スロットルワイヤー変更で60g減、燃料タンクで200g減。ほぼフルモデルチェンジの2024年型YZ250-Fを試乗!

24年モデルのターゲットカスタマーは「勝利を渇望する若きレーシングライダー」「少しでも上手くなりたい週末エンジョイライダー」となっている。そのため車体サイズと重量を小さく軽くアップデートし、全回転域でリニアなパワーが得られるエンジン特性とした。
つまりコンパクトで軽い車体に進化し、エンジンにも大幅に手が入っているのだ。

REPORT●村岡 力
PHOTO●山田俊輔
ヤマハ・YZ250F

ヤマハ・YZ250F……940,500円(消費税10%を含む)

ヤマハ・YZ250F
通常カラーの24年モデル。現在ではこのヤマハブルーがイメージにピッタリ。
ヤマハ・YZ250F
フラットになったシートなど進化は止まらない。
ヤマハ・YZ250F
このレーサー然としたスタイリングがたまらなくカッコイイ!
ヤマハ・YZ250F
YZ誕生50周年アニバーサリーカラー。1993年のYZ125/250をオマージュしたもの。
ヤマハ・YZ250F
同じく50周年アニバーサリーカラー。

2024年モデルではほとんどフルモデルチェンジと言えるような改良が加えられている。まず細部にわたる軽量化については、スロットルワイヤーで60g、電装ハーネスとスイッチで200g、エアクリーナーで220g、燃料タンクで200g、リヤフレームで200g、チェーンガイドで80g、フットレスト(フットレスト本体ではなくブラケットで)220gのマイナスとなっているのだ。ただしメインフレームはねじれ剛性の改良や形状変更、部材の変更、エンジン懸架変更などによって300g重量増になっている。トータルで1kgの軽量化となり、装備重量は105kgとなった。

エンジンに関しては、低中速回転域の性能を維持しつつ高回転域の性能向上。カムチェーンなどの信頼性向上などを果たしている。
具体的にはエアクリーナーボックスは23年モデルのYZ450Fの構造を踏襲し、前側吸気孔追加と立体エレメントの採用で通気抵抗を約30%低減している。
カムチェーンはチェーン幅を1.49mm広くし、スプロケットとの接触面圧を約10%低減することで耐硬直性を向上。チェーン背面の表面処理を変更してフリクションロスを約30%低減している。それにともなってカムスプロケットとダンパーチェーンを新作とした。
吸気バルブは疲労強度を向上させ、耐久性をアップ。耐熱性を向上したスターターモーターリード線を採用した。
燃料噴射も変更されている。噴射タイミングの最適化により、高回転域の性能向上とスムーズなオーバーレブ特性。ECUセッティングをより細密化し、ライダーのイメージとリンクしたパワーデリバリーを演出している。ローンチコントロールシステムを新採用し、レブ制御、出力コントロールによって安定したスタートをサポートしている。またトラクションコントロールも新採用し、滑りやすい路面でのパワーロスを防ぎライディングをサポートする。

車体周りでは、シームレスとスリム化そしてコンパクトにしてライディングの自由度が向上。シートはよりフラット化し、加速時のストッパー形状も採用している。リヤブレーキはあえてホースの剛性を落とし、コントロール性を向上させた。
前後のサスペンションはトラクションとバンプ吸収性の向上。そして手回し圧減衰アジャスタとしてセッティングを簡単に変更出来るようになった。

これらによって戦闘力が大きく向上して勝てるマシンになったということだ。

足つき性チェック

ヤマハ・YZ250F
完全なレーサーなので足つき性は特に気にしないが、それでも何とか両足の爪先は着く。身長172cm体重85kgだがサスペンションはほとんど沈み込まない。
ヤマハ・YZ250F
ライポジはこんな感じで、至極自然なもの。体の動きに邪魔になる物は一切無く、スリムとなった車体と一体感は非常に大きい。

それでは試乗する。股がるとシート高は高くてエンデューロマシンよりも硬いセッティングのサスペンションによって、ほとんど沈み込まず足つき性はよろしくない。最も完全なモトクロッサーなのでこれは問題とはならない。走り出してすぐに感じるのは「硬い」ってこと。これは速度域が低いとサスペンションが余り動かないこともあってゴツゴツと路面からのショックがもろに伝わってくるから。
またエンジンのレスポンスがめちゃくちゃシャープなので、それに慣れていない体や頭が付いてこないってこともある。徐々に全体的な走りに慣れてくると「おおー何という速さ!」って思う。

ヤマハ・YZ250F
トラクションコントロールオフだと、荒いアクセルワークでは簡単に滑り出すが。だからといって暴れてしまったりすることは無かった。
ヤマハ・YZ250F
コーナリングは倒し込み軽く、また自然な操縦性なので狙ったラインに乗せるのは簡単である。
ヤマハ・YZ250F
素晴らしいレスポンスのエンジン。伸びも素晴らしいので登り坂も楽々だ。

エンジンについてもう少し感想を述べると、とにかく元気でアクセル操作と反応は完全に一致。あやふやなところが全く無く、思い切りダイレクトなのだ。最初、うわぁーとなってもそもそ走ろうもんなら極低回転でのトルクが小さいのと粘りは余り無く、クラッチ操作を誤るとあっさりエンストする。
最もそんな走りをするマシンではないし、ある程度回転が上がっていれば吹っ飛んで行く。改良された中速域から高速域となると、それはそれは超絶パワフル! バルブサージングなんてこのエンジンには無いのでは?と思うほど伸びて行くし、それでいてかっぽじる事が無く前に前に加速する。250ってこんなにパワフルだっけ?と思う瞬間である。
何しろレスポンスがシャープなので、体が遅れてしまうとフロントが浮いて来るか押さえが効かずに暴れてしまう。とここで車体がスリムでフラットになったシートなどにより、車体にピッタリフィットしてニーグリップを意識しなくても自然と押さえられ、また押さえるために体を前に移動させるのも楽ということに気づいた。
こうなるとアクセルを開けられる。開ければ開けるほど車体は安定して飛んでいく。と言っても筆者レベルではレーシング速度まではいかないが。

それでも速度が上がるほどにサスペンションも良く動いてくれて、意外にも車体は安定してくれるのだ。開けている時でも、ブレーキングしている時でもラダーからの入力に素直に反応して曲がってくれるのが素晴らしい。そんなに大ジャンプはしていない(出来ない)が、体重が重い筆者なので着地ではほぼフルストロークした。しかし、跳ね返りや左右に振られるなんてことは皆無であった。自分なりに思い切り飛んでも安心していられるサスペンションの出来は素晴らしい!
曲がる事に戻るが、これはフレームのねじれ挙動をチューニングした効果が現れているのだろう。私レベルでも分かるほどに曲がるし、荒れた路面でも回頭性が素直で狙ったラインに乗ってくれたから。

ブレーキの効きは高く、握り具合でロックまで感覚が伝わるコントロール性の良さもある。あえてホースの剛性をダウンさせたリヤブレーキも、プアな感じはまるで無く効きは強力であった。ロックするまでの踏み具合がより分かりやすくなったという感じ。
短い試乗時間なので、トラクションコントロールのオン・オフなど試せていないが渡されたオフのままでもグリップ性能は高かったし(路面はドライ)、不意にリヤが流れたりもしなかった。
全体的な印象はもう完璧なるレーサー!勝利を目指す若きレーシングライダーには最高のマシンだが、週末エンジョイライダーの中でも初心者にはちょっと過激過ぎるとも思う。ある程度経験があってそこそこ走れるライダーなら、上達するためには素晴らしいマシンだろう。

ここ数年エンデューロマシンには相当数乗っているが、やはり完全なモトクロッサーは一段上の性能と感じた。のんびりトコトコならどんなコースでも走れるでしょ。なんて感覚では振り回されると思う。それなりの速度で走らないと活かせないと思う。そんなYZ250Fの2024年モデルであった。

ディテール解説

ヤマハ・YZ250F
フロントブレーキは大径ウェーブディスクに2ポッドのピンスライド式キャリパー。効きもコントロール性も抜群だ。
ヤマハ・YZ250F
DOHC4バルブ後方排気燃料噴射という基本構成は変わらずだが、細部にまで改良されよりパワフルで戦闘力の上がったエンジン。
ヤマハ・YZ250F
エンジン左側。後傾したシリンダーは、後方排気で前側上方からの燃料噴射となる。エキゾーストパイプはシリンダーをぐるりと周り、管長を稼いでいる。
ヤマハ・YZ250F
写真ではわかりづらいと思うが、スポークの組み方が6本組となり、交差する部分が旧モデルより増えている。これで強度があがりしなやかさも向上している。
ヤマハ・YZ250F
トラクション、バンプ吸収性向上。手回し圧縮アジャスタとなり実戦でのセッティングが簡単に出来るようになったフロントフォーク。
ヤマハ・YZ250F
幅広のステップは安定性抜群。そしてブラケットがアルミ化され片側で110gの軽量化。
ヤマハ・YZ250F
ニッシンのリヤブレーキマスターシリンダーはリザーブタンク一体型で軽量。リヤサスペンションリンクはボトムリンク式でプログレッシブ特性を持つ。
ヤマハ・YZ250F
アルミスイングアームは今や当たり前の装備。軽量でありながら高強度となっている。
ヤマハ・YZ250F
ドライブスプロケットには保護カバーと、もしもチェーンが外れた時に暴れないプレートも。クラッチレリーズ機構は破損しにくいミッション上にある。
ヤマハ・YZ250F
新形状のエアクリーナーボックスと立体エレメントを採用。
ヤマハ・YZ250F
よりフラット形状となったシート。加速時のストッパー形状でもある。
ヤマハ・YZ250F
ハンドルはテーパー。これも今時は標準装備だ。エアクリーナーの交換はシート先端のスナップを回すと簡単に出来るようになっている。
ヤマハ・YZ250F
左側のスイッチは、トラクションコントロール(右上)とマルチファンクション(左下)となっている。四角いのは状態を示すLEDランプ。
ヤマハ・YZ250F
右側スイッチはセル。そして軽量となったスロットルワイヤーは勿論強制開閉式。
ヤマハ・YZ250F
リヤサスペンションユニット。セッティングは固めだが、動きはスムーズである。ボトムした時のショックも少ない。
ヤマハ・YZ250F
今時のリヤタイヤは19インチが標準。グリップ力は高く操縦性も素直だ。
ヤマハ・YZ250F
2024年モデルのカムチェーンがこれ。幅が23年モデルの5.1mmから1.49mm広い6.59mmとなり、耐久性の向上やフリクション低減を実現している。
ヤマハ・YZ250F
左が2024年モデルのエアクリーナーボックス。
ヤマハ・YZ250F
右が2024年モデルのチェーンガイドで、軽量化が図られている。
ヤマハ・YZ250F
ブラケットはアルミとなり、両方で゙220gの軽量化となった。

ヤマハ・YZ250-F/主要諸元

ヤマハ・YZ250-F
車体打刻型式/原動機打刻型式:CG51C/G3L4E
全長/全幅/全高:2,180mm/825mm/1,275mm
シート高:970mm
軸間距離:1,475mm
最低地上高:350mm
車両重量:105kg
原動機種類:水冷, 4ストローク, DOHC, 4バルブ
気筒数配列:単気筒
総排気量:249㎤
内径×行程:77.0mm×53.6mm
圧縮比:13.8:1
始動方式:セルフ式
潤滑方式:ウェットサンプ
エンジンオイル容量:0.95L
トランスミッションオイル量:-
オイルタンク容量:-
燃料タンク容量:6.2L(無鉛プレミアムガソリン指定)
吸気・燃料装置/燃料供給方式:フューエルインジェクション
点火方式:TCI(トランジスタ式)
バッテリー容量/型式:12V, 2.4Ah(5HR)/BR98
1次減速比/2次減速比:3.352(57/17)/3.846(50/13)/
クラッチ形式:湿式, 多板
変速装置/変速方式:常時噛合式5速/リターン式
変速比:
 1速:2.142(30/14) 
 2速:1.750(28/16) 
 3速:1.444(26/18) 
 4速:1.222(22/18) 
 5速:1.041(25/24)
フレーム形式:セミダブルクレードル
キャスター/トレール:26° 55′/119mm
タイヤサイズ(前/後):80/100-21 51M(チューブタイプ)/110/90-19 62M(チューブタイプ)
制動装置形式(前/後):油圧式シングルディスクブレーキ/ 油圧式シングルディスクブレーキ
懸架方式(前/後):テレスコピック/スイングアーム(リンク式)
乗車定員:1名

村岡 力/プロフィール

1956年生。

70年代スタントマンから雑誌業界へ入り、ずっとフリーランスのライター&カメラマン。2輪メインですが4輪もし時々航空関係も。モータースポーツは長年トライアル1本で元国際B級。
現在は172cm85kgの重量級。業界ではジッタのアダ名で通ってます。

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著者プロフィール

村岡 力 近影

村岡 力

1956年生。

70年代スタントマンから雑誌業界へ入り、ずっとフリーランスのライター&カメラマン。2輪…