フランス通ジャーナリストが絶賛したい2024年の名車とは?

今年注目されなかったが伝えておきたい名車「ルノー トゥインゴ」【2024年個人的に感動した名車】

ルノー トゥインゴ
ルノー トゥインゴ
仕事柄、多種多様なニューモデルに触れてきたモータージャーナリストたち。2024年に試乗した中で隠れた名車を選ぶ本コーナー。「アルピーヌ A110」を所有し、フランス通を自認する南陽一浩が選んだ1台とは?

もっと過激スポーティなRRマシンが出るかも?

“注目されなかった”と仕分けるのは、めっぽう失礼な気もする。でも自動車メディアの悪いクセで、新車やマイナーチェンジの時はとり上げてもその後はなかなか……というのは、ままあることなので、ぽっかりと空いてしまったロスの大きさは強調しておきたい。年初に「エディション・フィナル」300台をもって、終幕を迎えた「ルノー トゥインゴ」だ。

3.6m強の全長と、RRゆえに切れまくるステアリング角と小回り性能。その辺りは祖型であり兄弟車でもある「スマート フォーフォー」譲りのところはあった。でも跳ねない乗り心地と、軽快なのにしっとりとしたハンドリング、それでいて過敏でもなくビタっと安定感のある直進時の振舞い方は、流石ルノーだなぁと、乗る度に唸らされた。今でもディーラーに綺麗な個体が置かれていると、ついつい価格をチェックして「ユーズドカーですよ」という営業マンの声を聞いては、寂寞とした感慨が押し寄せてくる。

6速EDCも相当によかったのだが、個人的にはトゥインゴGTに端を発する5速MT仕様がつねにあったことに甘え過ぎた。もしかしてもっと過激スポーティなRRマシンとしての仕様が出てきたらどうしよう、そんな淡いスケベ心というか儚い期待をかけ過ぎていた。先代トゥインゴのゴルディーニR.S.みたいな調子で、いわゆるテールハッピー系の超コンパクトRRで体育会モデル、出るんじゃないか? 何せあのルノー&ルノー・スポールなのだから……。

夢想が過ぎたとはいえ

これが何となくミスリードだと気づいたのは、マイナーチェンジ後しばらくした頃だった。プラットフォームやシャシーの基本コンポーネントからルノーが自前で設計している訳ではなく、パーツ・サプライヤの選択やチューニングの範囲でルノー車に仕立て上げられたのがトゥインゴだから、R.S.的な技術を盛り込むべきベース車両ではなかったのだろう。

夢想が過ぎたとはいえ、あの当時、エントリーモデルに手をかけた開発を施してホットハッチ化しても利益が薄いという事実と、EU圏の進み過ぎたインフレとは、複合的に相性が悪かったと思う。同じ頃にルノー・スポールは4代目メガーヌR.S.を4輪操舵化していたし、新世代「A110」によってアルピーヌブランドを復活させ、プレミアム・セグメントでの存在感を高める方向だった。今年発表された「A110Rウルティム」なんて、本国価格で26万5000ユーロ(約4350万円)、手塗りグラデーションの「ラ・ブルー」を選んだ日には33万ユーロ(約5400万円)にまで跳ね上がる。

確か3世代目トゥインゴの初期インテンス辺りの日本での車両価格は250万円ぐらいだったから、A110R ウルティム1台で約22台分相当ということだ。とはいえ2010年代半ばに35億ユーロを投じて工場リニューアルから始めたA110の方が、トゥインゴ22台分より収益率が高いといえるかどうか、むしろA110もライフサイクル末期の今、回収しようと高額モデルを放っているのが、ルノーグループの個性的なところというか可笑しみでもある。

経済的な大衆車に向いたレイアウト

閑話休題。今から言えることは、トゥインゴはそのうち、平成末期から令和初期を彩ったアイドルのような伝説のコンパクト・コミューターになるだろう。RRはルノーが4CVの頃から手がけ、他にもフィアットやシムカなどが採っていたように、スペース効率に優れ、経済的な大衆車に向いたレイアウト方式だった。インダストリアル的には、ダイムラー・クライスラー・グループの一員だったスマートの計画に途中から参画して、基本設計とスロベニア生産はシェアする形をとったものの、ルノーらしいすっきりした乗り味で、過不足ない日常性を備えた1台になっていたのはご存知の通り。

こういう滋味深いスモールカーは、この先おそらくもう、出てこないかもしれない。いきなり思い出したが、「アイドルを探せ」を歌っていたシルヴィ・バルタンは、80歳を迎えた今年もライブをこなしていた。

スズキ スイフト

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著者プロフィール

南陽 一浩 近影

南陽 一浩

なんよう かずひろ。静岡県出身、慶應義塾大学卒。フリーランスのライターになって28年。2001年に渡仏して…