このアドベンチャーは嬉しいヤツ! オフの腕がいまひとつでも、悪路走破性が実感できる。|ハスクバーナ・ノーデン901エクスペディション

スタンダードでも良好とは言えない足つき性が、前後サスストロークの延長でさらに悪くなっているから、敷居の高さを感じる人は大勢いるだろう。とはいえ、装備の充実度や上質な乗り味を考えれば、ノーデン901の上級仕様となるエクスペディションは相当にお買い得なモデルなのだ。

REPORT●中村友彦(NAKAMURA Tomohiko)
PHOTO●山田俊輔(YAMADA Shunsuke)

ハスクバーナ・ノーデン901エクスペディション……199万9000円

疑心暗鬼から一転して、予想外の好感触

この仕事はお断りするべきかも……。編集部からの打診を受け、ハスクバーナ・ノーデン901エクスペディションの試乗会への参加を決めて数日後、僕はいわゆる疑心暗鬼な状況になっていた。その理由は試乗のメイン会場が、長野県のONTAKE EXPLOLER PARKだったからである。

もっとも、グリーンシーズンの御岳スキー場を利用する形で、2023年6月にオープンしたヒルクライムコースに、僕は以前から興味を抱いていた。でも自分の拙いオフロードの腕前を考えると、初体験は250ccクラスのトレール車でしかたった。ちなみにONTAKE EXPLOLER PARKには、さまざまな難易度のルートが存在し、最もイージーな選択をすれば、大排気量アドベンチャーツアラーでも頂上まで行ける……らしいのだが、YouTubeにアップされた車載動画を見た僕の中では、不安がグルグル渦巻き始めたのだ。

ところが、何とか心を奮い立たせて試乗会に臨んだ僕は、初めてのONTAKE EXPLOLER PARKを思いっ切り満喫し、意外にアッサリ、頂上に到達できたのである。スタンダードのノーデン901や他のアドベンチャーツアラーだったら、そういう体験ができたかどうかは何とも言えないところだけれど、予想外の展開を通して、僕はすっかりノーデン901エクスペディションが好きになってしまった。

充実装備とストロークを延長した前後サス

2023年から発売が始まるエクスペディションは、ノーデン901の悪路走破性と快適性に磨きをかけた上級仕様である。最大の注目要素は、構造を一新すると同時にストロークを延長した前後サスペンションだが、ツーリングを快適にする大型スクリーンやヒーテッドグリップ/ライダーズシート、容量36ℓのサイドバッグ&ステー、転倒時のダメージを防ぐスキッドプレート、メンテナンス時に重宝するセンタースタンドなども、スタンダードとは異なる装備だ。

なおノーデン901とエクスペディションは、同じグループに所属するKTMの890アドベンチャー/Rから基本設計を譲り受ける形で生まれたモデルである。そして既存の3車は似て非なるキャラクターを構築していて、あえて言うならノーデン901はやや優しく、あえて言うなら890アドベンチャーはややオンロード指向、そして890アドベンチャーRはガチのラリー車、という印象を僕は抱いていた。

ちなみに各車のホイールトラベルは、890アドベンチャー:前後200mm、890アドベンチャーR:前後240mm、ノーデン901:220/215mmで、僕はノーデン901の数値を絶妙と感じいていたのだけれど、エクスペディションの数値は前後240mm。となると、890アドベンチャーRと同様のガチな乗り味になるのかと思いきや……。

穏やかで優しいキャラクターは不変

まったくそんなことはなかった。と言っても、前後サスストロークの延長でシート高は854/874mm→875/895mmに上がっているから、ノーマルと比較すればとっつきは悪くなっている。とはいえ、乗り手がその気になれば猛烈な速さを発揮する一方で、スロットルのワイドオープンを強要しない、穏やかで優しいキャラクターはノーマルと同様で、その事実を認識した僕は何だかホッとしてしまったのだ。

もちろん前後サスストロークが増えたぶん、路面の凹凸の吸収性は格段に上がっていて、ノーマルでは回避を考えるレベルの大きなギャップにも余裕で突っ込んで行ける。そしてその資質は、悪路での速さや難易度が高いセクションの攻略につながるのだが、普通に走っていても恩恵は十分に感じられる。おそらく、スタンダードのノーデン901とエクスペディションの2台でロングランに出かけたら、帰路につく頃の心身の疲労には大きな差が生まれるだろう。

ただし、すべての面においてエクスペディションが優勢なのかと言うと、必ずしもそうではない。具体的な話をするなら、舗装路のワインディングをオンロードバイクと大差ない感覚で走れたスタンダードとは異なり、エクスペディションは大きなオフロード車という意識が頭の中から消えなかったし、シート高が上がったぶん、エクスペディションは停止時にかなりの気を遣う(オフロードで安心して止まれる場所を見つけることは、なかなかの難事業だった)。

そのあたりを考えると、エクスペディションはオフロードが大好きで体格が大柄、または、ある程度以上の腕前のライダーに向いているわけだが、僕としては普通のライダーがエクスペディションを購入して、適度なローダウンを行うのもアリだと思っている。と言うのも、装備の充実度を考えればスタンダード+20万円という価格は相当にお買い得だし、エクスペディションの前後サスペンションの美点はストロークの長さだけではなく、上質な動きにもあって、その恩恵はどんなライダーでも感じられるのだから。

さて、車体の話を長く続けてしまったが、今回の試乗では熟成が進んだLC8cの守備範囲の広さにも大いに感心。2018年型KTM 790デュークに端を発するクランク位相角75度のパラレルツインが、中高回転域で刺激的なフィーリングを味わわせてくれることは以前から知っていたけれど、このエンジンは極低回転域で納豆のように粘るのだ。逆に考えるとそういう特性を実現しているからこそ、僕の技量でも意外にアッサリという感覚で、ONTAKE EXPLOLER PARKの頂上に到達できたのだろう。

ライディングポジション&足つき性(身長182cm 体重74kg)

シートをローポジションにして撮影したこの写真だと、ヒザの曲がりが少々タイトに見えるけれど、ライダーの気分はゆったり楽々。ちなみにハイポジションにすると、オフロード車感が強くなる。
前後サスペンションのストロークを延長した結果として、スタンダードでも良好とは言えなかった足つき性はさらに悪化。日本人の基準だと大柄な僕でも、両足の半分くらいしか接地しない。

ディティール解説

ヘッドライトは同社のスヴァルト&ヴィットピレンに通じる丸型で、フォグランプとナックルガードは標準装備。スタンダードのスモークからクリアに変更されたスクリーンは、サイズを大幅に拡大。
コクピットは近年のアドベンチャーツアラーの定番と言いたくなる雰囲気。左スイッチボックスで行う各種電子デバイスの設定変更は、慣れれば簡単に行えそう。インナーカウル右にはUSB電源を設置。
TFTメーターはハスクバーナ独自のデザインで、視認性は非常に良好。専用アプリを導入すれば、スマホとの連携が可能になる。メーター上部には、純正アクセサリーのGPS用マウントホルダーを設置。
オフロードを走行する前の撮影なので取り外しているけれど、フットペグはラバー付き。クイックシフター用のセンサーは、シフトシャフトの基部に設置されている。センタースタンドは標準装備。
十分な肉厚を確保したシートは前後分割式で、高さが2段階から選べるメインライダー用はヒーターを内蔵。なおエクスペディションが採用した部品の大半は、純正アクセサリーとしての購入が可能だ。
サイドバッグはソフトタイプで、脱着時に工具は不要。左右で36ℓという容量をどう感じるかは人それぞれだが、キャンプ派ではない僕の場合は、数日のツーリングならこのサイズで十分……と感じた。
一般的なパラレルツインのクランク位相角が180/270/360度のいずれかだったのに対して、LC8cは独創的な75度を選択。バランサーはクランクケース前部とシリンダーヘッド中央の2ヵ所に設置。
スキッドプレートはアフターマーケット製を思わせる頑丈な作りで、溶接痕も非常に美しい。このパーツはエンジンだけではなく、左右に手を伸ばすかのような形のガソリンタンクの保護にも貢献する。
 
ブレーキは、F:φ320mmディスク+ラジアルマウント式4ピストン、R:φ260mmディスク+片押し式2ピストン。IMUを制御に使用するABSはボッシュ製で、リアは任意で解除することが可能。
 
前後タイヤはチューブレス。試乗車はスタンダード同じピレリ・スコーピオンラリーSTRを履いていたものの、車両のキャラクターを考えると、もっとオフロード指向が強い製品でもよかったような?
左右にプリロードアジャスター、右に伸び側、左に圧側ダンパーアジャスターを備えるWPの倒立式フロントフォークは、スタンダードのφ43mmAPEXより5mm大径となるφ48mmXPLORを採用。
リアショックもAPEXからXPLORに変更。APEXの調整機構がプリロードと伸び側ダンパーのみだったのに対して、リザーブタンク付きのXPLORは2系統の圧側ダンパーアジャスターも装備。

主要諸元

車名:ノーデン901エクスペディション
軸間距離:1529mm±15mm
最低地上高:270mm
シート高:875/895mm
キャスター/トレール:25.8°/106.9mm
エンジン形式:水冷4ストローク並列2気筒
弁形式:DOHC4バルブ
総排気量:889cc
内径×行程:90.7mm×68.8mm
圧縮比:13.5
最高出力:77kW(105PS)/8000rpm
最大トルク:100N・m(10.2kgf・m)/6500rpm
始動方式:セルフスターター
点火方式:フルトランジスタ
潤滑方式:セミドライサンプ
燃料供給方式:フューエルインジェクション
トランスミッション形式:常時噛合式6段リターン
クラッチ形式:湿式多板コイルスプリング
1・2次減速比:2.029・3.428
フレーム形式:クロモリ製トレリス
懸架方式前:テレスコピック倒立式φ48mm
懸架方式後:直押し式モノショック
タイヤサイズ前:90/90R21
タイヤサイズ後:150/70ZR18
ブレーキ形式前:油圧式ダブルディスク
ブレーキ形式後:油圧式シングルディスク
車両重量:214.5kg(燃料除く)
使用燃料:無鉛ハイオクガソリン
燃料タンク容量:約19ℓ
乗車定員:2名

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著者プロフィール

中村友彦 近影

中村友彦

1996~2003年にバイカーズステーション誌に在籍し、以後はフリーランスとして活動中。1900年代初頭の旧車…