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Land Rover Defender
新型ディフェンダーがこれほどウケた理由
ランドローバーの新型ディフェンダーの国内受注がスタートしたのは2020年4月9日。それから1年以上が経過して、ショートホイールベースで2ドアの「90(ナインティ)」とディーゼルエンジン(マイルドハイブリッド仕様)が上陸した。これで、90が551万円から835万円までの7グレード(エンジンはガソリンのみ)、110が619万円から1171万円までの7グレードの展開となった。日本発表直後からディフェンダーは注文が殺到、一時は納車まで1年以上という想定外の事態に見舞われたものの、日本向けの台数確保が進んで現在は若干改善されたそうだ。しかし“ディーゼル待ち”のお客様が相当数いたようで、品薄状態はしばらく続くらしい。
ディフェンダーの人気の理由は、間違いなくその絶妙な価格設定と高い商品力にあると思う。価格はジープのラングラーからメルセデスのGクラスまでを網羅する幅広い設定だし、商品力に関してはオフロードにまつわるさまざまな機構を電子制御化している点が素晴らしい。例えばラングラーもGクラスもデフロックを装備しているものの、いつそれを使うのかはドライバーの判断に委ねられている。ところがディフェンダーは状況に応じてこのデフロックを自動的にやってくれるのである。
オフロード走行でもっとも難しいのは、目の前の路面状況に対して、クルマに装備されるいくつもの機能や機構のどれをどれくらい使用すればいいのか、その判断に他ならない。こういうクルマの試乗会に設けられるオフロード走行ではたいていの場合、インストラクターが同乗して「ここでフロントをデフロックしてください」「ここからはローレンジでお願いします」など逐一教えてくれるので、自分はその通りにやるだけで歩くこともままならない悪路も走破できて感心するけれど、だからといってそのクルマを購入しても(当たり前だが)インストラクターはもれなくついてこない。せっかくいろんな装備のあるオフロード4WDを手に入れても、そのポテンシャルを十分に発揮できない可能性が極めて高いのである。
最近、集中豪雨による道路の冠水により、立ち往生するクルマの映像がよく流れる。オフロード4WDには「渡河水深」と呼ばれる性能指標があって、これは「このくらいの水深までなら走行可能」であることを表すもの。しかし、冠水した道路を目の前にして、その水深を推測するのは難しい。ディフェンダーはサイドミラーに内蔵するセンサーで水面までの距離を計測、およその水深をモニターに表示してくれる。Gクラスの渡河水深限界は700mmだが、残念ながらこの機能は装備されない。ちなみにディフェンダーは900mmである。
路面状況を細かく分類した6種類の走行モード切替のテレイン・レスポンス2など、ディフェンダーはオフロードで人間の経験や知見や判断が及ばない部分をサポートしてくれる機能が充実している。これこそ、電子制御デバイスの正しい使い方と言えるだろう。ラングラーやGクラスはどちらかと言えば玄人向けなのかもしれない。
90の試乗車のグレードはHSEで、オプションのエアサスペンションが装着されていた。34万1000円もするけれど、ディフェンダーには必須のアイテムだと思う(110も2022年型から「X」以外はオプション)。なぜならこれが、アルミのモノコック構造であるまったく新しい「D7x」と呼ばれるアーキテクチャーとの相性がよく、新型ディフェンダー特有の乗り心地や操縦性の決め手となるからだ。試乗車はこの他にも電子制御アクティブディファレンシャル(ブレーキによるトルクベクタリング機能付き)など約210万円分のオプションが付いた732万円の個体である。
110と90の全長とホイールベースを比べてみるとどちらもその差は435mmなので、違いはホイールベースのみで前後のオーバーハングは同値のようである。1995mmの全幅も同じだが、全高は90のほうが5mm高く、重量差は100kgくらいある。ショートホイールベースで100kgも軽い90の方が軽快感があってよく曲がるというのは当たり前というか必然ではあるけれど、確かにそういう風になっている。
ただ、ターンインから旋回姿勢が整うまでの過渡領域でのばね上の動きは90でも110でも大きく違わず、これはエアサスのセッティングの妙によるものだろう。エアサスだからといってフワッとした感触はなく、ピッチからロールそしてヨーが立ち上がるまでの過程はスムーズでスッと収まる感じである。ただこう書くと、110のほうはよく曲がらないのかととられかねないので付け加えておくと、110も(そのホイールベースの割には)とてもよく曲がります。したがって(軽快感はともかく)操縦性に関しては、90でも110でもほぼほぼ同じような味付けになっていると言っていいだろう。
一方で、乗り心地は明らかに110のほうがいい。ホイールベースが長いことと重量が重いことはどちらも乗り心地にとってポジティブに働く要素である。エアサス同士で比べると、路面からの入力の処理の仕方は同じなので、例えば首都高の目地段差を越えたときの身体に伝わるショック自体は両者ともとてもよく似ている。エアサスらしい角がまあるくなった突き上げ感である。ただ、主にピッチング方向の動きは90のほうが多い。多いけれど、空気ばねと電子制御式ダンパーによって素速く収束するので、ずっと揺すられているような感じはまったくない。
2ドアなので、後席に行くには前席を動かしてのアプローチとなるが、ようやく辿り着いてもスペースはボディサイズから想像するよりもかなり限られていて、ゆったり腰掛けるという感じではない。大人4人での長距離ドライブはちょっとキツイかもしれないので、2+2と考えたほうがよさそうだ。
110に追加導入されたディーゼルは、2953ccの直列6気筒ターボで、スターター/ジェネレーターを使ったベルト駆動のマイルドハイブリッド。最高出力は300ps、最大トルクは650Nmにも達する。参考までに、メルセデスのG 350 dは同じく3.0リッターの直6ターボで、286ps/600Nmを発生する。ディフェンダーのチョクロクディーゼルは1500rpmですでに最大トルクを発生するので、力強い発進加速のどれくらいの部分をマイルドハイブリッドがサポートしているのか正直よくわからないのだけれど、とにかくこのエンジンは全域においてしっかりとしたパワーを発出する。
それがトランスミッションを介して4輪に伝わり、頼もしいトラクション性能を発揮している。これまでの直列4気筒のガソリンエンジンでも顕著なパワー不足は感じられなかったが、ディーゼルの味を知ってしまうと、やっぱりこちらのほうがこのクルマには合っているという印象が強い。使う予定はないけれどお財布に一万円札が数枚入っているとなんとなく安心するような余裕を感じさせてくれる。今回はきちんとした燃費計測ができなかったが、おそらく高速巡航なら10km台に乗るのではないかと想像する。
個人的にはディーゼルの110に試乗して、ちょっと思い悩んでしまった。実はいまG 350 dを日常の足として使っているのだけれど、乗り心地や装備や動力性能や価格を考慮した商品力を客観的に比較評価してみると、全幅が広いことを除けば多くの部分でディフェンダーのほうが勝っていたからだ。Gクラスにあってディフェンダーにないものといったら、「Gクラス」というもはやブランド化した車名くらいかもしれない。私事で恐縮ではありますが、これは困ったことになったものである。
REPORT/渡辺慎太郎(Shintaro WATANABE)
PHOTO/ジャガー・ランドローバー
【SPECIFICATIONS】
ランドローバー ディフェンダー 90 HSE
ボディサイズ:全長4510 全幅1995 全高1975mm
ホイールベース:2585mm
車両重量:2090kg
エンジン:直列6気筒DOHCディーゼルターボ
総排気量:2993cc
ボア×ストローク:83.0×92.29mm
最高出力:221kW(300ps)/5500rpm
最大トルク:400Nm/2000rpm
トランスミッション:8速AT
サスペンション:前ダブルウィッシュボーン 後マルチリンク
駆動方式:AWD
車両価格:758万円(テスト車:968万7451円)
ランドローバー ディフェンダー 110 X-Dynamic SE(MHEV)
ボディサイズ:全長4945 全幅1995 全高1970mm
ホイールベース:3020mm
車両重量:2420kg
エンジン:直列6気筒DOHCディーゼルターボ
総排気量:2993cc
ボア×ストローク:83.0×92.31mm
最高出力:221kW(300ps)/4000rpm
最大トルク:650Nm/1500-2500rpm
モーター最高出力:18kW
モーター最大トルク:55Nm
トランスミッション:8速AT
サスペンション:前ダブルウィッシュボーン 後マルチリンク
駆動方式:AWD
車両価格:865万円(テスト車:1131万円)
【問い合わせ】
ランドローバーコール
TEL 0120-18-5568
【関連リンク】
・ランドローバー 公式サイト
https://www.landrover.co.jp/
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