R100RSから続く進化を体感。BMW R1250RSは高いツアラー性を兼ね備えたスポーツバイクだ!

現在BMWモトラッドが送り出しているモデルは多岐に渡っていますが、単気筒、並列2気筒、並列4気筒、そして象徴ともいえる水平対向2気筒と、エンジンレイアウトも豊富です。それぞれに個性があるのですが、やはり水平対向2気筒、ボクサーエンジンが味があって良いという印象を抱いている人は多いんじゃないでしょうか。そこで、ボクサーエンジンを積んだRシリーズから、ロードスポーツとして高い人気を誇っているR1250RSをロードインプレッションしてみました。

PHOTO●山田俊輔

BMW・R 1250 RS……1,884,000円~(消費税込み)

Rシリーズ最上級のスポーツモデル

RSと名付けられた最初のモデルは、1976年に登場したR100RSでした。フルフェアリングを装備したスポーティなスタイリングは、世界中に多くのファンを作り出しました。僕自身も初めて乗ったBMWバイクがR100RSでした。当時は国産の大型スポーツバイクに乗り継いでたのですが、友人のひとりがR100RSを購入。それを拝借したのですが、カウル付きのバイクに乗ったのも初めてのことだったので、シートに跨った瞬間、レーサー気分になったのを覚えています。ところが、いざ走りだしてみると、シャフトドライブのクセが強くて思ったように操作できなかったのです。後にモトグッチルマンに乗せてもらう機会があったのですが、そのときもやはりシャフトドライブの強烈なトルクリアクションに手こずりました。それまでにはシャフトドライブの国産バイクのユーザーにもなっていたのですが、比べ物にならないくらいR100RSのシャフトドライブはクセが強かったと記憶しています。

80年代に入り、僕は二輪雑誌業界に足を踏み入れることになりました。以後は毎月何台ものニューモデルに試乗することになるのですが、当然その中にはBMWも含まれます。結果的にR100RS以後、R1100RS、R1150RSと進化していくR-RSに乗る幸運に恵まれました。それからしばらくRSは姿を消し、1200となったエンジンでは、2005年にR1200ST、2006年にはR1200SがRシリーズのスポーツモデルとして君臨しました。しかし2015年にR1200RSが登場。RSシリーズが復活しました。そしてもちろん、R1200RSにも試乗することができました。R1250RSは2019年に発売を開始したのですがなかなか乗る機会に恵まれず、23年型のR1250RSに今回試乗することができたというわけです。すべてというわけじゃないのですが、R100RS以来ほとんどのRSシリースに乗ることができ、その進化を体感してきました。そうした経験から最新のR1250RSをロードインプレッションしてみました。

カウルを身にまとったボディは、スポーティではあるけれど過激な印象はありません。かつてはスーパースポーツあるいはレーシングスポーツ的な位置づけにあったRSですが、現在はS1000RRやM1000RRなどの高性能スーパースポーツがラインナップされているので、R1250RSに関しては身近なロードスポーツバイクといった役割が与えられているのかもしれません。  乗車するとそれは顕著に理解できます。シート高は820 mm (ローシート OE 装備:760 mm、スポーツシート OE 装備:840 mm)となっているのですが、シート形状およびボディとのつながりから下半身が包み込まれるような感覚で、足つき性も悪くありません。さらに高めにセットされているハンドルによってアップライトな上体が作り出され、なんともナチュラルなポジションを生んでくれるのです。252㎏と車重はけっこうあるので取り回しはラクじゃありませんが、このクラスのロードスポーツバイクとしては標準的レベルで、マイナス要素ではありません。

足つき性チェック(ライダー身長:178cm)

ツーリングスポーツモデルらしく上体がわずかに前傾するポジションとなっている。のんびりツーリングするにはもう少しハンドルが高めにセットしてあればより良いのだが、現状でも疲労の少ないロングランができるはずだ。シート高は820㎜で、身長178㎝の筆者にはちょうどいい。平均的な体格のライダーでも両足のつま先が着けられる。もし不安なら、オプションのローシート(760㎜)を装着すれば取り回し性も良くなるだろう。ステップはやや後方の高めの位置にある。そのため膝の曲がりがきつめだ。スポーツ走行には良いがツーリングには向いていない。スポーツシート(840㎜)に換装すれば解決するだろうが、足つきは悪くなる。どちらが良いかはユーザーの使い方次第というところか。

始動させると、シャフトドライブのトルクリアクションでわずかに車体が揺れますが、ほとんど気にならない程度です。このあたりも進化した部分です。ボディの右側に取り回されたマフラーからはちょっと大きめの排気音が放たれます。早朝の住宅地ではちょっとばかり気が引けるレベルですけれど、音質自体はとても耳触りが良いと思いました。

いまでは常識的な装備となっている電子制御によるライディングモードですが、最新型のR1250RSでは、DTCとエンジン出力特性を任意に設定できるダイナミックプロ、パワフルなダイナミック、スタンダードのロード、それにレインと4つのモードに加えて、新たにECOモードが追加されました。文字どおり低燃費性能に貢献するモードなので、長距離ツーリングなどでは頼もしいシステムだと思います。とりあえずはロードモードでスタートしました。アクセル開度に対して追従性が良く、エンジン回転の上がり方もフラットなのでとても使いやすいモードだと感じました。通常の走行ではロードモードに設定しておくのが最適だと思います。

ダイナミックモードでは一段とパワフルな出力特性となり、アクセルレスポンスも俊敏になります。しかしアクセルオンオフでの挙動変化は想像していたより大きくなく、ギクシャクさせることなくエキサイティングな走りが楽しめます。ワインディング走行では有効なモードです。  レインモードは文字どおり雨などで濡れた路面や滑りやすい路面状況のときにもタイヤスリップを抑制する出力特性やトラクションコントールDTCを制御してくれます。そのためアクセルを大きく開けてもいきなりトルクが立ち上がることはなく、穏やかにエンジン回転を上昇させていきます。だからといってダルな印象はないと感じました。スムーズで穏やかなパワーフィーリングは精神的に安心感を与えてくれるので、日常走行にも十分に使えるし、ツーリングでは無用に疲労を招かないんじゃないかと思います。

ECOモードも試してみたのですが、感覚的にはレインモードに近い印象で、こちらもツーリングに向いていると思いました。こうしたライディングモードの進化が安全性を高め、走りの楽しさも倍増させたのはたしかなことです。バイクはアナログだから面白いのだという意見ももちろん正しいと思います。しかし電子制御という新たなテクノロジーがどんどん導入されたことで、あらゆる点において高性能になったのも事実です。それらテクノロジーの恩恵を受けたうえで、走ることを積極的に楽しめるのがライダーの特権だと思います。

さらにこのボクサーエンジンには、BMWシフトカムテクノロジーが採用されていて、およそ5000rpmを境に出力特性が変化します。といってもパワーフィーリングが豹変するようなことはなく、低中回転から高回転への移行は非常にスムーズに行われます。結果的に、低回転で太いトルクを発生する一方、高回転では一段とパワフルに伸びのあるエンジン特性を実現しているのです。ツーリング性に重きを置きながらもスポーツモデルに分類されているのは、ときとしてアグレッシブな走りにも対応するという、そうした性格だからです。

ツーリングスポーツモデルらしく、常に高い安定性を発揮してくれるのも特徴です。ボクサーエンジンそのものがレイアウト上、低重心化に大きく貢献していることもありますが、サスペンションの設定や前後の重量配分などあらゆる要素が安定性志向の強いものにしているのです。したがって低速走行でもふらつくようなことは一切ありませんし、もちろん高速走行でも抜群の直進安定性を見せてくれます。

ハンドリングに関しても非常に素直で扱いやすい特性を実現しています。安定性志向だとハンドリングが重いというイメージがありますが、そういう観点からいえば軽快なハンドリングだといえると思います。低重心設計で車重もそれなりにあるので俊敏に身を翻すというタイプじゃないのですが、バンキングはつねにスムーズに追従してくれ、コーナリング性のレベルも高いと感じます。おそらく日本のタイトなワインディングもそれほど苦にしないと思います。

BMWはやはりボクサーエンジンがいいと心酔しているライダーも多いと思います。バイクの高性能化が進む過程では、その存在が危ぶまれたこともありました。しかしBMWはその灯を絶やすことなく、さらに時代のニーズに応えるように進化熟成させました。昔に比べて希薄になったとはいえ、鼓動を感じさせるボクサーエンジンは、パワーフィーリングも含めて魅力的だと改めて実感しました。R1250RSは現行モデルの中で、もっとも信頼性が高くファンライドを可能にしてくれるツーリングスポーツモデルです。

ディテール解説

空水冷水平対向DOHC2気筒エンジンは可変インテークカムシャフトコントロールBMWシフトカムを採用。全域でトルクフルな出力特性を実現している。ボクサーエンジンはBMWを代表するエンジンだが、妥協することなく進化を続けている
以前はテレレバーという独自のフロントサスペンション、ステアリングシステムを採用していたが、現在はテレスコピックの倒立フォークが装備されている
リアサスペンションはアルミ鋳造製片持ち式スイングアームを持つパラレバー。中央部にモノショックを装備する。電子制御サスペンションシステムであるダイナミックESAを採用している。サスペンションストロークは、フロント、リアともに140㎜だ
2ピストンフローティングキャリパー装備のリアディスクブレーキ。ローターはリジッドマウント
4ピストンラジアルマウントキャリパーを搭載したフロントダブルディスクブレーキ。ローターはフローティングマウント。パーシャリーインテグラルABSを装備する
デイライトを装備したLEDヘッドライト
テールランプもLEDを採用。小型ウインカーもすべてLEDだ
ウインドスクリーンは可動式で、手動ながら2段階に高さ調整できる。写真は低い位置にセットしたスクリーン
寒冷時や雨天時には高い位置にスクリーンをセットすれば快適性がアップする
ステアリングヘッド上部にセットされたハンドルは、上体がやや前傾するポジションをもたらすが、操作しやすい幅と高さを実現している
6.5インチのTFTカラー液晶ディスプレイ。多彩な表示機能を持っていて、車両の状態もすべてディスプレイ表示で確認できる
最近はスマホナビを使うライダーが多いが、バイク用ナビが装備してあるのはやはり便利
左手にさまざまな機能を切り替えられるスイッチ類を集約
右手にもモード切り替えなどのスイッチが並ぶ
セパレートタイプのシートが装備。フロントシートは自由度が大きい。オプションでローシート、スポーツシートも選べる
後部にはグラブバー付きリアキャリアが装備してあり、アクセサリー用品のトップボックスが装備できる
シート下には電装品が収納されていて、ETC2.0車載器も後部のスペースに装備されている
リアシートの裏側にドライバーやレンチなどの車載工具が装備してある

主要諸元

●エンジン
最高出力100 kW (136 PS) / 7,750 rpm
エミッション制御三元触媒コンバータ
タイプ空水冷水平対向2気筒4ストロークエンジン、平歯車駆動DOHC、バランスシャフト、可変インテークカムシャフトコントロールBMW ShiftCam 付き
ボア x ストローク102.5 mm x 76 mm
排気量1,254 cc
最大トルク143 Nm / 6,250 rpm
圧縮比12.5 : 1
点火 / 噴射制御電子制御式インテークパイプインジェクション / デジタルエンジンマネージメントシステム:BMS-O、スロットル・バイ・ワイヤー
排ガス基準EURO 5


●走行性能 / 燃費
WMTCに準拠した1Lあたり燃料消費率(1名乗車時)21.05 km/L
燃料種類無鉛プレミアムガソリン(最大15%エタノール、E0/E5/E10/E15)、95 ROZ/RON、90 AKI
WMTCに準拠したCO2排出量110 g/km
最高速度200 km/h 以上 (ケース OA 装備、トップケースOA 装備:180 km/h)

●電装関係
オルタネーター永久磁石式オルタネーター、508 W
バッテリー12 V / 12 Ah、メンテナンスフリー

●パワートランスミッション
クラッチ湿式多板、アンチホッピング
ミッション常時噛み合い式ヘリカルギア6速トランスミッション
駆動方式ベベルギヤ付きシャフトドライブ


●サスペンション / ブレーキ
フレームスチールチューブフレームとドライブユニット、スチールパイプリヤフレーム
フロントサスペンション倒立式テレスコピックフォーク
リアサスペンション鋳造アルミニウム製片持ち式スイングアームとBMW Motorradパラレバー、コイルスプリング付きセントラルスプリングストラット、調整式リバウンドダンピングおよびスプリングプリロード。 (Dynamic ESA OE 装備:ESA2 スプリングレート調整付き)
サスペンションストローク、フロント/リア140 mm / 140 mm
軸距1,530 mm
キャスター114.8 mm
ステアリングヘッド角度61.7°
ホイールアルミキャストホイール
リム(フロント)3.50" x 17"
リム(リア)5.50" x 17"
タイヤ(フロント)120/70 ZR17
タイヤ(リア)180/55 ZR17
ブレーキ(フロント)4 ピストンラジアルブレーキキャリパーを搭載した油圧式ダブルディスクブレーキ。ブレーキディスクはフローティングマウント式
ブレーキ(リア)2 ピストンフローティングキャリパーを装備した油圧式ディスクブレーキ。ブレーキディスクはリジッドマウント
ABSBMW Motorrad Integral ABS Pro(パーシャリーインテグラル、リーンアングル最適化)

●寸法 / 重量
シート高、空車時820 mm (ローシート OE 装備:760 mm、スポーツシート OE 装備:840 mm)
燃料タンク容量18 L
リザーブ容量約4 L
全長2,200 mm
全幅790 mm
車両重量(ドイツ工業規格DIN 空車時、走行可能状態、燃料満載時の90%、オプション非装備)243 kg
許容総重量460 kg
最大積載荷重(標準装備の場合)217 kg
インナーレッグ曲線、空車時1,840 mm (ローシート OE 装備:1,720 mm、スポーツシート OE 装備:1,875 mm)
全高1,340 mm
車両重量(日本国内国土交通省届出値、燃料100%時)252 kg (リアキャリア装着:256 kg)

標準装備

●プレミアムライン
・コンフォート パッケージ
キーレスライド
デザインオプションサイレンサー
エキゾーストパイプ クロム仕様
グリップヒーター
タイヤ空気圧センサー

・ツーリング パッケージ
ナビホルダー
クルーズコントロール
メインスタンド
インテグラルケースホルダー

・ダイナミック パッケージ
ダイナミック エンジンブレーキ コントロール
ダイナミック ESA
ギアシフトアシスタント プロ
ライディングモード プロ
・シートヒーター

※下記のカラーに追加される装備
ブラック・ストーム・メタリック
・タンクカバー ピュア
・エンジンスポイラー

 

ベース
(カラー:ライト・ホワイト)
・ダイナミック エンジンブレーキ コントロール
・ライディングモード プロ
・グリップヒーター
・インテグラルケースホルダー
 
※すべての仕様は2人乗り仕様
※3年保証、ETC2.0を標準装備

キーワードで検索する

著者プロフィール

栗栖国安 近影

栗栖国安

TV局や新聞社のプレスライダー、メーカー広告のモデルライダー経験を持つバイクジャーナリスト。およそ40…