目次
ホンダCL500……863,500円(消費税込み)
「250と同じサイズ」という絶対的安心感
CLの250はレブルよりは一回り大きい車格を持つも、万人に薦められるサイズ感&重量感をもつ、新たな250ccのスタンダード的な位置づけで既に好評である。良い意味で押し付けてくるような個性を持たず、ファッション感覚で乗っても、はたまたバイク便的にビジネスユースとして活用してもフトコロ深く応えてくれる一台、是非とも今回比較試乗した250cc版のインプレッションも読んでいただければ幸いだ。
対して500cc版だが、こちらは排気量が222cc大きく、パワーが22馬力多く、トルクは2.1kg-m大きく重量は20kg重い。さらに400cc以上のため大型自動二輪免許が必要で、価格も24万2000円高いという設定。パワーの面では圧倒的有利だが、重量増や大型自動二輪免許の必要性、また跳ね上がった価格などはハードルになるだろう。
ただ嬉しいのは車体のサイズ感そのものは250とほぼ同等ということだ。重量増のほとんどはエンジンに起因することであるため、その重さは車体の重心に近くしかも低い位置にあり、乗っている時には20kgも重くは感じない。また車体右側にクランクケースが250よりも大きくはみ出ているため足をつくときにそこにスネが当たることに注意する場面はあったものの、基本的に足つきや取り回しにおいて「250と同じ」というのが安心だ。体格/体力的に大型自動二輪免許が必要なバイクは敬遠していた人でもCL250に乗れればCL500も乗れると考えて良いだろう。
CLの250についてはそちらの記事で「レブルと比べると大柄なため、不安のある人は実車のサイズ感を確認した方がいいかも」と書いたが、CL500となると比較対象が大型バイクとなるため、同じサイズでも「500ccのバイクとしてはかなり小柄で手に余ることはないだろう」という印象となった。
足つき性チェック
20kgが信じられない
シンプルに「およそ倍の排気量」という部分が印象として強いが、しかし重量が20kgも増えているということの方がちょっと不安要素に思うことだろう。ところが押し歩きから低速での取り回しなどでもこの重量増を感じることは少ない。確かに250よりも安定感があるというか、しっとりした感じはあるが、しかしスリムな車体やハンドル切れ角は250と同じということもあって「20kgも重い!」という感覚はない。
そしてそれは走り出しても同様だ。エンジンがとても良くできていて、極低回転域から素直なトルクがどんどん湧き出てくるおかげで、このルックスながら「けっこう速いぞ!」と思わせる加速を持っている。確かに重くはなったのだろうが、それでも車体に対してエンジンが完全に勝っている印象で、重量増を帳消しどころかむしろ余りあるパフォーマンスを持っていると言えるだろう。20kgも重いのにストリートでのキビキビ感も250版以上である。
逆に重量増が良い方に作用していると感じる場面もある。まずは高速道路。エンジンに余裕があるということもあるが、ドシッとラインを守って100~120km/hで走り続ける能力はとても高く、その時に外乱に強いのはある程度の重量によるものだろう。
そして意外にも好印象だったのはオフロードでの走りだ。不整地では重量は敵になりそうなものなのに、CL500はむしろ250以上に安心して路面を踏みしめていく感覚があった。というのも、250は軽量で砂利ダートの上をかすめていくような感覚があったのに対し、500はサスが良く動き、ちゃんとトラクションがかかっているのを感じやすかったのだ。不整地でのUターンなどでは250比で重量は確かにあるものの、「走破する」ということにおいては(エンジン特性に助けられている部分も大きいが)むしろ250よりも安心感/安定感が高かったような印象がある。
エンジンが絶品!
250との大きな違い、というか唯一の違いとも言えるエンジン。レブル500系列であり、国内で言えばCBR400Rや400Xといったバイクに400cc版が積まれた、あのパラツインユニット。CL500ではレブル500よりもわずかにファイナルをショートに振って活発な印象が与えられている。
これが本当に良いのだ! 今はやりの、Vツイン感を演出する270°クランクではなく昔ながらの素直な180°クランクという所がまずは素直でとっつきやすいし、シングルである250に対してやはりツイン、安定感が段違いにあり極低回転域から粘りに粘る。そして中回転域、高回転域とどこまでも素直に直線的にパワーが出続け、500ccとしてはコンパクトな車体を思いのままに加速させてくれる。
この極上フィーリングは排気量増大/多気筒化によるアドバンテージ以上のものがあるように感じる。エンジンのマネジメントが250よりも段違いの高いレベルで行われている感覚があり、ルックスこそ250と共通ながらそのフィーリングは大排気量高級車と同じ、しっかりと作り込まれたものなのだ。決して250のエンジンがダメというわけではないが、この500の素晴らしいフィーリング、妥協なき作り込みを知ってしまうと、250は排気量やコストの制約の中で頑張って導き出したバランスであり、CL(及びレブルも)が本当に表現したかったバランスはコッチなのではないか、と思わせられた。この違いを体験してしまうと24万円以上も高い価格にも納得してしまうほどだ。
250ができることはだいたいできる
こうベタ褒めしてしまうと、「そうはいっても250の方が有利な場面があるでしょう?」とアラ探しをしたくなるが、何度も交互に乗り換えて味わってみても、いや、ここは500の素晴らしさがただただ光るばかりだった。
確かに250には250の良さはある。事実として20kgも軽いのだ、車庫から引っ張り出すだとか、登り坂を押すだとか、もしくは倒してしまった状態から起こすといった、エンジンがかかっていない状態での操作は重量と直結するわけで、そういった場面では軽さは正義だ。もちろん、車検がないということで維持費の面でも気が楽という面もあろう。
ただ、こと走りについては、街中の低速域でさえ500の方が頼もしく、気兼ねなく、上質であり、排気量が大きい分による付き合いにくさはない。加えて先述したように高速道路では直接その排気量差が出るし、ワインディングでは登りも下りも関係なくパワフルで万能で、かつハイペースも可能。より排気量の大きいバイクとツーリングに行っても、常識的なツーリングシーンで後れを取るようなことは考えにくい。
さらに驚いたのは不整地でもこの500がとても良かったのだ。CLはキャンプサイトに続く砂利道や未舗装林道といったオフロードは想定されているようだが、基本的に「オフ車」ではないわけで、現実的に入っていく未舗装路は獣道系ではなく四輪の四駆車が入っていけるレベルのところだろう。そのレベルの未舗装路ならば、重量的には不利でもとても安定した、使いやすいトルクがある500のエンジンがこれまた活きるのである。
不整地では特に、ちょっとしたトラクション感や、ちょっとした車体の姿勢をアクセルで作り出すような場面が出てくることも多いのだが、250では絶対的パワーが限られていることや、250版のインプレッションにも書いたように各回転帯で表情が変わったりすることもあって、ちょっと気を付けるような場面があったのに対し、500はとにかく素直なトルクが右手に直結していつでも発揮されるため、ダート路面を蹴り出してフロントの荷重を抜くのも、ちょっとした向き変えでリアを少しだけ振り出すのも思いのまま。重量が増えたおかげかトラクション感も優秀で、ドルドルッ!と元気に突き進めてしまうのだ。
500ができること
250ができることはだいたいできてしまったうえで、さらに魅力がプラスされていることと言えば、パワーの余裕のおかげで重積載やタンデムでの長距離走行が現実的になることだろう。豊富なアクセサリーパーツにも用意されている各種キャリア類を装着すればかなりの重積載も可能だろうし、トルクフルで扱いやすいエンジンと、タンデムシート部と段差が少ないがゆえに一体感の高いダブルシートのおかげでタンデムも余裕のはずだ。
もう一つの可能性としては、ここまで大きくなって、同時にいくらか行き詰まりを感じないでもないアドベンチャーブームの代わりとしての立ち位置だ。レブル比では高くなったシート高ではあるが、アドベンチャーモデルに比べれば低いし車体のサイズ感にも威圧的要素はない。アドベンチャーモデルに比べれば価格もずいぶんと優しいし長距離ライドで苦にならない車体構成をしているCL500はアドベンチャーからの乗り換えとしても良いポジションだろう。
「色んなバイクに乗ってきて、もう何にしていいのかわからなくなっちゃった」といったベテランにも寄り添える優しさと万能性がしっかり備わっているのもまた、CL500の魅力なのだ。
ちょっと無理してでも
既に人気になっているCL250は、CL250のインプレで書いたように、極スタンダードとして必要なラインナップであり、間口の広さ、フトコロの深さなど、全肯定したいニューモデルである。ただそれを理解した上で、この500の素晴らしさもまた理解したい。
ストリートユースだけでなく、もうちょっと趣味的な使い方がしたい人、もしくは高速道路も使って遠くに行きたい人、タンデムをしたい人、仲間が大型バイクばかりの人、バイクの酸いも甘いも知ってる人、そんな人は24万円ほどの価格差は少なくないものの、それでもちょっと無理して500を買うと良いと思う。それだけ500は確かな充実感/満足感を提供してくれる乗り物なのだ。
ディテール解説
主要諸元
車名・型式ホンダ・8BL-PC68 全長(mm)2,175 全幅(mm)830 全高(mm)1,135 軸距(mm)1,485 最低地上高(mm)★155 シート高(mm)★790 車両重量(kg)192 乗車定員(人)2 燃料消費率*1(km/L)国土交通省届出値 定地燃費値*2(km/h)43.0(60)〈2名乗車時〉 WMTCモード値★(クラス)*327.9(クラス 3-2)〈1名乗車時〉 最小回転半径(m)2.6 エンジン型式PC68E エンジン種類水冷4ストロークDOHC4バルブ直列2気筒 総排気量(cm³)471 内径×行程(mm)67.0×66.8 圧縮比★10.7 最高出力(kW[PS]/rpm)34[46]/8,500 最大トルク(N・m[kgf・m]/rpm)43[4.4]/6,250 燃料供給装置形式電子式〈電子制御燃料噴射装置(PGM-FI)〉 始動方式★セルフ式 点火装置形式★フルトランジスタ式バッテリー点火 潤滑方式★圧送飛沫併用式 燃料タンク容量(L)12 クラッチ形式★湿式多板コイルスプリング式 変速機形式常時噛合式6段リターン 変速比 1速3.285 2速2.105 3速1.600 4速1.300 5速1.150 6速1.043 減速比(1次★/2次)2.029/2.733 キャスター角(度)★27° 00′ トレール量(mm)★108 タイヤ 前110/80R19M/C 59H 後150/70R17M/C 69H ブレーキ形式 前油圧式ディスク(ABS) 後油圧式ディスク(ABS) 懸架方式 前テレスコピック式 後スイングアーム式 フレーム形式ダイヤモンド ■道路運送車両法による型式指定申請書数値(★の項目はHonda公表諸元) ■製造事業者/本田技研工業株式会社 *1 燃料消費率は、定められた試験条件のもとでの値です。お客様の使用環境(気象、渋滞等)や運転方法、車両状態(装備、仕様)や整備状態などの諸条件により異なります。 *2 定地燃費値は、車速一定で走行した実測にもとづいた燃料消費率です。 *3 WMTCモード値は、発進、加速、停止などを含んだ国際基準となっている走行モードで測定された排出ガス試験結果にもとづいた計算値です。走行モードのクラスは排気量と最高速度によって分類されます。WMTCモード値については、日本自動車工業会ホームページもご参照ください。 ※本仕様は予告なく変更する場合があります。 ※PGM-FIは本田技研工業株式会社の登録商標です。 ※この主要諸元は2023年3月現在のものです。