【ポルシェ年代記】第5世代で初の水冷となった996型「911」を学ぶ

水冷エンジンで現代化された996型「911」がもたらしたV字回復【ポルシェ年代記】

996型911
996型911
スポーツカーの代名詞、ポルシェ──。その主張に意を唱える人はいないだろう。これまでに多くのスポーツカーを生み出し、モータースポーツで勝利し、ファンのみならず多くのクルマ好きを楽しませてきたポルシェの歴史を振り返る。今回は911の歴史で大転換となる初の水冷モデル、996型を紹介する。

996 Carrera / Carrera 4 / Carrera 4S / Turbo / Turbo S / GT2 / GT3 / GT3 RS

大型化されるも50kg軽量に

カレラ
カレラ

1992年にCEOに就任して以降、組織、生産設備の合理化を進め、ポルシェを倒産の危機から救ったヴェンデリン・ヴィーデキングは、空冷911の改良を急がせる一方で、低コストかつ生産効率に優れ、環境問題もクリアし、より多くの人々に受け入れられる、まったく新しい「911」の開発が推し進められた。

ここでヴィーデキングが着目したのが、1993年のデトロイト・ショーで発表され、注目を集めていたボクスター・プロトタイプだった。彼は開発陣にボクスターと多くの部分を共用化し、合理化を図ることを指示。こうしてボクスターから2年後、1997年のフランクフルト・ショーで公開されたのが「996」である。

ハーム・ラガーイのデザインによるボディはシェイプこそ911らしさを踏襲しているものの、Aピラーより前は基本的にボクスターと同一。またボディサイズは居住性と安全性を確保するために全長4430mm、全幅1765mm、全高1305mm、ホイールベース2350mmと993に比べてひと回り以上大型化されていたが、各部に軽量化の努力が払われた結果、車両重量は993に比べて50kgほど軽量化されている。

完全新設計の水冷エンジン

またフロアのフラット化、ウインドウシールドの傾斜角、各部のフラッシュサーフェイス化などエアロダイナミクスも徹底的に見直され、Cd値が0.30に抑えられたほか、ボディ全体の30%に高張力鋼板を使用することで、捻り剛性が45%、曲げ剛性が50%向上している。

このようにビス1本たりとも993と同じものがない、911史上最大のフルモデルチェンジを果たした996最大のトピックが、完全新設計となったバリオカム(可変バルブ機構)、可変吸気機構(バリオラム)を備えたオールアルミ製3.4リッター水冷フラット6DOHC“M96/01型”ユニットの採用である。

その開発においては、ヘッドと一体のクランクケースなどにグループCカー「962」での技術が応用されたほか、多くの部分をボクスターと共用することで、生産効率の向上と低コスト化を実現。エンジン自体の低重心化、小型化もあり、シャシーバランスの改善にも貢献した。また静粛性の向上や燃費の低減を果たしたのも、水冷エンジン採用の大きなメリットとなった。

サーキット志向のGT3やGT2も

996はその扱いやすさから、ボクスターと共にポルシェの業績をV字回復させるほどの大ヒットを記録。当初はRRのクーペのみの販売だったが、1998年には新たなボディバリエーションとして「カブリオレ」を追加。さらに993に比べて捻り剛性を49%、曲げ剛性を82%まで向上させた専用のボディに、トランスアクスルチューブを廃止し、ビスカスカップリングの位置を変更して前後重量配分を改善した4WDシステムを採用した「カレラ 4」もラインナップに加わった。

そして1999年には、強固なカレラ 4のボディシェルにGT1用と基本設計を同じくする空冷用クランクケースを用いた360PSの3.6リッター水冷フラット6DOHC M96/76型ユニットを搭載した「カレラ RS」の後継というべき「GT3」が登場。ロールケージやバケットシートを装着したサーキット走行用のクラブスポーツも無料オプションとして用意された。

2000年にはカレラ 4のシャシーをベースとし、バリオカム・プラスを採用した空冷クランクケースの3.6リッターフラット6ツインターボM96/70型ユニットを搭載した「ターボ」が登場。2001年にはターボをベースにRR化、リヤシートを撤去し、セラミックブレーキディスクを採用するなど軽量化を施したシャシーに462PSを叩き出す3.6リッターターボM96/70S型ユニットを搭載した「GT2」、そのレース仕様車というべき
「クラブスポーツ」もリリースしている。

マイナーチェンジを経て一大ファミリーに

さらにこの年にはスタンダードのカレラにマイナーチェンジを実施。エンジンがバリオカム・プラスを備え320PSを発生する3.6リッターユニットになったほか、ボクスターと共通で不評だったヘッドランプが911 ターボと同じデザインに変更された。またターボ用のAWDワイドボディにNAの3.6リッターユニットを搭載したカレラ4Sもラインナップに加わっている。

その後も2003年には381PSにパワーアップした3.6リッターエンジンと大型リヤウイングを装備した「GT3」、483PSのターボユニットを載せた「GT2」が相次いで登場。モデル最終年となる2004年にも200台限定ながら快適装備を廃してロールケージを組み込み、サスペンションを強化した「GT3 RS」、450psへパワーアップした「ターボS」、さらに「ターボカブリオレ」が追加され、一大ファミリーへと成長を遂げた。

993型911

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スポーツカーの代名詞、ポルシェ──。その主張に意を唱える人はいないだろう。これまでに多くのスポーツカーを生み出し、モータースポーツで勝利し、ファンのみならず多くのクルマ好きを楽しませてきたポルシェの歴史を振り返る。今や圧倒的にその価値が向上した最後の空冷モデル993型911だ。

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藤原よしお 近影

藤原よしお

クルマに関しては、ヒストリックカー、海外プレミアム・ブランド、そしてモータースポーツ(特に戦後から1…