいのが特色です。そのうえでサーキット走行も楽しめる性能も持ち合わせているのですから、スーパースポーツの雰囲気をだれもが手軽に味わえる。そんな魅力があると感じました。

ディテール解説

スポーティなデザインが印象的な軽量アルミキャストホイール。新たに採用された倒立フロントフォークはショーワ製SFF-BP。さらにブレーキはダブルディスクとし、ラジアルマウントキャリパーを採用。ABSは制御を緻密化したモジュレーターを採用
リアサスペンションはプロリンクを採用。ショックアブソーバーはガスとオイルを完全に分離させる構造とした分離加圧式とし、快適な乗り心地と高い路面追従性を両立
新たに倒立フォークが採用され剛性アップも図られたヘッド周り。フォーク上部にはSFF-BP(セパレート・ファンクション・フロントフォーク・ビッグピストン)の文字が記されている
テールランプにもクリアレンズ採用のLEDランプを装備。被視認性は高い。テールカウルにはデザインを一体化させたグラブバーを採用。実用性にも配慮している
リアシート下はちょっとした収納スペースになっていて、車載工具などが収められている。ETC車載器の収納も可能だ
ギアポジションインジケータを加えたLCDメーター。スピードやエンジン回転の他、燃料計、時計、瞬間/平均燃費などさまざまな情報を表示する。さらにシフトタイミングを知らせるシフトアップインジケーター機能や、任意の回転数で点滅設定が行えるタコメーターピークホールド機能も備えている
水冷DOHC4バルブ直列2気筒エンジンは、低・中回転トルクを厚くした特性。そのため日常域で力強く扱いやすい。レバー操作が軽く、急激なシフトダウンによるリアタイヤのスリップを抑制するアシストスリッパークラッチも装備している
マスの集中化にも貢献する異型断面ショートマフラーは、テールパイプに二管構造を採用。低回転ではツインエンジン特有のパルス感と歯切れの良いサウンドを放つ
当初はトップブリッジ上にセットされていたセパレートハンドルだが、現在は下部にマウントされている。これによって前傾姿勢がとりやすくなり、スポーティさを増した
直線基調のスピード感溢れるデザインとしたフルカウルには、精悍な表情を見せるLEDデュアルヘッドライトを装備する。小型ウインドスクリーンもレーシーだ
スポーツ性を強調するセパレートタイプのシートを採用。リアシートとの段差部分はシートストッパーにもなるので伏せ姿勢をとったときに安定する

主要諸元

車名・型式:ホンダ・8BL-NC56
全長(mm):2,080
全幅(mm):760
全高(mm):1,145
軸距(mm):1,410
最低地上高(mm):130
シート高(mm):785
車両重量(kg):192
乗車定員(人):2
燃料消費率(km/L):
 国土交通省届出値:定地燃費値(km/h)41.0(60)〈2名乗車時〉
 WMTCモード値(クラス)27.9(クラス 3-2)〈1名乗車時〉
最小回転半径(m):2.9
エンジン型式:NC56E
エンジン種類:水冷4ストロークDOHC4バルブ直列2気筒
総排気量(cm3):399
内径×行程(mm):67.0×56.6
圧縮比:11.0
最高出力(kW[PS]/rpm):34[46]/9,000
最大トルク(N・m[kgf・m]/rpm):38[3.9]/7,500
燃料供給装置形式:電子式〈電子制御燃料噴射装置(PGM-FI)〉
始動方式:セルフ式
点火装置形式:フルトランジスタ式バッテリー点火
潤滑方式:圧送飛沫併用式
燃料タンク容量(L):17
クラッチ形式:湿式多板コイルスプリング式
変速機形式:常時噛合式6段リターン
変速比:
 1速3.285
 2速2.105
 3速1.600
 4速1.300
 5速1.150
 6速1.043
減速比(1次/2次):2.029/3.000
キャスター角(度):25゜30′
トレール量(mm):102
タイヤ:
 前120/70ZR17M/C (58W)
 後160/60ZR17M/C (69W)
ブレーキ形式:
 前油圧式ダブルディスク
 後油圧式ディスク
懸架方式:
 前テレスコピック式
 後スイングアーム式(プロリンク)
フレーム形式:ダイヤモンド

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著者プロフィール

栗栖国安 近影

栗栖国安

TV局や新聞社のプレスライダー、メーカー広告のモデルライダー経験を持つバイクジャーナリスト。およそ40…