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知見を社会に還元するブランド
ダイソンは技術や機械、科学の実験が大好きな人にとって実に面白いブランドだ。今回取り上げるDyson Zoneは、言わば空気清浄機を内蔵させたノイズキャンセリングヘッドフォンだ。見た目の奇抜さとは裏腹に、生真面目なモニター調の整った音質、幅広い音域に効果的なノイズキャンセリングと、ワイヤレスヘッドフォンとして極めて上質な体験をもたらしてくれる。
ではそこに空気清浄機という付加価値は必要なのだろうか? “必要かどうか”といえば、現在の日本では不要な場面がほとんどだろう。しかしダイソンはそう考えていない。彼ら自身が得てきた知見をもとに未来への投資として、この製品を立ち上げているからだ。掃除機や空気清浄機などで知られるダイソンだが、そのブランドの根本にあるのは科学的実験を通して得られる知見を社会に還元するというものだ。
初代のジェームズは、空気の渦を作ることでゴミを可能な限り遠心分離し、それを微細なフィルターで濾すというアイデアで、新しい掃除機を開発した。細かなゴミや臭いを緩和するためにフィルター技術を磨いた。空気を操るための流体力学の知見はやがて“羽根のない扇風機”を生み出し、フィルター技術と組み合わせて空気清浄機へと辿り着く。
空気清浄機能付きヘッドホン
この時代にノイズ低減など音響技術、空気清浄機が取り除く有害物質やガスを探るセンサー技術の研究を開始している。そしてそうした製品をネットに接続するIoTとしたところ、ダイソンはあることに気づいた。それは「想像以上に地球の空気汚染は進んでいる」ということだった。
2代目ジェームズは空気清浄機や掃除機が集めたゴミや空気質のデータを分析し、多くの人が屋外で空気汚染のリスクに晒されていることを知り個人向け空気清浄機の研究開発を推進。同時に騒音が健康に与える影響を緩和するノイズキャンセリングヘッドフォンの研究と組み合わせ、今回の製品に辿り着いたというわけだ。
Dyson Zoneは音質の優れたヘッドフォンだが、その核となるのは空気清浄機能だ。0.1ミクロンの微細粒子までを静電除去フィルターで集塵し、酸性ガスも除去するカーボンフィルターで濾過した空気を口元に届けてくれる。ダイソンらしいのは、その効果を可視化することで実験的な製品の成果を見せようと努力していることだ。Dyson Zoneには窒素酸化物のセンサーを搭載し、内蔵するマイクで収集した周辺ノイズとともに本体内のメモリに収集。スマホの連動アプリと同期させることで、ユーザーを取り巻く環境を確認できるようにしている。
未来のインフラ構築に活用も
ちなみに空気質データは、空気清浄機能を使っていない時にもずっと動いてくれているので、必ずしもずっとシールドをつけている必要はない。ダイソンはこのデータを社会的にも役立て、未来のインフラ構築にも活用したいと考えているようだ。弱点は空気清浄機としての動作時間の短さだが、ヘッドフォンとしての出来は素晴らしい。また空気清浄した際の涼やかで匂いが緩和された空気も爽やか。しかしまずはオーディオ機器として評価し、その上で個人向けの“空気清浄”機能がどんなものかを体感してみてはいかがだろう。
REPORT/本田雅一(Masakazu HONDA)
PHOTO/小林邦寿(Kunihisa KOBAYASHI)
MAGAZINE/GENROQ 2023年8月号
PRICE
オープン価格
評価
空気清浄機が主体の本機だが、初のオーディオ製品とは思えないほど正統派な音質のヘッドフォンも魅力。価格はネックだが基本的な機能、性能が優れている点はダイソンらしい。
バッテリー:2(空気清浄機として。オーディオ機器は5)
音質:5
コストパフォーマンス:2
空気清浄機能:4
ノイズキャンセリング:4
【問い合わせ】
ダイソンお客様相談室
TEL 0120-295-731
https://www.dyson.co.jp