ついに日本へ上陸したイタリアのVINS Duecinquanta(ヴィンス・ドゥエチンクアンタ)。Euro 5の排出ガス規制へ適合しながら80HPを超える最高出力を発揮する2ストロークエンジンが注目を集めているが、車体にも独創的な発想と最新技術が惜しみなく投入されている。カーボンモノコックから、リンク式の前後サスペンションまで、その構造を詳しく見ていくことにしよう。
複数の機能を一体化したカーボンモノコック
一般的なスポーツバイクでは、アルミやスチール製のフレームがエンジンと前後足回りを結び、その周囲に燃料タンク、エアボックス、シートレール、外装などを配置する。ところがDuecinquantaには、パイプやアルミ鋳造材で構成された一般的なフレームが存在しない。車体の主骨格を担うのは、カーボンファイバー製のモノコックボディである。
フロントサスペンション、エンジン、スイングアームピボット、シート支持部などは、一体成形されたカーボンシェルへ直接取り付けられる(フロントセクションやスイングアームピボットなど大きな力がかかる部分には金属部品を組み合わせている)。各部から入力される荷重を、太い梁やパイプによって局所的に受けるのではなく、モノコック全体へ分散して支える考え方だ。さらに、車体のデザイン、吸気系、冷却系の役割まで持たせることで、従来は別々だった複数の部品と機能をひとつの構造へ統合している。
モノコック上部には、吸気と冷却に用いる通路がある。前面のエアダクトから導入した走行風を内部へ導き、モノコック内に配置した小型ラジエーターを冷却する仕組みだ。VINSによれば、効率よく走行風を利用できるため、ラジエーター本体は125ccクラスに相当する小型サイズに抑えられているという。
カーボンコンポジットは、繊維方向には非常に高い強度と剛性を持つ一方、積層方向荷重に対しては慎重な設計が必要となる。どの方向へ繊維を向け、何層を重ね、どの順序で積層し、どこをどのように補強するかによって、完成したホディの性能が大きく変わる。
VINSはSmartCAEの協力を得て、FEM((コンピューター上で部品に力を加え、どこに変形や負担が集中するかを調べる方法))によるねじり、曲げなど応力の解析を実施した。その結果をもとに、使用する繊維の種類、繊維方向、積層順序、重ね幅、補強位置などをまとめた「プライブック」を作成している。これは、カーボン部材を再現性高く製造するための設計図に相当するものだ。
さらに、複雑な三次元形状へプリプレグ(あらかじめ樹脂を染み込ませた成形材料)を貼り込む際、しわや繊維のずれ、過度な伸びがどこに発生するかを確認するドレーピング解析も行った。設計上の強度が十分でも、狙った繊維方向と積層状態を製造工程で再現できなければ、少量生産車であっても品質は安定しない。解析は軽量化だけでなく、製品ごとのばらつきを抑えるためにも使われている。
VINSが公表した開発記録では、初期試作のモノコック重量は16.1kgだった。積層、形状、金属製の接合部を見直した量産設計では9.5kgまで軽量化し、試作比で41%の重量を削減しながら、ねじり剛性を47%向上させたとしている。製作に要する日数も8日から4日へ短縮された。単純にカーボンを薄くしたのではなく、必要な位置へ必要な方向の繊維を配置し、荷重を負担しない材料を減らした結果である。


モノコックはVINS社内の大型オートクレーブを使い、専用に選定した繊維と樹脂を組み合わせて成形される。
操舵とストロークを分離したホサック式フロント
フロントサスペンションは、英国のエンジニア、ノーマン・ホサックが考案した機構をVINS独自の形へ発展させたものだ。上下のAアームが前輪支持体の動きを案内し、車体側に配置したモノショックがばねと減衰を受け持つ。BMWのデュオレバーも同じホサック系の考え方を採るが、Duecinquantaでは前輪を保持するフォーク/アップライトをカーボンで一体成形し、Aアームと操舵ステアリングのリンクも専用設計としている。
一般的なテレスコピックフォークは、操舵、サスペンションストローク、ブレーキ荷重の支持を同じフォークチューブが担当する。制動時にフォークが沈み込むと、キャスター角、トレール、ホイールベース、車高が連動して変化してしまい、ブレーキによる曲げ荷重がフォークへ加わると、インナーチューブとアウターチューブの摺動抵抗が増える場合もある。
ホサック式では、前輪の上下運動をAアームで案内し、ハンドル操作は別系統のリンクで前輪支持体へ伝える。操舵とサスペンションの機能を分離できることが、テレスコピックフォークとの大きな違いだ。ブレーキ荷重は主に上下Aアームとモノコック側の支持部へ伝わり、ショックユニットはリンクを介して、ばねと減衰の機能を担う。
Aアームの長さと支点位置を変えることで、キャスター角とトレールの変化、アンチダイブ特性を個別に設定できる。自由度が高い一方、リンク剛性、レバー比、Aアームまわりの剛性、ショックのレバー比など、多くの要素をバランスさせなければならない。VINSは、テレスコピックフォークに慣れたライダーが違和感を覚えにくい特性を狙い、制動時の姿勢変化を抑えながら、強いブレーキを安心して使えるよう作り込んだとしている。
前輪を保持するフォークは、カーボンで一体成形したモノリシック構造となる。部品点数を減らしながら、操舵や制動によって加わるねじり荷重に必要な剛性を確保する狙いだ。ショックユニットは車体側のカウル内へ収められるため、前輪とともに上下するばね下質量を減らしやすく、ダンパーを飛び石や外気の影響から保護できる。
上下のAアームはA7075アルミ合金の切削品で、FEM解析によって肉抜き形状を最適化した。必要な剛性を確保しながら、開発資料値で1本282gまで軽量化している。フロントのモノショックはイタリアのMUPO製で、スプリングプリロード、伸び側減衰、圧側減衰などの調整機構を備える。
リンク式フロントサスペンションをストリートバイクへ採用する際、課題となりやすいのがハンドル切れ角と低速時の操作力だ。VINSは操舵リンクとフォーク形状を見直し、開発資料では左右各30度の切れ角を確保するとしている。量産仕様では細部を見直し、ハンドルの切れ角を増やすなど取り回しを改善する予定だ。
横置きショックを左右から作動させるリアサスペンション
リアサスペンションは、カーボンファイバー製スイングアーム、平行に配置した左右2本のプッシュロッド、横置きのMUPO製モノショックで構成される。スイングアームが上下すると、左右のプッシュロッドがそれぞれのロッカーを回転させ、横向きに置かれたショックユニットを両端から圧縮する。VINSはこの作動方式を「ダブルアクチュエーション」と呼ぶ。
ショックを車体中央へ横向きに配置した大きな理由は、2ストロークエンジン特有の排気系と両立させるためのパッケージングだった。高出力を狙うチャンバーは、膨張室の形状と管長が重要で、できる限りストレートにデザインしたい。一般的な縦置きリアショックでは上バンク側のチャンバーと干渉するので無理な髷となってしまうが、ショックを横置きにすることで、排気管を通す空間を確保できた。
左右2本のプッシュロッドでショックを作動させる構造は、入力をモノコックの左右へ分散しやすい。車体後部へ大きなショック取付部を取り付ける必要もなく、シートレール周辺も軽く、コンパクトにすることができる。排気系の自由度を確保すると同時に、車体後部を低く、軽くまとめるための設計でもある。
スイングアームもカーボンコンポジット製となる。SmartCAEによって曲げ、ねじり、局部荷重を解析し、必要な強度と剛性を残しながら積層構成を最適化した。開発資料では、再設計によって曲げ剛性を10%高めたとしている。モノコック、フロントの前輪支持体、スイングアームまで、荷重を受ける主要構造をカーボンでまとめている点は、Duecinquantaの大きな特徴だ。
カーボンモノコック、ホサック式フロントサスペンション、横置きプッシュロッド式リアサスペンションは、ひとつの車体パッケージとして成立させるため、互いに関連づけて設計されたものだ。少量生産メーカーならではの高い設計自由度と、コンポジット成形・機械加工の能力があってこそ実現できた車体である。
ジョン・ブリッテンへの敬意を込めた一台
日本へ導入されたDuecinquantaのブルーとピンクを組み合わせたカラーリングは、ニュージーランドの技術者ジョン・ブリッテンが製作したBritten V1000へのオマージュである。ブリッテンはエンジンとシャシーを自ら設計し、既存メーカーの常識に頼らない独創的なレーシングマシンを完成させ、世界へ大きな衝撃を与えた。
VINSもまた、エンジン、カーボンモノコック、前後サスペンション、冷却システム、外装までを、ひとつの思想のもとで設計している。小さな技術者集団が、自分たちの信じる方法でオートバイを作り上げる。その姿勢そのものに、ブリッテンへの敬意が込められている。
Duecinquanta Competizioneには以前からBritten V1000を意識したカラーが設定されており、VINS創業者のヴィンチェンツォ・マッティアも、ジョン・ブリッテンから強い影響を受けたことを公言している。
筆者ゴトーも長く2ストロークバイクに魅了され、専門誌の制作に携わってきた。1990年代にはジョン・ブリッテンへの憧れから、ニュージーランドの工房を訪ねた経験もある。そんな筆者にとってDuecinquantaは、単に高性能な2ストローク車というだけはない。技術者の情熱と独創性が結実したことによって、強く心を動かされる存在となっている。
車体・足回り主要諸元
フレーム 構造用カーボンファイバー製モノコック。シート支持部、前部ノード、吸気・冷却系のパッケージを統合
キャスター角 23度、調整機構付き
ホイールベース 1,380mm
フロントサスペンション ダブルAアーム式。カーボン製モノリシック・フォーク/アップライト、MUPO製モノショック
フロントAアーム A7075アルミ切削、開発資料値282g/本
ステアリング切れ角 開発資料値:左右各30度
リアサスペンション 平行ダブル・プッシュロッド式、横置きMUPO製モノショック、カーボン製スイングアーム
フロントブレーキ 300mmダブルディスク、ラジアルマウントキャリパー
リアブレーキ 220mmシングルディスク
タイヤ 120/70-17(F)、150/60-17(R)
乾燥重量 105kg(Strada)/102kg(Competizione)※公表仕様
モノコック開発値 試作16.1kgから量産設計9.5kgへ。重量41%減、ねじり剛性47%向上
スイングアーム開発値 再設計により曲げ剛性10%向上














