Vストローム800DE試乗記|「悪路にハンドルを取られそうになった時、何ごともなかったような振る舞いを見せる」

人気のVストロームファミリーに新たに加わった800DEは、エンジンも車体も完全新設計のブランニューマシンだ。ロードネイキッドモデル、GSX-8Sと基本的に共通のエンジン、フレームを採用するが、21インチのフロントホイールやロングストロークのサスペンション等、オフロードでの走りもしっかり見据えたパッケージング。その実力をイタリア・サルデニア島で検証する。

REPORT●鈴木大五郎(SUZUKI Daigoro)

スズキVストローム800DE(海外仕様)

スズキVストローム800DE……1,320,000円(消費税込み)

photo: Simon Palfrader© editorial use only
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スズキVストローム800DE

過去の各バイクメーカーのフラッグシップモデルといえば、そのままスーパーバイクレースに参戦できそうなスポーツモデルが主流であったが、なんだか最近はアドベンチャーマシンの人気が高くてそのポジションが取って代わられたような印象もある。

最新の電子デバイステクノロジーもフル装備され、価格もまさにフラッグシップ感漂うもの……。

そんななかでスズキのVストロームシリーズはシンプルな装備と手頃な価格設定で人気を博してきた。価格を低く保つことで省略される機能は確かにある。しかし、乗ってみるとそれが不必要とさえ思えるベースのバランス具合が光っていたのである。

今回新たに加わった800DEはさすがに最新モデルだけあって電子制御群も充実しているものの、定番となりつつある6軸IMUであるとかセミアクティブサスペンションといった装備は持たない。しかし歴代Vストロームがそうであったように、手間暇かけて作り、磨き上げられたマシンとなっていたのである。

フロントホイールに21インチを採用したであるとか、グランドクリアランスが220mmであるといったトピック等、オフロードジャンキーを喜ばせるスペックを備えた800DE 。

実際それはオフロードで大きなメリットを感じさせた。

ギャップを乗り越える時はもちろん、ゴロゴロとした大きめの石ころにハンドルを取られそうになるとき。コーナー立ち上がりでリヤタイヤがスライドし始めた時etc. 不安定になりそうな状況でも、何ごともなかったような振る舞いを見せる。

さらにトラクションコントロールにGモード(Gはグラベルの意味)を選択すれば、コーナー立ち上がりで微妙なスロットルコントロールをすることなく、良いスライドアングルを保ったまま安全にコーナーを脱出することが出来る。トコトコとダート区間をやり過ごすだけでなく、そこでもしっかり遊べるポテンシャル。さらにアグレッシブな走りをしたい方にはトラクションコントロールをオフにすることも出来る。ABSは完全に切ることは出来ないものの、ダート路面用に介入度が低い設定が選択可能で、リアのみをカットすることも出来る。

それらの制御はとても良く機能するものであったが、例えばトラクションコントロールを完全にオフにした状態でのコントロール性の高さを考えると、やはり素となる部分をしっかり作り上げてきたのだということがわかるのである。

そして、その高いコントロール性はエンジン性能に委ねられる面も大きいだろう。新設計の270度クランクを持つ並列2気筒エンジンは、スズキらしい、いかにも信頼性が高そうなフィーリング。スタート直後からトルクフルで、そのまま実にフラットに回転上昇していく。イメージよりも1速高いギアであってもパワフルであり、底力を感じさせるのである。

オフロードで非常に良く機能するそのパッケージであるが、オンロードでの走りをおろそかにしていないところがVストロームらしいところである。

スズキ伝統の車体の安心感。直進安定性はこのマシンでも健在。空力等もしっかり考慮され、150km/h以上の速度域であってもフラフラするようなことは皆無であった。21インチホイール車にありがちなグリップ感が薄くなるような印象もほとんど感じられず、ワインディングが得意というVストのキャラクターは800DEでも健在なのであった。

サスペンションのストロークが実に有効に使われている印象で、乗り心地も非常に良い。

オフロード性能のためではなく、この快適性のために長い脚を採用しているとさえ思える出来栄え。

オフロード性能を強化したことでオンロードでの走りがスポイルされているのでは?といった心配は杞憂に終わった。

650と1050の中間ともいえるポジションであるが、そのどちらの要望もうまく取り入れながらオリジナリティも打ち出した、欲張りなマシンとなっていた。

足つきチェック(ライダー身長165cm 体重60kg)

855mmと比較的高いシート高ではあるが、フレーム周りやシートサイド部がスリムなため数値のイメージよりは足つき性は悪くない。また、サスペンションのビギニング部の沈み込みの恩恵もある。とはいえ、165cmの身長ではご覧の通り……

ディテール解説

新設計のスチール製フレームはGSX-8Sと基本的に共通。アルミ製に対して重量は増えるものの、よりエンジンに沿ったスリムなレイアウトが実現可能となった。エンジン幅はVツインモデルに対して広がるものの、フレーム幅はVストローム650よりもスリムに。
photo: Simon Palfrader© editorial use only
新設計の270度クランク並列ツインエンジンは775ccで最高出力82馬力、最大トルク76N・mを発揮。スズキ独自となる「スズキクロスバランサー」を採用したコンパクトな設計。結果的にエンジン搭載位置の自由度が高まり、スイングアームのロング化にも貢献。アップ&ダウン対応のオートシフターを標準装備。なお、タンク容量は20リットルで満タンから450km以上の航続走行が可能。
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フロントホイールは21インチとなり、悪路での走破性を確保。SHOWA製フロントフォークはプリロードおよび伸び・圧減衰のフルアジャスタブル仕様でストローク量は220ミリ。装着タイヤは専用設計となるダンロップ製TRAILMAX MIXTOURを装着。同名称の市販品とは内部構造、トレッドパターンが異なりオン・オフでの高いトータル性能を確保。
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ステップのラバーはボルト留めとなり着脱可能。ブレーキペダルはスチール製となり、オフロード走行における破損を回避。
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ユーロ5のみならず、しっかり先を見据えて設計された新型エンジンは静粛性も高い。また、大型サイレンサーにより高い消音性を誇る。グランドクリアランスは220mmを確保。
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リアホイールはライバルモデルが多く採用する18インチではなく17インチでチューブ式。17インチの採用はオンロードでの走りを高めるためとのこと。ABSは2モード選択可能。さらにダート路面での走行に適したリアのABSをカットする機能も装備。
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リヤショックのプリロード調整はダイヤル式で工具を使わず簡単に調整可能。
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5インチフルカラーTFT液晶ディスプレイを装備し、多くの情報を表示。トラクションコントロールは3段階プラス介入なし。未舗装路での介入を最小限に抑えるG(グラベル)モードが選択可能。
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シンプルなスイッチ周り。エンジン特性、トラクションコントロール、ABSはそれぞれ独立して設定。モードスイッチを押して機能を選択。グレーの上下ボタンでレベルを設定。
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ライドバイワイヤーのスッキリしたスロットル周り。残念ながらグリップヒーター、クルーズコントロールは装備なし。

主要諸元(国内仕様)

型式:8BL-EM1BA
全長/全幅/全高:2,345mm / 975mm / 1,310mm
軸間距離/最低地上高:1,570mm / 220mm
シート高:855mm
装備重量:230kg
燃料消費率:
 国土交通省届出値:定地燃費値 32.4km/L(60km/h) 2名乗車時
 WMTCモード値:22.6km/L(クラス3、サブクラス3-2) 1名乗車時
最小回転半径:2.7m
エンジン型式 / 弁方式:FRA1・水冷・4サイクル・2気筒 / DOHC・4バルブ
総排気量:775cm3
内径×行程 / 圧縮比:84.0mm × 70.0mm / 12.8:1
最高出力:60kW〈82PS〉 / 8,500rpm
最大トルク:76N・m〈7.7kgf・m〉 / 6,800rpm
燃料供給装置:フューエルインジェクションシステム
始動方式:セルフ式
点火方式:フルトランジスタ式
潤滑方式:圧送式ウェットサンプ
潤滑油容量:3.9L
燃料タンク容量:20L
クラッチ形式:湿式多板コイルスプリング
変速機形式:常時噛合式6段リターン
変速比:
 1速3.071
 2速2.200
 3速1.700
 4速1.416
 5速1.230
 6速1.107
減速比(1次 / 2次):1.675 / 2.941
フレーム形式:ダイヤモンド
キャスター / トレール:28゜ / 114mm
ブレーキ形式(前 / 後):油圧式ダブルディスク(ABS)・油圧式シングルディスク(ABS)
タイヤサイズ(前 / 後):90/90-21 M/C 54H チューブタイプ / 150/70R17 M/C 69H チューブタイプ
舵取り角左右:40°
乗車定員:2名
排出ガス基準:平成32年(令和2年)国内排出ガス規制に対応

ライダープロフィール:鈴木大五郎

レース参戦をバックボーンに活動するモーターサイクルジャーナリスト。オンロードだけでなく、オフロードやトライアル等幅広く楽しむ。BKライディング&スライディングスクールを主宰するほか、様々なメーカーやイベントでもインストラクターを務める。BMWモトラッド公認インストラクター。


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