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オンロードとオフロードの両方で走りが楽しい
アドベンチャーバイクとは、オフロードバイクのテイストを受け継ぎつつも、長距離ツーリングでも快適かつ利便性が高い装備を持つモデルのことだ。荒れた悪路でも高い走破性を持ちつつも、高速道路などでの高速クルーズも安定感が抜群。オンロードとオフロードの両方をこなせる走りが魅力だ。
スタイル的な近年のトレンドは、ウインドプロテクション(防風性能)性能が高いフロントスクリーンの装備や、バーハンドルなどによる、アップライトで長時間の走りでも疲れにくいポジションなど。
また、大容量の燃料タンクなどで長い航続距離を実現するマシンも多く、ロングストロークタイプのサスペンションなどにより、オフロード走行でも高い安定性を持つ。モデルによっては、悪路走行時にエンジン下部へ飛び石などがヒットした際のダメージを軽減する、スキッドプレートなどを装備する車種もある。
さらに、荷物が載せやすく安定するフラットで広い形状のリヤシートも採用。リヤキャリアを標準装備するモデルもあるほか、オプションに専用のパニアケースなどを用意するなどで、長旅やアウトドアのキャンプなどにも対応する積載性の高さも兼ね備える。
ほかにも、タイヤの空転などを抑えるトラクションコントロールや、安定した制動性能を発揮するABSなど、最新の電子制御システムを採用するモデルも多い。
特に、大排気量のプレミアムなモデルでは、オンロードやオフロード、荷物積載時のクルージングなど、走行状況に応じて最適な特性が選べるライディングモードを装備するなどで、より快適で、安定感の高い走りを堪能できる仕様も用意されている。
アドベンチャーバイクのルーツは?
アドベンチャーバイクの代表格といえば、国内モデルであればホンダの「CRF1000Lアフリカツイン」シリーズや、ヤマハの「テネレ700」だろう。いずれも、1980年代から続くロングセラーモデルだ。
各モデルの初代は、ヤマハの「XT600テネレ」が1983年、ホンダの「アフリカツイン」が1988年に発売。テネレが600cc、アフリカツインが750ccと、どちらも大排気量の2気筒エンジンを搭載し、悪路をものともしないトルクフルな走りなどが魅力だった。
これらは、どちらも、当時大きな人気を博していた「パリ-ダカールラリー(現在のダカールラリー)」に参戦し、大活躍したホンダやヤマハのワークスマシンをベースとするレプリカモデルとして登場したことが共通点だ。
1978年から開催されている「ラリーレイド」とよばれる競技のひとつが、パリ-ダカールラリー。砂漠や泥濘地、山岳地帯など、あらゆる路面をバイクやクルマで走破することで、「世界一過酷なイベント」として知られている。毎回、年末から年始にかけて2週間以上行われ、猛暑の中で1日の走行距離が800kmを超えるときもあるほどハード。
ライダーやドライバーの体力はもちろん、車両にはさまざまな悪路に対応する幅広い走破性、長距離走行でも壊れない高い耐久性などが求められる。そして、そうした過酷な競技で培った技術を市販車に投入したのが、アフリカツインやテネレなのだ。
これらモデルがアドベンチャー(冒険)バイクと呼ばれるのは、そうした「世界一過酷なラリー」という、ある意味「冒険」ともいえる競技で鍛えられたワークスマシンたちの技術などがバックグラウンドにあるため。オン・オフ問わない高い走破性や長距離ツーリング時の安定性や利便性など、先述したアドベンチャーバイクが持つ特徴の礎(いしずえ)となっているのだ。
ちなみに、パリ-ダカールラリーは、かつて、フランスのパリからアフリカ大陸へ渡り、サハラ砂漠を通過、セネガルの⾸都ダカールをゴールするルートをとっていた。その長くて険しいルートを称し、通称「パリダカ」と呼ばれ、世界中で広く親しまれた。
現在は、開催地域の政情不安により、中東・サウジアラビアでの開催となったが、大会名には「ダカール」の名前が引き継がれ、いまだに世界中で多くのファンを魅了している。
どんなバイクがある?
アドベンチャーバイクには、前述の通り、さまざまな排気量のモデルが各メーカーから発売されていて、今や百花繚乱。その人気の高さがうかがえる。どんなモデルがあるのか、国内モデルの例をいくつ挙げてみよう。
【ホンダ】
・CRF1100Lアフリカツイン/DCT(1082cc・直列2気筒)
・CRF1100Lアフリカツイン アドベンチャースポーツES/DCT(1082cc・直列2気筒)
・CRF250ラリー(249cc・単気筒)
・CRF250L(249cc・単気筒)
【ヤマハ】
・テネレ700(688cc・直列2気筒)
【スズキ】
・Vストローム1050/1050XT(1036cc・V型2気筒)
・Vストローム650 ABS/650XT ABS(645cc・V型2気筒)
・Vストローム250 ABS(248cc・2気筒)
【カワサキ】
・ヴェルシスX250ツアラー(248cc・並列2気筒)
これらは、各メーカーが公式ホームページなどで「アドベンチャー」に分類しているモデルたちだ。各モデル名の後には、エンジン排気量も入れたので、ご覧の通り、1000ccから250ccまで、さまざまな排気量のモデルがあることが分かるだろう。
また、一部を除き、ほとんどが2気筒エンジンを搭載。いずれも、扱いやすさと低速からトルクフルなパワー特性が魅力といえる。
2023年には新型モデルも続々登場
これらに加え、2023年には、前述の通り、ホンダがXL750トランザルプを市場投入することも明かにしている。イタリア・ミラノで開催された「EICMA2022(2022年11月8〜13日)」、通称ミラノショーで発表されたこのモデルは、往年のアドベンチャーモデルであるトランザルプの復刻版といえるものだ。
トランザルプは、1987年に583cc・V型2気筒エンジン搭載の「トランザルプ600V」、1991年には398cc・V型2気筒エンジンを採用した「トランザルプ400V」などが国内発売。欧州など海外でも人気を誇ったシリーズだ。
後継となる新型XL750トランザルプは、市街地から高速道路、峠道から未舗装路までオールラウンドに対応すると共に、雄大な自然の中などで長距離ツーリングを快適に楽しめるモデルとして開発された。
外観は、往年のトランザルプをイメージさせるフォルムに、現代的な要素を採り入れた雰囲気も醸し出す。ウインドプロテクションと空力性能を高次元でバランスさせた大型フェアリングの採用などで、高速道路での高い快適性も実現するという。
エンジンには、最高出力67.5kW(91.8ps)・最大トルク75Nm(7.64kgf-m)を発揮する、完全新設計の755cc・270°クランク直列2気筒を搭載。スロットルバイワイヤシステム(TBW)の採用や、5タイプから選べるライディングモードなど、最新の電子制御システムも搭載し、走りの安定性や安全性に貢献する。
また、サスペンションには、フロントにショーワ(日立Astemo)製の43mmSFF-CA倒立フロントフォーク、リヤにはプロリンクサスペンションとハイブリッド構造のアルミスイングアームを装備。これらにより、ニュートラルなハンドリングとオフロードでの高い走破性も実現するという。
なお、ホイールはフロントが21インチ、リヤが18インチのスポークタイプを採用。オンロードでの快適な走りと、オフロードでの高い安定性に寄与する。
また、ミラノショーでは、スズキが、同じく前述の新型Vストローム800DEを発表している。搭載する新開発の776cc・並列2気筒エンジンには、量産二輪車で初となる「スズキクロスバランサー」を採用。
これは、クランク軸に対して90°に一次バランサーを2軸配置した新機構で、振動を抑えながら軽量・コンパクト化を実現することが特徴だ。街乗りはもちろん、長距離ツーリングなどでも、振動の少なさはライダーの疲労軽減に貢献する。
さらに、スズキは、2022年9月に、海外向けモデルとして、クイックシフターなどを採用した新型のVストローム1050を発表。加えて、ホイールにフロント21インチ、リヤ17インチ(スタンダードはフロントが19インチ)を採用し、悪路での走破性をよりアップした「Vストローム1050DE」も公開するなど、アドベンチャーバイクのラインアップをより強化している。
スズキの場合は、上記3モデルの国内導入は明らかにしていないが、日本でも人気が高いアドベンチャーバイクの新型だけに、国内でも発売されることは十分に期待できる。
似ているけど違うスポーツツアラー
このように、アドベンチャーバイクには、さまざまなモデルがあり、注目の新型も登場するなど、かなりの充実ぶりだ。だが、バイクに詳しい読者の中には、「なぜあのバイクが入っていないの? 」と思った人もいるかもしれない。
実際に、スタイルは似ているのに、メーカーは「スポーツツアラー」など、別のジャンルに入れているモデルもあるのだ。
例えば、ヤマハの「トレーサー9 GT」。888cc・3気筒エンジンを搭載するネイキッドモデルの「MT-09」をベースに、電子制御サスペンションや高速道路などでアクセル操作をしなくても設定速度で走行できるクルーズコントロールなど、長距離ツーリングでの快適性を高めたモデルだ。
前述のミラノショーでは、新たに上級バージョンの「トレーサー9 GT+」が追加され、2023年夏以降に国内発売されることも発表されたことで、XL750トランザルプと同じく話題となった。
ちなみに、新型トレーサー9 GT+では、新たにミリ波レーダーを搭載し、それと連携する新システム「レーダー連携ユニファイドブレーキシステム(UBS)」を採用したことがトピックだ。
レーダーとIMU(慣性計測装置)が感知した情報をもとに、前走車との車間に対し、ライダーのブレーキ入力が不足している場合、前後配分を調整しながら自動でブレーキ力をアシストする機能だ。ヤマハが「モーターサイクルでは世界初」という先進の制御システムにより、より高い安全性を実現する。
大型のフロントスクリーンやアップライトなバーハンドル、荷物の高い積載性やタンデム時の快適性を生むリヤシートなど、アドベンチャーバイクとの共通点も多いトレーサー9 GTと9 GT+。だが、ヤマハでは、このモデルをアドベンチャーバイクとは差別化している。
ほかにも、例えば、ホンダでは、アフリカツインと同じ1082cc・直列2気筒エンジンを搭載する「NT1100」を「ツーリングモデル」に分類。745cc・直列2気筒エンジン搭載の「NC750X」などは、「クロスオーバー」というジャンルに分類している。
これらも、スタイル的には、大型のフロントスクリーンなど、かなりアドベンチャーモデルに近い。では、なぜ差別化されているのだろうか?
ホイールサイズがジャンルの分かれ目!?
おそらく、これらモデルは、長距離ツーリングでの高い快適性という点ではアドベンチャーバイクに近いが、よりオンロードでの走りに振った味付けであることが考えられる。
それが、最も分かりやすいのが、ホイールの大きさだ。例えば、ヤマハのテネレ700やホンダのアフリカツイン・シリーズでは、フロント21インチ、リヤ18インチを採用。対して、トレーサー9 GT、NT1100、NC750Xなどは、前後共に17インチのホイールを採用している。
ほかにも、前述したアドベンチャーバイクと呼ばれるモデルの多くが、前輪が大きく、後輪が小さいサイズのホイールを採用していることが多い。これは、オフロードバイクの多くがそうであるように、悪路にあるギャップや凹凸を乗り越えやすくするなど、オフロードの走破性をより高めるためだろう。
一般的に、前輪の径が小さいとギャップなどにはまりやすく、ひどい場合は前転してしまうことさえある。逆に、大きい前輪の方が、少々路面が荒れていてもハンドルが取られにくいなどのメリットもある。
一方、オフロードバイクの後輪は、前輪より小径で太めのホイールを履かせることが一般的だ。この理由については諸説あり、あくまで私見だが、ロングストロークのリヤサスペンションを採用することと、前輪とのバランスを取るためではないかと思う。
例えば、悪路にあるギャップなどでジャンプし着地した際、オフロードバイクでは、リヤサスペンションがフルボトムしてしまうと転倒などにもつながるため、ストローク量を多めに取り、減衰力も強めにする傾向にある。
ところが、後輪のホイールに前輪と同サイズを履かせると、車体姿勢が極端にリヤ上がりとなりバランスが悪くなるため、外径を小さくするためサイズが小さいホイールを履かせるのではないだろうか。
ほかにも、オフロードでは、あえて後輪をパワースライドさせ、前輪を軸にするような感じでタイトに旋回するといったテクニックも使うが、その際に、後輪が小さい方がコントロールしやすいといったことも考えられる。
いずれにしろ、テネレ700やアフリカツイン・シリーズなどが採用するフロント21インチ、リヤ18インチというホイールは、オフロード競技用のエンデューロレーサーなどにもよく採用されるサイズ(モトクロッサーはフロント21インチ、リヤ19インチが多い)だ。
長年のトライ&エラーから、比較的長距離を走るエンデューロレースでの最適解として採用例が多く、それをオフロードも走る公道向けのアドベンチャーバイクにも採用しているといえる。
前後17インチの採用例が多いスポーツツアラー
対して、スポーツツアラーなどが採用する前後17インチホイールは、ロードモデルの多くが採用するサイズ。舗装路での旋回性やブレーキ性能、高速道路など高い速度で巡航する場合の快適性などに優れているサイズとして、こちらも今では一般的となっている。
そうした意味で、前述の3モデル、トレーサー9 GT、NT1100、NC750Xなどは、あくまでオンロードで走ることを最優先し、舗装路でより軽快なハンドリングや乗り心地の良さを追求しているといえる。
なお、NC750Xなどが分類されているホンダ独自のクロスオーバーというカテゴリーは、ロードスポーツモデルとしてのハンドリングを維持しながらも、アップライトなポジションや大型フロントスクリーンなど、長距離ツーリングでの快適性を出すために、アドベンチャーバイクのスタイルを採り入れているモデルという意味なのだと考えられる。
つまり、ロードスポーツとアドベンチャーのミックスということで、クロスオーバーと呼んでいるのだ。
さまざまなバイク旅を楽しめるのがアドベンチャーバイク
いずれにしろ、アドベンチャーバイクには、どんな道でも走ることができる幅広い対応力が一番の魅力だ。長距離ツーリングはもちろん、例えば、最近人気のキャンプでも、アドベンチャーバイクに乗ったライダーを見かけることも増えた。キャンプ場には、途中の道がぬかるんでいたり、未舗装路のダート道があるところもあるが、そんな道でも楽にいけるからだ。
さまざまなタイプのバイク旅を楽しめるアドベンチャーバイクが、今後も高い人気を維持することは間違いないだろう。