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アプリリア・RS660…….1,452,000円
2021シーズンのMotoGPでは2017年にスズキからアプリリアに移籍したA.エスパルガロが大活躍。第12戦イギリスGPでは同社にとって21年振りの3位入賞。彼はランキング8位でシーズンを終えた。トップグループに顔を出す存在として頭角を現し、侮れないポテンシャルの高さを発揮する健闘ぶりは多くの話題を呼び、注目を集めたのである。
同社は世界スーパーバイク選手権で輝かしい戦績を残している事でも知られているが、RSV4 1100 FACTORYを筆頭に、現在リリースされているフルラインナップは、新規投入のTUAREG 660(アドベンチャー系)とSR GT(スクーター)も含めてどれもスポーツ性の高い8機種が揃えられている。
ピアッジオグループジャパンの広報発表(1月13日)によると、新機種を除く既存6機種の価格が2022年2月1日から改定される。RS660については本体価格で5万円値上げされて消費税込み1,452,000円となる。
さて同車は新時代のライトウェイト・ミドルスポーツとして投入されたスーパースポーツモデル。かつてはレーサーレプリカと呼ばれたジャンルのエキサイティングなスタイルと内容を備えているのが特徴である。
ステアリングヘッドからリヤアクスルまで斜めに直線的なラインを描くフレームとスイングアームは軽量なアルミニウム製。
参考のため、卓越した完成度を披露するホンダCBR600RRと比較すると、タイヤサイズとホイールベース、そしてシート高はほぼ共通である。少し異なるのは、全幅がCBRより60mmワイド。しかし全長は35mm短く、コンパクトな仕上がりを披露。
そして何よりも見逃せないのが、搭載エンジンと車両重量にある。ご存知の通りCBRは高回転高出力を追求した直列4気筒エンジンを採用。一方RS660は直列2気筒エンジンを載せている。結果的に車重は装備重量で183kg、乾燥重量で169kg。CBR600RRより11kgも軽く仕上げられているのである。
2種類のアルミ鋳造部品を接合して、コンパクト軽量に仕上げられたダブルビーム式フレームには、水冷DOHC右サイドカムチェーン方式4バルブに270度クランクを持つ2気筒のパワーユニットをリジッドマウント。特に珍しい方式ではないが、エンジン自体も車体剛性メンバーに加える合理的なデザインが施されている。
ボア・ストロークは81×63.93mmと言うショートストロークタイプの659cc。13.5対1のハイコンプレッションを得て、10,500rpmで100HP(73.5kW)の最高出力を稼ぎ出す。
よりショートストロークな4気筒エンジンのCBRは599ccながら121ps(89kW)/14,000rpmを発揮。しかし最大トルクでは排気量の優位性もあって、RSがCBR を凌ぐ。CBRのトルクデータは64Nm/11,500rpm。659ccのRSは67Nmを8,500rpmで発揮。しかも注目すべきは、4,000rpmで最大トルクの80%、つまり約54Nmを発生するワイドなトルクバンドを誇っている。
絶対的には優位を誇れるであろうCBRのハイパフォーマンスは、高回転で稼ぎ出されるタイプであるのに対して、RSの出力特性は中速域から太く頼り甲斐のあるトルクの発揮が期待できるのである。
吸気系システムの燃料噴射には電子スロットル方式を採用。統合的な電子制御系技術はレース用に開発されて、そこで培われたノウハウをベースにストリート用に調教された高度なシステムが投入されている。
APRC(アプリリア・パフォーマンス・ライド・コントロール)と呼ばれる最新鋭の制御技術で、6軸のIMU(慣性計測装置)を搭載。加速度やジャイロ(角速度センサー)のデータを元に動的なバイクの状態を把握し、失敗を防ぐ安定方向への駆動調整等、様々な統合制御を実現する。
例えばパワーの掛け過ぎによるスリップダウンを防ぐトラクションコントロールや、ウィリー制御、パワー特性の変更、エンジンブレーキの効き具合も調節可能。その他コーナリングABS、コーナリングランプ、クイックシフター等、機能は多岐に及ぶ最先端の電子制御デバイスが搭載されているのである。
意外なのはクルーズコントロールシステムも標準装備。ライダーをスロットル操作から開放する快適性まで備えられたのは珍しい。RS660はまさにアプリリアが誇る意欲作、最新鋭のミドルクラス・スーパースポーツと言えるのだ。
跨った瞬間、マッシブでパワフルなイメージ!
フルフェアリングのスーパースポーツ・フォルムを目前にすると、その躍動感からか、実にアグレッシブな印象を受ける。前後のホイールカラーを統一せず、シートを前後でツートーンにしたカラーデザインも個性的。国産車とはセンスに違いがある事に気付かされた。
コンパクトなスクリーンに目つきの細いヘッドランプとセパレートされたエアダクトをマッチしたフロントカウル。タンクシートも含め、エッジの利いたキャラクターラインもなかなかスタイリッシュ。
ミドルサイズのモデルとして、サイズ的にコンパクトだが、タンクデザイン等、全体的な塊感にはそれなりのボリュームがあり、如何にも走りそうな逞しさが感じられた。
一見、右出し1本タイプに見えたマフラーのテールエンドは左右にセパレートされた非対称デザイン。左側は後輪の直前に排気口がある。三角断面の右側も、車体からのはみ出しを最小に止め、深いバンク角も確保した巧妙なエアロデザインで仕上げられている。
シートに跨がった瞬間、少々腰高に感じられるが、それは如何にもスポーティ。ただ、CBR600RRと比較すると、バックステップの位置はいくらか低く、ハンドル位置もまた少し高めに感じられた。
サーキットでの戦闘態勢と直結する感覚のCBRよりは、僅差ながらもRSはストリートユース寄りのライディングポジションに設定されている。ただ、前述のスタイリング・イメージからか、あるいは歯切れの良い太い排気音からなのか、サーキットでなくても、どこか気分はワクワクとエキサイティングな要素が感じられるのである。
ビッグボア、2気筒、高圧縮比のエンジンらしく、スロットルを開けると、スタタタタッと、そのダッシュ力は如何にも力強い。
発進直後から、また市街地でもスロットルレスポンスはなかなかのパンチ力があり、かつ柔軟な出力特性が発揮されて、どんな場面でも扱いやすいく、パワーバンドをキープする気遣いは不要である。
エンジンの回転フィーリングは、どこか粗削りに感じられ、4気筒の様なスムーズさは無いが、メリハリが利いて歯切れ良く吹け上がり、そのポテッシャルは高いレベルにある。ライディングモードでレースモードを選択して右手をワイドオープンすると、8,000rpmから特に強烈な吹き上がりを発揮し、その動力性能は侮れない。コーナー立ち上がり早々に、グイグイと前に出ようとする走りっぷりは、実に元気が良く、若々しく快活な乗り味が好印象。
全モードをチェックするには至らなかったが、ライディングモードは5段階、エンジンブレーキは3段階に調節できる他、ウィリー制御やトラクションコントロールも調節可能だ。
車体は剛性感が高く、前後サスペンションも硬めなセッティングだが、ブレーキング能力も含め、サーキット等の高負荷でも十分に適応できるしっかり感がある。
市街地ではゴツゴツとした乗り味だが、前後サスペンション共に、初期の作動性が良く衝撃はかなり巧みに吸収されていた。
この手のバイクとしては、ステアリングの切れ角が小さ過ぎることはなく、小回りUターンも比較的楽に決められる。
また峠道では、タイトコーナーでステアリングの切れ込みが微妙にあって、マシンが立つ傾向が感じられる場面もあったが、直ぐに慣れる範囲だし、あまり車体のバンクに頼らずに旋回力を高める乗り方もできるようになるだろう。右へ左へS字コーナーの連続でも軽快に身を翻し、なかなか鋭い旋回性を発揮してくれたのも印象深い。
ABSも高度な電子制御が介入してくれるもので、コーナリング中のブレーキ操作も安心感は高い。またそれ以前に装着タイヤのピレリ製ディアブロロッソは、ウェット路面でもなかなかのグリップ性能を発揮。市外地から郊外のまで、安心感の伴うスポーティな走りが楽しめたのである。
例によってローギヤでエンジンを5,000rpm回した時の速度は44km/h。トップ50km/hクルージング時のエンジン回転数は2,200rpm(100km/h換算で4,400rpm)だった。
乗り味として4気筒と2気筒の違いは大きいが、総合的な仕上がり具合は、CBR600RRと同650Rの中間に位置し、実用性においては650Rに近く、キャラクターとポテンシャルは600RRに迫るものがあると思えたのが正直な感想である。
足つき性チェック(ライダー身長168cm / 52kg)
低いハンドル位置とバックステップにやや腰高なライディングポジションはいかにもレーシーな雰囲気。シート高は820mm、ご覧の通り両足の踵は浮いてしまうが、バイクの支えやすさに難はない。