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ミュージアムに置ききれない過去の車両は現在730台
ポルシェが市販車のエンジンに初めてターボチャージャーを搭載したプロトタイプである「911 ターボ」を発表したのは、1973年のフランクフルト・ショーでのこと。そして市販型となる930ターボが1974年のパリ・ショーで発表されてから50年が過ぎたのを受け、ポルシェミュージアムは歴代ターボモデルのテストドライブを行うワークショップ“Beyond Performance-50 Years of Porsche Turbo”をドイツ・シュトゥットガルトを舞台に行った。
その模様は『GENROQ 9月号』本誌をお読みいただくとして、ここではワークショップの一環で訪れたポルシェミュージアムのデポと呼ばれる所蔵庫の模様をお届けしたい。
ここは2012年に開設された、ミュージアムに置ききれない過去の車両を保管するための倉庫で、オープン当初の所有台数は500台と言われていたが、今では730台にまで膨れ上がり、他の倉庫も使うほどになっているのだそうだ。
今回はターボ50周年ということで、エントランスには大きなTurboのモニュメントともに、「935/76」「935/77」「935/2“ベイビー”」「959“パリ・ダ・カール”(1986年優勝車)」、さらには「911GT1-98」(しかもザクスピードの6号車!)といったレーシングモデル、さらには極初期の「930ターボ」「924ターボ」といったロードモデルが整然と並べられていた。
通称“TURBO No.1”
その中でも目に留まったのが、一番奥にディスプレイしてあった1974年に製作された「911 ターボ」の1号車、通称“TURBO No.1”だ。これはいわゆるGシリーズと呼ばれるビッグバンパーの911をベースにしたプロトタイプで、最高出力は240PSを発生する2.7リッター・ターボエンジン、ナローボディ、小ぶりなホエールテールなど、生産型とは異なるディテールが散見される。
実はこれは1974年8月29日にフェリー・ポルシェの姉でフェルディナント・ピエヒの母である、ルイーゼ・ピエヒの70歳の誕生日プレゼントとして贈られた1台で、シートやドアトリムなど内装も赤と紺のタータンチェックという特別仕様になっている。ちなみに今年発表されたポルシェライフスタイルの新作「ターボNo.1コレクション」はこの内装をモチーフとしたものだ。
ルイーゼはこのTURBO No.1を普段の足として使っていたという。そこには老婦人でも乗れるような、乗りやすさ、使いやすさを目指して開発したポルシェ側の意図もあったと思われる。また生産型では排気量が3.0リッターに拡大され、260PSを発生するようになったのも、このTURBO No.1での経験が生かされたものだという。
そしてもうひとつ、個人的に注目せざるを得なかったのが、ラックに積み重ねられた数台の「919 ハイブリッド」だった。2014年からWECに参戦を開始し、2015年から3年連続ル・マン24時間優勝、WECダブルタイトル獲得を果たした2.0リッターV4シングルターボ・ハイブリッドを搭載する伝説のLMP1hマシンなのだが、2013年に登場したテストカーから、各年のモデルがすべて保存されているだけでなく、モノコックとパワートレインだけの丸裸の状態のものまで置かれていたのだ。
ちょっとした宝探し気分
当時、ル・マンでもWECでもカウルを開けた状態すら見せてもらえないなどトップシークレット扱いだったことを思うと感慨深いものがあったが、2.0リッターV4エンジンがとてもコンパクトなこと、そしてアンダーボディなどの複雑な空力処理には改めて驚いた。
そのほか1984年に「914」の後継となる安価なミッドシップ・スポーツを目指して「944」のコンポーネンツを使って試作されたボクスターのルーツというべき「984」(エンジンは2.0リッター・フラット4!)。1988年に「928」のV8エンジンを搭載するFR4ドアモデルとして開発がスタートし、1995年の市販を目指していたものの中止された「989」。2002年にカイエン・ターボをベースに試作された「カイエン・コンバーチブル」のモックアップ(リヤが半分ずつ異なるスタイルになっている)といった幻のプロトタイプから、930風に偽装された「964」のテストカー、テールが968風になっている「ボクスター」のテストカー、さらには初代W163型メルセデス・ベンツ Mクラスを使った「カイエン ターボ」のテストカー。現在の911ダカールの祖というべき、2020年に発表された「911ビジョン・サファリ」など超レアなモデルがあちこちに置かれ、ちょっとした宝探し気分を味わえた。
ミュージアムではターボにまつわる様々なモデルを展示中
残念ながらこのデポは一般には公開されていないが、ポルシェミュージアムでは現在、ターボにまつわる様々なモデルを展示中。例えば959の空力開発のために1982年に試作された「959C29」は、ずっとデポの隅にカバーをかけて保存されていたもので、ミュージアムに展示されるのは、おそらくこれが初めて。Cd値0.30を実現するためにボディ各部にメモ書きが残されているなど、当時の開発の様子がうかがえる。
それ以外にもポルシェエンジンの父というべきハンス・メッツガーが自身の最高傑作と評した、「マクラーレンMP4/2」に搭載したTAGポルシェV6ターボや、4WDシステムを搭載して1980年に発表された「911ターボ3.3 4×4カブリオレ・スタディ」、そして現在WECで活躍中の「963」の風洞モデルなど興味深いモデルが多数展示されているので、機会があれば訪れてみることをお勧めする。