【ル・マン24時間2024】「セーフティカーがガス欠?」知られざる波乱のレースの裏側

ル・マン24時間は100年前から続く「ビッグフェス」?知られざるル・マン24時間の裏側

ポールポジションを獲得したポルシェ・ペンスキー・モータースポーツ「ポルシェ963」6号車を先頭に全62台のマシンがクラスごとに華々しくスタートした。
ポールポジションを獲得したポルシェ・ペンスキー・モータースポーツ「ポルシェ963」6号車を先頭に全62台のマシンがクラスごとに華々しくスタートした。
昨年100周年を迎えたル・マン24時間レース。それは単なるレースと超えた100年前から続く「ビッグフェス」のようだ。老いも若きも熱狂する、そんな文化とお祭りをドイツ在住ジャーナリストがリポートする。

24 Heures du Mans 2024

100年前から続く「ビッグフェス」

フェラーリの50年ぶりのル・マン24時間レース復帰と、その歴史的な総合優勝をもって100周年を盛大にファンと共に祝った日から早くも1年が経った。今年は新規にGT3マシンクラスの導入や、ハイパーカークラスには更なるメーカーが加わった事もあり、近年にない彩りのあるフィールドとなって新時代を実感する。

この100年間のル・マン24時間レースは、自動車のテクノロジーや安全性、信頼性の発展と証明といった役割はもちろんのこと、ル・マン市内やその周辺、サーキット敷地内はレースを通して100年前から続く「ビッグフェス」のよう。老いも若きも熱狂する、そんな文化やお祭りが残るなんて素晴らしい!とル・マンを訪れるたびにいつも感じる。

ル・マン市内の公開車検やテスト、ドライバーパレードといった24時間レース前のプレイベントでひとしきり大騒ぎした後でいよいよ決勝レースの日を迎える。初夏のル・マンには珍しく、低気圧に包まれて黒く厚い雲に覆われたスタートグリッドとなった。季節外れの寒さで震えながら待つスタートの16時をこんなにも長く待ち遠しく思った事はない。

3台のセーフティカーが燃料切れに

6月15日16時、フランス国歌斉唱の後にリヒャルト・シュトラウスの「ツァラトゥストラはかく語りき」が流れ、フランス軍が大空に描くトリコロールを描くと30万人以上の大歓声と拍手に送られて、ポールポジションを獲得したポルシェ・ペンスキー・モータースポーツ「ポルシェ963」6号車を先頭に全62台のマシンがクラスごとに華々しくスタートした。

日没を迎える前に、早くも20号車「BMW MハイブリッドV8」アートカーをはじめ、「アルピーヌ A424」の2台が次々に戦線離脱。BMWは1999年ぶりのル・マンへのトップカテゴリーへワークス参戦復帰、BMW史上20台目のアートカーで祝うという大会でもあっただけに、苦しい再デビュー戦となった。また、兄弟車の15号車も日付が変わる前にロバート・クビサ駆る黄色い「フェラーリ 499P」83号車がオーバーテイクの際に15号車を押しのける形となり、300km/h以上でガードレールへと激突して敢え無くリタイアとなるなど、ハイパーカークラスは波乱のレースとなった。

美しい夕陽に染まった夏至近くの美しいル・マンだったが、日付が変わる前には激しい雨が降り注ぎ、恒例の花火は傘の花の上空を彩った。激しい雨は降り続け、セーフティカー先導の元、4時間半もの間、天候の回復を待つかのように周回を重ねるしかなかった。しかし、それはあまりにも長く、3台のセーフティカーが燃料切れとなり、リタイアするという前代未聞の出来事さえ起きた。その間にもLMGT3クラスでトップを走っていた「BMW M4 GT3」46号車の、ヴァレンティーノ・ロッシと組むジェントルマンドライバーが濡れた路面でスピン。M4 GT3は修復不能なほどに破損し、無念のリタイアとなった。

誰が総合優勝を勝ち取るか最後まで読めない状況

夜が明け、視界はやや改善されたものの、依然として強い雨は降り続け、レース再開の判断は何度も先送りされる等、やきもきした状態が続くが、じっと耐え忍ぶしかない。

レース再開のグリーンフラッグがやっと降られたのは午前8時頃だった。ここから残り8時間が最後のスプリントレースとなる。この時点で上位にいたハイパーカークラスはキャディラック2台、ポルシェ2台、フェラーリ2台、トヨタ2台。この8台が激しい接戦を繰り返し、誰が総合優勝を勝ち取るのか、最後まで全く読めない状況だった。再び何度も雨がコースを叩き、厳しいコンディションの中でドライバーにプレッシャーが強く押し寄せる。一瞬の判断ミスが、ゴール直前に全てを終わらせてしまう可能性だってあるのだから。

プロ・アマに限らず、誰もがミスなく1周を重ねる努力をするのだが、いつどのように敢え無くレースを終了してしまう事態になる可能性もある。ドライバーやチームの失望や悲しみ、怒り……それらの人間模様は、華やかなレースの裏には数多く刻まれている。

スローゾーンがフェラーリの味方に

レース終了間近、まさかのスローゾーンがレースを狂わせる。この時点で「トヨタガズーレーシング GR010 ハイブリッド」7号車とフェラーリ 499Pの50号車の一騎打ちとなっており、どちらが勝つのか手に汗握る攻防戦が続いていたが、このスローゾーンがフェラーリの味方となり、僅か14秒221差でトヨタに先行し、101年目のル・マン24時間レースの勝者にフェラーリが君臨した。

ゴール後は数えきれない多くのファンが表彰台付近へ集結し、勝者と共にファンが大声で唄うイタリア国歌がサルト・サーキットに大きくこだまし、感動の嵐に包まれた。また62台中、ゴールした47台全てのマシンにも大きな拍手で迎えられた事はいうまでもない。

100年続く「ビッグフェス」、ル・マン24時間レースは32万9000人が集い、幕を閉じた。雨にも負けず、風にも負けず、広大な敷地をひたすら歩き周り、迫力あるレースに釘付けになり、おいしい誘惑に負けて飲み食いしておしゃべりに興じる。レースの合間にDJイベントでダンスに興じるもよし! 観覧車やお化け屋敷に夢中になるもよし! ソロ活でもファミリーでも、また来年もこの地に集い、エキゾーストノートが鳴り響く24時間を、年に1度のお祭り騒ぎを、モータースポーツの祭典を、愉しもうではないか。

50号車をドライブした、アントニオ・フォコ、ミゲル・モリーナ、ニクラス・ニールセン。

トヨタとのバトルを制した「フェラーリ 499P」がル・マン24時間制覇「最終周まで続いたスプリント」【動画】

2024年の世界耐久選手権(WEC)第4戦ル・マン24時間レースは、6月15〜16日に決勝を行い、フェラーリAFコルセの「フェラーリ 499P」50号車が、トヨタ・ガズーレーシングの「トヨタ GR010 ハイブリッド」7号車に14秒221差をつけて勝利を飾った。フェラーリはル・マン2連覇に加えて、3位にも499P 51号車が入っており、ダブル表彰台を達成している。

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池ノ内 みどり 近影

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