250シリーズの戦闘力を高めた「SWB」 【フェラーリ名鑑:06】

「フェラーリ 250 GT SWB(1959)」改善と次なるステップへ【フェラーリ名鑑】

フェラーリ名鑑、250 GT SWBのフロントスタイル
現代フェラーリ・ロードモデルの基礎を築いた250シリーズに、派生モデルとして登場した250 GT SWB。
250シリーズが好評を博したフェラーリは、次なる策として250 GTの戦闘力アップを企図する。そのもっとも大きな変更がショートホイールベース化だ。コーナリング性能アップを求めて250 TdFから200mmホイールベースを短くし、空力性能を高めたボディデザインを採用。今やエンスージアストから「250 GT SWB」の名で定着したこのモデルは、クラシック・フェラーリの王者と呼ばれるほど絶大な人気を誇り、現在でも高額で取引されている。

Ferrari 250 GT SWB

コーナリング性能を改善するための策

フェラーリ名鑑、250 GT SWBのフロントスタイル
好評を博した250シリーズに、ホイールベースを短縮して運動性能を向上した250 GT SWBが追加。現在でもエンスージアスト垂涎のモデルとして君臨している。

GTクラスではまさに強力なライバルは存在しないとまで語られる存在となった250 GT TdF。だがエンツォを始めとするフェラーリのエンジニアリング・チームは、必ずしもこのモデルに絶対的な満足感を抱いていたわけではなかった。

とりわけ問題視されていたのは2600mmというホイールベースの長さで、それを改善すればコーナリング性能はさらに向上するだろうというのがドライバーたちの共通した意見だった。マラネッロでも当然それは議論され、その結果ホイールベースを250 TdFから200mm短縮し、2400mmとした「250 GT SWB」が誕生する。ちなみにSWB=ショート・ホイール・ベースというサブネームは、フェラーリの正式な名称ではなく、便宜的にファンが使用するものだ。

機能を最優先したコクピットデザイン

フェラーリ名鑑、250 GT SWBのインテリア
250 GT SWBのインテリア。視認性に優れた大径のスピードメーターとタコメーターが眼前に備わり、5個のサブメーターが整然と並ぶ。

1960年のシーズンが始まるまでに、つまり当時のレースカレンダーでいうと、この年の5月までにまず必要となるのは、もちろんフェラーリがワークス体制で臨むマシンだ。マラネッロのファクトリーでは、当然その製作が最優先で進められ、この最初期の11台はすべてがコルサ=レース仕様。

エクステリアでは前後のフェンダー上にエアアウトレットがないことや、トランクリッド上にライセンスプレートを取り付けるためのハウジングがないことなど、いかにもコルサらしいシンプルで機能的なデザインが、エクステリア、インテリアともに認めることができる。

インテリアのフィニッシュも機能を最優先したもの。ドライバーの正面には大径のタコメーターとスピードメーターが備わり、その横には5個のサブメーターが整然と並ぶ。後に誕生するロード仕様のSWBでも、この基本デザインは変わらないから、それは機能性とデザインが両立した、高評価のデザインといえたのだろう。

3.0リッターV12は280hpを発生

3.0リッターV12エンジンは最高出力280hpを発生し、最高速度は286km/hをスペックシートに掲げている。

250 GT SWBに搭載されるエンジンは、TdFから受け継がれたV型12気筒だ。ほかにSWBとした以外には大きな違いはないようにも思えるが、実際には基本骨格ともいえるスチール製のラダーフレームも応力を負担しない部分は細く軽い鋼管を使用し軽量化に貢献。ブレーキも4輪ディスクを採用するなど、メカニズム面での変化は大きい。

最高速度を得るには不利だったSWB化

フェラーリ名鑑、250 GT SWBのフロントスタイル
ショートホイールベース化により運動性能を向上した250 GT SWBだが、最高速度に関しては当時の高速化が進むサーキットに対応できていなかった。

そしてこの250 GT SWBは、ここからさらにさまざまなモデルを派生していくことになるのだが、TdFからホイールベースを200mmも短縮し、コーナリング性能を向上させた一方、SWBはいまだ空力特性に優れたモデルとはいえず、最高速度に大きなハンデを抱えてしまうことになったのだ。

すでにこの時代、多くのサーキットが高速化を進めていたが、満足できるトップスピードを得るには、SWBのウェイトや空力特性は理想的なものではなかったのである。

ここでフェラーリは、ある決断をしなければならなくなる。それは250 GT SWBからさらに高性能なコンペティションモデルを派生させること。

250 GT ベルリネッタ コンペティツィオーネ #2735

軽量化を突き詰め、空力特性を再設計したプロトタイプ。フェラーリとピニンファリーナが共同製作した実験車的なモデルだ。

フェラーリは1961年に「250 GT ベルリネッタ・コンペティツィオーネ」と呼ばれるプロトタイプをピニンファリーナとともに製作しているが、これは空力特性を再度検証し直したほか、軽量化を徹底した実験車でもあった。そしてこれが、後にジョット・ビッザリーニをチーフに製作される、あの「250 GTO」へとさまざまな技術を継承していくのである。

250 GT SWBは、現在でもオークション・シーンなどでは圧倒的な人気を誇るモデルだ。前で触れた初期型SWBのV型12気筒エンジンは最高出力で260〜280ps。その後のロードバージョンは使いやすさを考慮してパワーを220〜240psに抑えている。

250 GTシリーズにおいて、ひとつの完成形となり、また次なるステップへの足がかりとなった250 GT SWB。その生産台数には諸説があるが、およそ160台が出荷されたというからフェラーリのビジネスとしては大成功だっただろう。興味深いのは、1960年と1961年の販売比率。1960年はレース仕様のオーダーが半数を超えていたが、翌1961年になるとその数字は逆転する。これもまたフェラーリの狙いどおりだ。

解説/山崎元裕(Motohiro YAMAZAKI)

SPECIFICATIONS

フェラーリ 250 GT SWB

年式:1959年
エンジン:60度V型12気筒SOHC
排気量:2953cc
最高出力:206kW(280hp)/7000rpm
乾燥重量:960kg
最高速度:268km/h

投稿 「フェラーリ250GT SWB(1959)」改善と次なるステップへ【フェラーリ名鑑】GENROQ Web(ゲンロク ウェブ) に最初に表示されました。

フェラーリ名鑑リンク集01-04。

フェラーリの歴史を作った名車たち。マラネッロが生んだ跳ね馬伝説 【フェラーリ名鑑:リンク集 Vol.1】

自動車史に偉大な物語を紡いできたフェラーリ。カバリーノ・ランパンテ(跳ね馬)は時空を超えた永遠のシンボルとして、広く世界中のエンスージアストの心に深く刻まれている。マラネッロの生んだ伝説は、いかにして生まれ、羽ばたいてきたのか。その歴史の始まりから、1950年代前半までの絢爛豪華な時代を名車を軸にして振り返る。

キーワードで検索する

著者プロフィール

山崎元裕 近影

山崎元裕

中学生の時にスーパーカーブームの洗礼を受け、青山学院大学在学中から独自の取材活動を開始。その後、フ…