車重は400kgの重量級だが、足付きは良い。さて乗り味&取り回しは?|インディアン・パースート ダークホース with プレミアムパッケージ

アメリカン・モーターサイクルの老舗ブランドとして知られる“インディアン”は、現在5つのカテゴリーに分けられ全23種のバリエーションを展開。今回のPursuitは上級グレードのTouringカテゴリーに属す1台である。

REPORT●近田 茂(CHIKATA Shigeru)
PHOTO●山田俊輔(YAMADA Shunsuke)
取材協力●ポラリス ジャパン株式会社 / 日本自動車輸入組合(JAIA)

インディアン・Pursuit Dark Horse with Premium Package…….3,989,000円

Black Smoke

Spirit Blue Metallic
Silver Quartz Smoke
Ruby Metallic/Black Metallic

 Touringカテゴリーには基本的にロードマスターとパースートの2機種があり、それぞれによりハイグレードなリミテッドモデルが揃えられている。いずれも大型フルフェアリングとテールには大きなトップボックス&左右パニアケースを標準装備する長距離ツアラー。ロードマスターはクラシカルなテーストで仕上げられており、空冷タイプの1890cc Thunderstroke 116エンジンを搭載。
 一方パースートは1768ccの水冷PowerPlusエンジンを搭載。外観デザインも含めて全てに最先端テクノロジー満載で仕上げられているのが大きな相違点。
 今回の試乗車はパースート ダークホースにプレミアムパッケージを装備したモデル。価格は約400万円。ちなみに車両重量も400kgオーバーと言う超弩級のゴージャス・ロングツアラーなのである。

 Baggerカテゴリーに属す、チャレンジャーがベースになって開発されたモデルで、明確に異なっているのは、コンフォートシートの採用を始め、レッグシールド及びトップケースの標準装備。そしてピリンオンステップがバータイプからボードタイプに換装され、リヤサイドバンパーを追加。タンクサイドのエンブレムデザインも別物となっている。当然ながら車重が増加しており、全長も伸びているが、搭載エンジンや各装備の機能や車体寸法は基本的にチャレンジャーと共通。
 搭載エンジンはSOHC水冷方式の横置き60°Vツイン。ボア・ストロークは108×96.5mmと言うショートストロークタイプ。最大トルクはロードマスターの1890ccエンジンを凌ぐ178Nm/3,800rpmを発揮。レブリミットも6,500rpmまで高められ、少し低めなギヤリングの採用と相まって軽やかに吹け上がる出力特性が期待できる。
 
 サスペンションにはフロントにφ43mmの倒立式フォークを採用。リヤにはFox製の電子制御プリロード調節式のモノショックユニットを装備。
 写真で示す通りリヤショックはスイングアームピボット上部に前傾マウントされているが、ボトムリンクに加えて、アッパー部にもベルクランクとロッドを介して取り付けられるフルフローター方式が採用されている。
 スプリングのアッパー部には油圧機構が装備され、後輪左脇に水平搭載された油圧ポンプを電動で作動させる事でスプリングが圧縮されてプリロードが可変できる仕組み。もちろんそれら一連の動きは電子制御される。
 ブレーキは前後共にブレンボ製を装備。搭載オーディオもスピーカー出力はチャレンジャーの倍となる200Wを誇る。鍵はもちろんスマートキー方式。トップケースと左右のサイドパニアで133Lもの大容量が確保された荷物積載スペースのロックもリモコン操作できる。
 フル装備の豪華さと、雄大な雰囲気を醸す外観デザインからは、いかにもアメリカ大陸の州を跨いで旅する道具に相応しい仕上がりを披露しているのである。

上下にリンク機構を持つモノショック式は、フルフローターサスペンションを思い出させる。
Fox製の電子制御式プリロード調節機構は油圧式。右のシリンダーで油圧が制御され、ショックユニット上部のスプリングを押し下げる。二人乗りや荷物満載でもディスプレイ画面のタッチ操作で、自動、あるいは任意に調節できる。

400kgの巨体が軽々と走る。

 試乗車はブラック・スモークのダークホースなのでほとんどが黒く仕上げられている。流行りのマットな質感は、クロームに光り輝く部分の少ない控えめな雰囲気を醸す。それでも巨大なトップケースを装備した車体のボリューム感には圧倒されてしまう。
 400kgオーバーの装備重量にもいささか怖じけずいてしまいそうだが、股がってみると意外と不安感は少ない。先ずは足つき性の良さに助けられる。さらに車体を引き起す時の感触にもホッとさせられるからだ。
 もちろん手応えはズッシリと重いのだが、ハンドル位置や幅が適切。さらに車体全体の剛性感がシッカリしており、細身で非力な筆者でも無理なく扱える。狭い場所での押し引きや傾斜地での取扱は遠慮したいが、エンジンを掛けて走り出せるシーンなら、何の苦労も感じられないのである。

 水冷のVツインエンジンは、排気量が大きい割に回転フィーリングが軽やかに感じられアクセルをひと開けした時のレスポンスと、吹き上がりには良い意味でのスムーズさが備わっている。               
 800~900rpm程で回ってくれるアイドリングの低さやVツインらしい鼓動感も印象的。しかも静かにクラッチをミートする極低速領域からでもトルクは十分に太い。走り始めた瞬間から400kgオーバーの車体を操っている事を忘れてしまえる程、いとも簡単、素直に扱えてしまう。
 軽く両足を投げ出すリラックスした乗車姿勢で走りだすと、スーパースポーツとは次元を異にする優しい乗り味に包まれる。何をするのもゆったりと大らか、そんな悠長なリズム感が良く似合う。
 クラッチを切った時のコースティング(惰性での走り)も大きな慣性力が感じられる。クラッチやシフトワーク一連の操作を瞬時に終わらせようと神経を張りつめる様な感覚は忘れ去る。クラッチを切り、フートボードの上で左足をペダル位置にずらしてゆっくりとシフトアップ。再びクラッチをミートして加速を続けると言う感じ。悠長な動作でコントロールして行く独特の気持ち良さがそこにある。
 当たり前のことだが、加速も減速も旋回も、車体の挙動は緩慢。鋭い身のこなしは期待すべくもないが、逆にゆったりと常に落ち着きはらった安定感の高い乗り味が、ロングクルーザーとしてとても魅力的に思えた。誤解無きよう付け加えておきたいのは、動力性能も旋回性能も、そして減速性能も意外と思えるほど高いレベルにあり、なおかつ軽快と言える確かな扱いやすさがある。
 重量級の豪華ツアラーとしては、峠道を行く様なシーンでも速やかに駆け抜ける事ができてしまうのである。ちなみにバンク角は左右共に31度が確保されている。いずれも程度問題な話ではあるが、郊外の峠越えや高速道路のロングクルージングで不満や、パフォーマンスに不足を感じる様な事はないのである。
 むしろ、しっかりした直進安定性と確かなウインドプロテクションの恩恵に預かりながら旅する心地よさに頬が緩んでくる事は間違いない。
 通常はせいぜい2,000rpm前後、アクティブに走る時でも3,000rpmも回せば十分に、モリモリと元気の良い走りができる。その気になればレッドゾーンが始まる5,000rpmにも難なく飛び込んで行く伸びの良さからは、ショートストロークエンジンとの相性に絶妙なメリットが感じられる。操縦性も含めたトータルな乗り味として言えるのは、俊敏ではないが決して鈍重ではないという点。
 ローギヤでエンジンを5,000rpm回した時のスピードは、メーター読みで58km/h。6速トップギヤで100㎞/hクルージング時のエンジン回転数は2,250rpmだった。
 やはり一番似合う使い方は、それなりの荷物を積み込んで、タンデムで数泊するロングツーリングがお薦め。好きな音楽を聴きながら、絶景のワンシーンを求めて旅をする。そんな贅沢なひとときの演出に相応しいと思えたのである。

足つき性チェック(ライダー身長168cm / 体重52kg)

ご覧の通り、両足は膝にも余裕を持って地面をしっかりと捉えることができる。シート高は672mm。車体は大きく、車両重量は何と400kgを超える。車体の引き起こしは流石にずっしりと重いが、その割に通常の操作感に大きな不安は感じられず、走り始めるとむしろ親しみやすく感じられた。

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著者プロフィール

近田 茂 近影

近田 茂

1953年東京生まれ。1976年日本大学法学部卒業、株式会社三栄書房(現・三栄)に入社しモト・ライダー誌の…