「フェラーリ プロサングエ」で青森までロングツーリング「これは千里の競走馬だ!」

初の4ドア・4シーター「フェラーリ プロサングエ」で東京〜青森往復1600kmロングツーリング試乗

フェラーリ初の4ドア・4シーターモデルとして、さらに絶滅危惧種であるV12エンジンの存続を高らかに宣言したことで、世界中で話題になっているプロサングエ。今回は東京から青森の十和田まで、往復1600kmのロングツーリングに連れ出した。千里の馬は常にあれども、千里の競走馬は無し。果たしてプロサングエは、その最初の1台となるのか。
4ドア、4シーター、そして4WDとなるフェラーリ・プロサングエ。
フェラーリ初の4ドア・4シーターモデルとして、さらに絶滅危惧種であるV12エンジンの存続を高らかに宣言したことで、世界中で話題になっているプロサングエ。今回は東京から青森の十和田まで、往復1600kmのロングツーリングへ連れ出した。千里の馬は常にあれども、千里の競走馬は無し。果たしてプロサングエは、その最初の1台となるのか。(GENROQ 2024年11月号より転載・再構成)

Ferrari Purosangue

クーペのような独特のスタイル

「静かに行くものは健やかに行く。健やかに行くものは遠くまで行く」というイタリアの諺がある(Chi va piano’ va sano e va lontano)。言い回しはちょっと違うが、同じ言葉を題名にした城山三郎のエッセイ集も刊行されている。GTカーのステアリングホイールを握っていると、時々ふと思い出すのがこの言葉だ。遠くまで走るのに大切なのは瞬間的なスピードではなく、平均時速を高く保つことだ。そのためには集中しながらもリラックスできる快適な環境が必要で、それを備えてこそのグランドツアラーである。

かつて「GTC4 ルッソ」で真冬の宗谷岬までGENROQチームとともに赴いたぐらいだから、好天に恵まれた初秋の十和田湖往復ぐらいは歳をとってもまだ朝飯前である。しかも車はフェラーリ最新の4ドア・4シーター4WDの「プロサングエ」だ。

シューティングブレークのようなスタイルのFFやGTC4ルッソでも驚かされたが、ついに4枚ドアを得た初めてのフェラーリは抑揚が大きい肉感的なボディで圧倒する。なるほど細部だけを取ればクロスオーバーSUVのように見えるかもしれないが、実物はプロポーションがユニークであり、フェラーリがSUVと認めないのも理解できる。ほぼ全長5m×全幅2mのボディの割にはキャビン部分がコンパクトでノーズが長く、しかもグリーンハウスは後方に行くほどギュッと絞り込まれている。車高が高く分厚いけれど、全体としてはクーペのような独特のスタイルである。

エンジンは「エンツォ」の血統

812コンペティツィオーネの派生形となるシリンダーヘッドを持つ、プロサングエの6.5リッターV12ユニット。スペックは725PS/7750rpm、716Nm/6250rpm。レッドゾーンは8250rpmから。
812コンペティツィオーネの派生形となるシリンダーヘッドを持つ、プロサングエの6.5リッターV12ユニット。スペックは725PS/7750rpm、716Nm/6250rpm。レッドゾーンは8250rpmから。

その長いノーズの後ろ半分、バルクヘッドにめり込むようにしてフロント・ミッドに積まれるのが6.5リッター自然吸気V12エンジンである。実際には逆アリゲーター式のボンネットを開けて見えるのは長いインテークと前端に位置するPTU(前輪を駆動するパワー・トランスファー・ユニット)を覆うカバー、そして赤い結晶塗装が嬉しい左右のチャンバーだけである。2002年の“エンツォ・フェラーリ”に搭載されたF140シリーズの末裔にあたるこのF140IA型65°V12エンジンは、725PS/7750rpmと716Nm/6250rpmを発生する。パーツのほとんどが刷新されたというV12のピークパワーは812スーパーファストの800PSに比べれば控えめだが、最大トルクは同等だ。8速DCTはリヤに搭載されるトランスアクスル式である。

冒頭の「piano」には“静かな”の他にゆっくり、慎重にという意味もあるが、私たちには状況の許す限り、ゆっくり走るつもりはない。しかしプロサングエのクルージングは明らかに静粛である。最近増えた東北道の120km/h区間でも8速120km/hはおよそ1600rpmに過ぎず、かなり当てになるACCを作動させれば実に平穏でむしろ退屈なほど。もちろん溢れるトルクのおかげでシフトダウンなしに自在に加速する。フェラーリV12の真髄はオーケストラのクライマックスのようなパワーと咆哮だけではなく、トップギヤのままで街中を走るようなスピードから300km/h以上まで融通無碍にカバーする柔軟性にある。

一方、少なくともマネッティーノでコンフォートモード(他にはアイス/ウェット/スポーツ/ESCオフ)を選択している限り、ガバリと踏み込んでもそれほど敏感にキックダウンするセッティングではないようだ。エンジン音もこれまでのV12モデルに比べればややくぐもった控えめなサウンドだが、トンネルなどで反響する音はミドルレンジでもハッとするような快音だったから、プロサングエの遮音が行き届いている(ウインドウガラスはすべて二重)ということかもしれない。もちろん、パフォーマンスに物足りなさを感じることはない。何しろ2210kg(車検証記載値)の巨体にして0-100km/h加速は3.3秒、最高速は310km/h以上を誇るのである。

シャシー性能も驚異的

かつてエンツォは「シャシーなどエンジンを運ぶ台車に過ぎない」と語ったという伝説もあるが、21世紀を迎えてからのフェラーリは磁性流体式可変ダンパーやEデフなどの電子制御デバイスを積極的に採用し、コントロール性が見違えるように向上した。まるでアンダーステアのない4WDのようだ、といわれたのも20年ほど前からである。まあ4WD車にはアンダーステアがつきものという思い込みも20世紀の物言いだが、このプロサングエはその頃とはまったく異なる次元にある。

4WDシステムはかつてのFFやGTC4ルッソ同様、エンジン前方のPTUユニットを介して前輪を駆動する4RM-S(4RMの進化版)だが、何よりもFAST(フェラーリ・アクティブ・サスペンション・テクノロジー)と称するサスペンションシステムが新しい。減衰力可変のみならず、姿勢制御機能を備えるカナダのマルチマチック社製TASV(トゥルー・アクティブ・スプール・バルブ)ダンパーが採用されており、4輪個別に48V駆動のアクチュエーターでダンパーのピストンロッドを伸縮させ、車両姿勢やロールをコントロールするという。

おかげでドライバーの視点は比較的高いにもかかわらず、ピタリと安定して乗り心地はフラットだ。それも油圧やエアスプリングをアクティブ制御するタイプとは違って、まったくフワフワした感覚はなく、むしろ路面によって細かいけれど硬質な突き上げは感じるものの、それに伴う余分な上下動はなく、シュタッと駆け抜けていく感じである。高速道路だけでなく、ワインディングロードでも効果は明らかで、フラットに姿勢をキープしたままグイグイ曲がり、加速する。もちろん4WDシステムと後輪操舵、ほぼ50対50の優れた前後重量配分との総合的な結果だろうが、これを普通のSUVと一緒にされたくはないというフェラーリの言い分はまことにもっともである。細かな突き上げを除けば、前後22/23インチという巨大なタイヤを履くにしては乗り心地も文句はない。遠くまで走るにはやはり頭が動かないフラットライドと、左右に揺れないスタビリティと直進性が何より大切だと再確認した次第である。

縦横無尽に駆ける万能のフェラーリ

発荷峠展望所から十和田湖を望む。東北自動車道を十和田ICで下り、国道103号線を北へ延々森の中を進むと、突然視界が開け十和田湖が現れる。ここまで来ればゴールはもうすぐそこだ。
発荷峠展望所から十和田湖を望む。東北自動車道を十和田ICで下り、国道103号線を北へ延々森の中を進むと、突然視界が開け十和田湖が現れる。ここまで来ればゴールはもうすぐそこだ。

ロングドライブに大切なのはシートも同様。いかにもホールド性が良さそうなバケットシートは意外といっては失礼ながら、フェラーリではかつてないほど疲れなかった。身体をもぞもぞ動かさなくてもどこにもストレスがかからないシートはスポーツカーではなくても珍しいものだ。しかもヒーターやベンチレーションにマッサージ機能を装備(オプション)、さらにはサイドボルスターやランバーサポート、サイサポートまで細かく電動調整できるものだったが、その調整はあまり使いやすいとはいえないステアリングホイール上のタッチスイッチを駆使しなければならないのが惜しいと思われた。

特徴的な観音開きのリヤドアも大きく開くので(最大79度という。Bピラーが残されているので前後独立して開閉可能)予想以上に乗り降りしやすく、後席の居住性も広々ルーミーとはいえないまでもまったく窮屈ではなく、一旦すっぽりと身体を収めてしまえばすぐにうたた寝できるほど居心地がいい。ただし、大きなサイドスカートもろとも電動モーターで力強く開くので、乗り込む前の立ち位置に注意しないと弁慶の泣き所をガツンと打たれることがあるので油断禁物である。フロア面はやや高いものの、ラゲッジスペースもフェラーリ史上最大(?)をうたう473Lもあり、必要であればパーティションを取り外し後席バックレストを電動で倒すこともできる。

帰路の栃木県辺りでは最近めっきり多くなった豪雨に見舞われたが、車高が比較的高く(地上高は170mmもある)4WDのプロサングエはまるで揺るがず、まったく不安を覚えなかった。これはもしかすると、縦横無尽にあらゆる大地を駆ける万能のフェラーリではないか。そこで編集長、次は真冬の知床に行かせてください。

フェラーリ初の4ドア・4シーターモデルとして、さらに絶滅危惧種であるV12エンジンの存続を高らかに宣言したことで、世界中で話題になっているプロサングエ。今回は東京から青森の十和田まで、往復1600kmのロングツーリングに連れ出した。千里の馬は常にあれども、千里の競走馬は無し。果たしてプロサングエは、その最初の1台となるのか。

REPORT/高平高輝(Koki TAKAHIRA)
PHOTO/篠原晃一(Koichi SHINOHARA)
MAGAZINE/GENROQ 2024年11月号

SPECIFICATIONS

フェラーリ・プロサングエ

ボディサイズ:全長4973 全幅2028 全高1589mm
ホイールベース:3018mm
車両重量:2033kg ※乾燥重量
エンジン:V型12気筒DOHC
総排気量:6496cc
最高出力:533kW(725PS)/7750rpm
最大トルク:716Nm(73.1kgm)/6250rpm
トランスミッション:8速DCT
駆動方式:AWD
サスペンション形式:前ダブルウィッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前255/35R22 後315/30R23
最高速度:310km/h
0-100km/h加速:3.3秒
車両本体価格:4760万円

【問い合わせ】
フェラーリ・ジャパン
https://www.ferrari.com/ja_jp/

雪道を試す機会も得たが、スリッピーな道での完璧なトルク配分、またマネッティーノのモードによって安定志向からオーバーステアまで自由自在の走りを披露してくれた。

725PSのV12自然吸気エンジンを積むSUV「フェラーリ プロサングエ」をスポーツカーのように振り回してみた

ベントレー・ベンテイガも発売間近、ランボルギーニ・ウルスの話も伝わってきていた頃、噂されていたフェラーリのSUV計画がついに現実の物となった。フェラーリ初のSUV「プロサングエ」初試乗の印象をお届けする。

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著者プロフィール

高平高輝 近影

高平高輝

大学卒業後、二玄社カーグラフィック編集部とナビ編集部に通算4半世紀在籍、自動車業界を広く勉強させてい…