【パリ・ショー】「アルピーヌ アルペングロー」が直4からV6に進化

2028年のル・マン24時間参戦? 出力2倍となった水素パワートレイン搭載の「アルペングロー Hy6」デビュー【動画】

2022年に公開された水素パワートレイン搭載デザインコンセプト「アルペングロー」が、V6パワートレイン搭載を含む大幅な進化を果たし、「アルペングロー Hy6」としてデビューを飾った。
2022年に公開された水素パワートレイン搭載デザインコンセプト「アルペングロー」が、V6パワートレイン搭載を含む大幅な進化を果たし、「アルペングロー Hy6」としてデビューを飾った。
アルピーヌは、2024年のパリ・モーターショーにおいて、水素パワートレイン搭載デザインコンセプトの進化版「アルペングロー Hy6」を公開した。アルピーヌが新規開発した3.5リッターV型6気筒水素ツインターボエンジンは最高出力は750PSを発揮。実用化を目指している。

Alpine Alpenglow Hy6

最高出力750PSへとパワーアップ

搭載される3.5リッターV型6気筒水素ツインターボは、これまでの2.0リッター直列4気筒仕様と比較し、2倍以上の最高出力となる750PSを発揮する。
搭載される3.5リッターV型6気筒水素ツインターボは、これまでの2.0リッター直列4気筒仕様と比較し、2倍以上となる最高出力750PSを発揮する。

2022年10月、アルピーヌは未来のプロトタイプレーシングカーを思わせるデザインと、持続可能なパワートレインを搭載する、未来のアルピーヌの方向性を示唆するデザインコンセプトとして「アルペングロー」を公開。カーボンフリーを実現したスポーツカーとして、直4ベースの水素エンジンが搭載された。

アルペングロー(Alpenglow)とは「日の出直前や日没直後、山頂で見られる美しい輝き」を意味。その大胆な造形は革新的な技術とデザインが表現されており、未来のアルピーヌを先導する新しい「夜明け」をイメージしている。

最高出力344PSを発揮する2.0リッター直列4気筒水素ターボエンジンを搭載した公道走行用プロトタイプは、2024年のル・マン24時間レースにおいて、アルピーヌ・アンバサダーを務めるジネディーヌ・ジダンが同乗してデモンストレーションランを披露。今回、発表された「アルペングロー Hy6」は2倍以上のパワーを発揮するアルピーヌ独自開発の3.5リッターV型6気筒水素ツインターボが導入され、最高出力750PSという従来の2倍以上となる出力アップを実現した。

現在、アルピーヌを含むルノーグループは、水素を燃料とするパワートレインの研究開発を積極的に行なっており、燃料電池を搭載した小型商用車、水素ステーションの拡充に努めている。アルピーヌのアルピーヌ・モータースポーツの副社長を務めるブルーノ・ファミンは、大幅な進化を果たしたアルペングロー Hy6について次のようにコメントした。

「新開発のV6ベース水素エンジン『Hy6』は、アルピーヌによる水素エンジンの研究開発が着実に進められていることを示しています。この技術は、近い将来モータースポーツへの応用を予感させます。非常に高度なV6水素エンジンは、最大回転数9000rpmを実現し、ドライバーと観客を魅了するサウンドを奏でるでしょう」

「これはモーターレースへの情熱を育み続けるための、ひとつのソリューションと言えます。アルペングロー Hy6は、モータースポーツにおいても炭素排出量削減という、重要な課題を達成できる可能性を示す完璧な一例なのです」

洗練さを極めたエアロダイナミクス

水素パワートレイン搭載レーシングコンセプト「アルピーヌ アルペングロー Hy6」のエクステリア。
軽量化を進めながらも、エアロダイナミクスが大幅にアップデート。特にリヤウイング周辺は、ウイング本体がクリア化されたほか、空力を意識した形状へと生まれ変わった。

2年前に最初のバージョンが登場して以来、アルペングローは、デザイナーとエンジニアとの緊密な協力により、エアロダイナミクスとデザインのブラッシュアップを図ってきた。今回、新型V6水素エンジンの導入に合わせて、スペキュラーブルーを纏ったフルカーボンファイバー製ボディワークも、よりエッジの効いたエクステリアへと生まれ変わった。

水素パワートレインは見えるように透明の専用ケースに設置。3.5リッターV型6気筒水素ツインターボは青みがかったクリアガラスで保護され、エンジンベイは細部に至るまで入念な設計が施された。A110を彷彿とさせるリヤウィンドウ形状には、ギヤボックスのオイルクーラーへとフレッシュエアを送り込む、2基のNACAエアインテークも組み込まれている。

「Hy6」のロゴが刻印されたエアインテークマニホールドは、往年のレーシングカーのシリンダーヘッドカバーをイメージ。新形状のエアインテークは、排気量が拡大したエンジンのクーリングを確保するために3基のルーバーが導入されている。

各コンポーネントに、軽量・高剛性のカーボンファイバーを積極的に採用し、クリア化されたリヤウィングは空力を意識したアグレッシブなレーシングスタイルへと生まれ変わり、新たにサイドブレードも組み込まれた。リヤウィングをつないでいたブリッジを廃止したことで、軽量化に加えてエンジンの存在をアピールするという、視覚的な効果も生まれている。

シャークフィンは大型化され、「Alpine」ロゴ、水素の化学式、そして燃焼の良さをイメージし、マゼンタからブルーへとグラデーションするラインも加えられた。テールライトに組み込まれたインコネル製エキゾーストシステムは車両走行時に水蒸気を発生させ、透明なスポイラー周辺に美しい霜のような効果を加える。

室内への良好なアクセスを確保したディヘドラルドア

水素パワートレイン搭載レーシングコンセプト「アルピーヌ アルペングロー Hy6」のエクステリア。
スーパースポーツやプロタイプレーシングカーではお馴染みのディヘドラルドアにより、ワイドな開口部を実現。室内への良好なアクセスが可能になった。

上斜め方向に跳ね上がるディヘドラルドアを採用したことで、ドライバー交代をスムーズに行うことができるワイドな開口部を確保。ドライバーとパッセンジャーは、コクピットに向かって傾斜したサイドポッド上を滑るように移動し、バケットシートへと簡単に着座することができる。シートは光に反応してメタリックとブルーの色合いを変化する、新開発ファブリックで覆われた。

コクピットに配置された三角形ディスプレイは、アルピーヌの起源であるアルプスの山々をイメージし、走行中にドライバーへと様々な情報や機能を提供。ウィンカーやパッシングの操作、さらにテレビゲームのようにカラーを変えることで、横Gのレベル、エンジン回転数、またはピット通過速度などの情報がリアルタイムで表示される。

航空機の翼を思わせる形状のダッシュボードには、マゼンタカラーでペイントされたチューブ状のロールケージの一部が露出。シートはカーボンファイバー、アルミニウム、アルカンターラが組み合わせられ、アルピーヌ製レーシングカーから着想を得たレーシングステアリングホイールが配置された。

シートの両サイドには、2基の水素タンク「ポンツーン」をレイアウト。コクピットにはサーキット走行時に映像とサウンドを記録するミニアクションカメラ設置のため、専用スロットも用意された。

2028年のル・マン24時間への投入も示唆

「アルピーヌ アルペングロー Hy6」に搭載された3.5リッターV型6気筒「Hy6」水素ツインターボエンジン。
ゼロベースで開発された3.5リッターV6「Hy6」水素エンジンは、2028年のル・マン24時間レースへの投入を目指して開発が進められている。

アルペングロー Hy6は、LMP3用カーボンシャシーをベースに、本格的なレーシングカーとして開発。開発初期段階から、当初搭載されていた2.0リッター直列4気筒エンジンだけでなく、新開発3.5リッターV6「Hy6」水素エンジンに適合するように設計されている。

「Hy6」水素エンジンは、アルピーヌ・レーシングが水素専用としてゼロベースで開発。その開発には、実に2年の月日が費やされた。水素燃焼に関する技術的な課題は依然として多く、「Hy6」の開発によってアルピーヌを含むルノー・グループに多くの貴重な知見が蓄積されることになった。エンジン開発においては、レーシングディベロップメントのオレカ(Oreca)が技術的なサポートを行っている。

100° 3.5リッターV型6気筒水素エンジンは、2基のターボチャージャーで過給。シリンダーヘッドは最適化された冷却回路を備えたアルミニウム鋳造製で、最高出力は750PS、1リッターあたり213PSという驚異的なリッターあたりの出力を発揮する。最高速度は330km/h以上、ギヤボックスはXトラック製シーケンシャルが組み合わせられた。

アルピーヌ・レーシングは、世界耐久選手権(WEC)規定変更の変更に注目。FIAと、ル・マン24時間レースを管轄するACO(フランス西部自動車クラブ)は、2028年のル・マン24時間レースから水素燃料自動車の参加を認める計画を進めている。また、モータースポーツ用に開発された「Hy6」水素エンジンだが、将来的には量産モデルへの転用も可能だという。

「アルピーヌ アルペングロー Hy6」を動画でチェック!

残念ながらル・マンでは、2台とも5時間半でほぼ同時にリタイアした。

「すべては成果に?」ル・マン24時間で敗退したアルピーヌの恐るべき長期的視野

今年も激戦が繰り広げられ、大いに盛り上がったル・マン24時間レース。ゴール時点で9台ものマシンが同一周回となる、過去最高の白熱したレースだったが、そんな中で早々にリタイヤしたのが、地元として期待されていたアルピーヌだ。その悲喜交々と、短期的な結果を求めないアルピーヌの展望を密着取材したジャーナリストがルポを寄せた。

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著者プロフィール

ゲンロクWeb編集部 近影

ゲンロクWeb編集部

スーパーカー&ラグジュアリーマガジン『GENROQ』のウェブ版ということで、本誌の流れを汲みつつも、若干…