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Ferrari 250 GT SWB
コーナリング性能を改善するための策
GTクラスではまさに強力なライバルは存在しないとまで語られる存在となった250 GT TdF。だがエンツォを始めとするフェラーリのエンジニアリング・チームは、必ずしもこのモデルに絶対的な満足感を抱いていたわけではなかった。
とりわけ問題視されていたのは2600mmというホイールベースの長さで、それを改善すればコーナリング性能はさらに向上するだろうというのがドライバーたちの共通した意見だった。マラネッロでも当然それは議論され、その結果ホイールベースを250 TdFから200mm短縮し、2400mmとした「250 GT SWB」が誕生する。ちなみにSWB=ショート・ホイール・ベースというサブネームは、フェラーリの正式な名称ではなく、便宜的にファンが使用するものだ。
機能を最優先したコクピットデザイン
1960年のシーズンが始まるまでに、つまり当時のレースカレンダーでいうと、この年の5月までにまず必要となるのは、もちろんフェラーリがワークス体制で臨むマシンだ。マラネッロのファクトリーでは、当然その製作が最優先で進められ、この最初期の11台はすべてがコルサ=レース仕様。
エクステリアでは前後のフェンダー上にエアアウトレットがないことや、トランクリッド上にライセンスプレートを取り付けるためのハウジングがないことなど、いかにもコルサらしいシンプルで機能的なデザインが、エクステリア、インテリアともに認めることができる。
インテリアのフィニッシュも機能を最優先したもの。ドライバーの正面には大径のタコメーターとスピードメーターが備わり、その横には5個のサブメーターが整然と並ぶ。後に誕生するロード仕様のSWBでも、この基本デザインは変わらないから、それは機能性とデザインが両立した、高評価のデザインといえたのだろう。
3.0リッターV12は280hpを発生
250 GT SWBに搭載されるエンジンは、TdFから受け継がれたV型12気筒だ。ほかにSWBとした以外には大きな違いはないようにも思えるが、実際には基本骨格ともいえるスチール製のラダーフレームも応力を負担しない部分は細く軽い鋼管を使用し軽量化に貢献。ブレーキも4輪ディスクを採用するなど、メカニズム面での変化は大きい。
最高速度を得るには不利だったSWB化
そしてこの250 GT SWBは、ここからさらにさまざまなモデルを派生していくことになるのだが、TdFからホイールベースを200mmも短縮し、コーナリング性能を向上させた一方、SWBはいまだ空力特性に優れたモデルとはいえず、最高速度に大きなハンデを抱えてしまうことになったのだ。
すでにこの時代、多くのサーキットが高速化を進めていたが、満足できるトップスピードを得るには、SWBのウェイトや空力特性は理想的なものではなかったのである。
ここでフェラーリは、ある決断をしなければならなくなる。それは250 GT SWBからさらに高性能なコンペティションモデルを派生させること。
250 GT ベルリネッタ コンペティツィオーネ #2735
フェラーリは1961年に「250 GT ベルリネッタ・コンペティツィオーネ」と呼ばれるプロトタイプをピニンファリーナとともに製作しているが、これは空力特性を再度検証し直したほか、軽量化を徹底した実験車でもあった。そしてこれが、後にジョット・ビッザリーニをチーフに製作される、あの「250 GTO」へとさまざまな技術を継承していくのである。
250 GT SWBは、現在でもオークション・シーンなどでは圧倒的な人気を誇るモデルだ。前で触れた初期型SWBのV型12気筒エンジンは最高出力で260〜280ps。その後のロードバージョンは使いやすさを考慮してパワーを220〜240psに抑えている。
250 GTシリーズにおいて、ひとつの完成形となり、また次なるステップへの足がかりとなった250 GT SWB。その生産台数には諸説があるが、およそ160台が出荷されたというからフェラーリのビジネスとしては大成功だっただろう。興味深いのは、1960年と1961年の販売比率。1960年はレース仕様のオーダーが半数を超えていたが、翌1961年になるとその数字は逆転する。これもまたフェラーリの狙いどおりだ。
解説/山崎元裕(Motohiro YAMAZAKI)
SPECIFICATIONS
フェラーリ 250 GT SWB
年式:1959年
エンジン:60度V型12気筒SOHC
排気量:2953cc
最高出力:206kW(280hp)/7000rpm
乾燥重量:960kg
最高速度:268km/h
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