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BMW M5
PHV化された7代目
10月2日にドイツで発表された新型「BMW M5」セダンが、まもなく欧州市場でデリバリー開始となる。日本でもほぼ同時に上陸する模様だが、ひと足早く量産バージョンにドイツ・ミュンヘン郊外で試乗した。「G90」のコードネームを持つ新型M5セダンは、1984年デビューの初代M5(E28S)から数えて7世代目となる。ハイパフォーマンスセダンの草分け的な存在であるM5は、世界中に熱烈なファンを生み、日本でもその地位を確立した。
直6でスタートしたM5は、その後V8、V10、直噴V8ツインターボ、そして4WDと、世代を重ねるごとに進化し続け、ついに新型ではプラグインハイブリッドとなった。
現行5シリーズにはBEVのi5もあるのだから、M5のBEV化だって可能だったはずだ。今どき絶対的なパフォーマンスはBEVの方が出る。しかしICEを搭載したPHVとしたことには、やはり“オーセンティックなハイパフォーマンスカーはICEを搭載しているべき”というBMW M GmbHの開発陣のこだわりを感じずにはいられない。
ついに1000Nmオーバー!
私は今春に、オーストリアのザルツブルクリンクでプロトタイプに試乗しているが、その時は内外装とも厳重にカモフラージュが施されていた。今回、カモフラージュなしの車両を実際に目にして、その猛烈にグラマラスなルックスに目を奪われた。
より力強いスタンスを目指した新型M5は、台形を強調した専用フロントバンパーや、左右で計70mm広げられた前後フェンダー、4本のエキゾーストエンドとディフューザーを強調したリヤ周りなど、どの角度から見ても迫力満点で、“これぞM5!”といった感覚である。
大きなキドニーグリルやサイドエアインテークなど、新型はそこら中に穴が空いているようにも見えるが、実際には開口部はそれほど多くはない。BMWの多くのモデルに見られるフロントフェンダー直後のエアブレーザーもない。これは、エアロダイナミクスやクーリング性能を緻密に計算した結果だという。エンジニアによれば、「穴が空いているところには、すべて何かしらの機能がある」そうだ。
インテリアも、初採用となるフラットボトム形状のステアリングホイールやカーボンパネル、いかにもサポート性が良さそうな、ボリューム感のあるM5専用デザインのスポーツシートが堪らない。スポーティでありながらラグジュアリーなイメージもあり、新型にもM5の伝統がしっかり継承されていると感じられる。
Mらしさ満載の室内に大満足
実際にステアリングを握っても、その印象は変わらないどころか、大幅な進化を感じた。新型M5は、とにかく速く、そして快適なのである。
新型は、585PSと750Nmを発揮する4.4リッターV8ツインターボに、197PSと280Nmを絞り出す電気モーターを組み合わせ、システム合計で727PSと1000Nmという、圧倒的なスペックを実現している。
8速Mステップトロニックを介して4輪に駆動力を伝える、その加速力は、まさに凄まじいのひと言。車両重量が2435kgと、先代より約500kgも重いこともあって、0-100km/h加速こそ3.5秒と先代モデルより0.2秒遅いが、0-200km/h加速は10.9秒と、先代の標準モデルより0.2秒速く、先代M5コンペティションの0.1秒落ちという俊足ぶりなのである。
これは何より電気モーターのおかげだ。PHV化により、新型M5はスムーズな発進加速と力強い中間加速を手に入れたのである。ちなみに最高速度は先代と同様で、通常は250km/hでリミッターが作動するが、Mドライバーズパッケージを選択すると305km/hに引き上げられる。今回の試乗車はすべてMドライバーズパッケージ装着車だった。
ステアリング背面の左側には、10秒間だけ出力が向上するブーストコントロール用のパドルが備わっているが、正直あまり必要と思わないほどパワフルだ。ハンドリングは抜群にスポーティで、ノーマルモードでもステアリングレスポンスが良く、極めて正確。ダイナミックまたはダイナミック+でワインディングを走行した際には、試乗時間を忘れるほど楽しかった。ステアリングの遊びはとても少ないが、過敏な印象はなくて、とても運転しやすかった。また一般道を走るかぎりでは重さを意識することはなく、むしろ低重心による安定感の方が強く感じられた。
2.4tの車重がもたらす安定感
また特筆すべきは、V8エンジンと電気モーターの制御が極めてスムーズである点だ。車内に人工的なエンジンサウンドを聞かせるMサウンドをオンにしていると、EV走行時にもV8サウンドが鳴るので、もはやエンジンが止まったり再始動しても気が付かないのである。
さらに快適性もすこぶる高い。新型はダイナミック性能に加えてコンフォート性能も重視して開発されたそうだが、非常に高いレベルで両立していると言っていいだろう。
これほど走りと快適性が高次元でバランスしていて、しかも電気のみで最大69km(WLTPモード)、最高140km/hで走れてしまう新型M5は、パフォーマンスカーの新たなベンチマークとなるかもしれない。
REPORT/竹花寿実(Toshimi TAKEHANA)
PHOTO/BMW AG
MAGAZINE/GENROQ 2024年12月号
SPECIFICATIONS
BMW M5
ボディサイズ:全長5096 全幅1970 全高1510mm
ホイールベース:3006mm
車両重量:2435kg
エンジン:V型8気筒DOHCツインターボ
総排気量:4395cc
最高出力:430kW(585PS)/5600-6500rpm
最大トルク:750Nm(76.5kgm)/1800-5400rpm
モーター
最高出力:145kW(197PS)/6000rpm
最大トルク:280Nm(28.6kgm)/1000-5000rpm
トランスミッション:8速DCT
駆動方式:AWD
サスペンション形式:前ダブルウィッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
0-100km/h加速:3.5秒
最高速度:305km/h
車両本体価格:1998万円
【問い合わせ】
BMWカスタマー・インタラクション・センター
TEL 0120-269-437
https://www.bmw.co.jp/