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2008 Porsche Cayenne S
2ベッドルームのアパートから自動車暮らしへ
ミズーリ州セントルイスで生まれ育ったショーエンは18歳でアメリカ海軍に入隊し、さまざまな仕事を経験してきた。後に太平洋艦隊の本拠地であるサンディエゴへと移り、空母の乗組員になっている。軍を退役後は内陸部のユタ州へと向かい、ソルトレイクシティで働きながら家賃を払っていた。その1年半後、彼は人生の大転換を決意する。
「海軍に所属し空母で生活していたので、コンパクトに暮らす方法を学びました。退役後、2ベッドルームの家に引っ越しましたがいつの間にかガレージで生活し、ふたつのベッドルームを貸し出すことで無料で暮らせるようになっていたのです。私は生活のために動き続けていることに少し疲れていたんです」
若い今だからこそできること
午前9時、カイエンのキャビンで朝食をとりながら、24歳のショーエンは海外放浪の旅を計画していたことを明かしてくれた。最初の目的地はタイ。しかし、新型コロナウイルス(COVID-19)のパンデミックは、彼の海外渡航計画に突然のピリオドを打ってしまう。そこでショーエンは「今、ここにあること」を最大限活用しようと考えた。
「あらためて人生の短さを実感しました。もし旅をしながら生計を立てられるとしたら、一生懸命働いて老後に世界を見て回るのではなく、若くて体力のあるうちにトライすべきだと考えたのです」
まだカイエンでの生活は4ヵ月も経っていないが、彼のインスタグラム(@harry.schoen)では、ロマンティックな逃避行と、ミニマル故の苦労が混在する様子が定期的に投稿されており、すでに多くのファンを魅了している。
大改造が施されたショーエンのカイエン
カイエンは高級車であり、多くの人がモバイルハウスとして最初に選ぶクルマではないかもしれない。しかし、ショーエンはある夜、オンラインで販売されていたこのカイエンを見つけ、翌朝一番に購入した。
2008年式カイエン Sの走行距離は20万kmを超えていたが、彼はすぐ改造に取りかかった。そのメニューは、3インチのリフトアップキット、チューブラー式アッパーコントロールアーム、ポリブッシュ式ロワフロント・コントロールアーム、33インチのオフロードタイヤを装着した18インチホイールなど多岐に及ぶ。さらにストレージボックスやスポットライトを取り付けるためのルーフラックを追加し、リヤバンパーを取り外すことで、悪路での走破性を向上させた。
ショーエンが“ホーム”のベースにカイエンを選んだもうひとつのポイントは、ルーフテントではなく室内にベッドを誂えることが可能だったから。ルーフテントを使用すると指定されたキャンプ場にしか駐車できないこともあるが、本格的なオフロード走行をする際に重心が高くなってしまうという理由もあった。
霧深いオレゴンのビーチをたったひとりで走行
2021年5月からカイエンに乗り込み、携帯オーブンで料理をし、屋根に取り付けられた簡易シャワーで体を洗っている。彼はアメリカ西部の最も困難な山岳部を走破し、アメリカに存在するすべての国立公園を訪れ、さらにはアラスカまで到達することを目指しているという。そして、この旅のすべての過程はインスタグラムやYouTubeで公開している。
「これまでで最高の経験は、オレゴン州のビーチでのドライブです。午前6時に到着すると、ビーチ全体が霧に覆われていました。それまでビーチをドライブしたことがなかったので、本当に不思議な体験でした。最高にクールな写真も撮れましたよ」
さらに続くカイエンでの冒険の旅
2月にカイエンを購入して以来、すでに3万2000kmという驚異的な走行距離を記録したが、まだ冒険のゴールは見えていない。
「今は旅をするのが楽しくて仕方がありません。この旅を始めたのは、他の人とは違うことをしたいという理由もありました。海軍では自分がやるべきことすべてが決まっていましたが、今はすべて自分でやっています」
「狭い場所での生活は、とても孤独に見えるかもしれません。ただ、私はそれほど孤独を感じていません。ラッキーなことにアメリカ中に友人ができました。バンライフを送っている人たちの素晴らしいコミュニティもあります。私のポルシェは普通の人が行けないような場所にも行けますから、今は次の冒険の準備を進めています」