これってホンダCL250のライバル車? 昔ながらのドコドコ感が堪能できるスクランブラー、ブリクストン・クロムウェル250

現在の日本の軽二輪市場では、ホンダCL250が好調なセールスを記録している。とはいえ、CL250に通じる資質を備えながらも、車重が軽くてクラシックテイストが濃厚なブリクストンのクロムウェル250を体験したら、何割かのライダーはこのモデルに流れるのかもしれない?

REPORT●中村友彦(NAKAMURA Tomohiko)
PHOTO●山田俊輔(YAMADA Shunsuke)

ブリクストン・クロムウェル250……70万4000円(消費税込み)

注目を集めているのは、今だからこそ

初っ端からこんなことを言うのも何ではあるけれど、例えばデビューが10年ほど前だったら、ブリクストンのクロムウェル250に興味を抱く日本人はほとんどいなかったんじゃないだろうか。と言うのも当時の日本市場には、ホンダCB223SやスズキST250、グラストラッカー、カワサキ・エストレヤ、250TRなど、安価なネオクラシック系の250ccモデルが数多く存在したのである。それらの新車が購入できなくなって数年が経過した今だからこそ、クロムウェル250は注目を集めているのだろう。

……といった表現では、日本車の撤退で空いた席に座ったみたいだが、クロムウェル250のスタイルは1960年代以前のイギリス車風で、決して日本車の模倣ではない。いや、そういうことを言うなら前述した日本車勢だって、イギリスの旧車的なところはあったのだけれど。いずれにしても僕としては、このモデルが日本の250cc市場の活性化に貢献してくれそうな気がしているのだ。

現代の軽二輪クラスでは貴重な資質

2015年から活動を開始したオーストリアのブリクストンは、現時点ではエンジンの自社製造は行ってないようで、250cc以下はスズキから正規供給を受けた空冷単気筒を主力にしている。2019年から発売が始まったクロムウェル250もエンジンはスズキ製で、OHC4バルブの動弁系や72.0mm×61.2mmのボア×ストロークなどは、前述したST250やグラストラッカーに通じる要素である。

現在のブリクストンの日本のウェブサイトには、斬新なデザインのクロスファイアシリーズ、スクランブラースタイルのフェルスベルグシリーズ、往年のブリティッシュツインを彷彿とさせるクロムウェル1200、カフェレーサーのサンレイ125、クラシックボバーのレイバーン125など、13台のモデルが並んでいる。そしてそれらと比べると、クロムウェル250は主張が控えめな気がしないでもない。とはいえ、昔ながらのオーソドックスなスタイル+250ccの空冷単気筒エンジンという構成に、懐かしさや親近感を抱くライダーは少なくないだろう。

CL250に勝るとも劣らない魅力

冒頭ではかつての日本製250ccネオクラシックモデルの車名を挙げたものの、実際にクロムウェル250を試乗している最中、僕の頭に比較対象として浮かんだのは、少し前に体験したばかりのホンダの新作、CL250だった。

もちろん、水冷エンジンやキャストホイール、液晶メーターなどを採用するCL250は、クロムウェル250よりも現代的なのだが、アップライトな乗車姿勢やどんな用途にも使えそうな特性は2台に通じる要素。では実際に脳内比較を行った僕が、何を感じたのかと言うと……。

これは十分勝負になると思った。と言っても、完成度が非常に高いCL250とは異なり、リアショックのダンパー不足や左ステップのバー⇔ペダル間の遠さ、停止時のニュートラルの出しづらさなど、クロムウェル250には気になる点がいくつか存在するのだが、それらは慣れやカスタムで解消できそうなので(ニュートラルは停止前なら簡単に出る)、個人的には大問題ではない。そういった要素よりも、僕がクロムウェル250で興味を惹かれたのは、ハンドリングの軽さとエンジンの主張の強さだった。

まずはハンドリングの説明をすると、車重が173kg、軸間距離が1485mm、タイヤサイズがF:110/80R19・R:150/70R17のCL250と比べれば、153.6kg(145kgの乾燥重量にガソリン容量の11.5ℓ≒8.6kgをプラスした数字)、1320mm、F:100/90-18・R:120/80-17のクロムウェル250は、やっぱりすべての挙動が明らかに軽快なのだ。もっともCL250の乗り味だって、べつに重くはなかったのだけれど、クロムウェル250の軽快さを実感すると、CL250は安定志向だったような気がしてくる。

一方のエンジンに関しては、あらゆる回転域でスムーズに回るCL250に対して、クロムウェル250は高回転域で適度な振動が発生するので、どちらが快適で扱いやすいのかと言ったら、それは間違いなくCL250だろう。でもクロムウェル250が搭載する空冷単気筒には、基本設計が古いからこそ……と思えるドコドコ感が存在して、僕としてはその特性がなかなか心地よかったのである。

言ってみればこのモデルには、CL250に勝るとも劣らない魅力、似て非なる資質が備わっていて、2台を同条件で体験したら、クロムウェル250に軍配を上げたくなる人は少なくないように思う。そんなクロムウェル250の価格は、CL250+約8万円となる70万4000円だが、現行車では唯一無二となるキャラクターや希少性を考えれば、その価格差は大きなマイナス要素にはならないだろう。

ライディングポジション(身長182cm 体重74kg)

シートとステップの位置関係は旧車的でも、ハンドルはストリートファイター的。とはいえ、バランスの悪さは感じなかったし、幅広で絞りが少ないハンドルは軽快な乗り味に貢献していると思う。
シート高はCL250と同じ790mm。身長165cm以上のライダーなら、足つき性に不満は感じないようだ。余談だが、かつての日本製250ccネオクラシックのシート高は、750~780mmあたりが定番だった。

ディティール解説

ヘッドライトはオーソドックスなハロゲンバルブ式。外周にLEDデイタイムライト、中央にXマークを配置することで、既存のネオクラシックやネイキッドとは一線を画する個性を演出している。
ハンドルバーはワイドで絞り角が少なめ。コンパクトなメーターの液晶画面に表示されるのは、速度、燃料残量、ニュートラルインジケーター、オドメーターのみで、トリップメーターはナシ。
グリップラバーはブリクストンのロゴ入りで、充電用のUSBポートは標準装備。バックミラーの後方視界はいまひとつで、ステーにもっと角度をつけたくなった。
スイッチボックスの操作性は可もなく不可もなく。右側上段に備わるスライドスイッチは、主にデイタイムライトのオンオフ用。その下にはハザード用レバーが備わる。
ダブルシートの座り心地はなかなか良好。座面がフラットなおかげで、着座位置の自由度も非常に高い。なおシートの固定はキーロック式ではなく、2本のボルトで締結。
LEDテールランプやウインカーは相当にコンパクト。荷かけフックは存在しないけれど、しっかりした造りのグラブバーはタンデムやツーリングなどで重宝しそうだ。
 
スズキから供給を受けた空冷単気筒エンジンは、12.6kw(17.1ps)/7500rpm、16.5Nm/6500rpmを発揮。クランクケースカバーにはブリクストンのロゴとXマークを刻印。
 
スロットルボディを含めたインジェクション関連部品は、デルファイとの共同開発。公称最高速は114km/hで、メーター読みでの100km/h巡航は余裕でこなせた。
ブレーキディスクはF:φ276mm/R:φ220mmで、ブレーキキャリパーは前後とも片押し式2ピストン。ABSは2チャンネル式で、作動感は非常にナチュラルだった。
タイヤサイズはF:100/90-18/R:120/80-17で、試乗車はオンオフ指向のCST・C6017を装着。マフラーはピシューター、キャブトンなどと呼ばれる昔ながらの形状。

主要諸元

車名:クロムウェル250
全長×全幅×全高:2020mm×850mm×1105mm
軸間距離:1320mm
シート高:790mm
エンジン形式:空冷4ストローク単気筒
弁形式:OHC4バルブ
総排気量:249cc
内径×行程:72.0mm×61.2mm
圧縮比:8.9:1
最高出力:12.6kW(17.1PS)/7500rpm
最大トルク:16.5N・m(1.68kgf・m)/6500rpm
始動方式:セルフスターター
点火方式:フルトランジスタ
潤滑方式:ウェットサンプ
燃料供給方式:フューエルインジェクション
トランスミッション形式:常時噛合式5段リターン
クラッチ形式:湿式多板コイルスプリング
フレーム形式:ダイヤモンド
懸架方式前:テレスコピック正立式
懸架方式後:スイグアーム・ツインショック
タイヤサイズ前:100/90-18
タイヤサイズ後:120/80-17
ブレーキ形式前:油圧式シングルディスク
ブレーキ形式後:油圧式シングルディスク
車両重量:145kg(乾燥)
燃料タンク容量:11.5ℓ
乗車定員:2名

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著者プロフィール

中村友彦 近影

中村友彦

1996~2003年にバイカーズステーション誌に在籍し、以後はフリーランスとして活動中。1900年代初頭の旧車…