目次
McLaren Artura
McLaren Artura Spider
McLaren GTS
モーターによって得られた新たな質感
スーパースポーツカーの中で最も好きなブランドはどれかと問われたら、迷うことなくマクラーレンと答える。その背景にはマクラーレンの生い立ちである純レーシングへの憧れがある。レーシングの実現に装飾の類は必要ない。部品レベルから最高のものを吟味していく。ドライバーの側にも相応のアプローチが求められる。そうやって極めて論理的に積み上げてきたスーパースポーツという感覚がマクラーレンには強くあるのだ。
今回は究極のモデル「W1」が出たことを機に、あらためてマクラーレンというブランドを振り返ってみようと考え、現在試乗可能な最新モデルを集めてみた。「アルトゥーラ」がいて、そこに昨年末に登場した「GTS」、そして今年2月にお披露目された「アルトゥーラ スパイダー」という布陣。ターンパイクにおける試乗もその順番でステアリングを握ってみた。
アルトゥーラは以前都内で試乗したことがあるのだが、核心に触れたという実感は得られなかった。静かにけっこうなスピード(130km/h)まで電動走行できること、一見コンパクトな印象だが、実際はそうでもないことを記憶しているくらい。ところが今回は最初から手応えがあった。走りはじめてすぐに、「自分の意のままになる!」と実感できたのだ。スロットルに対するレスポンスがいいし、ステアリングからフロントタイヤまでの系統にダイレクト感が漲っており、クルマ全体が小さく引き締まって感じられる。
V8エンジンから2気筒を差し引き、その分の質量を電動化システムに充てた、という方法論は時代が求めた必然的な改変という見方もある。だが現代のF1マシンにも通じる電動化はマクラーレンのドライバビリティに新たな質感を与えることにも成功している。より具体的に言うと、マクラーレンの動的質感を象徴していたドッカン系のターボラグをモーターの出力によって滑らかに均した、ということになる。都心の地下駐車場から早朝に出掛けるような状況でも最大で30kmほどのEV走行が可能なPHVシステムは有効だろう。だがブランドのスタンスと照らし合わせればそれは副産物に過ぎないはずだ。
際立つそれぞれの個性
ワインディングにおけるアルトゥーラの印象は、GTSから即座に乗り換えたことでよりクローズアップされることになった。GTSは「ラゲッジスペースにゴルフバッグが載るスーパーカー!」として話題をさらったGTの後継モデルである。
GTの美点は、前150L、後ろ420Lというラゲッジスペースを「スタイリングを犠牲にすることなく」確保していたこと。マクラーレンらしい見た目と走りはそのままに、普段使いの領域までカバレッジが広がっている。それでいて、乗り心地にクセがなく、ロングドライブをしてみたくなる個性の持ち主でもあった。そんなGTの個性はGTSにも受け継がれていた。特に今回のモデルチェンジのキモである620PSから635PSへのパワーアップの印象は鮮烈だった。まるで頭を叩かれたようにガツンとターボが覚醒し、いかにもターボ過給らしい伸びやかな加速がはじまる。
だが今回、15PSの増強をはっきりと感じさせてくれたのはアルトゥーラのおかげもある。モーターとV6エンジンによって力強さのなかに一貫した滑らかさが寄り添うアルトゥーラの加速感と比較すると、GTSのそれはこれまでのマクラーレンの文脈に沿った鋭さを特徴とする。
世代が異なるカーボンモノコック
一方、印象を際立たせるという点ではドライバビリティの違いも興味深いものだった。パワートレインを除けば、両車は同じくカーボンファイバー製のモノコックタブを持ち、足まわりの構造やサイズ感にもそれほど大きな差はないように思える。だがステアリングを握れば誰にでもすぐわかるくらいの違いがあるのだ。
モデルごとの差別化はもちろんだが、世代的なものも無関係ではないだろう。GTSの核となるのは「モノセルII-T」と呼ばれる進化型だが、それでもざっくりと解釈すれば新世代マクラーレンの処女作である「MP4-12C」から続く血統である。対するアルトゥーラのカーボンセルはMCLA(マクラーレン・カーボン・ライトウエイト・アーキテクチャー)と呼ばれる新型であり、車輛全体を引き締まった印象にしている要因もここにあるのだと思う。
今回の2台をドライブすると、アルトゥーラは最新のPHVスーパースポーツらしく、そしてGTSはグランドツアラー的なそれぞれのキャラクターが際立って感じられる結果に繋がっていたのである。
ドライバーを覚醒させるクルマ
一方、最も新しいアルトゥーラ スパイダーはどうだったのか? これがアルトゥーラと比較しても群を抜いて走りの感触が良かった。その原因を色々と探ってみてもシートの違いくらしか見あたらなかった。アルトゥーラのシートはリクライニング可能だったが、スパイダーは一体型のシェルシートを備えていた。その感度が恐ろしく高いのか、挙動の伝わり方が違っていたのである。
今回の3台はいずれも完成度が高かった。それと同時にスタートボタンを押すだけでショーが始まるようなスーパーカーではないという点も同じである。ドライバーが覚醒させないといけない性格も僕がマクラーレンを好きな理由なのである。
確実に進化するマクラーレン。今後より詳らかになるであろうW1も、そしてグランプリにおけるランド・ノリスのタイトル奪取の行方にも注目が集まるが、現行モデルの仕上がりにも目を向けてもらいたい。
REPORT/吉田拓生(Takuo YOSHIDA)
PHOTO/平野 陽(Akio HIRANO)
MAGAZINE/GENROQ 2024年12月号
SPECIFICATIONS
マクラーレンGTS
ボディサイズ:全長4683 全幅2045 全高1213mm
ホイールベース:2675mm
乾燥重量:1466kg
エンジンタイプ:V型8気筒DOHCツインターボ
排気量:4.0L
最高出力:586kW(635PS)/7500rpm
最大トルク:630Nm(71.4kgm)/5500-6500rpm
システム最高出力:─
最大トルク:─
トランスミッション:7速DCT
駆動方式:RWD
サスペンション:前後ダブルウィッシュボーン
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク(カーボンセラミック)
タイヤ&ホイール:前225/35R20 後345/30ZR20
0-100km/h加速:3.2秒
最高速度:326km/h
車両本体価格:2970万円
マクラーレン・アルトゥーラ・スパイダー
ボディサイズ:全長4539 全幅1976 全高1193mm
ホイールベース:2640mm
乾燥重量:1457kg
エンジンタイプ:V型6気筒DOHCツインターボ
排気量:3.0L
最高出力:447kW(605PS)/7500rpm
最大トルク:585Nm(55.1kgm)/2250-7000rpm
システム最高出力:652kW(700PS)
最大トルク:720Nm
トランスミッション:8速DCT
駆動方式:RWD
サスペンション:前ダブルウィッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク(カーボンセラミック)
タイヤ&ホイール:前235/35ZR19 後295/35ZR20
0-100km/h加速:3.0秒
最高速度:330km/h
車両本体価格:3650万円
マクラーレン・アルトゥーラ
ボディサイズ:全長4539 全幅1976 全高1193mm
ホイールベース:2640mm
乾燥重量:1395kg
エンジンタイプ:V型6気筒DOHCツインターボ
排気量:3.0L
最高出力:447kW(605PS)/7500rpm
最大トルク:585Nm(55.1kgm)/2250-7000rpm
システム最高出力:652kW(700PS)
最大トルク:720Nm
トランスミッション:8速DCT
駆動方式:RWD
サスペンション:前ダブルウィッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク(カーボンセラミック)
タイヤ&ホイール:前235/35ZR19 後295/35ZR20
0-100km/h加速:3.0秒
最高速度:330km/h
車両本体価格:3300万円
【問い合わせ】
マクラーレン東京 TEL 03-6438-1963
マクラーレン麻布 TEL 03-3446-0555
マクラーレン横浜 TEL 045-306-9707
マクラーレン大阪 TEL 06-6121-8821
マクラーレン名古屋 TEL 052-261-8887
マクラーレン広島 TEL 082-942-0217
マクラーレン福岡 TEL 092-611-8899