ホンダCT125ハンターカブ|「かつては不人気車だったのに、どうして新型は爆発的なヒットモデルになれたのか?」を考えた。|1000kmガチ試乗1/3

どんなライダーにもオススメできるし、自分自身でも所有してみたい。質感が高く、日常域が楽しく、悪路に強く、維持費が安く、さまざまなカスタムが楽しめるCT125は、少なくとも筆者にとっては、ほとんどマイナス要素が見当たらないバイクである。

REPORT●中村友彦(NAKAMURA Tomohiko)
PHOTO●富樫秀明(TOGASHI Hideaki)

ホンダCT125ハンターカブ……440.000円

当初のカラーリングはグローイングレッドとマットフレスコブラウンの2色だったが、2022年1月からはオーガニックグリーンが追加された。

スーパーカブシリーズに対する認識の変化

 コロナ禍による生産遅延や今後の排出ガス規制を考慮して、今現在のホンダは受注を停止しているけれど、2021年から発売が始まったCT125ハンターカブ(以下、CT125)は、日本市場で爆発的な人気を獲得している。でもよくよく考えてみると、それはちょっと不思議な事態なのだ。かつての日本におけるCT/ハンターカブシリーズは、間違っても爆発的な人気とは言えない、一部の好事家のみが支持するマニアックなバイクだったのだから。

CT90の日本仕様として、1968年から発売が始まったCT50。ミッションには副変速機を装備。
 
海外では1980年、日本ではその翌年に登場したCT110は、CT125のルーツと言うべきモデル。

 もっとも、1961年型トレール50 C100Tに端を発するCT/ハンターカブシリーズは、主要市場のアメリカやオーストラリア、ニュージーランドなどでは、長きに渡って販売が続くロングセラーモデルになったのである。ただし日本では、1960年代に発売されたハンターカブ55 C105HやCT50は不発に終わったし、1981年にデビューしたCT110はわずか3年で市場から姿を消した。

ヘッドライトを含めた灯火類はすべてLED。旧車好きの場合は、ちょっと抵抗を感じるかもしれない。

 ではどうして、現代のCT125は爆発的な人気モデルになれたのか。その理由としては、キャンプブームやネオクラシックブーム、コロナ禍による2輪需要の増加などもあるようだれど、それ以上に重要なことは、2000年頃から始まったスーパーカブブームが過熱する中で、シリーズ全体が趣味のバイクとして世間に認知されたことだろう(かつてのスーパーカブシリーズは、業務&仕事用のイメージが強く、若者が積極的に乗りたくなるバイクではなかった)。

 もちろん、CT125の出来のよさも爆発的な人気を語るうえでは欠かせない要素である。いや、出来のよさなんていうありがちな表現では言葉足らずか。“市場の要求に応える”、“お客様が期待する姿形と乗り味を実現する”という2輪メーカーの命題を、CT125ほど高いレベルでクリアしたモデルは、昨今ではめったにないのではないかと思う。

ベタ褒めするしかない?

 タイトルに記した通り、当記事は1000kmが公約で、普段は1週間~10日くらいの期間で目標値をクリアしている。ただし今回は、僕が年に数回のペースで行っているハードめのツーリングと同じ使い方で、どんな印象を抱くかを知りたかったので、一泊二日で1000kmを走ることにした。その模様は次回で報告するので、今回は当記事用として広報車を借用する以前の、僕のCT125観を紹介しよう。

 どんなライダーにもオススメできるし、自分自身でも所有してみたい。それが、これまでに他媒体の仕事で何度も試乗したCT125に対する僕の印象である。すでに爆発的な人気を獲得しているモデルをベタ褒めするのは、どうにも面白味に欠ける展開だけれど、質感が高く、日常域が楽しく、悪路に強く、維持費が安く、さまざまな方向性のカスタムが楽しめるCT125は、高速道路を走れない以外は、個人的にはほとんどマイナス要素が見当たらない。

 と言っても、それらの多くはスーパーカブシリーズ全車に通じる資質である。でもCT125には兄弟車とは一線を画する、この機種ならではの魅力が数多く備わっているのだ。

シリーズ屈指の旅力と運動性能

 僕が考えるCT125の第1の魅力は、アイポイントと自由度が高く、身体のどこにも妙な負担がかからない、ゆったりした気分が味わえるライディングポジション。ワイドなハンドルと高めシートのおかげで(全幅/シート高は805/800mm。開発ベースとなったスーパーカブC125は720/780mmで、クロスカブ110は795/784mm)、このバイクに乗っていると旅心が刺激されるのである。

 続いて述べたい第2の魅力は運動性能の高さ。C125用をベースにしてヘッドパイプやスイングアームピボット周辺などを強化したフレーム、上下ブラケットでフォークを支持するフロントサス(他のスーパーカブシリーズは、アンダーブラケットのみでフォークを支持)を採用したCT125は、車体の信頼度が高いから、一般的なモーターサイクル的な感覚でスポーツライディングが楽しめるのだ。

 もちろん悪路走破性の高さも、CT125の魅力を語るうえでは欠かせない要素だろう。ただしこの点に関しては、クロスカブ110も侮りがたい実力を備えていて、車体の小ささと軽さを美点にあげて(軸間距離/装備重量は、CT125:1255mm/120kg、クロスカブ110:1230mm/107kg)、クロスカブ110が優位という人もいる。とはいえ、前述した車体と長めのサスストローク(CT125:110/86mm、クロスカブ110:100/77mm)、低速トルクの太さなどを考えると、僕としてはCT125に分があると感じている。

 また、今回の試乗で僕が改めて感心したのは鼓動感だった。2輪のエンジンで鼓動感が話題になるのは、世間的には350ccあたりから?という気がするものの、その半分以下の排気量にも関わらず、CT125のエンジンは一定のスロットル開度を維持してのまったり巡行が楽しい。125ccと言うと、回してナンボという認識の人が多いかもしれないが、CT125(とC125)にはそういった気配がないのだ。

空冷単気筒エンジンは、タイで販売されているWAVE125がベース。スーパーカブC125とは細部が異なる。

 さらに言うなら、ロングランでの給油回数が少なくて済む容量5.3ℓのガソリンタンク(C125は3.7ℓで、クロスカブ110は4.1ℓ)、抜群の積載能力を誇る巨大なリアキャリア、乗り手の耳に近い位置で快音を聞かせてくれるアップタイプのマフラー、車体の損傷を未然に防ぐエンジン+アンダーガードなども、CT125ならではの魅力だろう。いずれにしてもこのバイクは魅力が満載で、乗れば乗るほど、爆発的な人気を獲得したのは当然のことと思えてくる。

スーパーカブの範疇を超えている

 さて、ここまでは美点ばかりを述べてきたけれど、僕の周囲の同業者や友人知人と話をしてみると、意外なことに、CT125に否定的な人が少なくない。具体的には、車体が大きくて重い、幅が広い、エンジンの振動が多い、価格が高い、などという意見が出てくるのだが、もっと突っ込んで話を聞くと、そういう人は十中八九の確立で、既存のスーパーカブシリーズが大好きで、“あそこまで行っちゃうと、もうスーパーカブじゃない”などと言うのだ。

 確かに、十数年前にスーパーカブ50を愛用していた僕の目から見ても、CT125はスーパーカブの範疇を超えているところがある。まあでも、それは全然悪いことではないと思う。既存のスーパーカブ好きはスタンダードやクロスカブ、C125を購入すればいいのだから。逆に言うなら、スーパーカブらしさに極端に執着しなかったからこそ、CT125は唯一無二の魅力を獲得できたんじゃないだろうか。

フロントフェンダーフラップとエンジンガードのおかげで、ヌタヌタの未舗装路を走っても意外に汚れは少なかった。ツアラーとして考えると、この2つは嬉しい装備だ。

主要諸元

車名:CT125ハンターカブ
型式:2BJ-JA55
全長×全幅×全高:1960mm×805mm×1085mm
軸間距離:1255mm
最低地上高:165mm
シート高:80mm
キャスター/トレール:27°/80mm
エンジン形式:空冷4ストローク単気筒
弁形式:OHC2バルブ
総排気量:124cc
内径×行程:52.4mm×57.9mm
圧縮比:9.3
最高出力:6.5kW(8.8PS)/7000rpm
最大トルク:11N・m(1.1kgf・m)/4500rpm
始動方式:セルフスターター・キック併用式
点火方式:フルトランジスタ点火
潤滑方式:ウェットサンプ
燃料供給方式:フューエルインジェクション
トランスミッション形式:常時噛合式4段リターン
クラッチ形式:湿式多板コイルスプリング
ギヤ・レシオ
 1速:2.500
 2速:1.550
 3速:1.150
 4速:0.9231・2次減速比:3.350・2.785
フレーム形式:バックボーン
懸架方式前:テレスコピック正立式φ27mm
懸架方式後:スイングアーム・ツインショック
タイヤサイズ前後:80/90-17
ブレーキ形式前:油圧式シングルディスク
ブレーキ形式後:油圧式シングルディスク
車両重量:120kg
使用燃料:無鉛レギュラーガソリン
燃料タンク容量:5.3L
乗車定員:2名
燃料消費率国交省届出値:61.0km/L(2名乗車時)
燃料消費率WMTCモード値・クラス1:67.2km/L(1名乗車時)

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著者プロフィール

中村友彦 近影

中村友彦

1996~2003年にバイカーズステーション誌に在籍し、以後はフリーランスとして活動中。1900年代初頭の旧車…