これぞホンダ、まさにホンダ! ホンダらしい熟成進化に拍手|新型CBR600RR試乗記

レース参戦も考慮したピュアなスーパースポーツとして知られるCBR600RRが、2024年の新型へと刷新され2月15日から新発売される。2020年に登場モデルのマイナーチェンジ・バージョンだが、どのような進化ぶりを披露してくれるのだろうか。

REPOT⚫️近田 茂(CHIKATA Shigeru)
PHOTO⚫️山田俊輔(YAMADA Shunsuke)
取材協力⚫️株式会社 ホンダモーターサイクルジャパン

ホンダ・CBR600RR…….1,606,000円

グランプリレッド

カラーバリエーション

マットバリスティックブラックメタリック…….1,573,000円

CBRのRRは同社伝統のCBからピュアなスーパースポーツの血統を受け継ぎ昇華してきた。レーシングマシンに最も近いカテゴリーとして知られており、ハイパフォーマンスの頂点を追求されたモデルというわけだ。
先にレーシングマシン有りきで開発がスタートしたと言われ、純粋にスポーツライディングが楽しめる。車名に“R”という文字が三つも連なることからもそんなキャラクターが見て取れるだろう。
今回のニューモデルはCBRの終始一貫した開発コンンセプトである“Total Control”の価値を高め、総合的な高バランスが極められて2020年8月にデビューしたモデルのマイナーチェンジ版である。
写真からもわかる通りグランプリレッドのカラーリングはグラフィックデザインが一新されている。さらにマットバリスティックブラックメタリックのカラーバリエーションが新たに追加された。
オプション設定だったクィックシフターが標準装備され、平成32年(令和2年)排出ガス規制に適合させている点も見逃せない。にも関わらず価格は据え置かれている。また黒の新色は税込み1,573,000円。車両本体価格で3万円安く提供される点も嬉しい。

プレスリリースで公表された相違点は前述の通り①外観変更と新色追加、②クイックシフターの標準装備、③排出ガス規制をクリア。以上3点に過ぎない。
しかし諸元データ等で新旧の違いを探ってみると、かなり細かい点まで熟成変更させれていることがわかるのだ。
数値上の相違点をざっと列挙すると、ホイールベースは5mm短縮された1370mm。車重は1kg減の193kg 。驚くべきは燃料消費率が23.5から25.5km/Lに。WMTCモード値では17.3から18.5km/Lへと大きく向上していた。
エンジンの最高出力は同じだが、発生回転数は少し高くなった14,250rpm。一方最大トルクは64から63Nmに下がっている。排出ガス規制対策による犠牲と思われるが、それら出力特性の変更に伴い、ドリブンスプロケットが41丁から42丁へと大きくなり、2次減速比が2.562から2.625へと若干低められていた。また潤滑系や冷却系が見直されたようでエンジンオイル容量が3.5から3.4Lへと100cc減少。冷却用クーラント容量も2.83から2.76Lへ70ccだけだがやはり少なくなっていた。
ざっくりと単純計算だけでも、使用液量の節減で200g弱の軽量化を達成。
単純に液面を下げただけとは考えにくいので実際は潤滑や冷却効率の熟成合理化を踏まえて、細部の設計変更も加えられたであろうと考えられるわけだ。結果的に車両重量は1kgの軽量化を果たしている。またクイックシフターのモードも多彩なチョイスが可能となり、各種電子制御系も最新最適を目指してバージョンアップされているに違いないのである。

風も味方につけるウイングレットエアフロー。今回は青色に仕上げられた。ダウンフォースで前輪を抑える役割を果たし、高速安定性に貢献する。
翼先端上下の形状には、ロール方向への悪影響を低減するデザインが採用されている。

シルキーな回転フィーリングはホンダエンジンならでは。

試乗車を受けとると目つきの鋭いフロントマスクが印象的。かつてどこかのSFコミックで描かれていたような未来的なフォルムが現実のものとして表現されたかの様に、その精悍な雰囲気はなかなか格好いい。後方へ伸びるにつれて細く流れるストライプを配した新しいグラフィックデザインも、よりスタイリッシュな仕上がりを披露している。
一見、マフラーの存在が見えないフォルムも特徴的。テールカウルセンターに一本出しとなるセンターアップマフラーの存在は、600ならではの個性を主張するアイデンティティとなっている。
それら全体的なスタイリングに変更はないが各部配色の違いで、新型であることがわかるだろう。
早速跨がると相変わらず自分の感覚(好み)にジャストフィットする車体ボリュームが先ずは好印象。車重も含めてこのサイズなら無理なく思い切り楽しめる“ちょうどいい”クラスであることが実感できる。それだけでもちょっとウキウキと気持ちが高揚してくるから不思議である。
踏ん張りの効くステップと、遠過ぎずかつ低過ぎない位置にあるハンドルに手を添えると下半身と車体の馴染みが良く、腹筋と背筋を含めて身体全体の筋力を活かすことで、やや前傾姿勢となる上体が支えやすい。
肩の力を抜き(力が抜け)、あらゆる場面で適切に身構えることができるし、柔軟な体重移動を可能としてくれる。スロットルやブレーキ操作もより自由自在に操作しやすくなる点に、スーパースポーツバイクとしての素性の良さが感じ取れるのだ。
もちろんお世辞にもツアラーとしての快適性を提供してくれるライディングポジションではない。しかしニーグリップを始め、身体の筋力を駆使する乗り方を心得れば疲労度は意外と少なくて済むだろう。
前モデルのインプレッションでも記したが、筆者(の体格)にとって、タンク形状と内腿とのフィット感が絶妙。軽くニーグリップするだけで、人車一体になれる点は、改めてとても心地良かった。ハードなスポーツ走行をする上でも、この人車一体となれる感覚は実に有効かつ大切な要素となるのである。

エンジンを始動すると、低く図太い排気音に変わりはないようだ。ただ気のせいかその回転フィーリングにはいくらか落ち着いた雰囲気が伴うようになったように感じられた。
早速ギアを1速に入れてクラッチをミート。スムーズなエンジン回転と不足のないトルクで発進操作は容易。この点で言えばレーシーなマシンと言うよりも、ごく普通のバイクを扱うに等しいイージーさがある。
さらに小気味よく軽いタッチでシフトアップできるクイックシフターのおかげで、綺麗に安定した、ギクシャクすることのない加速度を維持することができた。
そのフィーリングからは、マイナーチェンジとは言え、かなり細かな領域まで徹底して熟成進化が加えられていることがわかる。いかにもホンダらしい開発陣のコダワリが感じられるのだ。
前モデルでは、クィックシフターのシフトタッチに、時おり固い抵抗感を覚えることがあって、手動クラッチを使った方がよりスムーズな走りができると思えるシーンがあったと記憶しているが、新型のシフトタッチは、実に軽く小気味良く決まる。
シフトダウンも含めて、走行中の操作はほぼノークラッチチェンジで楽にかつ快適に走らせることができたのだ。クィックシフターに関して実に高い完成度を披露してくれた。
またさらに気持ちよさを感じたのは、あくまでシルキーに回る回転フィーリング。吹き上がりのスムーズさと鋭さ。メカニズムの回転部分や摺動部分にガサツな印象が皆無なエンジンは、まさに精巧精密に造られた証と感じられる素晴らしさがある。
ギア比が低められたことの影響も相まって、スロットルレスポンスに優れ、柔軟なトルクフィーリングを自由自在に活用できる、しかも右手をワイドオープンした時の吹き上がりも一級の爽快感が楽しめる。
サスペンションやブレーキの性能もクォリティはかなり高いレベルに仕上げられ、扱いやすいし電子デバイスでバックアップされる安心感も高い。

広報資料でリリースされた3点の変更内容はお復習いしていたが、試乗してみると、それ以上の進化熟成ぶりを実感。ますます高められた完成度に驚かされ、さらに魅了されてしまったのが正直な感想である。
ちなみにローギアでエンジンを5,000rpm回した時の速度は1km/h低下した42km/h。6速トップギア100km/h クルージング時のエンジン回転数は150rpmほど増加した約5,500rpmだった。
郊外での撮影も含め、市街地や首都高など152kmを走行した実用燃費率は23.4km/L。ハイオク仕様ながらモード値を大きく上回る経済性を発揮してくれた点にも驚かされた。日本市場で使うスーパースポーツとして、その性能を存分に発揮して楽しむことができるバイクとしてまさに一級の性能と魅力がある。
このバイクを愛用したら、どこかのサーキットライセンスを取得したくなるだろうな~などと、年甲斐もなく夢が膨らむ思いがしたのである。

足つき性チェック(ライダー身長168cm/体重52kg)

ご覧の通り両足の踵は地面を捉えているが、平らな舗装路では、ほんの少しだけ路面から浮いた状態になる。820mmのシート高に変わりはない。

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著者プロフィール

近田 茂 近影

近田 茂

1953年東京生まれ。1976年日本大学法学部卒業、株式会社三栄書房(現・三栄)に入社しモト・ライダー誌の…