フェラーリ初の4ドア4シーター「プロサングエ」に日本の路上で乗った

フェラーリ初の4ドア4シーターモデル「プロサングエ」は真のフェラーリか?「日本の道で試乗検証」

フェラーリのゲームチェンジャーとなる存在、プロサングエ。ブランドとして初めての4ドア4シーターのSUVボディを採用するが、フェラーリ自身はSUVではないと主張する。果たしてその走りは真のフェラーリ足り得ているのか!? 時代を変える挑戦者の実力はいかに。
フェラーリ・プロサングエが日本に上陸。早速その実力を確かめた。
フェラーリのゲームチェンジャーとなる存在、プロサングエ。ブランドとして初めての4ドア4シーターのSUVボディを採用するが、フェラーリ自身はSUVではないと主張する。果たしてその走りは真のフェラーリたりうるのか!? 時代を変える挑戦者の実力はいかに。(GENROQ2024年7月号より転載・再構成)

Ferrari Purosangue

写真で見るよりもはるかに独創

フェラーリのゲームチェンジャーとなる存在、プロサングエ。ブランドとして初めての4ドア4シーターのSUVボディを採用するが、フェラーリ自身はSUVではないと主張する。果たしてその走りは真のフェラーリ足り得ているのか!? 時代を変える挑戦者の実力はいかに。
フェラーリ初の4ドアのボディを持つプロサングエ。その走りを確かめた。

街にたたずむ姿の異様なほどの迫力には思わず息を飲んだ。道行く人の視線が釘付けになっている様にも幾度も出くわした。日本では初対面となった「フェラーリ・プロサングエ」。その存在感は格別だ。

全長4973mm×全幅2028mm×全高1589mmという寸法だけなら肩を並べるモデルも他にある。そのサイズ以上と思える押しの強さには、試乗車のロッソ ポルトフィーノのボディカラー、美しく輝く跳ね馬のエンブレムの威光もあるに違いないが、何よりその独特のプロポーションが効いている。

V12ユニットをフロントミッドに収めるべくノーズはきわめて長い。それに対してキャビンはギュッと絞り込まれ、前後のフェンダーの艶めかしいボリュームをこれでもかと強調している。そして何より、全高はどのフェラーリよりも高いわけだが、これは主に大径タイヤと地上高によって稼がれたもので、ボディだけなら案外、スリークなフロントエンジンクーペという趣である。

おそらく最初に公開された写真よりも、こうして風景の中に溶け込んだ姿の方がずっと独創的、そして魅力的に写っているはずだ。単なるSUVにしか見えない、なんてこともないだろう。間違いなく言えるのは、実車を目の前にすれば、否定派も口をつぐむことになるということだ。

しかもプロサングエは4ドア。リヤドアを後ヒンジかつ電動開閉式としている。フロントが63度、リヤが79度まで開くこのドアを開けている姿を見たら、きっとその人の口も驚きで開きっぱなしになるだろう。

ワゴン的に使うことも可能。実用性は高い

フェラーリのゲームチェンジャーとなる存在、プロサングエ。ブランドとして初めての4ドア4シーターのSUVボディを採用するが、フェラーリ自身はSUVではないと主張する。果たしてその走りは真のフェラーリ足り得ているのか!? 時代を変える挑戦者の実力はいかに。
ドアは観音開きを採用。リヤドアは直角近い角度まで開くので乗降も容易だ。

室内には、左右席を同じような意匠としたデュアルコクピットが広がる。ドライビングポジションを合わせるとフェンダーの峰がかすかに視界の隅に入るので、前方の把握はしやすい。この視界とよく切れるステアリングのおかげで、危惧していたほど都心部での取り回しは悪くない。

外観からは期待できなそうな後席も、案外狭さを感じることはない。身長177cmの筆者でも頭上には10cm近い空間が残り、バケットシートの乗り心地含めて前後席が平等と考えられていることが分かる。細かい点だが、ドアウインドウが完全に下がり切るのも好印象のポイントだ。

ラゲッジスペースの容量は後席使用時でも容量472Lあり、大人4人分の旅行荷物を十分飲み込む。さらに必要ならば、取り外し式の隔壁を外して後席バックレストを前倒しすることでワゴン的に使うことも可能だ。この辺りはFF〜GTC4ルッソのオーナーからすれば、やっとかと思うところに違いない。

いつものフェラーリの乗り味

ドライバーズシートに戻り、ステアリングホイール上のスタートスイッチに触れてエンジンをスタートさせると、始動音の静けさに軽く動揺した。けれど次の瞬間には、これなら住宅街での深夜早朝の出動も苦ではないだろうと得心した。今までのフェラーリよりも間口を広げたクルマのキャラクターには合っている。

そんな風に爪を隠してはいるが、実際のその心臓はきわめてパワフルだ。V型12気筒6.5リッターは最高出力725PS、最大トルク716Nmを発生。その出力は前輪にはPTU(パワー・トランスファー・ユニット)によって、そして後輪にはリヤアクスル側に置かれた8速DCT、そしてE-デフを介して伝達される。

これだけのパワーとトルクながら、発進はむしろ穏やか。その先でも踏んだ分だけトルクを発生し、いかにもV型12気筒らしい緻密できめ細やかな回転上昇によってスーッと速度を高めていく。サウンドはやはり控えめ。とは言っても単に静寂というわけではなく、硬質で粒の揃った心地良い音色だけが耳に届く。

60km/h辺りまでの速度だと、乗り心地に微細なコツコツ感はある。けれど鋭く不快な感触は皆無。平行移動するかのような操舵レスポンスの一方で、縮んだサスペンションがしっとり、しっかり伸びて姿勢をフラットに保つ、いつものフェラーリの乗り味である。違うのは、ちょっと目線が高いこと。ストローク感も、もう少しだけあるかもしれない。

この体躯でそうした走りを実現できているのは、アルミニウムと高強度スチール、そしてルーフパネルにはCFRPを用いた高剛性、かつ軽いボディに前後49対51という良好な重量配分、そして斬新なシャシーのおかげである。電気モーターで4輪のライドハイトを個別に制御するフェラーリ・アクティブ・サスペンション・システムは、コイルスプリング、電子制御ダンピングシステムとの組み合わせで、ロールやピッチングなどの挙動を自在にコントロールすることを可能にするものだ。

例えば旋回中には、ロール剛性を変化させるだけでなくロールセンターを下げることも可能。こうした自在な制御によって重心高を意識させない挙動を実現しているのだ。

正直、そうした制御ぶりを乗員に意識させることはない。豊かな手応えを示すステアリングを切り込んでいくと、心地良い一体感の下にクルマが向きを変えていく。着座位置の高さもクルマの大きさも重さも忘れさせるその走りは、確かにフェラーリの言う通り、このクルマは単なるSUVではないなと実感させる。

ダメ押しは、さらにアクセルを踏み込んだ時の自然吸気V12のサウンド。高回転域まで淀みなく回り切る様を堪能できる場面はそうそう訪れないが、それだけにその瞬間には得も言われぬ昂揚感に浸れるのである。

緊張感とは無縁で楽しめる

フェラーリのゲームチェンジャーとなる存在、プロサングエ。ブランドとして初めての4ドア4シーターのSUVボディを採用するが、フェラーリ自身はSUVではないと主張する。果たしてその走りは真のフェラーリ足り得ているのか!? 時代を変える挑戦者の実力はいかに。
V12NAのサウンドや俊敏なハンドリングなど、単なるSUVではない走りを見せる。
フェラーリのゲームチェンジャーとなる存在、プロサングエ。ブランドとして初めての4ドア4シーターのSUVボディを採用するが、フェラーリ自身はSUVではないと主張する。果たしてその走りは真のフェラーリ足り得ているのか!? 時代を変える挑戦者の実力はいかに。
躍動的なデザインは、まさに車高の高いスーパースポーツカーといった雰囲気。

改めて試乗して感じたのは、優れた実用性含めて、プロサングエはこれまでになく“開かれた”フェラーリだということだ。乗る前にはその圧倒的な存在感の前に、萎縮するような感覚すらあったのに、実際に走らせてみると、優れた視界や取り回しの良さ、それこそアゴをぶつける心配の少なさなどが相まって、むしろ緊張感とは無縁にフェラーリらしい走りを楽しむことができる。それでいて室内では大人4人が寛ぐことができ、荷物も乗る。悪路だって苦にしないのだ。

それでも、本質には何も変化はない。何しろ心臓はフェラーリ伝家の宝刀というべき自然吸気V12なのだ。それだけで説得力は十分だろう。

そう言えば車名のプロサングエは英語のサラブレッド、つまり「純血」を意味する。実際、プロサングエは間違いなくフェラーリにしかできないクルマだというのが、改めて試乗しての実感である。

REPORT/島下泰久(Yasuhisa SHIMASHITA)
PHOTO/小林邦寿(Kunihisa KOBAYASHI)
MAGAZINE/GENROQ 2024年7月号

SPECIFICATIONS

フェラーリ・プロサングエ


ボディサイズ:全長4973 全幅2028 全高1589mm
ホイールベース:3018mm
車両重量:2033kg
エンジン:V型12気筒DOHC
総排気量:6496cc
最高出力:386kW(725PS)/7750rpm
最大トルク:716Nm(73.0kgm)/6250rpm
トランスミッション:8速DCT
駆動方式:AWD
サスペンション形式:前後ダブルウィッシュボーン
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク(カーボンセラミック)
タイヤサイズ(リム幅):前255/35R22(9J) 後315/30R23(11J)
最高速度:310km/h
0-100km/h加速:3.3秒
車両本体価格:4766万円

【オフィシャルサイト】
フェラーリ・ジャパン

雪道を試す機会も得たが、スリッピーな道での完璧なトルク配分、またマネッティーノのモードによって安定志向からオーバーステアまで自由自在の走りを披露してくれた。

725PSのV12自然吸気エンジンを積むSUV「フェラーリ プロサングエ」をスポーツカーのように振り回してみた

ベントレー・ベンテイガも発売間近、ランボルギーニ・ウルスの話も伝わってきていた頃、噂されていたフェラーリのSUV計画がついに現実の物となった。フェラーリ初のSUV「プロサングエ」初試乗の印象をお届けする。

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著者プロフィール

島下 泰久 近影

島下 泰久

1972年神奈川県生まれ。走行性能だけでなく先進環境安全技術、ブランド論、運転など、クルマ周辺のあらゆ…