カリフォルニアに見る新しい自動車スタイリング_2 [ Shikado’s Column #5 ]

CADILLAC LYRIQ : PYOTO by Cadillac
Shikado's Column 第5話。前回のコラムで最新の米国の車事情(特にEVの浸透具合)を現場からお伝えしましたが、今回もう一度EV車を中心に米国のCar Stylingの新しい動向をお伝えして行きたいと思います。
TEXT : 鹿戸 治 Osamu SHIKADO

EVらしさの追求

先月お伝えした、Tesla, Livian & Lucid等の新興EVメーカーが今までの車作りの常識に捕らわれない造形テーマやプロポーションを取り入れて来るのに対して、これまで数十年間自動車という物を造り続けて来た既存の自動車メーカーは、意図的にEVらしさを追求してみたり新しい造形にチャレンジしようという意欲が感じられて面白い事になっています。その一例として、グラフィックで既存の車両とは異なるイメージを狙ったトヨタとBMW。

PHOTO: Creative Commons
PHOTO: Osamu Shikado

グラフィックス以外に特に分かりやすい特徴はそのランプ類に見られます。20年程前から自動車用ランプ類のLED化が始まりましたが、特に消費電力の少なさからEVでは多用されている様です。

Hyundai KonaやPolester-4などのヘッドランプは非常に上下幅の薄い物が採用されて、そのアドバンスドイメージを強調しています(Konaの全幅にわたる薄いランプはDaylight Running Light)。EVの消費者への訴求点としてSDGsを支持する姿勢も重要ですが、それだけではより高額な車両本体価格や時間のかかる充電等、EVに付帯する問題を乗り越えて購買意欲を喚起させるにはより新しい魅力が必要です。そんな中、未来感を車両デザインに与える材料としてLEDを用いた特徴的なランプ類は非常に有効なデザイン要素だと思います。

PHOTO : Osamu Shikado
PHOTO: :Osamu Shikado

横一文字のテールランプ

上下に薄いランプはヘッドランプだけで無くテールランプにも多く見られます。ここで更に面白い流行が見られました。左右のテールランプを繋げて一文字にするデザイン手法は以前から有りましたが、新しいデザイン手法は左右のランプその物が上下に薄くテールランプ全体が一本の棒の様なデザインを持った車がEVに限らずガソリン車でも多く見られるのが面白いところです。

PHOTO: Osamu Shikado, Lucid, Creative Commons
PHOTO: Osamu Shikado, LINCOLN,

New EV Platform from GM

先回のこのコラムで振興EVメーカーRIVIAN社のスケートボードプラットフォームについて書きましたが、米国のBig-3の一角GMからも新しいEVプラットフォームを共用する2車が出て来ました。

GMの高級車ブランドのCADILLACのLYRICと老舗ブランドのCEVROLETのBlazer-EVです。

PHOTO : Cadillac
PTOTO : Cadillac
PHOTO :Osamu Shikado
PHOTO : Chevrolet

車両寸法表を見て頂ければ分かる様にこの2車は3mのWB(ホイールベース)、約5Mの全長という米国のフルサイズというカテゴリーに属する大きさの車です。

Screenshot

このWB、 全長、全幅の寸法から浮かんでくるのは2000年代初頭の発売されたChrysler 300C TouringというMerceds Benzのプラットフォームを使って作り上げられた米国製フルサイズステーションワゴンです。

PHOTO : Creative Commons

上記のGM製の2車はちょうどこのフルサイズワゴンを約150mmほどリフトアップした様な形という事が言えます。更にそのスペックを見れば、WBと全長は同じGMのTraverseという3列シートのSUVとほぼ同じサイズですが、新しいEVの2車は定員を欲張らずに2列シートの設定としてかつてのシューティングブレークを少しリフトした様なプロポーションを造り出す事に成功しています。米国でこのサイズのSUVは背の高い3列シートが多いので、全高が150mm程低いこの2車はとても軽快な印象を与えてくれます。

つまりこのGM製の2車はシューティングブレークの様なスポーティーさとSUV的なユーティリティーさを上手く融合させた物と言えます。また、2m近くある全幅もフロント&リヤビューでの安定感のある外観をうまく表現しています。そして、EVプラットフォームの利点を活かして短いオーバーハングやカウルの前出しを達成し大きなホイール&タイヤと共に理想的なサイドビューのプロポーションを表現する事に成功しています。今まで保守的な傾向にあったGMがこれ程革新的なパッケージを造り上げた事はちょっと新鮮な驚きでした。

SUVの増殖そして、米国産セダンの終焉

新しく出てきたEVの中にはTesla-SやLucid Airの様にフルサイズセダンが有りますが、ハイブリッドを含むガソリンエンジン車のカテゴリーでは米国製フルサイズセダンはカタログから姿を消し、ファミリーカーといえばSUVという時代になりました。かつてのフルサイズセダンはもう復活しないかもしれませんが、前記のGMの2車の様に新しいプラットフォームで新しいパッケージングにチャレンジして新鮮な驚きを与えてくれる車が出現する事を期待してやみません。それにはエンジニアとデザイナーの協力、そして新しい発想が必要不可欠であると考えます。

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著者プロフィール

鹿戸 治 Osamu SHIKADO 近影

鹿戸 治 Osamu SHIKADO

1955年大阪生まれ。京都市立芸術大学デザイン科卒。
1979~1993年: トヨタ自動車デザイン部、カローラ&カ…