【ヤマハ・MT-125試乗記】ヤマハらしい自在なハンドリングが楽しめる、これぞ街の遊撃手だ

2023年の10月から12月にかけて、ヤマハからプラットフォームを共有する原付二種および軽二輪のMTスポーツモデル4機種がリリースされた。すでに東京モーターサイクルショーやジャパンモビリティショーなどで一般公開されていたもので、首を長くして待っていたファンも多いはず。今回は4台を一堂に揃えて一般公道を試乗したので、まずは最も安価な設定のMT-125から試乗インプレッションをお届けしよう。

REPORT●大屋雄一(OYA Yuichi)
PHOTO●山田俊輔(YAMADA Shunsuke)

ヤマハ・MT-125 ABS……495,000円(2023年11月10日発売)

伝統のデルタボックスを名乗るスチール製ツインスパーフレームに、可変バルタイ機構VVAを採用する水冷シングルを搭載。このプラットフォームを共有する形で、MT-125、XSR125、YZF-R125、YZF-R15が設計されている。なお、海外ではYZF-R125が最も古くて2008年、このMT-125も2014年に初登場しており、いずれのモデルも日本導入までの期間が非常に長かったことになる。
写真のカラーリングはディープパープリッシュブルーメタリックCで、このほかにマットダークグレーメタリック8、パステルダークグレーを用意。いずれもフォークのアウターチューブはゴールド、フレームとスイングアームはブラックだが、ホイールの色はそれぞれで異なる。

可変バルタイ機構VVAはシームレスに切り替わる

ホンダのCT125・ハンターカブが売れに売れている。国内の原付二種(125cc)クラスでは、売り上げランキングにおいて常にスクーターのPCXとトップを争うほどで、さらに付け加えると、そのすぐ下にはスーパーカブ110やクロスカブ110、ダックス125などが名を連ねている。原付二種と言えば、通勤通学向けのスクーターの需要が高いと思われがちだが、今や人気を二分するほど趣味性の高いマニュアルミッション車が好調なのだ。

そんな需要の変化を受けて、ついにヤマハが重い腰を上げた。2023年10月から立て続けに発売された4モデル(YZF-R125、YZF-R15、MT-125、XSR125)は全てインドネシア製で、以前から海外ではエントリーモデルとして人気が高かったのだ。なお、YZF-Rがそうであるように、MTやXSRにも155ccのバリエーションモデルが存在するが、今回のタイミングでの導入は見送られている。

まずはMT-125のエンジンから。形状こと全く異なるものの、ボア×ストローク値(φ52.0×58.7mm)はスクーターのNMAXやシグナス グリファスらが搭載するブルーコアエンジンと共通だ。付け加えると、可変バルブタイミング機構のVVAも採用しており、異なるのはハイカムへの切り替えが6,000rpmではなく7,400rpmということだ。なお、MT-125の最高出力は、EUのA1ライセンスで乗れる上限の11kW(15ps)/10,000rpmとなっている。

ギヤをローにシフトし、ゆっくりとクラッチミートする。CT125・ハンターカブに代表されるホンダの横型エンジンとは対照的で、低回転域からトルクフルというわけではないが、それでも過不足なくスルスルと発進できる。裏路地のようなタイトな道では、ぜいぜい6,000rpmまでしか回せないが、それでもキビキビと加減速できるほか、不快な微振動の少なさは特筆に値するレベルだ。

片側2車線の道路に入り、スロットルを大きく開ける。すると、微振動の少なさはそのままに、レッドゾーンの始まる1万1000rpmを目がけて力強く伸び上がっていく。その途中に、ローカムからハイカムへと切り替わる7,400rpmを通過するが、ホンダのVTECのように過剰な演出があるわけではなく、加速フィールの変化は極めてシームレスだ。

車重はCT125・ハンターカブより20kgも重いが、さすがに15psを発揮するだけあって(ハンターカブは9.1ps)、スロットルを開けた分だけスルスルと加速する。そして、10%を超えるようなきつい上り坂でも、3速2,000rpmからでもぐずらずに進めるだけのフレキシブルさも持ち合わせている。アシスト&スリッパークラッチを採用しているのでレバーの操作力が軽く、シフトフィールも非常にスムーズ。実に完成度の高いパワーユニットと言えるだろう。


ライダーの操作に対して忠実に従うハンドリング

続いてはハンドリングだ。基本的には、視線を送っただけでバイク任せで向きを変えるようなイージーなタイプではなく、あくまでライダーによる操縦を主とした特性となっている。逆操舵やステップワークなどを通じて、乗り手はさまざまな指令をバイクに送っているわけだが、その反応が実に瑞々しく、これぞ「ヤマハハンドリング」といった印象だ。

このMT-125、真横から撮影したライディングポジションの画像を見てもらえば分かるように、ライダーの乗車位置が前寄りとなっている。共通プラットフォームのYZF-R125よりも上半身がアップライトになる分、積極的に前輪荷重を稼ぐためにこのような着座位置にしたのだろう。街乗りではやや後退気味に思えたステップ位置も、ワインディングロードに入るとピタリと決まり、思わずヘルメットの中でニヤリとする。また、そうしたハイペースのライディングにおいて、ニーグリップエリアのフィット感も素晴らしく、攻めるほどに開発者の狙いが伝わってくるのだ。

ブレーキもいい。バイブレ製のキャリパーによる優れたコントロール性に加え、倒立式フォークを含むフロント周りの剛性の高さにより、コーナーの進入から狙ったラインに乗せやすいのだ。サスペンションについては、試乗車が真新しいこともあってまだ動きに渋さはあったものの、とはいえリヤはさすがにリンク式だけあり、旋回中にギャップを拾ったときの振る舞いがいい。

最後に1点だけ。このMT-125の標準装着タイヤはIRCのRX-01で、これはYZF-R125やR15と共通というだけでなく、メーカーを問わず125ccや250ccクラスの多くのモデルに採用されている、言わばキング・オブ・スタンダードという位置付けの銘柄だ。つまり、あまりにも見慣れているので気にせず走り出したのだが、ウェットパッチが残る峠道に入った途端、やや接地感が薄いように感じたのだ。調べてみると、今回発売された4モデルのうち、このMT-125だけフロントの指定空気圧が250kPa(他は225kPa。リヤは250kPaで4車共通)と高く、その影響があるのかもしれない。なお、それ以外のシチュエーションでは全く問題なかったのでご安心を。

車両価格は、CT125・ハンターカブの44万円に対し、MT-125は約1割高の49万5000円。キャラクターが全く異なるので比較対象にはならないだろうが、若いエントリーユーザーがギリギリ手の届く価格帯と思われ、MT-125はそんな彼らへ素直にお勧めできる良作なのは間違いない。


ライディングポジション&足着き性(175cm/65kg)

着座位置が前寄りになるため、ハンドルが近く、ステップが後退気味に感じられるライディングポジション。
ライダーが積極的にフロント荷重しやすい設定だ。シート高は810mmで、身長175cmの筆者でどうにか両かかとが接地する。

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