クルマの重要な要素は何か?を気づかせてくれた2024年の名車とは?

今年の隠れ名車3選を選ぶうちに自分の隠れた内面が明かに?【2024年個人的に感動した名車】

スズキ スイフト
スズキ スイフト
仕事柄、多種多様なニューモデルに触れてきたモータージャーナリストたち。2024年に試乗した中で隠れた名車を選ぶ本コーナー。GENROQ本誌にも多くの試乗記を寄稿した大谷達也がセレクトしたのは、ある方向性をもったクルマ達だった。

車重はたったの910kg

スズキ スイフトの軽量ボディシェル
スズキ スイフトの軽量ボディシェル

これまで登場した「スズキ スイフト」は2代目以降なら全部好き。別に“スポーツ”じゃなくても素直によく走るし、乗り心地だって荒れていない。エクステリア・デザインの好みは人それぞれだし、インテリアのクォリティ感が物足りないと感じる人だっているかもしれないけれど、走る、止まる、曲がるの基本性能はしっかり作り込まれていて安っぽさがない。それでいてお値段はお手軽で、燃費も良好。こんなに良心的に作られたコンパクトカーは、世界中探してもそうそう見つかるものじゃない。

最新の5代目がデビューしたのは2023年だけれど、試乗会が開かれたのは2024年1月のこと。というわけで、このコラムで新型スイフトについて紹介させていただくけれど、先代までの美点をしっかりと受け継いだだけでなく、「やっぱりスズキはものすごい!」と私たちを驚かせたのがその軽量設計で、エントリーモデルだと車重はたったの910kg! 最高級グレードの4WD仕様だって1020kgしかない。

おかげでWLTC燃費は軒並み22km/Lを越えているのに、値段は最廉価版で170万円少々、最高級グレードの4WDだって250万円ちょっとというお手頃価格。これも軽量設計(軽量=材料が少ない=値段が安い)のおかげだし、はやりのライフ・サイクル・アセスメントで評価したって環境負荷が小さいのは当然のこと。軽いクルマが善であることを改めて証明したコンパクトカーだと思う。日本の誇りだ。

驚異のカーボンモノコック乾燥重量

マクラーレン GTS
マクラーレン GTS

「マクラーレン GT」の改良版「GTS」だけれど、外観の差が小さいせいか、あまり注目されなかった。でも、これが乗ると大きく改良されていることに気づくはず。なんといっても乗り心地がバツグンによくなった。

マクラーレンGTが、同社の現行ラインナップのなかでいちばん快適性が高いという声はよく聞く。私自身も、同じマクラーレンの750Sと双璧を成す快適性だと思っていたけれど、サスペンションの動き出しがややあいまいだったり、伸びから縮みへ、もしくは縮みから伸びへとサスペンション・ストロークが反転したときに瞬間的にダンピングが甘くなるといった弱点があった。それがGTSではすっかりと解消されていて、快適性の質がさらに高まったように思う。おかげで路面のアンジュレーションを滑らかに吸収。どんな路面でも安定した姿勢を保ったままコーナリングしてくれる。

エンジンにしても、V8の緻密な回り方が堪能できるうえ、パワーのリニアリティやレスポンスだってバツグンにいい。精密感が際立つエンジン音もV8にしては官能的だし、GTの売り物であるラゲッジルームの広さは感動モノ。とりわけ、シートの後ろ側にちょっとしたバッグなら押し込めちゃうところがありがたい。そしてGTSもまたカーボンモノコックで乾燥重量は1520kgという軽さが自慢。やっぱり私は重量フェチなのか?

自然吸気V12エンジンを搭載

GMA T.50
GMA T.50

自分が重量フェチであることを確信したのが、崇拝するゴードン・マーレイさんが久しぶりに作り上げた「GMA T.50」。なにせ、こちらは11000rpmまで回る自然吸気V12エンジンを積みながら乾燥重量は997kg! つまりスズキ スイフトと同レベルなのだ。もう、これは驚きを通り越して神業というしかない。

これを実現するためにカーボンモノコックを使っているのはもちろんだけれど、すべてのパーツを少しでも軽くコンパクトに作り、軽め穴を開けるなど徹底的に軽さにこだわりぬいた姿勢は驚嘆モノ。そもそも全長が4352mm、全幅が1850mmという外寸そのものが軽量化のためといってもおかしくないくらい、クルマのコンセプトすべてが“軽さ”を前提にして作られているのだ。

もちろん、ゴードンさんが作るのだから「軽かろう、悪かろう」ということは絶対になく、とりわけV12エンジンが奏でる「天使の歌声」を耳にすると、それだけで少し気が遠くになりそうになるくらい感動してしまう。そして、その回転フィールのスムーズさ、俊敏なピックアップは、自然吸気エンジンのなんたるかを雄弁に物語っているように思えるほど素晴らしい。

しかも乗り心地がバツグンによくて、ハンドリングだって正確極まりないのだから恐れ入る。……といっても、ここまでの話はすべて、ダリオ・フランキッティがドライブするT.50に同乗させてもらって感じたことで、私が運転したわけではない。でも、そんな感動のひとつひとつがすべて伝わってくるくらい、T.50は素晴らしいクルマだった。

というわけで、今年は私が軽量フェチであることが明らかになった一年といえるだろう。

フィアット 600e

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著者プロフィール

大谷達也 近影

大谷達也

大学卒業後、電機メーカーの研究所にエンジニアとして勤務。1990年に自動車雑誌「CAR GRAPHIC」の編集部員…