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フェラーリ製V8モデルにとって大きな転機
何もかもがフェラーリにとって初めての、真の意味でのブランニューモデルとして2008年に誕生した「カリフォルニア」。今改めて思い出せば、そのニューモデル・レビューの原稿では、「フェラーリ初の」というフレーズを何回使ったのか記憶にないくらいである。ある意味カリフォルニアは、フェラーリ製8気筒モデルの歴史にとって、大きな転機となったモデルとも評される存在だったのだ。
そのカリフォルニアがフロントに搭載していたエンジンは、フェラーリの社内コードで「F136IB」の型式を持つ、4297ccのV型8気筒直噴ユニットだった。最高出力は460PS、最大トルクは485Nmというスペックで、さらには310g/kmという当時としてはエココンシャスなスペックも実現した。こちらも新採用となった、デュアルクラッチ式の7速F1DCTを搭載したこともまた、走りと環境の両面に大きく貢献した。
このフェラーリ史上初のV型8気筒FR車となったカリフォルニアは、2012年にはマイナーチェンジを受け、エンジンの最高出力を30PS向上させ、さらに車重を30kg低減させた「カリフォルニア30」に進化を遂げるが、同時にハンドリング・スペチアーレ・パッケージのオプション設定など、その走りはより魅力的なものになった。
最初のV8ツインターボエンジン
だがフェラーリは、さらにカリフォルニアを進化させる策を有していた。それがV型8気筒ツインターボエンジン、「F154」型の存在である。今はまさに内燃機関と電動化の間で、フェラーリを始めとするスーパースポーツ・ファンの心は揺れ動いているが、この時は自然吸気からツインターボによる過給をどう評価するのかに話題は集中していたような記憶がある。
F154型、正確には「F154BB」型と呼ばれる、最初のV8ツインターボエンジンが搭載されたのは、カリフォルニアのさらなる進化版の「カリフォルニアT」で、最高出力は560PSに、最大トルクも755Nmへと一気に増大。ツインで装着されるツインスクロール型のターボには、さらに可変ブーストマネージメントシステムが導入され、フェラーリによればターボラグは感じられないと発表された。
この3855cc仕様のF154型エンジンは、ほかにも2017年発表の「GTC4ルッソ」(F154BD型・610PS)、カリフォルニアの後継車である「ポルトフィーノ」(F154・BE型・600PS)、「ローマ」や「ポルトフィーノM」(F154BH型・620PS)にも搭載された。フロントエンジンV8の変遷を見ただけでも、まさに2010年代後半を象徴するフェラーリの傑作といってよいのは明白だろう。さらにフェラーリはその排気量を3902ccに拡大し、V8ミッドシップに搭載した。それが2015年登場の488GTBで、以降現在のF8トリブートまでフェラーリを象徴するエンジンとなっているのはご存知の通りだ。
296GTBで誕生したハイブリッドパワートレイン
さて、ここまでそのヒストリーを振り返ると、気になるのはやはりV8フェラーリの将来像だ。彼らはすでにミッドシップの296GTBにおいて2992ccのV型6気筒エンジンを新開発。120度とワイドなバンク角の間にツインターボのシステムをレイアウトする、いわゆる「ホットインサイドV」のレイアウトを採用、このエンジンで663PSを得るほか、167PSを発生するエレクトリックモーターをエンジンと8速DCTの間に挟み込み後輪駆動とするハイブリッドパワートレインを完成させてきた。
注目すべきシステム総合出力は830PS。F8トリブートを一気に100PS以上上回るパフォーマンスは、やはり見逃せないところである。あるいは伝統のV型8気筒エンジンはすでにその役割を終えたのか、あるいはモーターを組み合わせて生き残っていくのか。フェラーリがこれから下していく決断。それは我々にとって必ずや歓迎すべきであることは確かだろう。それを信じて今はマラネッロからのニュースを待ちたい。
REPORT/山崎元裕(Motohiro YAMAZAKI)
PHOTO/FERRARI S.p.A.
MAGAZINE/GENROQ 2024年 4月号