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F1 JAPANESE GRAND PRIX
アストンマーティンF1チームピット訪問
コロナによる規制もなく、好転に恵まれたこともあり、例年以上の盛り上がりを見せたF1日本GP。レースの結果、分析は専門メディアにお任せするとして、アストンマーティン・アラムコ・コグニザント・フォーミュラ・ワン・チームに同行し、パドックを歩いて気づいたことをレポートしていくことにしたい。
いつも通り、厳重なパスコントロールとセキュリティが整ったパドックに入って気がつくのが匂いだ。2030年までにネットゼロカーボンを目指しているF1が、2022年から使用している90%のガソリンと10%のバイオエタノールを混合したE10燃料のものだろう。少し甘いような、表現し難い独特な匂いが立ち込めている。
まずはアストンマーティン・アラムコ・コグニザント・フォーミュラ・ワン・チームを訪ねる。「サムライ魂」というキャッチコピーを掲げ日本GPに挑むアストンマーティンのピット・ストラクチャーにはあちこちに「サムライ魂」のロゴが貼られている。
案内してくれた広報氏によると、チームでは3サイズ、合計6セットのピットストラクチャーを所有していて、ローテーションを組み運用しているという。ちなみに鈴鹿に持ち込まれたのはミディアム・サイズ(ビッグサイズはマイアミGP、スモールサイズは前回のシンガポールGPなどに使われている)。前週の日曜からスタッフが入り組み立てたもので、彼らはレースウィークが始まる前に次の目的地に向け出国しているそうだ。
25人のエンジニアと30人のミッション・コントロール
ピットレーンに向かって左がフェルナンド・アロンソ、右がランス・ストロールという配置はどこでも同じだが、マシン左側から乗るというジンクスを持つアロンソに配慮して設計しているという。基本的に1台のマシンに関わるメカニックは9〜11人。それぞれのマシンに専属(無論情報は共有するが)とすることで、ドライバーとの信頼関係を深める効果もあるのだ。
それぞれのマシンには230ものセンサーが付けられ、常にマシンのデータがチェックされている。フロア、リヤウイング、タイヤ、燃料レベルなどを監視するリライアビリティ(信頼性)センサーは常時装着されているが、データトラッキング(追跡)センサーは金曜のFP1、FP2のみに付けられ、ここで集めたデータが日曜のレース本番に生かされる。これらのデータはピットスペースの裏側にある部屋(部外者の入室は厳禁)にいる25人のエンジニアの元にも届けられ、高度な分析がなされる。さらに30人のスタッフを擁するミッション・コントロールでは、他チームの同様なデータも解析。それらを総合して、様々な判断、指示がなされるのだそうだ。
ヨーロッパのサーキットでは、スタッフの休憩場所だけでなく、ミーティングやPRも行われるチームの顔となる巨大なモーターホームが乱立するのだが、日本GPでは各チームにホスピタリティテントを用意。細かい話だが、去年までに比べそのスペースが増大していたのも、今年の特徴と言えた。
ピットバルコニーに上がりふと気がついたのは、ピットのクルマの停止位置がレーンに対して斜めになっていることだ。よく見ると最後尾に位置するウィリアムズだけが並行になっている。2017年以降、年々大型化し、全幅2m、全長5mオーバーにまで成長したF1マシンへの対策ということなのだろう。
セーフティカー・ヴァンテージの同乗体験
また今回はピレリが主催する『F1 PIRELLI HOT LAPS』にも参加できた。これはプロドライバーの助手席でレースウィーク中のフルコースを1周、同乗走行するもので、アストンマーティンの他、アルピーヌ、メルセデス・ベンツがクルマを提供。幸運にもヴァンキッシュF1エディションを引き当てたのだが、そのドライバーはまさに同型車のセーフティカーのドライブを担当するベルント・マイランダー本人だった!
「試乗車は右ハンドルだったのに、普段乗ってるセーフティカーが左ハンドルなので、つい左寄りのラインで走ってしまった。本来、鈴鹿のような難しいサーキットでは、ハンドル位置によってドライビング・スタイルを少し変えなければならないんだ。そのくらいセーフティカーのドライブはシビアなんだ」
と言いつつも、綺麗なライン取りとグリップ力、コントロール性が高度にバランスしたピレリPゼロのおかげで、スキール音を響かせたり、挙動を見出すことなく、スムーズに速く走るテクニックはさすが。
「ドライコンディションでもウエットコンディションでも常にフィーリングがいいというのは、クルマにとって非常に重要なことなんだ。速さだけでなく、ドライバビリティやその他のことの方がより重要。そういう意味でもヴァンテージF1エディション、そしてPゼロには満足しているよ。もちろんメディカルカーで使っているDBX707もだ。大きなグリルから“a monster of a beast (野獣の化け物)”って呼んでいるけどね(笑)」
リザーブドライバーの仕事とは?
そして最後にパドッククラブで話を聞いたのは、アストンマーティンF1チームでリザーブドライバーを務めているストフェル・バンドーンだ。
「2016年にスーパーフォーミュラに出場していたこともあって鈴鹿は特別な場所なんだ。特にセクター1は速いコーナーや、S字があり、サスペンションセッティングがものをいうドライバー視点からも楽しいサーキットだね。自分がレースに出られないのは残念だけど、アストンマーティンはいい結果を残せると期待しています」
そこでリザーブドライバーの仕事とはどういうものかも聞いてみた。
「アンバサダーとして、トークショーなどサーキット外での活動も多いけど、リザーブとしていつでも乗れるよう、レギュラードライバーと一緒にトレーニングしたり、ミーティングをしたりして、チームに帯同します。さらにシミュレーターでトレーニングしたり、データを解析したりして、来年に向けての準備も進めています」
このほかにも見どころいっぱいの日本GP。日頃テレビ中継を見ているだけだと分からない、こうしたバックグラウンドを目の当たりにできるのも、地元開催のグランプリ観戦の醍醐味と言えるかもしれない。