トライアンフタイガー900試乗記|この新型はアドベンチャーの新機軸となり得るのか?

アドベンチャーモデルは各メーカーが力を入れていて、様々なモデルを投入しているカテゴリーである。
トライアンフはもしかり。3気筒モデルのタイガーでは660、850,900,1200をラインナップしている。
今回変更を受けたのは、この中でも特に人気の高い900だ。
多用途に使用できるタイガー900GTプロとオフロード性能を追求したタイガー900ラリープロの2台を試乗し、そのインプレッションをお届けしようと思う。

高性能。でもとっつきやすいタイガー900GT Pro


最初に試乗したのはタイガー900GTプロだ。
オンロードをメインに想定しながらも道を選ばず、長距離を快適に移動することを考えたモデルである。

パワーとフィーリングを向上させた三気筒エンジン


3気筒エンジンは、各部を刷新。最大出力を108PS、最大トルクを90NMに向上させると同時に燃料消費とCO2排出量は9%低減させている。
このエンジンのフィーリングが実にいい。
トライアンフの三気筒は昔からパワーフィーリングと扱いやすさには定評があったのだが、それが更に磨かれた感じだ。

低回転からのトルクは十分すぎるほどある。しかもスロットル開け始めが穏やかだから使いやすい。
独特の力量感が伝わってくるからストリートを軽く流しているだけでも楽しくなる。

けれどこのエンジンの素晴らしいのはここからだ。スロットルを開けていくと中速域で3気筒の燃焼がハーモニーを奏でるようにスムーズな回り方になっていく。
この感覚がたまらなく心地よい。
高回転の伸びは4気筒ほどではないが、ストリートであれば逆にこれくらいの特性の方がいい。
むやみにスピードを出さなくても低、中、高とそれぞれの回転域で変わっていく排気音とフィーリングを楽しむことができるからだ。
エンジンのフィーリングや排気音にうるさいマニアも納得させてしまうような躍動感は、このモデルになって更に磨かれた感じである。

ストリートを走っていて感心したのはミッションのタッチとシフターの滑らかな作動だ。低回転でクラッチを使わずにシフトペダルを操作しても気持ち良くミッションが入る。
最近乗ったマシンの中では最もスムーズだった。
低回転でのシフトアップではさすがに軽いショックはあるが、それも嫌な感じではない。かなり緻密にセットアップされているようだ。

19インチならではのハンドリング

ハンドリングには全くクセがなく、思った方向にバンクしてくれる。
バンキングの軽快さはあるけれど、ホイールのジャイロ効果のおかげで旋回中は安定するという19インチホイールの良さを生かした設定だ。

オンロードをメインとして考えられたアドベンチャーバイクの場合、フロントに17インチを装着するモデルもある。タイヤ単体で見た場合、17インチラジアルの方が高性能なためだが、ストリートなどの比較的スピードレンジの低いステージでは19インチが勝る部分もある。
タイガー900のフロントタイヤに19インチが採用されているのは、マルチパーパスな使い方を想定しているからだけでなく、このハンドリングが最上だと考えられた結果だろうと思う。
短い時間の試乗ではあったがサイズ、パワー、ハンドリングのすべての点で日本のストリートにマッチしたバイクなのだと強く感じた。
タイガー900GTプロの魅力を知りたければ、一度試乗車に乗ってみればいい。スタートして最初の交差点を曲がる頃には、このバイクがどれだけ素晴らしいかを理解することができるだろう。

足つき&ポジション(身長178cm 体重76kg)

身長178cmのテスターで両足が問題なくつく。 カカトがわずかに浮く程度である。
シートの高さは調整式になっていて最も低くすると820mm。 更に800mmにするローシートがオプションで設定されている。

アドベンチャーモデルといえば、大きな車体と足つき性の悪さで尻込みする人もいるかもしれないが、タイガー900GTプロに関してはその心配は必要ない。
しかも車重は219kg。重心が低いこともあって跨ると中型クラス・・・・・とまではいかないもののリッタークラスのアドベンチャーバイクで感じるような重量感はない。

シートを低くすると膝の曲がりがきつくなって、長時間の走行で疲れることもあるがタイガー900GTプロに関しては無理のないポジションになっている。

余談になるが足つきに関しては「低い方が安心」という声を聞くことは少なくない。
けれどバイク本来のハンドリングや運動性を楽しみたいのであれば、必要以上に低くしないほうがいい。ライダーの着座位置はバイクのハンドリングに影響するからである(サスのローダウンほどではないが)。
また、シートが薄くなれば快適性が損なわれることもある。
体型や経験、バイクに求める要素などを総合的に考えるべきなのだが、タイガー900シリーズのように調整式になっていれば様子を見ながらベストな位置を探ることができる。これも重要なセッティングの一つなのである。

オフロード性能を追求したタイガー900ラリープロ


トライアンフの三気筒アドベンチャーシリーズの中で、最もオフロード性能を強く意識しているのがラリープロだ。
タイガー900と1200で設定されているが、本格的にオフロードを走りたいのであれば900になることだろう。
車体サイズやエンジンパワーのバランスが抜群に優れているからである。

6つの切り替えが可能なマップをオフロードプロに設定してから走り出してみたときに感じたのは軽さだ。
229kgと、このクラスでは標準的な車重なのだが、重心位置などを含めた車体のバランスによるものだろう。
フロントタイヤにも大きな荷重がかかっていないようで、極低速でステアリング操作するときも軽いし、バンクさせたときにフロントがすくわれるような不安感もない。
オフを攻めてみたい気持ちにさせてくれるフィーリングである。

試乗場所は硬くしまった路面に砂が浮いていて非常に滑りやすかったが、まったく不安など感じることなく走ることができた。
サスの動きもしなやかかつ上質。林道レベルを走るのであれば、乗り心地が良いとさえ思ってしまうほど。

3気筒エンジンのパワー特性はここでも光った。
低回転でオフロードを走るのに十分な力はあるのだけれど、ツインに比べて穏やかなトルクの出方をするので滑りやすい路面でもスロットルを開けやすいのである。
逆に言えばツインのような瞬発力がないので、パワーを使ってのアクションは苦手な部分もあるのだが、それは超上級者に限ってのこと。多くのライダーは三気筒の特性を歓迎するはずである。

そして広い場所でスロットルを開ければ108PSのパワーが炸裂。豪快に加速していく。
パワーモードの設定をオフロードプロに設定しているからABSとトラクションコントロールは解除されているのだが極めて扱いやすい。
「これなら108PSをオフでも自由に発揮させることができる」と思わされてしまうのである。
このクラスには強力なライバルもいるから、乗り比べたらそれぞれの長所、短所も見えてくるはずだが、少なくても今回タイガー900ラリープロに乗っている間は「ライバルと比較しなくてもこのマシンでいい」と思った。それくらいに乗りやすくて楽しいバイクだったのである。

ちなみに今回の変更によって、パワーに関しては同クラスのライバル達を凌駕することになった。(カワサキのベルシス1000は120PSを発揮するがオンロードを重視して17インチホイールを採用したモデルだからタイガー900とは少し方向性が異なる)
他のメーカーもこの状況を黙って見てはいないだろう。
ミドルクラスのアドベンチャーバイクは、これからもっと面白くなってきそうな感じがしている。

足つき&ポジション(身長178cm 体重76kg)

高いオフロード性能を追求した結果、足付きは良くない。
178cmのテスターでは両足をつこうとするとカカトが完全に浮いてしまう。 もちろんラリープロも他のタイガー900シリーズ同様に860mmから880mmの幅でシート高の調整ができ、オプションのローシートを装着することもできる。 つまりこのクラスのアドベンチャーバイクの標準的な数値よりも少し低くすることもできるわけだ(アフリカツインはローポジションで850mm)。
ハンドル位置が15mm手前に移動されたことでオフロードでのコントロール性も高くなっている。

ディテール解説

ラリープロはオフロードを考慮してフロントに21インチのスポークホイールを装着。Showa製45mm USD調整式カートリッジフォーク(マニュアルプリロード、リバウンド、コンプレッションダンピング)。フォークトラベル240mm。GTプロのフォークはマルゾッキでホイールトラベルは180mm。全モデルにブレンボ製Stylema™ブレーキキャリパーを採用している。
先代よりも13%パワーアップし、108PSのピークパワーと90Nmの高ピークトルクを発揮する三気筒エンジン。全回転域でパフォーマンスが向上し、燃費も最大9%改善された。トライアンフ独自のTプレーンクランクは1,3,2の点火順序になっていて、コレが独特の排気音とフィーリングを生み出している。
ラリープロはハードなオフロード走行に備えてアルミのアンダーガードを装着している。
特徴的なDRLヘッドライト。マーカーライトが追加され、タイガーらしい個性的なスタイルを際立たせている。
リアホイールは4.25×17のアルミリム。前後チューブレスタイヤに対応している。プロモデルはタイヤ空気圧モニターが装備されている。
ユーロ5+に対応。サイレンサーにはオプションでアクラボビッチを選ぶこともできる。
アップダウンに対応したトライアンフ独自のシフターは緻密に制御されていて速度、回転数に関わらずスムーズな変速が可能だ。
フットペグにはラバーが装着されていてオンロード走行時の快適性を高めている。オフロードでステップに荷重するとブーツをしっかりホールドする。
ラリープロに装備されているリアショックはshowa製でリザーバータンク付き。プリロードとリバウンドのダンピングは調整式。ホイールトラベルは240mm.GTとGTプロに装備されているリアショックはマルゾッキ製でホイールトラベルは170mm。
マネージングシステムも刷新されコーナーリングABSやIMUによるトラクションコントロールを制御する。写真のラリープロとGTプロは電熱シートを装備。
ライト類はオールLED。急制動時にはハザードを点灯させて周囲のトラフィックに知らせるアクティブセーフティ機能が採用された。
タンク容量は20リッター。400kmを超える航続力を持っている。スクリーンは調整式で任意で高さを変えることができる。ラリープロはハンドル位置が15mm手前に移動されている。
7インチTFTを使ったインフォメーションディスプレス。USB-Cコックピットチャージャー、My Triumph Bluetoothコネクティビティを全モデルに標準装備。
ストリートで108PSのハイパワーを扱いやすくしている要因の一つが電子制御スロットル。低開度で極めてスムーズなパワーデリバリーを行う。プロモデルはグリップヒーターを標準装備。
多機能ではあるが総鼠径はシンプルでわかりやすい。ロード、レイン、スポーツ、オフロードなど4つのライディングモードに加え、GTプロとラリープロはライダーコンフィギュラブル、ラリープロのみオフロードプロ(トラクションコントロールとABSをカット)を装備している。
ラリープロに装着されているタイヤはブリヂストンのバットラックス・アドベンチャー。オンロードでの快適性とオフロードでの走破性を両立させたタイヤだ。

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後藤武 近影

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