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Maserati Mexico
「メキシコ」とネーミングされた由来とは
メキシコのデザインを手掛けたのは、カロッツェリア・ヴィニャーレに所属していたジョヴァンニ・ミケロッティ。洗練された完璧なラインを持つメキシコは、純粋なマセラティ・スタイルのエレガントな2+2クーペでありながら、パワフルでスポーティな心臓部が与えられていた。ボンネットの下には、レーシングプロトタイプ「マセラティ 450S」から派生したレーシングエンジン、4.7リッターV型8気筒のロードバージョンが隠されている。
このクーペが中米の国名である「メキシコ」の名前を冠するようになった経緯については、メキシコ在住のある大口カスタマーが1961年にメキシコのアドルフォ・ロペス・マテオ大統領が所有していた「5000GT アレマーノ(5000 GT Allemano)」を購入したことがきっかけとなった。
この5000GT アレマーノは事故を起こして修理のためにモデナへと搬送。歴史あるファクトリーを訪れたメキシコ人カスタマーは、そこでヴィニャーレがデザインしたプロトタイプに感銘を受け、購入を熱望した。そして、そのボディワークを自身の5000GTのシャシーに移植したのだという。このような偶然が重なり、開発中の2+2クーペに「メキシコ」というネーミングが与えられた。
1960年代にライバルを圧倒した充実の装備
1966年のパリ・サロンで公開されたメキシコの市販仕様は、最高出力290hpを発揮する4.7リッターV型8気筒ガソリンエンジンと、最高出力260hpの4.2リッターV型8気筒ガソリンをラインナップ。4.7リッター仕様は最高速度255km/h、4.2リッター仕様は240km/hと、ラグジュアリークーペながらスポーツカーをも凌ぐ俊足を誇った。
そして本革シート、電動パワーウインドウ、ウッド製ダッシュボード、エアーコンディショナー、サーボアシスト式ベンチレーテッド・フロントディスクブレーキなどを標準装備。スタイルだけでなく、装備の面でも同時代のライバルに対して大きなアドバンテージを誇っていた。
またオプションとして、オートマチックトランスミッション、パワーステアリング、ラジオなども用意。そのシックなインテリアは「イタリアンスタイルのラウンジ」と評され、イタリアのアイデンティティに加えて、現在も続くマセラティのトレードマークであるクラフトマンシップが表現されている。
メキシコが持つ卓越したデザインと並外れたパワーは、その後のすべてのトライデント・モデルにその価値が継承されている。55年前と同じように、現在もマセラティはモータースポーツの歴史を感じさせ、時代を象徴する1台を作り続けているのである。