オーストリア生まれのイカした500ccスポーツバイク、ブリクストン・クロスファイア500試乗記

2020年に海外での販売が始まり、2023年から日本市場への導入始まったクロスファイア500は、ブリクストンにとっては初めての現代的なミドルツインスポーツ。もっとも、初めてという言葉から想像しがちなマイナス要素は、このモデルには一切見当たらなかった。

REPORT●中村友彦(NAKAMURA Tomohiko)
PHOTO●山田俊輔(YAMADA Shunsuke)

ブリクストン・クロスファイア500……1,100,000円(消費税込み)

生産技術の向上と徹底した品質管理

近年の2輪業界では、中国の存在感が急激に高まっている。具体的な話をするなら、2000年代以降の中国では新興メーカーが次々と産声をあげているし、他国で設計した中国生産車や、中国のメーカーが開発した汎用ユニットを使用する車両が、年を経るごとに増えているのだ。

オーストリアに本拠地を構えるブリクストンも、中国への依存度が高いメーカーで、基本的に完成車の組み立ては中国で行い、500/1200ccパラレルツインは中国のエンジンメーカーであるGOAKINが製造を担当している。

そしてそういった話を聞くと、品質に不安を持つ人がいるかもしれないが……。今回の試乗でクロスファイア500を体験した僕は、外観の仕上げにも乗り味にもネガティブな印象は一切持たなかった。その背景には同社の徹底した品質管理があるようだけれど、一昔前とは比較にならないほど、昨今の中国の生産技術は向上しているのだ。

独創的な外観と現代的な足まわり

海外市場では2020年から発売が始まったクロスファイア500は、それまでは125/250ccを主力としてきたブリクストンが、初めて手がけたミドルクラスの車両である。パッと見の印象はクラシックテイストのカフェレーサー……のような気はするものの、側面から見た際に“X”を強調したスクエアなガソリンタンクや、鋭角なラインを描くテール周辺の構成からは、ブリクストン独自の個性を構築しようという意思が伝わって来る。また、足まわりに導入した前後17インチタイヤ、倒立式フロントフォーク/リンク式リアサスペンション、ラジアルマウント式フロントブレーキキャリパーなどは、昔ながらの構成だった既存の125/250ccとは異なるスタンスで、現代的な運動性能を追求した表れと言えるだろう。

一方のエンジンは、型式で言うならDOHC4バルブ水冷並列2気筒で、68×67mmのボア×ストロークや10.7:1の圧縮比、47.6ps/8500rpmの最高出力、45Nm/6500rpmの最大トルクは、ヨーロッパのA2ライセンス枠でベストセラーになっているホンダCB500系(67×66.8mm、10.7:1、47.6ps/8500rpm、43Nm/7000rpm)に近い数値である。クランクシャフトの位相角は公表されていないが、GOAKINのウェブサイトに掲載されたエンジンの展開図を見ると、ミドル以下のパラレルツインの定番にしてCB500系と同じ180度のようだ。

なおクロスファイア500には、今回試乗したベーシックモデルに加えて、ワイドハンドルやフラットシートを採用するX(115万5000円)、F:19/R:17インチのブロックパターンタイヤを履くアドベンチャーテイストのXC(129万8000円)も存在する。見た目のインパクトが最も強いのはXCだが、独創的な造形美が感じやすいのは、装備がシンプルなベーシックモデルかもしれない。

往年のTX500とGX500に通じる資質

予想以上に軽くてコンパクト。それが、クロスファイア500に対する僕の第一印象である。と言っても、190kgの車重や1416mmのホイールべースは、日本市場で価格帯的にライバルになりそうなミドルパラレルツイン、ヤマハMT-07・XSR700やカワサキZ650/RSなどと大差がないのだけれど、排気量とパワーが少ないことに加えて、シートが低く、ハンドルとガソリンタンクの幅が狭いからか、それらよりも気軽に付き合えそうな雰囲気。

実際に走り始めて、最初に感心したのはエンジンだ。近年のミドルツインは、扱いやすさや排気ガス・騒音規制への適合を考慮した結果として、低回転域では何となく主張が控えめ?と感じる機種が少なくないものの、クロスファイア500のエンジンは低回転域から2気筒らしさが濃厚で、一発一発の燃焼感がビンビン伝わって来る。もっともそういう特性だからか、クランクケース内にバランサーを装備していても、中~高回転域では適度な振動が発生するのだが、僕としてはその点はあまり気にならず、むしろ野性的で力強い吹け上がりに好感を抱いた。

続いては車体の話で、この件に関しては予想以上や感心を通り越して驚きだった。と言うのも、ブリクストン初の現代的な運動性能を追求したミドルツインだけに、当初の僕は恐る恐る……という意識で様子を探っていたのだが、クロスファイア500のハンドリングは至ってナチュラルで、不満や不安は見当たらなかったのだ。それどころか市街地でも峠道でも、軽快なハンドリングと上質な乗り心地が満喫できて、僕の中ではこのままロングランに出かけてみたい、機会があったらサーキットも走ってみたい、などという欲望が芽生えて来たのである。

試乗を終えた後、僕の頭にふと浮かんだのは1970年代中盤~後半にヤマハが販売したTX500とGX500だった。もちろん、今から半世紀ほど前に生まれた500ccパラレルツインスポーツとクロスファイア500では、運動性と快適性のレベルはまったく異なるのだけれど、600cc以上/400cc以下とは趣が異なる、500ccパラレルツインならではの軽快感と爽快感が満喫できるという点で、このモデルには往年の名車に通じる資質が備わっていたのだ。

ライディングポジション(身長182cm 体重74kg)

乗車姿勢は至ってオーソドックスで、どんなライダーでも自然に馴染めそう。ただし現代のスポーツネイキッドの基準で考えると、着座位置はやや後方で、ステップはやや前方かつ下方という印象。
シート高は近年のミドルの平均よりやや低い795mmで、サイドカバー周辺に出っ張りは存在しないから、足つき性はまずまず良好。身長170cm前後のライダーなら、両足がべったり接地するようだ。

ディティール解説

ハンドルはテーパータイプで、ベーシックモデルの幅はスリムさを意識した757mm(XとXCのハンドル幅は851mm)。ガソリンタンクキャップはクラシカルなデザインだ。
メーターは円型液晶で、上部の外周にはタコメーター、下部の外周には水温計と燃料残量計を表示。ニュートラル状態では消えてしまうが、左下にはギアポジションインジイケーターが存在。
太目のグリップラバーは、同社が他機種でも採用しているブリクストンのロゴ入り。バックミラーはラバーマウント式だが、ステーが長いせいか、高回転域ではブレが発生。
左右スイッチボックスは一昔前の日本車に通じるデザインで、スロットルホルダーは独立式。ブレーキ/クラッチレバーの基部には、位置調整用ダイヤルが備わっている。
 
メイン部のみにタックロールレザーを使用するシートは、カスタムパーツを思わせるデザイン。ウレタンは薄そうだが、着座位置の自由度はしっかり確保。
シート下は電装系パーツでギッシリ(開閉はキーロック式)。バッテリーやヒューズへのアクセスは非常に良好だが、ETCユニットをスムーズに収めるのは難しそう。
コンパクトなテールランプは、シートレール後部にピタッと収ま形で配置。スイングアームマウント式リアフェンダーは、X/XCとは異なる、ベーシックモデルならではの装備。
中国のGOAKINが製造するDOHC4バルブ水冷並列2気筒エンジンは、ヨーロッパのA2ライセンスの上限となる47.6psを発揮。インジェクション関連部品はデルファイ。
ブレーキパーツはスペインのJ.JUANで統一。ディスク径はF:320mm/R:240mmで、キャリパーはF:ラジアルマウント式4ピストン/R:片押し式2ピストン。
スポークホイールのサイズはF:3.50×17/R:4.25×17。前後タイヤはラジアルが標準で、試乗車はピレリ・エンジェルGTを装着。2チャンネル式のABSはボッシュ。
前後ショックはKYB。倒立式フロントフォークの調整機構はトップキャップに集中していて、左右にプリロード、左に圧側ダンパー、右に伸び側ダンパーアジャスターが備わる。
リアサスペンションはボトムリンク式で、ショックユニットはプリロードと伸び側ダンパーの調整が可能。スイングアームはトラス構造で、エンド部はスーパースポーツ的な構成。

主要諸元

車名:クロスファイア500
全長×全幅×全高:2117mm×757mm×1116mm
軸間距離:1416mm
シート高:795mm
エンジン形式:水冷4ストローク並列2気筒
弁形式:DOHC4バルブ
総排気量:486cc
内径×行程:68mm×67mm
圧縮比:10.7
最高出力:35kW(47.6PS)/8500rpm
最大トルク:43N・m(4.38kgf・m)/6750rpm
始動方式:セルフスターター
点火方式:フルトランジスタ
潤滑方式:ウェットサンプ
燃料供給方式:フューエルインジェクション
トランスミッション形式:常時噛合式6段リターン
クラッチ形式:湿式多板コイルスプリング
フレーム形式:ダイヤモンド
懸架方式前:テレスコピック倒立式
懸架方式後:リンク式モノショック
タイヤサイズ前:120/70ZR17
タイヤサイズ後:160/60ZR17
ブレーキ形式前:油圧式ダブルルディスク
ブレーキ形式後:油圧式シングルディスク
車両重量:190kg
燃料タンク容量:13.5ℓ
乗車定員:2名

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著者プロフィール

中村友彦 近影

中村友彦

1996~2003年にバイカーズステーション誌に在籍し、以後はフリーランスとして活動中。1900年代初頭の旧車…