ホンダが生み出した偉大な名車は数あれど、やはりスーパーカブの右に出るものはないだろう。というよりスーパーカブが生まれなかったら、ホンダというメーカーが存続できたかどうかも微妙。なにせ世界中で1億台以上ものスーパーカブが売れているのだから、まさにホンダの屋台骨。世界中で愛されるスーパーカブは、バイク雑誌業界でも愛好家が数多く存在する。日頃、大型バイクやスポーツモデルを扱うこの業界でも、プライベートではカブが一番!なんて言い合う人がいるくらい。筆者もリトルカブ50周年スペシャルを所有しているし、以前にも6V時代のタンク別体モデルを所有していた。だから周囲にカブ主が増えるのは素直に嬉しい。
日頃からそんなことを思っていたら、モーターファンBIKESの編集担当である山田がスーパーカブ50を買っていたと聞いた。とはいえ、彼の出身地に置いてあり乗るのはお父さんだという。カブ談義が楽しめるかと期待したのに、これではぬか喜び。ところがなんと、山田が故郷からカブを引き取り自宅に持ってきたという。おおっ、これでカブ主がまた一人周囲に増えたと歓迎したのだが、なんと実家で数年放置され現在はエンジンが始動しないという。写真の景色をご覧になればわかるよう、拙宅は山並みが広がる田舎町。でも山田の自宅からはクルマで30分少々という距離なので、「それじゃあカブを持ってきて復活させよう!」となったのだ。
トランポで運ばれて我が車庫へ到着した山田のカブ。よくよくみるとキャブレター時代のAA01で、ヤフーオークションでヒトケタ万円前半で落札したという割に程度は上々。大きなサビや腐食はなく、装備に欠品もないようだ。これなら軽く磨いてキャブレターを掃除すれば簡単に復活するだろうと軽く考えた。
スピードメーター内にあるオドメーターは1万kmを超えたあたりを示している。車体の状況から実走行距離と推測できるが、当然バッテリーは上がっている。またカブにありがちなのだが、メーターの前方にシールを貼ってある。これが剥がれて見すぼらしいのだが、これは以前に前オーナーが維持管理されてきた証拠だろう。
シートにはカバーが被せられていた。軽く水洗いした後に山田がカバーを剥がすと、純正シートが現れた。大きな傷や破れはないものの、一ヶ所だけ補修した痕跡がある。キレイに直らなかったのが気に食わなかったからカバーを被せたようだが、これなら問題ないと思れるレベル。ただ、シート表皮にカバーの裏にプリントされていた印字が見事に移ってしまっていた。まぁ、ここはひたすらケミカルで落とすしかないだろう。
フロントタイヤを見るとき、まずチェックしたいのがタイヤの製造年月。装着してあるのはIRCの標準タイヤでサイズも純正のまま。サイドウォールをよくよく見ると楕円形に盛り上がった部分があり、その内側に製造年月が刻印されている。このタイヤには「4521」と記されていて、2012年の45週目に製造されたことが判明した。もうすぐ12年が経とうとしているわけで、ここは問答無用で交換すべきだろう。またブレーキドラム右上にある三角マークを探そう。このマークとブレーキカムの根本にある折れ曲がったパーツが重なっていたら、ブレーキシューが消耗限度へ達したことになる。この車体はまだまだ残っているようだ。
1万kmを走行しているのだから、自動遠心クラッチも調整しておくのがベスト。右クランクケース中央にある突起内のナットとマイナスビスを動かすだけなので簡単にできるが、いずれその方法を紹介したい。
山田の生家は積雪のある地域なのだが、不思議なことにサビが非常に少ない。冬季は乗らずに車庫で保管されていたものと推測できる。それにしても腑に落ちないのがマフラーで、1万kmも走ればサビが発生していておかしくないのだが見たところほぼない。それにホイールリムもメッキの輝きを維持していて、走行距離に準じていないように思える。もしかしたらいずれも交換歴があるのかもしれない。
フロントタイヤは賞味期限切れであることを確認した。ではリヤタイヤはどうかというと、まだヒゲが残っているくらいで交換してから距離が伸びていないことを示している。リヤにはティムソン製が装着されていて、2021年の27週目に製造されたことが確認できた。つまり、まだまだ使えるタイヤだということ。ただ山田的には自分で選んだタイヤ銘柄ではないため、交換したいとのこと。
我がリトルカブ(右)と山田のAA01スーパーカブを並べてみた。リトルカブには樽型グリップやエアフローシートカバーを装着してあるが、基本的にはどちらもノーマルに近い状態。スーパーカブの17インチタイヤに比べて、リトルカブは14インチタイヤなので車高がずいぶんと低く見えるし実際足つき性が良い。ただ、整備するうえではスーパーカブに分があり、車高を下げたリトルカブは下回りの整備時に色々と外さなければならない部品が多い。
エンジン不動の理由はさておき、ひとまず山田のカブにガソリンを入れてみよう。燃料タンクを確認するとほぼカラだったので2〜300ml程度だけ入れてレッグシールド左側で操作する燃料コックをリザーブに入れてみる。写真だとノブを上向きにするのだが、これでガソリンが漏れてくることはなかった。エンジンがかからない理由として、燃料コックからガソリンが漏れていたりコック内部が詰まってガソリンがキャブレターまで届かないことが挙げられる。ひとまず漏れていないので、そのままリザーブ状態を保ってみる。
バッテリーが上がっているのでキーをオンにしてもニュートラルランプは点灯しない。念の為ギアが入っていないことを確認してからキックペダルを踏み下ろしてみる。やはりウンともスンともいわずエンジンは静けさを保ったままだ。ここは鬼キックとばかり、何度かキックペダルを踏み下ろしていたら、なんとキャブレターからガソリンがオーバーフローし出した。これはおそらくキャブレター内のフロートが動いていないと推測できる。何はなくてもキャブレターのオーバーホール作業が必須であると判明した。今回はひとまずここまでで、次回キャブレターを外してメンテナンスをする予定だ。