VINS Duecinquanta(ヴィンス・ドゥエチンクアンタ)は、ストリート用に開発された2ストロークスポーツバイクだ。独創的な発想を高度な設計・製造技術で形にしたモデルである。注目すべき要素は多いが、多くのライダーが最も関心を寄せるのはエンジンだろう。2ストロークエンジンは排出ガス規制の強化とともに、公道用スポーツモデルからほぼ姿を消した。ところがDuecinquantaは、GP250レーサーを想起させる249.5ccのVツインを搭載し、最新仕様では83HPを発揮する。VINSは、どのような技術によって現代の排出ガス規制への適合と、この高出力を両立させたのだろう。

Rotax 258を研究し、白紙から設計した90度Vツイン

VINS製エンジンの総排気量は249.5cc。ボア×ストロークは54.0×54.5mmで、2本のシリンダーを90度に配置した水冷2ストロークV型2気筒である。1990年代の国産250ccレーサーレプリカを連想するかもしれないが、構成は根本的に異なる。国産レーサーレプリカのVツインが基本的に1本のクランクシャフトを2気筒で共有するのに対し、VINSは各シリンダーに1本ずつ、合計2本のクランクシャフトを備え、2本はギヤで連結され、互いに逆方向へ回転する。

シリンダーは車体前方に向けて上下に取り付けられている。つまりイメージ的には「V」ではなく「く」の字型だ。前輪の荷重を高め、前後長を短く設定することが可能になる。また2気筒のチャンバーのデザインを近づけけやすいなど、様々なメリットがある配置だ。

両ピストンは同位相で作動し、燃焼は同時爆発となる。90度に開いた2気筒の一次往復慣性力は、互いに反対方向へ向かう成分が打ち消され、残った力がV字の中央方向へ合成される。逆回転する2本のクランクウェイトは、この力と反対向きの合力を発生させるように設定されており、両者を釣り合わせることで一次慣性力を理論上相殺する。さらに、2本のクランクと両シリンダーをオフセットさせていないことから力の作用する位置のずれによってエンジンを左右に揺さぶる動きも理論上生じない。バランサーシャフトを追加せずに一次振動を抑えられるため、軽量化とフリクション低減にも有利な構成となる。

発想の出発点となったのは、アプリリアの250ccGPレーサーに搭載されたことで知られるRotax 258である。1990年代のGP250で高い戦闘力を示した、90度V型2気筒・2軸逆回転クランクのレーシングエンジンだ。VINSはそのレイアウトと設計思想を研究したうえで、クランクケースやトランスミッションを含むエンジン全体を独自に設計した。初期仕様では、スロットルボディを含むエンジン重量が28kgと公表されている。

専用クランクケースには、2本のクランクシャフト、一次減速ギヤ、クラッチ、6速トランスミッションをコンパクトに集約する。トランスミッションはカセット式で、エンジンを車体から降ろしたりクランクケースを分割したりせず、ギヤセットを側面から引き抜ける。サーキットに合わせてギヤ比を変更するレーシングエンジンで広く用いられる構造だ。

今回試乗した車両には、ヤマハYZ125用をベースとするシリンダーが使われている。ポートタイミングはYZ125を基本とする一方、VINS独自の冷却設計に合わせてシリンダー内部を加工し、専用スリーブを組み込む。これは英国Langen向けに供給したエンジンと同系統の仕様だが、量産仕様ではVINSが独自設計した専用シリンダーを採用する予定だという。ピストンは試乗車のVortex製からコスワース製へ変更されるが、いずれもVINSが設計し、製造を各社へ委託する。

排気側には、サーボモーターで作動する電子制御パワーバルブを備える。低中回転域では実質的な排気タイミングを遅らせ、高回転域では排気ポートを大きく開いて出力を伸ばす仕組みだ。試乗車はYZ125用シリンダーを使うため排気バルブもヤマハYPVSを採用するが、量産仕様ではホンダRCバルブに近い形状の専用排気バルブへ変更される予定となっている。

日本に上陸したテスト車に使われているピストンはピストンはVortex製。量産車ではコスワース製へ変更され、薄型のダブルリング仕様として、シール性、熱安定性、耐久性のバランスを見直している。ライナーにはMMC(メタル・マトリックス・コンポジット)系材料を採用して高い耐久性と冷却性を実現している。

 

ミッションはカセット式。エンジンを搭載したまま、クランクケースを分解することなくミッションの交換が可能になっている。

リードケージにインジェクターを組み込む独自の燃料噴射

高出力と排出ガス規制への適合を両立させる鍵のひとつが、燃料供給と潤滑の電子制御である。Rotax 258がロータリーディスクバルブ吸気を採用していたのに対し、VINSはクランクケースリードバルブと電子制御燃料噴射を組み合わせた。インジェクターはリードケージの支持体中央に組み込まれ、ノズルをリード板より下流側のクランクケースへ向けている。燃焼室内へ直接燃料を噴射する筒内直噴ではなく、クランクケース内へ噴射する方式である。

リード板の開閉とは独立して燃料をクランクケースへ導入し、運転条件に応じた噴射時期と噴射量の制御自由度を高められることに加え、リードを通過する空気流とクランクケース内の流れを利用し、燃料の霧化と混合を促進する。

吸入空気量の制御にはギロチン式スライドバルブを使う。バタフライバルブのように軸が吸気通路内へ残らないため、全開時の通路抵抗を小さくできる。最新の量産仕様ではリードバルブを大型化し、スロットルボディの開口部形状も真円から楕円へ変更。高回転域の吸気効率を見直す予定だ。VINSは、リードバルブと燃料噴射を一体化したこの構成について特許を取得している。

潤滑は、ECMが運転状態に応じて供給量を変える電子制御分離給油式となる。燃料に対するオイル供給率を0.2~2.5%の範囲で制御し、低負荷時には過剰な供給を抑え、全負荷時には潤滑に必要な量を確保する考え方だ。2ストロークは一般に燃焼温度が比較的低く、NOx(窒素酸化物)を抑えやすい一方、掃気時の未燃焼混合気や潤滑油の燃焼によってHC(炭化水素)が増えやすい。VINSは燃料とは別にオイル供給量を細かく管理し、必要な潤滑性能を確保しながら過剰供給を抑えることで、排出ガス対策を行っているのである。

オイル管理の精度が重要になるため、指定銘柄にはイタリアのPAKELO(パケロ)を採用する。さらにオイルはラジエーター部で温度管理され、温度による粘度変化を抑えながら、供給条件の安定化を図っている。

制御の中核となるECMには、米国Performance Electronics(PE)製を採用する。PEはスノーモービルやパーソナルウォータークラフトを含め、2ストロークエンジンの制御経験が豊富なメーカーである。燃料噴射、点火、電子制御排気バルブ、分離給油のマップは、VINSが車両に合わせて開発した。これらの制御によってEuro 5認証を取得し、Euro 5+についてもセンサー類を追加することで対応可能としている。

モータリストの野口英康社長によれば、今回の仕様はキャタライザーなどの排出ガス後処理装置に頼らず、燃料、点火、排気バルブ、オイル供給を総合的に制御して規制へ適合させているという。ただし、これは2ストロークが排出ガス規制に有利だという意味ではない。VINSが独自に蓄積したノウハウをもとに、数多くの技術的課題を一つずつ解決してきた結果である。

Langenへの100基供給が量産仕様を鍛えた

VINSのエンジンに早い段階から注目したのが、英国Langen Technologyを率いるクリストファー・ラトクリフである。ラトクリフはVINSへエンジンの供給を依頼し、100基を先行発注した。そのエンジンを独自のアルミパイプ製フレームへ搭載し、100台限定の「Langen Two Stroke」を開発した。

Langen Two Strokeは英国で販売され、日本にも輸入された。一方、VINSはLangen向けエンジンの製造と供給を優先したため、Duecinquantaの生産開始には遅れが生じた。2025年にLangen向け100基の供給を完了し、VINSはDuecinquantaの製作へ本格的に戻ることができた。

ただし、その間も開発が止まっていたわけではない。創業者のヴィンチェンツォ・マッティアは、予約ユーザーへ当初の仕様をそのまま納めるのではなく、Langen向けエンジンの製造で得た情報を反映した最新仕様を考えたのである。

最高出力を83HPへ引き上げた最新仕様

2022年の日本導入発表時、Duecinquanta Stradaの最高出力は75HP/11,700rpm、最大トルクは45Nm/11,700rpmとされていた。その後も開発は続けられ、最新の量産仕様では最高出力を83HP/11,700rpmまで引き上げている。

エンジン主要諸元

主要諸元
エンジン形式 水冷2スト90度Vツイン、2軸クランク、360度同時爆発
総排気量  249.5cc
ボア×ストローク 54.0×54.5mm
吸気方式 クランクケースリードバルブ、ギロチン式スロットル
燃料供給 電子制御燃料噴射
排気制御 サーボ作動式電子制御パワーバルブ
潤滑 電子制御分離給油、PAKELO指定、0.2〜2.5%
ECM  Performance Electronics製/VINS独自マップ
最高出力 83HP/11,700rpm
最大トルク 未公表(初期75HP仕様:45Nm/11,700rpm)
変速機 カセット式6速リターン
排出ガス認証 EURO5