ヤマハセローファイナルエディション|登場から36年。シリーズの集大成から、セローらしさを改めて味わう

ヤマハ・セロー225WEオーナーがセローファイナルエディションを評価する。

ヤマハセローファイナルエディション
二輪二足=両足をペタペタと着きながら、二輪で走っていく。そんな場面は一般道や高速道路ではまずないが、これをキーワードに36年間販売されたモデルがヤマハのオンオフモデル、セロー225/250である。そんな長寿シリーズも、昨今の環境規制への対応から昨年発売のファイナルエディションで生産中止となったが、息の長いセローならではの”らしさ”を、この最終モデルで改めて確認してみたい。

文●阪本一史 写真●山田俊輔

 

ヤマハ・セローファイナルエディション(生産終了モデル)

2020年1月に発売のセロー250ファイナルエディション。新たな排出ガス規制対応として、O2フィードバック制御のFIへの変更とキャニスターが付加された2018年モデルをベースにした特別仕様。
■車体色は原点回帰をテーマに、ホワイト/レッドの新色設定(他にホワイト/グリーンもある)。同時にフレームも各色に合わせた特別仕上げ。XT250X用に準じたLEDテールランプ、ロングタイプリヤフェンダーは2018モデルからの装備。

オフ車乗りの間口を広げた
初のオンオフモデル

実は、筆者も長らくセロー225WE(’01年式)のオーナーだが、同車にはSEROW(日本語ではカモシカの意)の車名のほか、“マウンテントレール”の文字がサイドカバーに入っている。要は獣道のような起伏のある狭い道でも、両足を着きながら進んでいける。そんな状況をも想定してまとめ上げられたモデルなのだ。
 そのコンセプトが示す用途は、当初は一般ユーザーに随分と特殊に受け止められた。実際同車が’85年に登場した頃は今ひとつこの意図が浸透せず、パッとしない売れ行きだったという。XT200の空冷単気筒エンジンをベースに、中途半端な225㏄(実際は223㏄)まで排気量をアップ(現実的にはXT200系エンジンでの、堅実な排気量アップの範囲だったのだろうが)。シート高はXT200より低く、タンクはスリムに車体はコンパクトに。加えてハンドル切れ角は左右51度までと、それまでのオンオフ(デュアルパーパス)モデルよりも大きく取られた。
 ’80年代前半の国内市場には、各社から250フルスケールのオンオフモデルが用意されていたが、「これでは大柄過ぎて持て余す」という声もあり、200㏄のオンオフモデルが出始めていてそれなりの需要もあった。だが、セローの狙いはそれら200㏄モデルとも少々異なっていた。それで、市井のライダーは戸惑ったのである。
 ところが、時代は徐々にセローを受け入れていく。既存の250/200㏄のオンオフモデルより低いシート高によって、バランスの悪い不整地に分け入っていく時、両足を出しながらよちよち進んで行ける。狭い道路で道を間違えて戻りたい時、切れ角の大きなハンドルはUターンしやすい。そして、車重も乾燥で103kg(初期モデル)と負担にならない軽さ。今まで、足(サスペンションストローク)の長いオンオフモデルに乗ることは、ある意味格好よく、相応にテクニックを磨ける走りの教材的な位置付けでもあった。だが、セローはそんな垣根をグンと低くし、ダート走行への間口を広げた。
 肩肘張らない性能とスペック、とでも言おうか。それまで発展期だったバイク業界は、こういうものを美徳としない雰囲気があったし、そうして高性能化へとまい進してきた。しかし、性能競争が底無しでライダーを置き去りにするような雰囲気を、ある時から一般ユーザーは嗅ぎ取ったのかもしれない。オンロードでもレーサーレプリカブームのアンチとしてカワサキ・ゼファーが登場間もなくヒットしたり、ヤマハSRがリバイバルヒットしたのと同じように、オンオフ系モデルでは、セローがそんなアンチ高性能の筆頭として注目され始めたのだ。ちなみに、セロー225が注目を高めたのは、’89年のセル標準装備以降ではないかと思うが(これが、エンスト時など気軽にスタックから脱出できるために必須で、ヒットに繋がったと考える)、奇しくもその年にカワサキ・ゼファー(400)もデビューしている。

最後の排ガス規制対応
2018モデルベースの最終版

 前置きが長くなったが、今回の主役はセロー250ファイナルエディションである。大まかに結論すれば、初代225の登場から30年以上ラインアップされたのは、多少の浮き沈みはあってもコンスタントに売れ続けたからであり、250となってもコンセプトを大きく変えずに存在したからだ。セローには、自分が所有する225WEのほか、在籍したバイク誌編集部時代に、225初期型をはじめ、250初期(キャブ仕様)、250FI仕様にそれぞれ試乗したが、それらの印象も踏まえ、最後の規制対応の改変(’18年〜)が盛り込まれたファイナルエディションを味わってみようと思う。
 セローが250㏄化したのは’05年からだ。フリーライド・プレイバイク」という異色のコンセプトで登場したトリッカーとの同時開発で、新たな車体と新規エンジンで登場したセロー250は、この当時はまだキャブレター仕様。249㏄のフルスケールになったエンジンは最高出力21ps/7500rpm、最大トルク2.1kgm/6500rpmで、出力、トルクとも225時代よりもわずかな上乗せはあったものの、その性能は低中速域を磨き上げることに注力された。その恩恵もあってか、車重が225時代から約10kg増しの115kg(乾燥)となっても、重さを感じたことはない。マスの集中化も十分果たされており、コンパクトで扱いやすいセローらしい性能は、印象を変えることはなかった。
 そして時代の要請(排出ガス規制)に対応して、’08年には燃料供給をキャブレターからFI(フューエルインジェクション)に変更。トルク感の向上などを果たしていると言うものの、最高出力18ps/7500rpm、最大トルク1.9kgm/6500rpmともに少々ダウン。セローらしさを失ったわけではないものの、なぜに225時代よりスペックがダウンしてしまうのかと、年々厳しくなる規制を恨めしく思ったものだ。そして’17年には、排出ガス規制への対応をネックに一旦生産を終了。だが、翌’18年に復活。新たにO2フィードバック制御を付加したFIやキャニスター(燃料蒸発ガスの排出抑制装置)装備で規制に対応したのだ。
 だが、それから約2年後の’20年7月、セロー250はファイナルエディションリリース後、生産を終了すると発表された。理由は差し当たって排出ガス規制ではないものの、ABSブレーキの義務化(新型車は’18年から、継続生産車は’21年10月から)が第一のハードルで、次に灯火類の性能の問題、そしていずれは厳しくなる排出ガス規制などを見据えて決定されたものだ。

225乗りが目をみはる
高レスポンスとトルク感

 ファイナルエディション登場から約1年弱。もはやセロー250自体の生産は終了し、あとは新車の店頭在庫が探せばあるかもしれないという状況だが、久びさに接した250は、やはり変わらぬ馴染みやすさだ。身長173cmの体格だと両足はべったり接地するし、押し歩きなどの取り回しでも軽々としたものだ。自分のセロー225と比較すると、前周り(ハンドル&前輪周辺)が若干大柄になった印象はあるものの、かといって重さがそこに集中しているわけでもない。極低速でのUターンなどでも、全く違和感がない。そして先ほど225とほぼ変わらない数値性能と書いたが、走り出して「こりゃあ、相当違う」と実感した。
 軽いクラッチを握り、225より節度のいいシフトを入れて発進すると、スロットルをさほど開けなくてもスルッと出る。ましてや225と同じように開ければ、おそらく1.5倍増しくらいでエンジンが素早く反応し、車体も1.5倍増しくらいで鋭く前に進む。これなら車重が10kgほど増えたところで気になるはずもない。そして250のキャブレター時代よりも、FI化直後の250よりも、ずっと洗練されてレスポンスがよくなっている印象なのは、気のせいだろうか。
 225㏄からの排気量アップやFIの熟成で磨かれたレスポンスの恩恵は、ここでかなり生きているはずで、一般道でのゴーストップ、ワインディングでの切り返しの軽さと素早さともに、225を上回るものだったことを改めて実感した次第。ただし、この鋭さというかレスポンスの良さ、別に手に負えないものなんかじゃない。そこはあくまで乗り手の操作次第でどうにでもなる柔軟さが根底にあって、まさにセローのある意味本領である、歩くような速さでの悪路通過だって苦もない。車体もエンジンも、乗り手を置いて行ってしまうような手強さ、鋭さではないからだ。
 葛折りのワインディングでも、比較的各ギヤが均等に離れていてワイドレシオの5速ミッションは扱いやすく、各ギヤが気持ちよく仕事をしてくれるし、切り返しは実に自然で軽快。特によくマッチしていると思えるのは、日本的に狭い道幅の砂利道林道(今やどんどん数を減らしているのが残念だが)での素直さだ。ホールドしやすい適度な幅の車体と、負担にならない前周りの素直さ、リヤが流れてもアクセル&ブレーキコントロールで自然と進行方向へ操舵が戻る車体挙動。これも、適度なパワーと適度な車体のボリュームというパッケージのなせるセローならではの特性で、これ以上はパワーもボリュームもいらない、本当にちょうどいいと、走りながら実感すること請け合いだ。
 唯一残念なのは、トップスピードの上乗せが225に比べてもさほどないことだ。セローが250となった時もよく聞かれた意見だが、なぜ250は1速減らしの5段変速になってしまったのか(225は6速)ということが、その要因の一つだ。オーバードライブ的な6速(225はそういう意味合いの6速がある)があれば、排気量増加分のトルクを生かして、225よりもトップスピードを少しは稼ぐ設定にもできたと思うのだ。前述したように、250単体で見れば特に不満のない部分ながら、5速トップで高速を走っている時など、225よりもトルクの余裕を感じて、もう1速かき上げたくなってしまうのだ。
 ファイナルエディションに対してそれを物申しても詮無いことながら、これも次なるセロー的なものの再登場を期待してのこと。セローの例を挙げるまでもなく、ここ数年、新規排出ガス規制がかかるたびに、各社の国内ラインアップは歯抜けのように各排気量各カテゴリーが抜け落ちている。軽二輪のオンオフモデルも同様で、今やここに該当するのは数えるほど。セローが退場すればヤマハの該当カテゴリーのモデルは消滅するし、あとはホンダのCRF250系、カワサキのKLX230が残るのみ。たが、それらモデルもセロー的なコンセプトを受け継いでいるわけではない。
 もし登場するならば水冷化は避けられず、ABS装着も必然となって、重量的な増加は避けにくいだろうが、既存のエンデューロマシンWR250系の水冷エンジンをうまい具合にセロー的チューンに緩めるなどして(否、可能なら新規エンジンと車体がいいに越したことはないが)、軽快かつとっつき安い車体に搭載して後継車に仕立て上げる道を、是非とも模索してもらいたいものだ。

足つき性

■身長173cm 体重73kgのライダーの乗車姿勢。両足接地ではカカトまで着地、オン・オフモデルらしく絞り込まれたスリムな車体でホールドしやすく、着座状態での3点(手、足、尻)関係も自然な印象で、オフロードモデルとしてコンパクトかつ軽快さを感じさせるもの。

ディテール解説

■エキパイ中間部に付くO2フィードバックセンサー、蒸発ガソリンの外気への排出を低減するキャニスター(エンジン左前の黒い箱状の部分)の付加は、2018年モデルに準じた装備。FI化(’08年以降)を含めて空冷エンジンとして生き残るための策だが、ピックアップの良さと自然なレスポンスは、’18年以降の対策でより洗練された印象だ。

■オンオフモデルでは定番のフロント21インチ、リヤ18インチの組合せで、リヤは225WE時代から定番となったチューブレススポークホイールだ。タイヤはBS製トレールウイングTW301(前)、同302を標準装着。

■ダートでの適度な運動性確保のため、快適性だけ重視のシートにできないのは仕方ないところだが、セローはその点ツーリング用途にも振ったシート形状と厚みに配慮している。個人的には300km程度のツーリングにも耐えうる着座感だ。
■’18年のモデルチェンジから採用されたXT250Xと同型のLEDテールレンズと、ロングリヤフェンダー。リヤサイド左右に付くハンドルステンディングは、セローシリーズ共通の特徴的な装備。
■’05年の250化から採用された100㎜径の小ぶりなヘッドライト。その下のスタックバーもセローシリーズの特徴的な部分で、左右のハンドルスタンディングと共に、ぬかるみなどでの脱出時などに有効。
■9.3L容量の燃料タンクは’18年のモデルチェンジから(従来は9.6L)だが、良好な燃費(通常で35km/L前後)により300km前後の航続距離を確保。燃焼効率が良いためだろうが、燃費性能は我が225より若干優れる。
■小ぶりな液晶デジタルメーターは、速度、オド、時計のほか切り替えでツイントリップも表示。操作スイッチは、左がハザード、ヘッドライトハイ・ロー、ウインカー、ホーン。右はセルボタンとキルスイッチ。

セロー250ファイナルエディション 主要諸元

車名・型式 ヤマハ・2BK-DG31J
全長(㎜) 2,100
全幅(㎜) 805
全高(㎜) 1,160
軸距(㎜) 1,360
最低地上高(㎜) 285
シート高(㎜) 830
車両重量(㎏) 133
乗車定員(人) 2
燃料消費率(km/L)
国土交通省届出値:定地燃費値(km/h) 48.4(60)〈2名乗車時〉
WMTCモード値(クラス)38.7(クラス2−1)〈1名乗車時〉
最小回転半径(m)1.9
エンジン型式 G3J9E
エンジン種類 空冷4ストロークOHC2バルブ単気筒
総排気量(㎤) 249
内径×行程(㎜) 74.0×58.0
圧縮比 9.7:1
最高出力(kw[ps]/rpm) 14[20]/7,500
最大トルク(N・m[kgf・m]/rpm) 20[2.1]/6,000
燃料供給装置型式 フューエルインジェクション
始動方式 セルフ式
点火装置型式 TCI(トランジスタ式)
潤滑方式 ウェットサンプ
燃料タンク容量(L) 9.3
クラッチ形式 湿式多板
変速機形式 常時噛合式5段リターン
変速比
 1速 2.846
 2速 1.812
 3速 1.318
 4速 1.035
 5速 0.821
減速比(1次/2次) 3.083/3.200
キャスター角(度) 26°40′
トレール量(㎜) 105
タイヤ
 前 2.75-21 45P
 後 120/80−18M/C 62P
ブレーキ形式
 前 油圧式ディスク
 後 油圧式ディスク
懸架方式
 前 テレスコピック式(正立サス)
 後 スイングアーム式
フレーム形式 セミダブルクレードル
車体色 パープリッシュホワイトソリッド1(ホワイト/グリーン)、パープリッシュホワイトソリッド1(ホワイト/レッド)
車両価格(円・税込)58万8,500〈本体価格53万5,000〉


著者プロフィール

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阪本 一史