先日お伝えしたヤマハ・シグナスグリファスの208cc仕様は、とんでもない実力を備えるスクーターだった。回転数を問わずどこからでもスロットルのひとひねりで豪快に加速してくれるので、街乗り最強の印象を与えてくれた。またホイールベースを延長して豪華な足回りとしたことで、純正とは比べ物にならないくらい上がった動力性能に対して十分すぎるほどの安定性を備えるフレームにも感心したもの。フルコンaRacer制御によりゼロ発進時にスロットルを全開とすれば電動アシストが働くEブーストまで備えていたので、バッテリー容量の減りを感知して点灯するチェックランプを何度も光らせてしまうほど楽しめた。ただ、シグナスグリファスは発売から1年ほどしか経っていないため、事実上買うなら新車しか選択肢はなく、チューニング費用も車体と同額ほどかかる。う〜む、高い…。根が貧乏性な筆者にはずいぶんと敷居が高く感じられたのも事実。でも待てよ、だったら空冷時代のシグナスXで同じような加速は味わえないだろうか、と考えてしまった。するとタキタモータースの瀧田さんから「これも乗ってみてください」と、こちらの心境を見通したかのようなご提案をいただいた。それがシグナスX2型をDOHC化ccした今回のマシンというわけなのだ。
年式がほどよく古くなったからだろう、確かに2型で絞るとシグナスXの中古車相場はひと桁万円から選べる状況にある。ヤフオク!では最安値1.5万円!というものも見つかったが、実際の相場は安いもので6〜9万円ほどといったところだろう。これだけ安ければチューニング費用を存分にかけられるではないか! 貧乏性の筆者はここで一気にシグナスXのチューニングへ興味を移してしまうのだった。
タキタモータースでご対面した試乗車には、車体前方に設けられたラジエターと、サブフレーム、多数のアルマイトパーツが多投入済み。シグナスXカスタムの本場である台湾スタイルを踏襲したような出立ちですが、カスタム&チューニングパーツがこれほど豊富なことに、改造ペース車としての素材の凄さを感じてしまう。
キーを受け取りエンジンを始動した瞬間から鼓動が高まる。高圧縮化されたチューニングエンジンならではのスロットルレスポンスで応えてくれるのだ。このような出立ちなので当然のごとく排気音もやる気マンマン。なので始めは慎重にスタートしたのだが、ホンの3分も走ればワイドオープンの魅力に負けてしまう。まさに痛快なマシンに仕上がっているのだ!
前回試乗したシグナスグリファスは排気量を208ccにまで拡大していた。それに対して今回のシグナスX2型は空冷124ccだったエンジンを、KOSO製DOHCヘッドによる水冷化と、TTMRCシリンダーで175ccに排気量アップされているのが大きな特徴。エンジン特性の差は主に高回転域での伸びにあると感じた、208ccグリファスが高速域でどこまでも伸びていく感じに対し、今回の2型175cc仕様は高速域での頭打ちが早い。これはあえてオーナーが加速を重視したセッティングにしたためで、用途が街乗り主体のスクーターなのだから最高速より加速を重視するのは当然のことかもしれない。ここで再確認したいのが費用だ。グリファスの速さには新車価格プラス同額程度の費用がかかっている。対して2型ベースであれば車体はひと桁万円で済むからチューニング費用をどれだけ使うかによる。おそらく新車のグリファスを買う予算プラスアルファで済んでしまうのでないだろうか。
エンジン性能のアップに伴い、車体周りも一通り手が加えられている。足回りで言えば、フロントフォークはJOSHO1製藤永モデル+BMF製Z1リヤサスペンションで高負荷領域での安定性を磨いている。もちろん通常走行時には硬めに感じられるのだが、許容できないほどではない。また、DCR製100mmロングエンジンハンガーによりホイールベースは、直進安定性を高める効果を持ち、KN企画製サブフレームは車体剛性の強化に貢献している。排気量アップにともないフロントに剥き出し状態でラジエターを追加しつつ、ステップフロアにオイルクーラーを装備するなど重量的に厳しいはず。ところが走行中に捩れるようなことは一切なく、コーナリング時にも安定した姿勢を保ってくれる。高出力化と重量増はスクーターにとって辛い条件になるはずだが、そんなことは微塵も感じさせない仕上がりに感心してしまった。
チューニングされたスクーターに乗るとスポーツバイクとは違う世界が広がっていることを改めて思い知ることになる。強烈な加速力と小径ホイールによるクイックな操縦性は街乗りで無敵と思わせてくれるほど、思いのままに加速して曲がってくれる。高速域を考えなければ最強の乗り物といっていいだろう。しかもシグナスXはカスタム&チューニングにも長い歴史があるからパーツ選びは無限大。しかも中古パーツも豊富に市場で見つけられる。予算を圧縮して楽しみたいならシグナスX一択とさえ思える。いやはや、楽しかった! オーナーさんとタキタモータースの瀧田さんに改めてお礼をお伝えします。