幻覚の狭間に浮かび上がるキャディラックやダッジなどの60年代高級車

『ドラッグストア・カウボーイ』は、アカデミー賞やカンヌ国際映画祭で多くの受賞&ノミネートを果たしてきたガス・ヴァン・サント監督の初期代表作。現在劇場公開中のデジタルリマスター版では、犯罪と逃亡を繰り返す主人公たちの生活から切り離せない、さまざまな車たちの登場シーンも見逃せません。
ドラッグを手に入れるために薬局を白昼堂々と荒らし、ハイになってはその日暮らしをするボブ(マット・ディロン)と妻ダイアン(ケリー・リンチ)、仲間のリック(ジェームズ・レグロス)と恋人ナディーン(ヘザー・グラハム)。犯罪のスリルとドラッグによる快感に身を委ねていた彼らでしたが、やがてその関係に亀裂が入ると次第に歯車が狂い始め……。

物語は1971年の米オレゴン州ポートランドから始まります。手際よく強盗を終えたボブたちが乗るのは1965年式のキャデラック・フリートウッド60スペシャル。ホイールベースが長く前列に3人が乗れる広々とした高級車ですが、そのくすんだモスグリーンの車体は退廃的な彼らのライフスタイルに違和感なく溶け込んでいます。
序盤に登場するパトカーは、ゴテっとしたフロントグリルがクールな1963年式のダッジ330。チラリと映り込む牛乳配達のバンは、1930〜1950年代に製造されていた商用車グラマン・オルソンのカーブサイド。そして1965年式のインターナショナル・ハーベスターのトラックはタイトな車幅と淡い緑色のボディが美しく、ボブたちの泥くさい“シゴト”のための車としてはミスマッチなほどクールです。
また、病院を襲う計画に使われるのは1967年式のフォード・ギャラクシー500と、1970年式のプリムス・フューリー III。警備を撹乱するための贅沢な使い捨てっぷりなのですが、どちらも淡いブルーグレー系の車体が夜の闇に浮かび上がります。というのも、本作のカラーパレットは薄い青や緑、深い黒で構成されていて、登場する車がかなり重要な役割を果たしているのです。
慌ただしい泥棒家業とドラッグによる混濁、クリーンな生活への切望――映像の色合いが明確に変わるのは、あのウィリアム・S・バロウズが神父役で登場するあたりから。墨を落としたような黒色は地に足をつけようという心境の表れのようにも見えますが、私たち観客が目にする最後の車は、いかにも幻覚に現れそうな青色の70年代キャデラック・アンビュランスで……。
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