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ASTON MARTIN Virage / Vantage(1989-1995)
ついに近代化されたV8DOHCエンジン
1969年の登場以来、改良を加えられながら生き延びてきた「V8」だが、1980年代に入ると性能面でも環境面でも、その旧態化を隠せなくなっていた。そこでアストンマーティンはようやく後継となるモデルの開発に着手する。
いくつか挙げられたポイントの中で重要視されたひとつが、タデック・マレック設計のV8DOHCエンジンの近代化だった。そこで彼らは「シボレー コルベット」のチューンで知られるアメリカのリーヴス・キャラウェイ・エンジニアリングに改良作業を依頼。彼らが設計した4バルブヘッドを備え、ウェーバー・マレリ製インジェクションを組み合わせたV型8気筒5340ccDOHCエンジンは、V8シリーズ5の309PSを上回る314PSを発生。また排ガス浄化装置(キャタライザー)の装着、無鉛ガソリン対応といった処置も同時に行われている。
シャシーはラゴンダ用を短縮したもので、ホイールベースもV8シリーズと同一だが、リヤまわりを大きく変更。ド・ディオン・アクスルがワッツリンケージと三角ラジアスロッドで位置決めされるようになったほか、ブレーキがインボードディスクから大径のアウトボードディスクへと変更され、デフオイルシールの熱害が解消された。
フルスケールの風洞実験を実施
また、ボディに関してはザガートや自社スタジオではなく、1986年初頭にイギリスにある5つのデザイン事務所にコンペを提示。その結果、ジョン・ヘファーナンとケン・グリーンレイがデザインした従来のV8のイメージを踏襲しつつ、モダナイズしたものが選ばれた。
加えてサザンプトン大学の設備を使ってフルスケールの風洞実験まで行った結果、空気抵抗を抑えるだけでなく、スポイラーなどをつけずに高速でのリフトを抑えるなど、空力的にも洗練されたものとなった。一方でコスト削減の努力も行われ、アウディ200のヘッドライト、フォルクスワーゲン シロッコのテールライトのほか、インテリアの各部にもGM、ジャガー、フォード、シトロエンなど様々なメーカーのパーツが流用されている。
こうして1988年のバーミンガム・ショーでデビューした「ヴィラージュ」は、1790kgの車重ながら0-60マイル(97km/h)加速6.5秒、最高速度254km/hとアナウンスされたが、ド・ディオン・アクスルの三角ラジアスロッドの設計、シャシーの支持剛性に不備があり、直進安定性やハンドリングに問題を抱えていたのも事実である。
豊富なバリエーション
その後1992年1月にアストンマーティンに特装部門であるワークスサービスでは、グループCマシンのAMR1に搭載していたエンジンをベースとした、462PSを発生する6.3リッターV8ユニットをヴィラージュに搭載し、ヴィラージュ6.3へとモディファイするサービスを開始。その際、18インチホイール、ワイドフェンダー、エアダムなどが装着されるとともに、問題のあったリヤサスペンションまわりは大きく改良された。
さらに1992年には2+2オープンの「ヴィラージュ ヴォランテ」がカタログモデルに加わったほか、ワークスサービスにおいてクーペをベースとした「シューティングブレーク」が6台、ホイールベースを延長し4ドアサルーンとした「ラゴンダ ヴィラージュ サルーン」が8〜9台、それを5ドアワゴンとした「ラゴンダ ヴィラージュ シューティング ブレーク」が1〜2台製造されている。
そして1993年には2基のスーパーチャージャーを装着し558PSを発生する5.3リッターV8を搭載し、18インチ、大径ディスクブレーキ、新しいワイドなボディワークとリヤサスペンションを備えた「ヴァンテージ」を発表。0-60マイル加速4.6秒、最高速度300km/hと、誰もが認めるハイパフォーマンスカーへと進化を遂げた。